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――一週間後。
現在は午前九時半。先ほど畑仕事がひとしきり終わったので、農業ペンギンたちも休憩している。その傍で日門もまたスポーツドリンクで喉を潤していた。
そんな中――。
「うおぉぉぉぉぉおおおおおおっ!?」
島中響き渡るような声を発している人物いる。その声音は恐怖と絶望が含まれているような嘆きに近い叫びだ。
声の主の方に視線をやると、そこには教官コアラと、その前に奇妙な木造細工が立っている。
くの字に繋がれた柱が二つ。それが一定の距離を開けて立てられていて、それぞれの上部が一本の木で繋がっている。簡易式のブランコのような形だ。
しかしブランコと違うのは、上部に設置されている木の中央に括られている綱である。
その先には、逆さ吊りされた理九がいた。
「ぬうぅぅぉぉぉおおおおおおっ!?」
何故彼がそんなに必死な声を上げているのかというと、彼の頭部のすぐ近くにはとてつもない臭いを放つ――――〝肥溜め〟が設置されているからだ。
理九は頭部が恐ろしい侵食を受けないように、命懸けで上半身を起こしている。何せ少しでも力を抜けばそのまま……想像したくはないだろう。
「ほらほら、そんな力づくではいつまでもそこからリリースされないのであります」
教官コアラの注意が飛ぶ。しかしその声が理九の耳に入っているかは甚だ疑問ではある。
「うぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃっ!」
今にも爆発しそうな真っ赤な顔で体勢を維持している。しかし教官コアラの言うように、いつかは力尽きて悲惨なことになるのは目に見えていた。
「おーい、りーくー。早く《魔石》を使わねえと、やべえぞー」
日門はアドバイスを含んだ声援を送ったつもりだが、ギロリと睨みつけられてしまった。
そうなのだ。この状態から解放されるには、彼が所持している《魔石》の力を使うしか道はないのである。
この一週間、毎日毎日教官コアラのもとで訓練をしてきた理九ではあるが、なかなか思うように力を引き出せないことに業を煮やしたのか、教官コアラはこのような荒行を施したのである。
(対して小色は……)
少し遠目にいる彼女に視線を向けると、そこには周囲に水球を幾つも浮かせている姿を見て取れた。
(大分上手くなったみてえだな)
さすがは異世界オタク。イメージ力がハッキリしているお蔭で、一見するだけなら立派な魔法使いである。
《魔石》を扱うにはイメージ力もそうだが、感覚的要素も必要になってくる。そこにあるものを感じ取り、強く認識し、想いを膨らませる必要があるのだ。
こういうのはオタク的資質を持つ者の方が習得は早いかもしれない。まずは疑わずにできると信じること。そして明確に生み出す現象を想像すること。
完全に理論派である理九には、少し理解しがたい概念であり、そのために苦労しているわけだ。
(それに集中力も並みじゃねえようだしな)
小色は理九の怒声にも眉一つ動かしていない。きっと今、彼女は力を発現させることだけに集中して、他はすべてシャットダウンしている。それもまた稀有な能力の一つだろう。
「ぬぐぉぉぉぉぉおおおおおおっ!?」
それに比べて理九はというと、いまだに叫びながら必死に腹筋を苛め抜いている。しかしどうやらそれも限界のようで、徐々に頭が下がっていく。
教官コアラもいろいろ口を出して力を発現させようとしているようだが、なかなか上手くいっていない様子。
…………仕方ない。
「いいかぁ、理九ぅ! 《魔石》を十全に扱うには、とにかくイメージだ! どうやったら自分が助かるか、それを良く考えてみろー!」
「そっ……んなこっ……とっ! わかっ……てぇぇ……るぅぅぅっ!」
分かっていないから言っているのだが、まああの状態で冷静にイメージしろというのも厳しいかもしれないが。
「いいのかぁ! もし肥溜めなんかに落ちたら、お前……一生臭いって小色に嫌われるかもだぜ?」
