世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ

文字の大きさ
26 / 62

第四十話 宝箱からスライムが出てきた件について

しおりを挟む
 俺は、途中で合流したヒオナさんと一緒に、元の学校となった【日々丘高校】から抜け出し、対面にあるシオカが待つマンションへと戻って来ていた。
 シオカは、ボロボロになっているヒオナさんの姿を見て気絶しそうになったが、すぐに救急箱を持ってきて治療を開始し、その間に俺はダンジョン内で経験したことを二人に聞かせたのである。

「――――なるほど、これが例の《コアの遺産》ってやつなのね。本当に宝箱だわ」

 テーブルの上にポツンと置かれた一つの宝箱。

「じゃあ約束通り、これはヒオナさんのってことで」

 俺も欲しいが、一応約束したのも事実だ。
 これを奪って逃亡したとして、メリットはこの宝箱だけ。しかし素直に守れば、今後も情報網と《コアの遺産》をゲットできる可能性が増える。
 ここは将来のための先行投資ということにしておこう。
 しかし、次に発せられたヒオナさんの発言に度肝を抜かれてしまう。

「悪いけれど、これを受け取る資格はワタシにはないわ」
「「は?」」

 思わず俺とシオカは同時に声を上げてしまった。

「え、えっと……どういうことっすか、ヒオナさん?」
「本音を言えば欲しいわ。けどねぇ……あの飛柱でさえ逃げ出したっていうドラゴンなんてバケモノをかい潜って獲ってきたものでしょ?」
「それはそうっすけど……」
「それにワタシは早々に戦線を離脱したし。ここで宝だけ寄越せって、鬼畜過ぎやしない?」
「おぉ……」
「な、何よその顔は?」
「いや、だってヒオナさんにも常識ってあったんだって思って」
「あらら~、面白いことを言うわね六門~。あなたの性癖を全部シオカに暴露するわよ?」
「ちょっ、止めてくださいよ! てか何で俺の性癖とか知ってるんですか!」
「あなたの家に行った時に、タンスの奥にあったものを見たからよ!」

 ドドンッと背景にその文字が浮かぶほどに胸を張るヒオナさん。
 ま、まさか俺のコレクションが見つかっていただとぉ!? 段ボールにはちゃんと〝アルバム〟って書いてカモフラージュしてたってのにぃ!?

「まあ、最初はアルバムはっけ~んと思って、好奇心で見ようとしただけなのに、中身を見て驚いたわよ」

 くそぉぉぉっ、アルバムじゃなくて中学の教科書とかにしときゃ良かったぁぁぁっ!

「性癖?」
「そうそう、あのねシオカ~、六門ってば~」
「ちょぉぉっと待ったぁぁぁ! ははは、美しくていつもまともなことしか言わないヒオナさん。話を進めてくださいマジでお願いします」
「ふふふ~、美しいかぁ。分かってんじゃないの~」

 このアマァ……いつまでも俺が言いなりになってると思うなよぉ! いつかそのおっぱいを揉みしだいてやるからなぁぁぁ!

 まあそんなことをしたら拷問の上、東京湾に沈められるだろうが。

「と、とりあえずマジで《コアの遺産》はいらないんすか?」
「そ、いらない。だからこれはあなたのものよ、六門」
「……マジかぁ」

 いや、嬉しいけど、何か企みがあるのでは……と疑ってしまう。

「それにほとんど何もしてないのに、レベルはめちゃくちゃ上がったしね。これだけでも儲けもんよ」

 確かにあの規模のダンジョンを攻略したことで手に入った経験値は莫大だった。
 何せダンジョン内のすべてのモンスターの経験値が入ったのだから。
 特にやはりというべきか、ドラゴンの経験値が恐らく信じられないくらいに大量だったのだろう。
 19レベルだったが、一気に30まで爆上げした。

 残存スキルポイントも78と凄いことになっている。あと22で、念願の《テレポート》が手に入るのだ。
 獲得するまで途方もないと思われていたスキルだったが、もうすぐ手が届く位置まで来ていた。こうなったら絶対に手にしてやる。

「そうっすか。じゃあマジでこれもらってもいいんですね?」
「いいわよー。あ、でも次に一緒の攻略で手に入った時は譲ってほしいな~」
「まあその時はまたその時で考えましょう」

 ここは断定だけはしないでおこう。
 俺は宝箱に手をかける。

 さあ、一体どんなお宝を手にすることができるのか。
 情報では新たなジョブが得られる権利や、すべてのステータスが倍になったなど、どれも『持ち得る者』として垂涎ものの効果ばかり。
 だから否応なく期待はしてしまう。
 宝箱の鍵がある部分に手を触れると、

〝《コアの遺産》を解放しますか? YES OR NO〟

 そんな表示が浮かび上がったので、若干震える手で〝YES〟を押した。
 するとカチッという音が宝箱からしたと思ったら、おもむろに蓋が開いていく。
 中からは眩い金色の輝きが放射され、思わずその場にいる全員が目を閉じてしまう。

