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第四十話 宝箱からスライムが出てきた件について

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 俺は、途中で合流したヒオナさんと一緒に、元の学校となった【日々丘高校】から抜け出し、対面にあるシオカが待つマンションへと戻って来ていた。
 シオカは、ボロボロになっているヒオナさんの姿を見て気絶しそうになったが、すぐに救急箱を持ってきて治療を開始し、その間に俺はダンジョン内で経験したことを二人に聞かせたのである。

「――――なるほど、これが例の《コアの遺産》ってやつなのね。本当に宝箱だわ」

 テーブルの上にポツンと置かれた一つの宝箱。

「じゃあ約束通り、これはヒオナさんのってことで」

 俺も欲しいが、一応約束したのも事実だ。
 これを奪って逃亡したとして、メリットはこの宝箱だけ。しかし素直に守れば、今後も情報網と《コアの遺産》をゲットできる可能性が増える。
 ここは将来のための先行投資ということにしておこう。
 しかし、次に発せられたヒオナさんの発言に度肝を抜かれてしまう。

「悪いけれど、これを受け取る資格はワタシにはないわ」
「「は?」」

 思わず俺とシオカは同時に声を上げてしまった。

「え、えっと……どういうことっすか、ヒオナさん?」
「本音を言えば欲しいわ。けどねぇ……あの飛柱でさえ逃げ出したっていうドラゴンなんてバケモノをかい潜って獲ってきたものでしょ?」
「それはそうっすけど……」
「それにワタシは早々に戦線を離脱したし。ここで宝だけ寄越せって、鬼畜過ぎやしない?」
「おぉ……」
「な、何よその顔は?」
「いや、だってヒオナさんにも常識ってあったんだって思って」
「あらら~、面白いことを言うわね六門~。あなたの性癖を全部シオカに暴露するわよ?」
「ちょっ、止めてくださいよ! てか何で俺の性癖とか知ってるんですか!」
「あなたの家に行った時に、タンスの奥にあったものを見たからよ!」

 ドドンッと背景にその文字が浮かぶほどに胸を張るヒオナさん。
 ま、まさか俺のコレクションが見つかっていただとぉ!? 段ボールにはちゃんと〝アルバム〟って書いてカモフラージュしてたってのにぃ!?

「まあ、最初はアルバムはっけ~んと思って、好奇心で見ようとしただけなのに、中身を見て驚いたわよ」

 くそぉぉぉっ、アルバムじゃなくて中学の教科書とかにしときゃ良かったぁぁぁっ!

「性癖?」
「そうそう、あのねシオカ~、六門ってば~」
「ちょぉぉっと待ったぁぁぁ! ははは、美しくていつもまともなことしか言わないヒオナさん。話を進めてくださいマジでお願いします」
「ふふふ~、美しいかぁ。分かってんじゃないの~」

 このアマァ……いつまでも俺が言いなりになってると思うなよぉ! いつかそのおっぱいを揉みしだいてやるからなぁぁぁ!

 まあそんなことをしたら拷問の上、東京湾に沈められるだろうが。

「と、とりあえずマジで《コアの遺産》はいらないんすか?」
「そ、いらない。だからこれはあなたのものよ、六門」
「……マジかぁ」

 いや、嬉しいけど、何か企みがあるのでは……と疑ってしまう。

「それにほとんど何もしてないのに、レベルはめちゃくちゃ上がったしね。これだけでも儲けもんよ」

 確かにあの規模のダンジョンを攻略したことで手に入った経験値は莫大だった。
 何せダンジョン内のすべてのモンスターの経験値が入ったのだから。
 特にやはりというべきか、ドラゴンの経験値が恐らく信じられないくらいに大量だったのだろう。
 19レベルだったが、一気に30まで爆上げした。

 残存スキルポイントも78と凄いことになっている。あと22で、念願の《テレポート》が手に入るのだ。
 獲得するまで途方もないと思われていたスキルだったが、もうすぐ手が届く位置まで来ていた。こうなったら絶対に手にしてやる。

「そうっすか。じゃあマジでこれもらってもいいんですね?」
「いいわよー。あ、でも次に一緒の攻略で手に入った時は譲ってほしいな~」
「まあその時はまたその時で考えましょう」

 ここは断定だけはしないでおこう。
 俺は宝箱に手をかける。

 さあ、一体どんなお宝を手にすることができるのか。
 情報では新たなジョブが得られる権利や、すべてのステータスが倍になったなど、どれも『持ち得る者』として垂涎ものの効果ばかり。
 だから否応なく期待はしてしまう。
 宝箱の鍵がある部分に手を触れると、

〝《コアの遺産》を解放しますか? YES OR NO〟

 そんな表示が浮かび上がったので、若干震える手で〝YES〟を押した。
 するとカチッという音が宝箱からしたと思ったら、おもむろに蓋が開いていく。
 中からは眩い金色の輝きが放射され、思わずその場にいる全員が目を閉じてしまう。

