世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ

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第三十六話 どうやら門番を倒す必要がある件について

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〝いえ、別に問題はないっすよ〟
〝そう? シオカに聞いたら一か所に留まって動かなくなったっていうから心配したのよ〟
〝ああ、ちょっと休憩して気力を回復させてるんすよ〟
〝なるほど。あなたのスキル、便利だけど燃費が悪いって話だもんね〟

 そういうふうに彼女には説明しておいた。

〝吾輩はどう? 迷惑かけてない?〟
〝安心してください。足手纏いだと思ったら、すぐに窓から放り投げておきますから〟
〝あはっ、役に立ってるようで何よりだわ。けど……注意して〟
〝へ?〟
〝とてつ強い思念の持ち主が、そっちに向かったらしいから。多分……アイツらよ〟

 アイツら……恐らくは飛柱組だろう。
 マジかぁ。アイツから隠れるのはスキル使わんと無理だしなぁ。
 何せ感覚が獣並みなのだから。傍に来られるとせっかくの休憩が無駄に終わってしまう。

〝いざとなったら無理をせずに逃げてきなさい〟
〝いいんすか? ミッション失敗に終わるかも〟
〝それよりもあなたを失うのが痛いわ〟
〝俺の能力が、でしょう?〟
〝当然それもあるけれど、あなた自身がいなくなったら寂しくなる程度には大事に思っているわよ〟

 あら照れる。そんなストレートに言われるのは正直に嬉しいが、これもまたハニートラップ――。

〝言っとくけど、今のは本気よ?〟

 と思ったが、先回りされて否定してきた。

〝正直に教えてあげるわ。今まで会ってきた男の中でも、ワタシが心底欲しいと思ったのはあなただけよ。だから無事に戻ってきなさい〟

 こちらも正直に言って、彼女が真実を語っているかなんて分からない。彼女ほどの美貌の持ち主なら、男を手玉に取るなんて簡単だろうから。
 俺もしょせんはいいように利用されるだけの駒でしかないかもしれない。
 ただそれでも頼りにされ、帰りを待ってもらえるというのは嘘でも嬉しいものだ。それが美人ならなおさら。

 ……やっぱ男は単純だな。

〝了解です。ミッション達成させて戻りますよ〟

 通信はそれで終了し、俺は床に座って休み始めた。
 幸いにもこの部屋の周辺には誰も近づいてはこない。
 そのお蔭で十二分に休むことができ、気力も大分復活させることができた。
 だがその時だ。

「相棒、複数の気配がもうすぐコアがある部屋に辿り着くで」
「!? それを早く言えよ! さっそく向かうぞ!」
「あー別に急がんでもええと思うんやけど」
「いいからさっさと服の中に入れ」

 無理矢理首根っこを掴んで服の中に放り込むと、そのまま部屋から出た。
 予め罠とモンスターの位置を知っているというのは本当に強みだ。速やかに行動できるから。
 真っ直ぐの、すでに廊下とは呼べないほど広くなった通路を駆け、突き当たりにある階段の前までやってきた。

 人の気配は……無い。

 だがエロ猫曰く、三階に上がればそこに人の気配があるという。
 ここで《ステルス》を発動し、足早に階段を上る。
 そのまま三階に辿り着いてギョッとした。
 階段から真っ直ぐ通路が伸びており、その先には大きな広間があって、突き当たりにはここからでも十分に分かるくらいに巨大な赤い扉が見える。

 そしてその広間で、どうやら戦闘が行われているようだ。
 しかも人間VSモンスターであろう。
 人間の方は、いつの間にここまで来たのか四奈川たちである。いや、休憩時間も結構取ったから有り得なくはないか。

 モンスターの方は――三体。

 そのうちの二体は、以前竹林でコアを守っていたレッドワイバーンである。
 そしてそれらを従えるように立っているのはSNSでも見たことのあるトロルだ。
 その手には巨大な鋼のこん棒を持っていて、見るからに力がありそうである。