 ……数秒後、光は収まる。

 そして開かれた宝箱に再度視線を戻すとそこには――――――ゼリー状の物体があった。

「……………………は?」

 思わず目を凝らし見つめる。
 どう見てもプルルンとした赤色の物体があるだけ。

 いやいや、そんなわけが……。きっと目が疲れてるんだきっと。

 今度は両眼を擦ったり揉んだりして、再度視線を落としてみる。

 …………うん、変わらん。

「うわ、何それ? 気持ち悪いんですけど」

 声に出すなよヒオナさん。俺だってドン引きしてるんだから。

「血の塊……とか?」

 怖いこと言わんでくださいよ、シオカさん。まあ確かに血の塊にも見えるけども。

 ただ完全な赤というよりは緋色といった色合いではあるが。
 一貫して皆が『何だコレ?』と思いながら黙っていると、急にゼリー状の物体がウネウネと動き始めたのである。

「うわっ、やだやだっ、赤いしキモイし~!」
「ちょ、お姉ちゃん! 抱き着かないでぇ!?」

 ヒオナさんはこういうの苦手なようで、シオカに抱き着いて距離を取っている。
 するとゼリー状の物体が突然ポーンと跳ねた。

 どうやら生きているみたいだが……。
 そのままテーブルの上に落下すると、俺の傍までやってきてじ~っと見つめてくる。
 いや、目なんてあるのか分からないけどそんな感じだ。
 そして何を思ったのか、またもポーンと跳ねると、ピョコンと俺の頭の上に乗った。

「…………えっと」

 恐らくコイツに敵意はない。あったら今ので《自動回避》が発動しているだろうから。
 それにしても見た目はスライムに似てるけど……。
 だが俺が見たことがある奴とは色が違う。
 その時、またも目の前にメッセージが表示される。

〝使い魔登録をします 対象:オリジンスライム 名前を設定してください〟

「……つ、使い魔?」
「どうかしたの六門?」
「い、いえ。どうやらコイツ、使い魔って奴らしくて」
「使い魔って魔女の黒猫とかそういうの?」
「多分……何か名前をつけろって言われてて」
「ふ~ん、じゃあつけたげたら?」

 そう言われても……。今までペットすら買ってこなかった俺なので、どんな名前にしたらいいのか悩む。

「どうしようか……」
「有野くんならきっと良い名前をつけることができるよ!」

 ハードルを上げないでくれ頼むから。

 単純にスラ太郎とか……怒って溶かされねえかなぁ。

 それにコイツがオスなのかメスなのかも分からねえし。そもそもスライムに性別があんの?

〝ちなみにこの子は女の子です〟

 まるで俺の考えを読んだかのようにヘルプが入る。

 でもそっかぁ、メスなんだな。う~ん……。

 俺は頭の上に乗っているスライムを両手で挟み込み、自分の顔の前まで持ってくる。
 暴れる様子もなく、時折プルプルと震えているだけ。ひんやりと冷たく、マジでゼリーのような感触である。

 赤っていうよりは緋色だよな。じゃあ……。

「…………ヒーロ。ヒーロってのはどうだ?」
「!? ~~~~~っ!」

 突然俺の手の中でウネウネと身体の形を変えるスライム。

 これは……喜んでる? 嫌がってる?

 よく分からない意思表示に戸惑っていると、スライムはテーブルに飛び乗り、またも自身の身体を変貌させていく。
 そしてそれは徐々に文字になっていって……。

〝感謝 ご主人〟

 という文字が目に入った。

「お、お前そんなこともできるんだな。てか気に入ってくれたようで良かったよ……ヒーロ」

 元の形に戻ったヒーロは、余程嬉しいのかテーブルの上を跳ね回る。

「な、何だか分からないけど、今回の《コアの遺産》を六門に譲って本当に良かったわ」

 本当に嫌いなんですね、スライム。

「でもこうやって見てるとカワイイよ? ヒーロちゃん、わたしはシオカっていうの、よろしくね!」

 するとヒーロがまたも文字になって〝こちらこそ〟と伝えてきた。それが嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべたシオカが握手を求め、ヒーロもまたそれを受け入れている。

「けど《コアの遺産》ってことは、この子……こんな見た目だけど有能ってことよね? その辺はどうなの六門?」

 確かに、と思いステータスを開くと、新たに《使い魔》という欄が生まれていたので、そこを押してみた。
 するとヒーロに関する情報が記載されていたのである。


 ヒーロ   レベル:1   EXP:0%   スキルポイント:3

 体力:15/15   気力:15/15
 攻撃:C   防御:B
 特攻:C   特防:B
 敏捷:C   運 :B

ジョブ:使い魔Ⅰ  コアポイント:0%
スキル:擬態Ⅰ・硬化Ⅰ・吸収Ⅰ・物理攻撃無力化

称号:一番目のスライム・大喰らい

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...