 ……数秒後、光は収まる。

 そして開かれた宝箱に再度視線を戻すとそこには――――――ゼリー状の物体があった。

「……………………は?」

 思わず目を凝らし見つめる。
 どう見てもプルルンとした赤色の物体があるだけ。

 いやいや、そんなわけが……。きっと目が疲れてるんだきっと。

 今度は両眼を擦ったり揉んだりして、再度視線を落としてみる。

 …………うん、変わらん。

「うわ、何それ? 気持ち悪いんですけど」

 声に出すなよヒオナさん。俺だってドン引きしてるんだから。

「血の塊……とか?」

 怖いこと言わんでくださいよ、シオカさん。まあ確かに血の塊にも見えるけども。

 ただ完全な赤というよりは緋色といった色合いではあるが。
 一貫して皆が『何だコレ?』と思いながら黙っていると、急にゼリー状の物体がウネウネと動き始めたのである。

「うわっ、やだやだっ、赤いしキモイし~!」
「ちょ、お姉ちゃん! 抱き着かないでぇ!?」

 ヒオナさんはこういうの苦手なようで、シオカに抱き着いて距離を取っている。
 するとゼリー状の物体が突然ポーンと跳ねた。

 どうやら生きているみたいだが……。
 そのままテーブルの上に落下すると、俺の傍までやってきてじ~っと見つめてくる。
 いや、目なんてあるのか分からないけどそんな感じだ。
 そして何を思ったのか、またもポーンと跳ねると、ピョコンと俺の頭の上に乗った。

「…………えっと」

 恐らくコイツに敵意はない。あったら今ので《自動回避》が発動しているだろうから。
 それにしても見た目はスライムに似てるけど……。
 だが俺が見たことがある奴とは色が違う。
 その時、またも目の前にメッセージが表示される。

〝使い魔登録をします 対象:オリジンスライム 名前を設定してください〟

「……つ、使い魔?」
「どうかしたの六門?」
「い、いえ。どうやらコイツ、使い魔って奴らしくて」
「使い魔って魔女の黒猫とかそういうの?」
「多分……何か名前をつけろって言われてて」
「ふ~ん、じゃあつけたげたら?」

 そう言われても……。今までペットすら買ってこなかった俺なので、どんな名前にしたらいいのか悩む。

「どうしようか……」
「有野くんならきっと良い名前をつけることができるよ!」

 ハードルを上げないでくれ頼むから。

 単純にスラ太郎とか……怒って溶かされねえかなぁ。

 それにコイツがオスなのかメスなのかも分からねえし。そもそもスライムに性別があんの?

〝ちなみにこの子は女の子です〟

 まるで俺の考えを読んだかのようにヘルプが入る。

 でもそっかぁ、メスなんだな。う~ん……。

 俺は頭の上に乗っているスライムを両手で挟み込み、自分の顔の前まで持ってくる。
 暴れる様子もなく、時折プルプルと震えているだけ。ひんやりと冷たく、マジでゼリーのような感触である。

 赤っていうよりは緋色だよな。じゃあ……。

「…………ヒーロ。ヒーロってのはどうだ?」
「!? ~~~~~っ!」

 突然俺の手の中でウネウネと身体の形を変えるスライム。

 これは……喜んでる? 嫌がってる?

 よく分からない意思表示に戸惑っていると、スライムはテーブルに飛び乗り、またも自身の身体を変貌させていく。
 そしてそれは徐々に文字になっていって……。

〝感謝 ご主人〟

 という文字が目に入った。

「お、お前そんなこともできるんだな。てか気に入ってくれたようで良かったよ……ヒーロ」

 元の形に戻ったヒーロは、余程嬉しいのかテーブルの上を跳ね回る。

「な、何だか分からないけど、今回の《コアの遺産》を六門に譲って本当に良かったわ」

 本当に嫌いなんですね、スライム。

「でもこうやって見てるとカワイイよ? ヒーロちゃん、わたしはシオカっていうの、よろしくね!」

 するとヒーロがまたも文字になって〝こちらこそ〟と伝えてきた。それが嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべたシオカが握手を求め、ヒーロもまたそれを受け入れている。

「けど《コアの遺産》ってことは、この子……こんな見た目だけど有能ってことよね? その辺はどうなの六門?」

 確かに、と思いステータスを開くと、新たに《使い魔》という欄が生まれていたので、そこを押してみた。
 するとヒーロに関する情報が記載されていたのである。


 ヒーロ   レベル:1   EXP:0%   スキルポイント:3

 体力:15/15   気力:15/15
 攻撃:C   防御:B
 特攻:C   特防:B
 敏捷:C   運 :B

ジョブ:使い魔Ⅰ  コアポイント:0%
スキル:擬態Ⅰ・硬化Ⅰ・吸収Ⅰ・物理攻撃無力化

称号:一番目のスライム・大喰らい

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