「――っっっ!?」
日門の言葉を聞いたと同時に、理九の雰囲気がガラッと変わる。
「そっ……んなぁっ……ことぉっ! あってたまりゅがぁぁぁぁぁぁっ!」
するとその時だ。理九が持っている《魔石》が発光し、そこから大気の流れが速くなっていく。そして理九の身体を下から押し出すような流れが生まれ、彼の身体が重力を無視しているかのようにフワリと浮いた。
「お、やればできるじゃねえか」
どうやら《風魔石》を発動させることができたようだ。その名の通り、風の力を操ることができるのだが、風は目に見えるものではなくイメージしにくいので確かに扱いにくい。それでもやっと発現させることができたようで何よりである。
「わ、おっと、あ、あはは! や、やった! やったぞぉぉぉー!」
余程嬉しかったのか、全身で喜びを表すかのようにバタバタしている……が、
「お、おい、そんなことしてたら……」
日門の懸念が的中してしまう。
プツリと風の流れが途絶えたことで、浮かんでいた理九が「はへ?」と呆けたまま落下する。
「ちょおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!?」
最早二度目を発動させる余裕などないようで、そのまま肥溜めに向かって頭から突っ込んでいく理九。その顔はすでに涙目だ……が、何故か彼の落下は止まっていた。
「え? ええ? えええ?」
当然のように理九は困惑しているが、何のことはない。ギリギリのところで日門が《風の飛翔》を使って助けただけ。
「ったく、集中力を切らすなっての。見ろ、こんな騒ぎでも小色はちゃんと続けてっぞ?」
「まったくであります! これは今日もフルトレーニング決定でありますな!」
教官コアラとの地獄の特訓が決まったことで、理九は別の意味で絶望の表情を浮かべている。
(ま、とりあえずこれで一段落はしたわけだ)
小色たちの特訓の成果が着実に表れていることに満足して日門は微笑んだ。
現在は午前九時半。先ほど畑仕事がひとしきり終わったので、農業ペンギンたちも休憩している。その傍で日門もまたスポーツドリンクで喉を潤していた。
そんな中――。
「うおぉぉぉぉぉおおおおおおっ!?」
島中響き渡るような声を発している人物いる。その声音は恐怖と絶望が含まれているような嘆きに近い叫びだ。
声の主の方に視線をやると、そこには教官コアラと、その前に奇妙な木造細工が立っている。
くの字に繋がれた柱が二つ。それが一定の距離を開けて立てられていて、それぞれの上部が一本の木で繋がっている。簡易式のブランコのような形だ。
しかしブランコと違うのは、上部に設置されている木の中央に括られている綱である。
その先には、逆さ吊りされた理九がいた。
「ぬうぅぅぉぉぉおおおおおおっ!?」
何故彼がそんなに必死な声を上げているのかというと、彼の頭部のすぐ近くにはとてつもない臭いを放つ――――〝肥溜め〟が設置されているからだ。
理九は頭部が恐ろしい侵食を受けないように、命懸けで上半身を起こしている。何せ少しでも力を抜けばそのまま……想像したくはないだろう。
「ほらほら、そんな力づくではいつまでもそこからリリースされないのであります」
教官コアラの注意が飛ぶ。しかしその声が理九の耳に入っているかは甚だ疑問ではある。
「うぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃっ!」
今にも爆発しそうな真っ赤な顔で体勢を維持している。しかし教官コアラの言うように、いつかは力尽きて悲惨なことになるのは目に見えていた。
「おーい、りーくー。早く《魔石》を使わねえと、やべえぞー」
日門はアドバイスを含んだ声援を送ったつもりだが、ギロリと睨みつけられてしまった。
そうなのだ。この状態から解放されるには、彼が所持している《魔石》の力を使うしか道はないのである。
