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第63話 おてんばな幼女を追いかける件について
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「ん? どした、そんなに強張った顔して」
「い、いえ……そういやそこって巨人伝説で有名だったなぁって思って」
「ああ、例の《巨人病》の原因か? それともダイダラボッチの方か?」
「どっちもっすね。その巨人を蓬一郎さんは見たことがありますか?」
「見た……といえば見たが、その全容は目にしてねえな。俺が見たのは霧の中に浮かんだ巨人の影だしよ」
ということは山頂までは登ったのだろう。そして俺と同じものを見た。
「ど、どんな感じでした?」
「……悪いが面白いことは何もねえぞ。アレは近づいたらダメだって本能で察してな。すぐに逃げ帰ってきたから」
「蓬一郎さんでも逃げた相手ですか?」
「あぁ? 悪いかよ。喧嘩売ってんのか?」
「い、いえいえいえ! だってあの怖そうな『白世界』の富樫って奴相手でも怯まないのに!」
「…………相手が人間ならどんな奴だって俺は背を向けねえよ。けどな、ありゃ……怪物そのものだ。何の対策もねえ状態で対峙していいもんじゃねえ。だから今は、できるだけ山の情報を集めながら、そこに近づいてくる人間どもを追い払ってんだ。余計な被害者を出さねえためにもな」
「…………じゃあいずれは攻略を?」
「さあな。別にあの山から出てこねえし、それなら巨人は放置でいいと思うぜ」
確かにわざわざ危険を犯してまで攻略を進める必要はないかもしれない。
だがそのせいで山からモンスターが出てくるリスクはあるが、それくらいなら『紅天下』が討伐していくつもりなのだろう。
「って、話が逸れたな。その黒スーツの連中が、あろうことか【榛名富士】にいやがるんだ。そこなら下手な連中が近づいてこねえって考えてのことだろうな」
「相手の数は分かってるんですか?」
「黒スーツは二人だけ。あとは奴らに捕縛された連中だ」
なら実質的は二人。それなら『紅天下』の総力を結集すれば、拉致された人たちを救い出せるかもしれない。
「でも何でそんな危険な場所にいるんでしょうか? 人を寄せ付けない場所だって他にあると思うのに」
「その理由は奴らにしか分かんねえよ。ただ厄介な救出作戦になることだけは確かだ」
「人数で言えば楽勝なんじゃないっすか? ……いや、そっか救出できたとしても場所が場所だけに大変だな」
「へぇ、お前結構頭が回るんだな。まあそういうことだ。たとえ黒スーツから救出できたとしても、そこからさらにそいつらを山から脱出させねえといけねえ。何せ俺らが向かうのはダンジョンでもあるんだしな」
そうだ。山には黒スーツだけじゃない。他のモンスターだって、罠だってオマケつきでついてきているのだ。
そして下手をすれば、例の巨人だって姿を見せるかもしれない。
そうなれば《巨人病》を発症し、余計に面倒ごとが増える危険性が高い。
「山に長々といたんじゃ、いつ巨人が出てくるか分からん。作戦は速やかに行う必要がある」
戦闘になるのは確か。だがその戦闘の影響で、巨人が出てくれば被害が大きくなるだろう。だから作戦は迅速に完了させる必要がある。
「だからどうしても少数精鋭の任務になっちまう」
「……ああ、だからこそ莱夢の安全を思って厳しく言ってたんすね」
大勢の者たちで行くことができれば、莱夢の生存率だって高くなるはず。しかし今回の作戦では少数で行う故、どうしても一人一人の生存率は下がってしまう。
兄として妹を危険に晒すことはできないのだろう。
「俺にはもう……アイツしか身内はいねえからな。……失うわけにはいかねえ」
「……そういう気持ちを真正面からぶつければ、あの子だって分かってくれるんじゃないですか?」
「んなもん…………恥ずかしくて言えるかよ」
