世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ

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第四十五話 群馬を散策する件について

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「もしもし、シオカだよ。有野くん?」
「おう、悪いな電話に出れなくて。結構かけてくれたみたいだけど……ヒオナさんが」
「うん。お姉ちゃんが『あの野郎、電話を無視しやがって~!』ってわたしのトコに来て、わたしから連絡してって頼まれたの」
「いや別に無視してたわけじゃなくてね」

 俺は電話の電源を落としていたことを伝える。

「そうだったんだ。わたしは何か事件にでも巻き込まれたのかって思って心配してたんだよ。無事で良かった」
「心配かけて悪いな。ところで要件って何か聞いてる?」
「あ、そのことなんだけど。さっきお姉ちゃんが直接家に乗り込んでやるーって言って出かけたんだけど?」

 あちゃあ……そこまでの急ぎの話だったのか? だとしたら悪いことをしたかもしれん。

「あー実は今さ群馬にいるんだよなぁ」
「へぇ、群馬に…………って、群馬ぁっ!? 何で何で? どうして群馬? 群馬ってあれだよね? 群馬県の群馬だよね? あの富岡製糸場のある!」
「お、おお……テンション高えな。いきなりどうした?」
「あ、ごめんね。ただいきなり群馬にいるなんて聞いたから」

 ま、普通は驚くか。こんな情勢で他県に出掛けているんだから。

「SNSでさ、群馬に大型のダンジョンがあるって情報があってさ。レベル上げのためにも試しに来てみたんだよ」
「そうだったんだね。あ、でもそれじゃあお姉ちゃん……」
「ヒオナさんには悪いけど、しばらくここらでウロウロしてるから、仕事だったら手伝えねえって言っといてくれね?」
「うん、分かった。でも一人で大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。それにヒーロだっているしな」
「キュ~キュ~!」
「あ、ヒーロちゃんの声がする。そっか、一緒にいるんだね!」
「ま、そういうことで、俺たちはRPGよろしく冒険を楽しむわ」
「分かったよ。でも気をつけてね。怪我とかしたらダメだよ?」

 それは何とも言えないが、俺だって無茶なことはしないつもりだ。
 ヒオナさんへのフォローはシオカに任せて、俺は電話を切った。

「……にしてもヒオナさんの話って何だったんだろ」

 わざわざ会いに来るくらいのことだから、結構重要なのかもしれないが……。

「…………ま、今回は巡り合わせがなかったってことで」

 彼女には我慢してもらおう。

「んじゃ、さっそく例のダンジョンがあるって場所まで行きますか」
「キュ~!」

 そこからは別のバスに乗って市街地を駆けていく。
 目的地は【高崎市】に存在する【榛名山】である。
 何でもこの山そのものがダンジョン化しているそうで、数多くのモンスターも目視されているらしい。

 ただこの前の【日々丘高校】と違って、山そのものという大規模過ぎるダンジョンということもあり、攻略難度は別格だという情報が上がっている。
 実際にレベルが20を超えた『持ち得る者』たちが挑んだが、攻略もできずに逃げ帰ってきたという事実もあるという。

 しかもただ帰って来ただけではなく、全員が全員恐怖に慄き、口々に『巨人が……巨人が……』と壊れたラジオみたいに呟き続けていたらしい。
 詳しく話を聞こうにも、挑戦者だった者たちは何も話したくないといって口を噤んでいるいるようで、それ以上の詳しい情報はないのだ。

「【榛名山】に潜む巨人……ねぇ」

 モンスターなのだろうが、以前戦ったドラゴンよりも恐ろしい生物なんてそうそういないと思う。
 あのドラゴンでもトラウマを植え付けるには十分な存在だったが、奴と同等、もしくはそれ以上のモンスターがいるということは想像できる。

 しかも今回は山だ。下手をすれば遭難したまま戻って来られないということも十分に考えられる。
 実際に行ったっきり戻ってこないパターンもあるようだから。
 ただでさえ山ってのは慣れてない者にとっては迷宮そのものだ。なのにそれがダンジョン化したとなれば、さすがに何の知識もない状態で入るのは厳しいかも。

「とりあえず情報収集してみるか」

 俺は【高崎市】までバスに乗ると、そこから降りて街並みを見回す。
 ここは群馬県でも最大の都市で、市内からは目的地である【榛名山】、【赤城山】、【妙義山】の『上毛三山』を拝むことができる。

