ただ一人、男なのに動かせるロボット戦記 ~女嫌いな少年傭兵~

十本スイ

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第二話

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 異世界――【ステラ】。
 それが世廻たちが現在いる大地の総称である。

 ちょうど一週間前、それは満月の夜のこと。
 一筋の流れ星が大地に降り注いだ。
 それは隕石などではなく、大きな光の塊だった。

 流星は真っ直ぐ大地に突き刺さるように落下し、地面に大きなクレーターを作り上げたのだが、その光景を見ていた者たちがいたのだ。
 その者たちは、流星の正体を見極めようと近づいたところ、愕然とすることになる。
 何故なら、クレーターの中央に三人の人間が横たわっていたからだ。

「――――それがオレらだったってわけか」

 エミリオから話を聞き不思議なこともあるものだなと、どこか他人事のように感じてしまう。自分が流れ星になって、異界の地に落ちてきたと言われても実感などない。

「オレらを発見し、治療したのはアンタ……だったのか?」

 恩人とミッドが言っていたことを思い出し、リーリラに問いかけた。

「少し違うね」
「何?」
「治療したのは確かに私だけど、君たちを発見したのは別の子たちさ」
「別の子……?」

 そう首を傾げたその時、そこで初めて別の視線が自分へと向かっていることに気づいた。
 それは唯一の入り口であり、開け放たれた扉の向こうから、チラチラとこちらを覗く複数の気配。
 まるで猫が壁に隠れてこちらを確認しているかのように、顔半分を出して観察中である。
 世廻がそちらに意識を向けると、

「きゃっ」
「こっち見たのだ!」
「ひゃわっ!?」

 と、甲高い声とともに壁の向こうへと引っ込む複数の顔。
 リーリラがやれやれといった様子で、入り口の方へ顔を向けて言う。

「こそこそしてないでほら、挨拶したらどうだい、お前たち」

 その言葉の終わりと同時に、ミッドが近づいてきて、

「正気を保てよ、セカイ」 

 とわけの分からないことを言ってきた。

(正気? どういう意味だ……?)

 気になって考察に入ろうとしたが、すでに場は動き出し、壁の向こう側から声の正体たちが姿を見せた。

「――っ!?」

 それはまさに脳天に雷が落ちたかの如き衝撃だった。

「えへへ~」
「入っていいのか?」
「えとえとそにょ……」

 照れくさそうに、あるいは好奇心を表情に表し、あるいは恥ずかしそうにモジモジとしながら部屋の中へと入ってきた三つの存在。

 それは……それは……まさしく、死ぬ前に世廻が祈った願いの成就だった。

「紹介するよ、この子たちが君たちを発見した最初の恩人たちだよ」

 恩人。この子たちが……と、世廻は身体全体が震え出した。

「よ、よ、よ、幼女…………だと? ――がはぁっ!?」
「セカイィィィィィッ!?」

 何かよく分からないものが衝撃的なものが胸を打ち世廻は両膝を突いてしまい、前のめりに倒れてしまった。ミッドが叫びながら駆け寄ってくる。

「え、え、えぇ!? この人どうしたのぉ!?」
「何か急に倒れたのだぁーっ!?」
「ひゃわわっ、ごめんなしゃい! わわわわたしのせいでしゅよねぇぇぇ!?」

 三者三様の幼女たちの反応。何というか、ご馳走様だ。

(な、なるほど……ミッドの言っていたことが分かった……な)

 正気を保つように言ったのは、こういうことだったのだろう。
 幼女の癒しに飢えていた矢先のコレだ。
 しかも彼女たちが恩人だというではないか。

 これはまるで栄養失調の身体の胃の中に、無理矢理大量の肉や魚などを突っ込んだことで起こる衝撃だ。
いくら栄養があるものとはいえ、それまで何も食べていなかった胃が、大量の食べ物を受け付けるわけがない。普通はおかゆや野菜などでゆっくり慣らしていくものである。
 それと同じように、世廻の精神力の許容量を一気にオーバーしてしまったのだ。

「おいっ、セカイ! 大丈夫か! しっかりしろーっ!」
「ミ、ミッド……」
「お、おお! 生きてたか、セカイ!」

 世廻は震える手を宙に上げ、グーサインを彼に向けた。

「人生最高の……サプライズ……だった。…………悔いは……ない」
「セカイィィィィィッ!?」

 ――パンッ、パンッ!