えぇ……そこで硬派を気取っちゃいますか。
「俺はちゃんと話し合った方が良いと思うっすけどね」
「うっせえな。いいんだよ、これが俺なんだからよ」
やれやれ。口下手なアニキを持つと妹は大変らしい。
「…………あ」
「ん? どうした有野?」
「そういやもう一つ聞きたいことがあったんですけど」
こうなったらついでだから気になったことは聞いておこう。
「あんだよ?」
「何か物凄い形相でこの世に絶対なんかないって言ってましたけど」
「――っ!?」
その瞬間、明らかに不機嫌オーラが彼から噴出したので、俺は咄嗟に立ち上がり、
「おっと、何か急に腹痛が痛みだしましたよ! すみませんでしたこんな夜更けに! ではわたくしはここらでドロンということで!」
「へ? あ? お、おい……!」
俺はさっきの幼女のように、聞く耳を持たずにそのまま素早く部屋から出た。
追ってくる可能性があったので、振り返らずに脇道へ入った直後に《ステルス》を使って身を隠す。
…………ふぅぅぅ~。どうやらあの質問は地雷だったみてえだな。
あのまま続けていると、胃が終わりそうな空気になりそうだったので、彼が怒鳴り散らす前に飛び出て来て正解だった。
にしても救出作戦ねぇ……。作戦自体はともかくとして、あの黒スーツの連中が【榛名富士】にいるなんてなぁ。
そこにアイツらは言う〝あの方〟とやらも来るのだろうか。もしかしたらそこで合流する予定なのかもしれない。
ま、いろいろ気にはなるけど俺には関係ない話だしな。
明日にでも隙を見てここから逃げ出そうと思い、自分に与えられた部屋へ戻っていくが、何となく莱夢のことが気になって、去って行った方へ足を延ばした。
その突き当たりには裏口があり、僅かに扉が開いている。
アイツ、扉を閉める習慣がないのかねぇ。
俺は肩を竦めながら外に出るとそこは路地裏で、右側に続く道を歩いて行くと、その先には空き地が広がっていた。
その中央にはポツンと軽トラックが不自然に置かれている。
まさかと思い近づいてみると、荷台の上で体育座りをしている莱夢を発見した。
「い、いえ……そういやそこって巨人伝説で有名だったなぁって思って」
「ああ、例の《巨人病》の原因か? それともダイダラボッチの方か?」
「どっちもっすね。その巨人を蓬一郎さんは見たことがありますか?」
「見た……といえば見たが、その全容は目にしてねえな。俺が見たのは霧の中に浮かんだ巨人の影だしよ」
ということは山頂までは登ったのだろう。そして俺と同じものを見た。
「ど、どんな感じでした?」
「……悪いが面白いことは何もねえぞ。アレは近づいたらダメだって本能で察してな。すぐに逃げ帰ってきたから」
「蓬一郎さんでも逃げた相手ですか?」
「あぁ? 悪いかよ。喧嘩売ってんのか?」
「い、いえいえいえ! だってあの怖そうな『白世界』の富樫って奴相手でも怯まないのに!」
「…………相手が人間ならどんな奴だって俺は背を向けねえよ。けどな、ありゃ……怪物そのものだ。何の対策もねえ状態で対峙していいもんじゃねえ。だから今は、できるだけ山の情報を集めながら、そこに近づいてくる人間どもを追い払ってんだ。余計な被害者を出さねえためにもな」
「…………じゃあいずれは攻略を?」
「さあな。別にあの山から出てこねえし、それなら巨人は放置でいいと思うぜ」
確かにわざわざ危険を犯してまで攻略を進める必要はないかもしれない。
だがそのせいで山からモンスターが出てくるリスクはあるが、それくらいなら『紅天下』が討伐していくつもりなのだろう。
「って、話が逸れたな。その黒スーツの連中が、あろうことか【榛名富士】にいやがるんだ。そこなら下手な連中が近づいてこねえって考えてのことだろうな」
「相手の数は分かってるんですか?」
「黒スーツは二人だけ。あとは奴らに捕縛された連中だ」
なら実質的は二人。それなら『紅天下』の総力を結集すれば、拉致された人たちを救い出せるかもしれない。
