世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ

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第四十四話 群馬に向かうことになった件について

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「――おっと、マズイマズイ」

 街に出た俺だったが、脇道へと身を潜ませていた。
 視線の先にある大通りにはパトカーが走っている。

 俺は一応ダンジョンに踏み入った犯罪者でもあるので、ついつい隠れてしまう。
 別に素顔がバレているわけじゃないと思うが、職務質問をされたらスムーズに対応できるかも疑わしいし、できる限り接触はしたくない相手だ。
 それにある不穏なことをヒオナさんが口にしていた。

『もしかしたら今後、『持ち得る者』とそうでない者を見分けるようなスキルを持った奴が出てくるかも』

 仮にそんな懸念が現実に起きたとしたら、いくら言葉で嘘を連ねてもバレてしまう。
 しかもそういう能力者が警察にいたら一発でアウトだ。
 何か理由をつけて捕縛されかねないともヒオナさんが言っていた。

「俺も注意しなきゃな」

 それに俺の場合にはモンスターが使い魔としているので、これもまた問題に上がりそうだし。

「さてと、行先も決めずに出てきたけど、どこに向かおっか……」

 飛行機や電車は一応運行しているようだが、やはり利用客は減っている。
 中には駅自体がダンジョン化してしまい、その地域の交通手段が麻痺している場所もあるという。
 幸い【才羽市】の鉄道は不休で働いてくれているようだが。

 俺はパトカーを警戒しつつ駅方面へと向かっていく。
 ここらへんに来ると、さすがにまだ人通りはちらほらとある。とはいっても誰もがビクついている様子ではあるが。
 それに……だ。

「おいおい、女じゃねえか! なあなあ、俺たちと遊ぼうぜ!」

 複数のやんちゃなお兄さんたちが、駅へと向かおうとしていた女性の前に立ち塞がる。

「ちょっと急いでいますので」

 当然女性は相手にしないように去ろうとするが、言うことを聞くような連中が、こんな現状でナンパなんてしない。

「まあまあ待てって。良い店知ってんだよ。そこにはたくさん食いもんもあるし、来いって。奢ってやるからさ」
「どいてください! 急いでるんです!」

 俺はそんなやり取りを遠目に見ながら大変だなぁと思いつつ駅へと入って行く。
 正直こういう光景は珍しくない世の中になっている。
 特に今みたいな連中にはパラダイスなのか、大手を振って街中を歩き狩りを始めているのだ。女や食料などなど。

 欲望のままに力を振るい手に入れようとしている。
 被害に遭う者にとっては可哀相だとは思うが、いちいち助けても仕方ない。
 それにどうせ……。
 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきて、駅へと向かってくる姿が見える。

「やっべ! おい逃げっぞ!」

 警察も人が集まる駅は重点的に見回っているようで、こうして救われる形が多い。
 女性はホッとしつつも本当に急いでいたのか、駆け足で駅へと入って行く。
 俺もすぐに駅へと入り切符を買うことに。

「……けどマジでどこに向かうか」

 路線図をぼ~っと眺めながら思案していると、ふとある存在が脳裏に浮かぶ。

「……そういやあの黒い球体は一体何なんだろうなぁ」

 世界各地七か所で突如として出現した、巨大な空飛ぶ球体。
 この一ヶ月、どうなったかなど一切情報はなかった。
 確実に世界が歪んだ理由と関係しているはずだが、いまだ各国はその謎を紐解いていないのだろうか。
 あるいは解明したにもかかわらずに、国民には伏している可能性だってある。

「確か日本にも……北海道だっけ?」

 いや、さすがに遠いか。一目くらい拝んでおきたい気持ちはあるが、ちょっと遠出という気分を明らかに逸脱してしまっている。
 そこはまた機会があれば一度くらいは行ってみてもいいかもしれない。

「そういやSNSで群馬に大型のダンジョンが幾つも発見されたとか載ってたな。……行ってみるか」

 だがその時、ゾロゾロと改札の方から人が出てきた。
 しかも全員が困り顔である。
 俺は一人を捕まえて「どうかしたんすか?」と尋ねてみた。

「何でも線路がモンスターに壊されたとか何とかで運行中止だとよ」

 あちゃあ……いずれはそうなると思っていたが、何ともタイミングの悪い。
 すると駅員さんが頭を下げながら、ある情報を伝えてくれる。

「この度はまことに申し訳ございません! 各地地方に向かう高速バスなら運行していますので、どうぞご利用くださいませ!」

 なるほど、高速バスか。もしかしたら電車よりもそっちの方が安全かもしれない。
 電車なら走っている途中で急にモンスターに襲われたら脱線事故に繋がってしまうだろう。何せ逃げ道がないのだから。