 どこから取り出したのか、エミリオがハリセンで世廻とミッドの頭を叩いた。

「はいはい、悪ノリはそこまでですよ、特にミッド」
「あ、やっぱし? けどセカイの場合はマジモンだと思うぜ? ほれ、意味の分からん気色悪い痙攣してるしよぉ」

 気色悪いとは本当に失礼な部下である。確かに先程から身体の震えは止まらないが。
 世廻の様子に三人の幼女たちが戸惑いながらも心配そうに声をかけてくれる。何という天使だろうか。リーリラは若干顔を引き攣らせているが。

「は、話には聞いていたが、本当に幼女好きだったとは……!」

 そう呟きながら顔をしかめるリーリラ。どうもそのへんの事情はエミリオたちから聞いていたようだ。
 何とか正気を保ちながら立ち上がる世廻は、改めて天使たちを確認する。

「あ、あの大丈夫……ですか?」

 真っ先に声をかけてくれた緑髪のサイドポニーの女の子。蝶を模したピンク色のリボンと、くりっと大きなエメラルドグリーンの瞳が特徴的だ。
 青いワンピース姿に身を包んだ百二十センチメートルほどの身体は、とても華奢で抱きしめると壊れそうだ。それは他の二人にも言えることではあるが。

「にはは、急に倒れるからビックリしたのだぁ」

 屈託のない向日葵のような笑顔を浮かべる黄色い髪のショートヘアーの子は、とても健康的で活発そうな印象を受ける。半袖短パンという恰好と、中性的な顔立ちから男の子のような風貌ではあるが、間違いなく幼女なのは世廻センサーが示している。
 身長は他の二人よりも高く、肌も日焼けしているのか濃い。

「ご、ご、ごめんなしゃい……きゅ、急にわたしたちが来たからその……ひゃわわ」

 そんな二人の背に隠れながら、恐る恐る世廻に謝罪するのは、ウェーブがかった水色の髪を肩まで伸ばしている女の子だ。
 見た感じから弱々しい小動物っぽいところと、何故かメイド服のような格好で、垂れた銀色の瞳が、怯えたように涙目になっているという可愛さの波状攻撃により、世廻のライフはどんどん削られている。

 三人ともが大体六、七歳程度の幼女だ。しかも美少女と位置付けても誰も文句を言えないほどの可愛さを持つ。

(くっ、何だこの幼女たちは……! いわゆるあれか、この前、漫画雑誌で見たキュン死とやらをオレにさせるつもりなのか!)

 さっきから心臓はキュンキュンと鳴りっ放しである。このままでは心臓の活動が忙し過ぎて限界を超え死んでしまうかもしれない。
 だがまあ、それも悪くない。死ぬ原因が幼女絡みならばむしろ本望だ。たとえ周囲に白い目で見られても。

「名前を聞いてもいいか?」

 いきなり過ぎたか……。

 しかし緑髪の子は「ふぇ?」と一瞬キョトンとしたが、すぐに天使のような微笑みを浮かべて「あ、はい、わかりました!」と答え名乗ってくれる。

「えと、あたしはリィズっていいます! よろしくお願いします!」

 礼儀正しく快活に喋る女の子だった。

「じゃあ次はロクだな! ロクはロクっていうのだ! よろしくなのだー!」

 元気の塊といった女の子だ。この子の笑顔は周りを明るくしてくれる。

「あ、あのあの……つ、つつつ次はわたしでその……あの、すみません!」

 ……いきなり謝られてどう反応すればいいのだろうか。

 思わず言葉を失って固まっていると、三人目の水色髪の子が恥ずかしそうに顔を俯かせて「ひゃうぅぅ」と呟いている。

(何だこの子は、どんだけ可愛いんだチクショウ)