「でも何でそんな危険な場所にいるんでしょうか? 人を寄せ付けない場所だって他にあると思うのに」
「その理由は奴らにしか分かんねえよ。ただ厄介な救出作戦になることだけは確かだ」
「人数で言えば楽勝なんじゃないっすか? ……いや、そっか救出できたとしても場所が場所だけに大変だな」
「へぇ、お前結構頭が回るんだな。まあそういうことだ。たとえ黒スーツから救出できたとしても、そこからさらにそいつらを山から脱出させねえといけねえ。何せ俺らが向かうのはダンジョンでもあるんだしな」
そうだ。山には黒スーツだけじゃない。他のモンスターだって、罠だってオマケつきでついてきているのだ。
そして下手をすれば、例の巨人だって姿を見せるかもしれない。
そうなれば《巨人病》を発症し、余計に面倒ごとが増える危険性が高い。
「山に長々といたんじゃ、いつ巨人が出てくるか分からん。作戦は速やかに行う必要がある」
戦闘になるのは確か。だがその戦闘の影響で、巨人が出てくれば被害が大きくなるだろう。だから作戦は迅速に完了させる必要がある。
「だからどうしても少数精鋭の任務になっちまう」
「……ああ、だからこそ莱夢の安全を思って厳しく言ってたんすね」
大勢の者たちで行くことができれば、莱夢の生存率だって高くなるはず。しかし今回の作戦では少数で行う故、どうしても一人一人の生存率は下がってしまう。
兄として妹を危険に晒すことはできないのだろう。
「俺にはもう……アイツしか身内はいねえからな。……失うわけにはいかねえ」
「……そういう気持ちを真正面からぶつければ、あの子だって分かってくれるんじゃないですか?」
「んなもん…………恥ずかしくて言えるかよ」
えぇ……そこで硬派を気取っちゃいますか。
「俺はちゃんと話し合った方が良いと思うっすけどね」
「うっせえな。いいんだよ、これが俺なんだからよ」
やれやれ。口下手なアニキを持つと妹は大変らしい。
「…………あ」
「ん? どうした有野?」
「そういやもう一つ聞きたいことがあったんですけど」
こうなったらついでだから気になったことは聞いておこう。
「あんだよ?」
「何か物凄い形相でこの世に絶対なんかないって言ってましたけど」
「――っ!?」
その瞬間、明らかに不機嫌オーラが彼から噴出したので、俺は咄嗟に立ち上がり、
「おっと、何か急に腹痛が痛みだしましたよ! すみませんでしたこんな夜更けに! ではわたくしはここらでドロンということで!」
「へ? あ? お、おい……!」
俺はさっきの幼女のように、聞く耳を持たずにそのまま素早く部屋から出た。
追ってくる可能性があったので、振り返らずに脇道へ入った直後に《ステルス》を使って身を隠す。
…………ふぅぅぅ~。どうやらあの質問は地雷だったみてえだな。
あのまま続けていると、胃が終わりそうな空気になりそうだったので、彼が怒鳴り散らす前に飛び出て来て正解だった。
にしても救出作戦ねぇ……。作戦自体はともかくとして、あの黒スーツの連中が【榛名富士】にいるなんてなぁ。
そこにアイツらは言う〝あの方〟とやらも来るのだろうか。もしかしたらそこで合流する予定なのかもしれない。
ま、いろいろ気にはなるけど俺には関係ない話だしな。
明日にでも隙を見てここから逃げ出そうと思い、自分に与えられた部屋へ戻っていくが、何となく莱夢のことが気になって、去って行った方へ足を延ばした。
その突き当たりには裏口があり、僅かに扉が開いている。
アイツ、扉を閉める習慣がないのかねぇ。
俺は肩を竦めながら外に出るとそこは路地裏で、右側に続く道を歩いて行くと、その先には空き地が広がっていた。
その中央にはポツンと軽トラックが不自然に置かれている。
まさかと思い近づいてみると、荷台の上で体育座りをしている莱夢を発見した。
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