世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ

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第三十一話 日々丘高校を攻略する件について

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「どう? 何か動きはあった? ……あれ? シオカ来てたのね」
「もう、お姉ちゃんが監視にはあんぱんと牛乳だーって言って買いに行かせたくせに!」
「あらら、ごめんごめん。よくやったわ、我が愛しい妹よ~」

 そう言いながらシオカが持ってきた手提げ袋を漁り、あんぱんと牛乳を取り出して食べ始めるヒオナさん。

「でも本当に一ノ鍵たちに先行させていいんですか、ヒオナさん?」
「はむ? へふひひひはほ」
「お姉ちゃん、はしたないよぉ」
「んぐんぐ……ごくん! 別にいいわよ。ワタシたちはそのあとについていくわ。モンスター退治やトラップ対処はアイツらに任せた方が楽でしょ?」

 それはそうだが……。

「それにあくまでもワタシたちの狙いは《コアの遺産》。それを手にできるのはコアを破壊した者だけ。正確に言えば破壊した者が所属する《クラン》に与えられる」

 とはいってもほとんどは《クランリーダー》が美味しいところを持っていくが。今回もリーダーであるヒオナさんに献上する予定になっている。

「だから最悪コアをアイツらに見つけさせることも考えているわ」
「そこを俺が姿を隠してサクッと横取りするわけですね」
「名付けて、漁夫の利作戦!」
「うわぁ、最低な作戦だなぁ」
「何言ってんのよ! 《コアの遺産》争いは最早戦争なのよ。戦争は勝たなくちゃ意味がないわ。たとえどんな手段を講じても、ね。それに卑怯でも最低でもないわよ。あなたの能力を最大限に活かした戦法なんだからね」

 何て正当化しようとしているけれど、やられる側にとっちゃ見事な不意打ちである。
 まあ俺だってできるだけ楽して強くなりたいって思うタイプの人間だから、どちらかというとヒオナさん寄りの人間ではあるんだけどね。

 こんな世界になって正々堂々を謳っている連中ほど早死にしていくだろうから。
 醜くても泥臭く足掻いて生き抜く覚悟を持つ者のみが、きっと生き続けていけると俺は思っている。
 そう考えると、似たような考えを持っているヒオナさんと共犯というか、同盟を結べたのは良かったのかもしれない。

 俺の性格上、それこそ正々堂々を旨とするような四奈川では、ハイリスクローリターンばかりになりそうだ。下手をすればノーリターンにすらなりそうだし。
 一ノ鍵のガキは、多分性格上合わない。あの物言いにイラっとしてお尻ぺんぺんをして殺されてしまいかねない。

 飛柱は……ヤクザは怖い。

 少なくともあの会合で知ることができた勢力の中では、一番俺に適した相手だったような気がする。ただあくまでもあの中では、だが。
 それにヒオナさんがナイスバディ、色気ムンムンのお姉さんというのもまた大きいが。おっぱいも大きいしね。

「……! お姉ちゃん、大きな思念を感じるよ」

 シオカの突然の発言。
 俺たちはこぞってベランダに出て外を確かめてみた。
 すると白いリムジンが学校前に停止していたのである。

 そこから姿を見せたのは、思った通りの人物だった。
 一ノ鍵織音にそのお付きである北常初秋の二人である。ただ驚いたのは、同じ車から四奈川と葉牧さんも降りてきたことだ。
 実のところ四奈川が学校を攻略するという知らせをしてきたあとに、誰と攻略するのか聞いておいたのである。

 その結果、一ノ鍵たちと組んで攻略を行うことが分かった。一ノ鍵はヒオナさんにも声をかけたようだが、彼女たちと《クラン》を組んだまま攻略することはできないので断ったわけだ。
 《クラン》自体は幾つも結成することは可能だ。しかしダンジョン内では一つの《クランメンバー》としてでしか攻略に赴くことはできない。

 仮にヒオナさんが彼女たちと組んでいたら、今回、俺がコアを破壊した際に、経験値ももちろんのこと《コアの遺産》を手にできなくなる可能性が高い。

 けどあのバカ、よりにもよって一ノ鍵と組むなんてな。

 一ノ鍵の本性を知っているのは、あの会合場所で、皆が集まる前に一ノ鍵織音の本音を盗み聞いていた俺くらいだ。
 恐らく一ノ鍵のガキは、体よく四奈川を利用しようとしているはず。《コアの遺産》の情報についても知っているかどうか疑わしい。

 葉牧さんの情報網なら、すでに耳にしているかもしれないが、少なくとも四奈川からそのようなものがあるという相談は受けていない。
 四奈川は単純だ。純粋だし真っ直ぐ過ぎる。騙されやすい典型。葉牧さんがその部分を上手くカバーしているようだが、一ノ鍵のガキがみすみす《コアの遺産》という宝物を渡すとは思えない。
 十中八九、手駒として利用しているのだろう。そして用済みになれば即座に切り捨てるはず。

「……心乃のこと心配?」
「へ? そんなわけないっすよ。俺は前に忠告もしましたしね。これから何が起ころうと、アイツ自身が背負うべきことです」
「その割には毎回丁寧にアドバイスとか教えてあげてるみたいだけど?」
「……まあ一応クラスメイトっすからね。無残に死んだら寝覚めが悪い」
「あらら、そういうことにしておいてあげるわ」