 ついつい抱きしめたい衝動にかられるが必死に耐える。

「が、頑張ってストリちゃん!」
「うんうん、ストリならやれるのだ!」

 リィズとロクの励ましが響く。すでに彼女たちによって名前は分かってしまったが、世廻は黙って待つ。
 すると水色髪の子は、大きく深呼吸をしたあと、覚悟を決めたように世廻に顔を向けた。

「あ、あのあの……わたしは…………ストリ……です。よろしくお願いしましゅ」

 惜しい。しかし最後に噛むというハプニングは、むしろ可愛さを助長していて世廻的にはご褒美にも近かった。
 世廻は、自己紹介をしてくれた三人娘に向けて自分も名乗りを上げる。

「オレは世廻だ。浦島世廻。世廻が名前で、浦島は苗字だ。覚えてくれたら嬉しい。マジで」
「あ、はい! こちらこそです、セカイさん!」
「ロクはセカ兄って呼ぶのだー!」
「ひゃわわ、セカイ……お兄ちゃん」

 つい鼻を押さえてしまった。気を抜けば鼻血(愛)が溢れ出そうである。

(幼女からのセカイさんもいいし、セカ兄にお兄ちゃんか……オレもう死んでもいいかもしれん)

 目頭まで熱くなってきた。これが嬉し涙というやつだろうか。
 大人たちが白い眼で見つめてきているようだが、そんなの気にしている時間が惜しい。

「はぁ……セカイ、いつまでも感動に浸ってないで帰ってきてください」
「! ……悪いな。少し取り乱した」
「少しじゃねえと思うけどな……っと、悪い悪い」

 ミッドが余計なことを言うので睨みを聞かせて黙らせた。
 そのまま視線を子供たちへと向けるが、元々目つきが悪い上に奇妙な行動を取っていたことから、子供たちから警戒されているような気がする。
 だからスッと頭を下げて言う。

「驚かせて悪い。お前たちがオレらを発見してくれたらしいな。感謝する」

 緊張していたが、それをおくびにも出さずに滑らかに言葉を発せた自分を褒めてやりたい。

「お礼なんていいのだ!」
「そ、そうですよ! それより体調はどうですか?」

 幼女たちの優しさに胸が潰されてしまいそうだ。思わず目頭が熱くなる。

「体調は問題ない。というかここ数年は経験していないほどに清々しい気分だ」

 もちろん幼女たちのお蔭で。
 ただ身体に異常は見つからない。だからこそ不思議なのである。
 世廻は自分たちを治療したと言ったリーリラへと視線を向けた。

「リーリラ……だったか、あんたに聞きたいことがある」
「ほう、何かな?」
「オレらが違う世界からやってきたってことは、もうミッドたちから話を聞いて理解できてると思うが」
「んーそうだね。俄かには信じられないけど、状況から察するにそうとしか考えられないからね」
「そして、オレらは一週間世話になっている。それでいいな?」
「間違いないね」
「一週間……。オレらはここに来る前、戦場の真っ只中にいた」
「それも聞いてるよ」
「どうやって、どうして、何があってここへ来たかは分からんが、オレの意識が飛ぶ前、すでに敵の攻撃を受けて重傷だったはずだ」

 記憶の上では、腹部からは止めどなく血が流れるような大怪我を負っていたし、四方八方を敵に囲まれて銃弾射撃の餌食になったはずなのだ。そしてそれは世廻だけでなく、ミッドやエミリオもそうだろう。
 それなのに現状、少し気怠いものの痛みはなく完治しているといっても過言ではない体調だ。
 恐らく致命傷を幾つも受けた身体だったはずで、それがたった一週間で完治するものだろうか。

「どうやって治療したというんだ?」

 当然の疑問だ。恐らくミッドたちもこの手の質問はしたと思うが、世廻は彼女の口から聞きたかった。
 世廻の質問を受けて、「ふむ」と声を漏らしたのち、リーリラが右手の人差し指をピンと立てると、驚くべき言葉を発する。

「――――――精霊の力さ」




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