 ちなみに〝上毛〟とは、〝上毛野〟の略で、群馬県の旧国名である〝上野国〟を差す。
 まあ簡単にいったら群馬を代表する三つの山ってこと。
 情報収集には人を頼らないとけないわけだが、例に漏れずこの街もやはり閑散としている。

「さて、どうっすかなぁ。そうだなぁ…………病院に行くか」

 ここなら絶対に人はいるだろうし、もしかしたら【榛名山】に挑んで負傷した人に出会るかもしれない。
 そうでなくとも街の情勢くらいは把握できるだろう。
 俺はスマホのナビを駆使し近くの病院へと足を伸ばしていく。
 すると【高崎総合医療センター】という場所がヒットしたので、そちらへと出向いたわけだが……。

「ひゃぁ~でっけぇなぁぁ~」

 建物はシンメトリーな感じで、清潔感が伝わってくる広々とした病院だった。
 広い駐車場も完備しており、こんな現状でさすがは病院なのか、結構な数の車が停められている。
 もしこの病院がダンジョン化なんてなったらパニックどころの話ではないだろう。

 だがその可能性は常に秘めている。それでも人々は病院を頼らざるを得ないのだ。
 俺は病院の中へと入っていくと、待合室にはたくさんの人が座っていた。
 ただ気になったのは、ほとんどの人が何かしらの外傷を携えていること。つまり風邪とかそういう内科系の症状ではなさそう。

 にしても傷を負っている人たちが多過ぎやしないだろうか。
 待合室を見回し、比較的穏やかそうな老人をターゲットに話しかけることにした。
 一人、七十歳くらいの優しそうな老婆がいたので、彼女へと近づく。

「すみません、隣いいですか?」
「ん? ああ、どうぞどうぞ」

 見た目通り物腰も柔らかな人で良かった。

「こんたあもどっか怪我したん?」

 嬉しいことに向こうから会話を弾ませてくれる。

 ちなみに〝こんたあ〟というのは〝あなた〟とか〝君〟という意味だったはず。俺も群馬に来て久々に聞いた。ここまで方言がキツイ人はあまり接したことがない。
 若者は標準語とそう変わらないのに、年配は結構キツイくて聞き取れないことも多い。

「いえ、ちょっと風邪を引いてしまって。熱も三十八度ほど」
「こりゃまーず大変がね。おだいじなさい」
「ありがとうございます。失礼ですがそちらは風邪ではなさそうですけど」

 その老婆は松葉杖を傍に置いていた。しきりに右膝あたりを擦っていたので、恐らくはそこが患部なのだろう。

「ちょっと前、事件があったん知らんの?」
「事件?」

 お婆さん曰く、この近所でとんでもなく迷惑な事件が勃発したのだという。
 この群馬にも当然『持ち得る者』となった者がそれなりに存在しているが、ここ最近、そういう連中が一般人も含めて『コミュニティ』を作っているらしい。
 それ自体は、どこの地域でも生まれ始めていることだから不思議なことではない。

 しかし群馬には二つの大きな『コミュニティ』があって、その二つが縄張り争いという迷惑極まりない抗争を繰り広げているとのこと。
 つい最近、その二つが大きく衝突をした結果、その争いに巻き込まれて怪我を負った者たちが、ここに担ぎ込まれてきた。あるいは自ら怪我の手当てのために足を運んできたのだ。
 こんなにも多くの外傷者のほとんどが、その被害者なのだという。

「なるほど。それは確かに迷惑な話だ」

 俺はお婆さんからいろいろなことを聞いたあと、礼を言ってその場を後にする。

「にしても二つの『コミュニティ』による抗争か。それに……」

 今俺はある病室の前まで来ていた。

 ネームプレートには〝伊勢健一〟という名が記されている。
 当然知り合いでもないし、この病院に来て初めて知った名前だ。
 なら何故ここに来たのかというと、この部屋で入院している伊勢という人物こそ、最近【榛名山】に挑んで逃げ帰ってきたその人である。

 他に興味深い話を聞けないかと思って、病院内を歩き回っていると、ナースステーションで仕事をしていたナースたちから、ある話が聞こえてきたのだ。
 《ステルス》を使って近寄って聞いてみると、ちょうど伊勢の話をしていたのである。
 彼が三日前に【榛名山】の麓で倒れて病院に運ばれたという話だ。

 これは良い情報が手に入るかもと思い、ここまで来たのだが……。

「さすがに入りにくいよなぁ……」

 いきなり入って、その時のことを聞かせてくれって言っても絶対に無理だろうし。
 どう考えても怪しいしな俺。

「……あら、健一のお友達なん?」

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