「――〝その場で停止しろ〟」

 例のチート過ぎるジョブ――『言霊術師』の力で、一ノ鍵はモンスターたちの動きを止めた。
 そのせいで空を飛んでいたレッドワイバーンが翼を動かすことができずに床に落下する。
 動きを止めたモンスターたちに向かって、葉牧さんたちが攻撃を与えていく。
 しかし十秒ほどした後に、モンスターたちが動き始める。

「くっ、さすがは扉を守る番人といったところかしら。もう動き出すなんて」

 悔しそうに顔をしかめるガキを見て、どうやらレベルや強さの違いで、《言霊》の効果時間が変わってくるらしい。これは良い情報を得られた。
 とまあ、悪いけど俺は今のうちに扉の奥にあるであろうコアを潰すため、ひっそりと扉に近づく。

 しかし――。

 …………あれ? 開かない?

 押しても引いても両開きのソレはウンともスンとも言わなかった。
 どこかに隠しボタンとかでも、と思ったがこういう状況にありがちな条件を思いつく。

 ま、まさか番人を倒さないと開かないパターンってわけ?

 だったら俺も手伝った方が良いか、と思ったものの、トロルの丸太のように太い首や四肢を見て首を振る。

 どう見ても一撃で倒せる相手じゃないわアレ。

 じゃあ心臓でもと考えるが、俺が持っている短刀では心臓に到達するかどうかも不明だ。
 レッドワイバーンにしても、飛び回り始めているので隙をついて仕留めるのは難しい。

 よくよく考えれば、このスキルも弱点多いよなぁ。

 俺に葉牧さんみたいな遠距離攻撃や、北常のような攻撃力があればいいが、残念ながらそんな手段は持ち合わせていない。
 何かそういうスキルを取得できればいいのだが、ほぼほぼ回避系や防御系、隠密系のスキルばかりなので、とことん攻撃は度外視されている。
 まあ『回避術師』っていうジョブなので当然っちゃ当然なんだろうが。

 ……マズイ、もうすぐ効果が切れるな。どこか隠れるところは……。

 この広間は長方形になっていて、俺がやってきた入り口から扉に伸びたラインを挟んで、両端には均等に円柱が立てられている。
 扉に一番近い柱の陰に身を潜ませて様子を見守ることにした。
 たとえ葉牧さんや北常でも、かなりの強敵が相手みたいなので、そちらに集中しなければならないし、いちいち俺の気配には気づかないだろう。
 服の中からエロ猫を取り出すと床に置く。そして彼にだけ聞こえる声で聞く。

「あの扉の奥にコアがあるんだな?」
「そうでっせ。せやけどここまで来るのに倒したモンスターが二体て……あんさんのスキルはホンマ反則でんがな」

 だろうな。俺だってそう思う。
 けど……悪いが、アイツらがモンスターを倒して扉が開いた瞬間に走り出してコアをもらう。
 きっと四奈川たちには何が起こったか分からないだろうが、その時は一応心の中で謝っておこう。
 俺はその瞬間が来るのを今か今かと待ち続ける。

「――《放雷ほうらい》!」

 葉牧さんから放たれた雷撃が一体のレッドワイバーンを捉える。
 レッドワイバーンはたまらず翼を折り畳みながらクルクルと回転しつつ落下してきた。
 そこを葉牧さんが狙い、ナイフを構えながら走り出す。

「――《雷牙らいが》!」

 ナイフの刀身を覆うように、蒼紫の輝きがググググと伸びていく。
 それはまるで雷で構成された刃そのものといえた。
 その刃を落下してきたレッドワイバーンに突き立てた直後、レッドワイバーンは感電したように震え断末魔の声を上げる。
 そして全身を黒焦げにさせ、そのまま粒子へと消えた。

 うへぇ、やっぱおっそろしいなあのメイドは……!

 まさしく暗殺メイドの何相応しい攻撃手段だ。
 次いでもう一体のレッドワイバーンも、その命が尽きようとしていた。
 北常を食おうと突っ込んだワイバーンだったが……。

「死ぬがいい――《捻刺ねんし》っ!」

 北常に突き出された蛇矛をまともに受けた直後、当たった頭部が弾けたように四散し、即死したレッドワイバーンはそのまま床に転がって沈黙した。

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