この一週間、毎日毎日教官コアラのもとで訓練をしてきた理九ではあるが、なかなか思うように力を引き出せないことに業を煮やしたのか、教官コアラはこのような荒行を施したのである。
(対して小色は……)
少し遠目にいる彼女に視線を向けると、そこには周囲に水球を幾つも浮かせている姿を見て取れた。
(大分上手くなったみてえだな)
さすがは異世界オタク。イメージ力がハッキリしているお蔭で、一見するだけなら立派な魔法使いである。
《魔石》を扱うにはイメージ力もそうだが、感覚的要素も必要になってくる。そこにあるものを感じ取り、強く認識し、想いを膨らませる必要があるのだ。
こういうのはオタク的資質を持つ者の方が習得は早いかもしれない。まずは疑わずにできると信じること。そして明確に生み出す現象を想像すること。
完全に理論派である理九には、少し理解しがたい概念であり、そのために苦労しているわけだ。
(それに集中力も並みじゃねえようだしな)
小色は理九の怒声にも眉一つ動かしていない。きっと今、彼女は力を発現させることだけに集中して、他はすべてシャットダウンしている。それもまた稀有な能力の一つだろう。
「ぬぐぉぉぉぉぉおおおおおおっ!?」
それに比べて理九はというと、いまだに叫びながら必死に腹筋を苛め抜いている。しかしどうやらそれも限界のようで、徐々に頭が下がっていく。
教官コアラもいろいろ口を出して力を発現させようとしているようだが、なかなか上手くいっていない様子。
…………仕方ない。
「いいかぁ、理九ぅ! 《魔石》を十全に扱うには、とにかくイメージだ! どうやったら自分が助かるか、それを良く考えてみろー!」
「そっ……んなこっ……とっ! わかっ……てぇぇ……るぅぅぅっ!」
分かっていないから言っているのだが、まああの状態で冷静にイメージしろというのも厳しいかもしれないが。
「いいのかぁ! もし肥溜めなんかに落ちたら、お前……一生臭いって小色に嫌われるかもだぜ?」
「――っっっ!?」
日門の言葉を聞いたと同時に、理九の雰囲気がガラッと変わる。
「そっ……んなぁっ……ことぉっ! あってたまりゅがぁぁぁぁぁぁっ!」
するとその時だ。理九が持っている《魔石》が発光し、そこから大気の流れが速くなっていく。そして理九の身体を下から押し出すような流れが生まれ、彼の身体が重力を無視しているかのようにフワリと浮いた。
「お、やればできるじゃねえか」
どうやら《風魔石》を発動させることができたようだ。その名の通り、風の力を操ることができるのだが、風は目に見えるものではなくイメージしにくいので確かに扱いにくい。それでもやっと発現させることができたようで何よりである。
「わ、おっと、あ、あはは! や、やった! やったぞぉぉぉー!」
余程嬉しかったのか、全身で喜びを表すかのようにバタバタしている……が、
「お、おい、そんなことしてたら……」
日門の懸念が的中してしまう。
プツリと風の流れが途絶えたことで、浮かんでいた理九が「はへ?」と呆けたまま落下する。
「ちょおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!?」
最早二度目を発動させる余裕などないようで、そのまま肥溜めに向かって頭から突っ込んでいく理九。その顔はすでに涙目だ……が、何故か彼の落下は止まっていた。
「え? ええ? えええ?」
当然のように理九は困惑しているが、何のことはない。ギリギリのところで日門が《風の飛翔》を使って助けただけ。
「ったく、集中力を切らすなっての。見ろ、こんな騒ぎでも小色はちゃんと続けてっぞ?」
「まったくであります! これは今日もフルトレーニング決定でありますな!」
教官コアラとの地獄の特訓が決まったことで、理九は別の意味で絶望の表情を浮かべている。
(ま、とりあえずこれで一段落はしたわけだ)
小色たちの特訓の成果が着実に表れていることに満足して日門は微笑んだ。
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