 バスならある程度小回りが利くので、多少は回避もできるはず。
 俺はさっそく群馬行きの高速バスがあるのか駅員に聞いて、あるとのことなので場所を聞いてそっちに向かった。
 停留所はすでに結構な人で溢れ返っていたが、まだ俺が利用できるスペースはあるようだ。

 本来なら予約制が多いのだが、こんな世の中になって高速バスの利用者が増えたためか、当日乗りでも利用できるように数を増やしたらしい。
 俺は久しぶりに乗る高速バスに少し浮かれながら乗り込んでいく。
 中は十分に広く、トイレもまた設置されているのでありがたい。

 指定された席に向かうと、窓際だったこともあり上機嫌で座る。
 しかも隣には誰も座らないという快適さ。
 俺はここに来る途中で自動販売機で購入しておいたペットボトルのジュースを飲みながら一息を吐く。

 群馬までは二時間程度らしいので、それまでゆっくりしよう。
 ヒーロからバッグを取り出すと、入れておいた菓子をヒーロと一緒に食べる。もちろんヒーロにはできるだけぬいぐるみのようにしてもらっているが。
 そうして約二時間、日々の喧噪(そんなのあったっけ?)を忘れて、ヒーロと一緒にのんびりと窓の外に流れる景色を楽しんでいた。







 運転中に何か事件でも起こるかもって思った人には残念だが、何事もなく目的地である群馬に到着した。
 群馬には何度か来たことはある。
 結構釣りが好きなのだが、群馬県は管理釣り場が充実しており、たまに足を運んでは日がな一日糸を垂らしているのだ。

 特に【赤城山】の南西にある緑に囲まれた管理釣り場は、釣り池もかなり広大でルアーだけでなくフライフィッシングも楽しめる。
 他には【赤久縄あかぐな】にある渓流釣りや【おくとねフィッシングパーク】というところでは大型魚の釣りも堪能することができるので、釣りに明るい人にとっては一度は行ってみたい場所だと思う。

 ただ今日は残念ながらゆったり釣りをしに来たわけではない。
 世界遺産に認定された富岡製糸場の見学にも、草津温泉で羽を伸ばしにきたわけでもない。
 ここには大型のダンジョンの調査に来たのである。
 俺たちだけでも攻略できそうなら挑んでみるのも良いかもしれない。

「おっと、そうだ。スマホの電源を切りっ放しだったな」

 四奈川の追及を恐れた結果だが、スマホの電源を入れてギョッとした。

「うげっ、『ワールド』がニ十件に着信が十三件もあるし」

 いつの間にこんなに人気者になったのだろうか。ちょっと前までは友達一人もいないぼっちだったはずなのに。
 まさかこんなにスマホが鳴る時代が俺に訪れるとは……。

「やっぱほとんどが四奈川だけど……うわぁ、葉牧さんからもだ」

 内容はこうだ。

〝お嬢様の連絡を無視するとは良い度胸ですね。次に会った時、心の底から楽しみにしています〟

 …………もう俺は故郷の地を二度と踏めないかもしれない。

 このまま一人と一匹で日本列島縦断の旅にでも出るかなぁ。

 何だかその方が長生きできそうな気がしてきた。

「あとは……ん? ヒオナさんと……シオカからも?」

 相も変わらず、両親からの連絡は一切ないが、きっと海外で無事にやっていることだろう。あの逞し過ぎる両親のことだしな。
 ヒオナさんは着信が多く、続けてシオカからもかかってきている。
 着信履歴を見れば、ヒオナさんのあとにシオカがかけていることから、恐らくはヒオナさん案件ではあるのだろうが。

 もしかしてまた仕事の依頼かな?
 となれば新しく大型のダンジョンでも見つかったか……。

 ヒオナさんは前回、《コアの遺産》を俺に譲ったので、どうしても次は欲しいと言っていた。
 しかし中々、ヒオナさんが狙うようなダンジョンがここ一ヶ月現れてくれなかったようだ。
 俺としても現在どこにいるかくらいは教えておいてもいいと思ったので、ヒオナさん……ではなくシオカに電話をした。

 何故シオカにだって? その理由は簡単だ。ヒオナさんよりも話しやすいからだよ。

 それに癒しボイスまで持っているので、どちらかに連絡をしなければならないとなると、俺は断然シオカを推す。
 二人がアイドルだったとしても、俺は完全なシオカ推しだ。だってあの子、女神みたいだからな。この荒んだ世の中というか、人間関係の中において、唯一俺に癒しを与えてくれる存在だし。
 そういうことで彼女に電話をすると、三回目のコールで出てくれた。


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