 そういうことも何も、事実なんだけども……。

 実際アイツを心配していられるほど俺も余裕があるわけじゃない。特にこれから行うミッションについては。

「じゃさっそく俺たちも向かいますか?」
「そうね~。どうやら裏門の方にも、お待ちかねの人たちが来たみたいだし」

 ヒオナさんに言われ確認してみると、確かに学校の裏手にある入口に接近してきた黒塗りの車があった。
 裏門に停止すると、そこから見たことのある者たちが姿を見せる。

「……飛柱組の……」

 クマのようにデカイオッサンが一人、その背には例の棺桶を抱えている。これから攻略って時にもまだ眠っているようだ。
 さらにそれだけではなく、シオカ曰く複数の思念を感じるとのこと。恐らく他の『持ち得る者』たちも挑戦しに来たのかもしれない。

「早く俺たちも向かいましょう。グズグズしてたら警察が来てしまうかも」
「そうね~。じゃあシオカ、サポートの方よろしくね。何かあったら《念話》で教えて」
「うん、分かったよ。お姉ちゃんも有野くんも気をつけてね!」

 俺とヒオナさんは、シオカに見送られながら部屋を出た。
 そしてすぐさま地上へと降り様子を見守る。
 どうやらすでに四奈川たちはダンジョンに入っていったようだ。

「そんじゃ手筈通りに、六門」
「……うぃっす」

 俺は懐からある物を取り出す。
 それは一つの面。狐を模した白面である。ヒオナさんに用意してもらったものだ。
 その面をつけ、《ステルス》を行使して、まずは先に俺が正門へと向かう。
 まだ一ノ鍵の車は待機しており、運転手らしき男が主であるガキの帰りを待っているのか、ドアの前で静かに佇んでいる。
 その背後へと音もなく近づき、そいつの頭に目掛けて持ってきた布袋をかぶせた。

「うぶっ!? な、何事で――っ!?」

 当然いきなり目の前が真っ暗になったことで、慌てふためる運転手だが、そこへヒオナさんが近づいてきて運転手を呆気なく前のめりに転倒させた。
 そのまま彼の首を絞めて簡単に気絶させたのである。

「ふぅ、よくやったわ六門。お蔭でワタシの存在を織音たちに知らされることはないでしょうね」

 そう。相手の視界を奪った理由がこれだ。この方法なら俺もそうだし、ヒオナさんの姿を見られる心配もない。

 それにしてもこんな簡単に人を絞め落とせるヒオナさんが怖いけどな。

 何でも柔道二段らしいが、こんな華奢な身体なのに凄いものである。
 仮に相手が複数この場にいたのなら、別の入口から突入する予定ではあったが、これで真正面から四奈川たちを追うことが可能になった。
 俺は布袋を回収して、また先へと向かう。

〝――有野くん、聞こえる?〟

 直後、シオカの声が頭の中に響いた。

〝聞こえるぞ。どした?〟
〝一ノ鍵さんたちが向かったのは一番近い左の校舎だよ〟
〝OK。何かあったらまた連絡頼む〟

 やはり上から監視してくれるのはありがたい。しかも電話じゃないので、両手が空くのも大きなメリットだ。
 すでにダンジョン内に入っているので、遠目で見ればあちこちにモンスターがいる。
 いちいち相手してられないので、無視して先を急いでいく。幸いにも進む先にはモンスターがいない。すべて四奈川たちが処理しているからだろう。

 《ステルス》の効果を一分で切っているので、今は俺の姿は誰でも捉えることができる。
 それでも木や石垣などで身を隠しながら前へと進んでいく。そのあとにヒオナさんが少し距離を離してついてきている。
 後者の入口が見えた。そこにはモンスターと戦っている四奈川たちの姿を発見することができた。

 主に戦っているのは、葉牧さんと北常である。四奈川は後衛で回復や支援に従事している様子だが、一ノ鍵のガキの方は腕を組みながら高みの見物といった感じだ。

 相手は豚のバケモノのようなオークだが、葉牧さんは身体から発生させた雷撃で黒焦げにし、北常の方はその手にしている槍……というよりは矛か。
 刃が蛇のようにうなっていることから、恐らく蛇矛じゃぼうと呼ばれる武器だろう。それで一撃のもとに斬り裂いている。

 ……あんな武器が日本にあるの? てかあったとして、完全に銃刀法違反だよなぁ。

 しかも自身の身長より大きな矛だ。重さも相当なはず。それを軽々と振り回していることから、凄まじい怪力の持ち主だということも分かる。

 これも《ステータス》の恩恵なのかもな。

 今の俺だって、『持ち得る者』前の俺と比べても力は増している。何にも鍛えていないというのにだ。
 なら元々力が強い者なら、さらにパワーアップしていてもおかしくはない。
 あっという間にモンスターを片付けた彼女たちは、そのまま校舎の中へと入って行く。

 さて、この校舎の中にコアがあるのかどうか……。

 いや、そんな分かりやすい場所なら、すでに攻略されていてもおかしくはない。
 だがコアがどこにあるか分からない以上は、一ノ鍵たちも虱潰しに探すしかないのだろう。
 そこへ何を思ったのか、ヒオナさんが近づいてきた。

「まずはあの校舎の探索をするようね」
「はい。で、どうします? 俺たちも後を追いますか?」
「そうね~……んっ!?」

 話の途中でヒオナさんがハッとなったので、「どうかしたんですか?」と聞いた。

「今、吾輩の気配を感じたわ」
「え? マジっすか? どこに?」

 すると思わぬ場所にヒオナさんが視線を向けた。

「――――下からよ」


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