ただ一人、男なのに動かせるロボット戦記 ~女嫌いな少年傭兵~

十本スイ

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第三話

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 ……今、彼女は何と言ったのだろうか?

 聞き間違いではなかったら、セイレイと口にしたはず。

(セイレイ……せいれい…………精霊? いや、まさか……)

 だがここが地球ではない異世界であり、大地の一部が空に浮かんでいる事実から、そのようなファンタジーな存在がいても不思議ではないかもしれない。

 チラリと仲間たちの顔を見るが、彼らは頷きを見せて、リーリラが嘘を言っていないことを証明する。きっと彼らはすでに精霊とやらを見せてもらっているのだろう。

「まあ、精霊がいない世界からやってきた君が言葉だけで信じられないのも確かだ。ならば少しデモンストレーションをするとしようか」

 そう言って白衣のポケットに右手を入れてリーリラが取り出したのは――一枚のカード。
 こちらから見て裏なのか分からないが、そこには赤い魔法陣のようなものが描かれている。今気づいたが、カードを持っている右手の薬指にはサファイアのような光沢を放つ指輪が嵌められている。

 するとクルリとカードを反転させて反対側を世廻に見せつけてきた。
 そこには水瓶を大事そうに抱える水色の髪を持つ幼女の姿が映し出されている。

「さあ、出ておいで――私の《|絆精霊(ファミリア)》」

 そう言いつつリーリラがカードを床へ投げると、不思議なことに彼女が嵌めている指輪からレーザーのような光がカードに向けて放たれ、光を受けたカードは光子に霧散するやいなや大きな魔法陣へと変貌を遂げた。
 驚きに世廻が目を丸くしていると、その魔法陣から何かがせり出てくる。

 それは……それは……それは――。

「新しい幼女だとっ!?」

 思わず叫んでしまうほどに興奮してしまった。それも仕方ない。
 何故なら出現したのは、先程カードに描かれていた可愛らしい幼女だったのだから。

「ふわぁ~、あれぇ……呼んだぁ?」

 光とともに魔法陣が消失し、ペコリと床に座り込んでいる新しい幼女。これまたカードと同じく、大事そうに水瓶を抱きかかえている。だがとても眠そうだ。

「悪いね、リア。いきなり呼び立てて」
「ううん、いいよぉ。リーリラの頼みならぁ、ぜ~んぜんおっけぇ~」

 この間延びしている話し方がまた愛しいほどに可愛い。三人の幼女とはまた違ったタイプの保護欲をそそる子だ。思わず世話をしてやりたいと思ってしまう。

 ああ、癒される……。

 そんなふうに思うのは、きっと世廻だけではないはずだ。多分。 
 まるで優れた手品でも見ているような気分である。こちらは一切目を逸らしてはいないし、瞬きすらしていない。
 それなのにカードが魔法陣と化し、そこから水瓶を持つ幼女が出てきたのだ。正直言葉を失う。

「あーリーリラ先生さんよぉ、一応先生さんの力を示すために……」

 ミッドが何を思ったのか、自分の親指をガリッと噛んで血を流すと、その指をリーリラへと向け「こいつで見せてやってくれや」と言った。

 リーリラは、平気で自身の身体を傷つけたミッドを少し睨みつけたあとに、「仕方ないね」と溜め息交じりに言ってから、その視線をリアと呼んだ幼女へと向ける。

「リア、彼を治す。いいかい?」
「もんだ~いな~いよ~」

 リアの承諾を受けたあと、リーリラの身体から青い光が漏れ出してくる。それが真っ直ぐ目の前に座り込んでいるリアへと流れていく。

「んぅ~っ、やっぱぁ、リーリラの〝|精霊力(スピリア)〟は心地好いなぁ~」

 気持ち良さそうな表情をするリア。彼女はスッと立ち上がると、水瓶の中に手を突っ込んだ。そのまま取り出した手に、はキラキラと宝石のような輝きを放つ液体が載っていて、リアはその液体をミッドの親指に向けて垂らす。
 まるで天使の雫のような美しい液体がミッドの親指に落ちると同時に、親指の傷口を覆うと驚くべき速度で治癒し始めた。

 まるでゆっくりと巻き戻し映像を観ているかのごとく、傷口が塞がっていくという不可思議な現象に目を丸くしてしまう世廻。
 あっという間に完治した指を見せつけてくるミッドに、世廻はもう認めるしかなかった。

「ありがとう、リア。助かったよ」
「ううん、もういいのぉ?」

 リアの問いにリーリラが「いいよ」と短く答えた。

「……なるほど。それが精霊の力、か。ということはその天使は……」
「天使?」
「あ、いや、その子は精霊……なんだよな?」
「うん、この子は精霊のリア。可愛いだろ?」
「ああ、今すぐ抱きしめたいほどに」
「え?」
「あ、悪い。本音が漏れてしまった」

 別に本気で抱きしめるわけではないから、焦ったようにリアの前に庇うように出なくてもいいと言いたい。

「ん~お兄さぁん、リアのことギュッてしたいのぉ? あ、でも今は眠いからまた今度ねぇ。じゃあまたねぇ、リーリラ」

 と、期待に胸が膨らむようなことを言ってくれたリアだったが、欠伸をしたあと、全身が光り輝き一枚のカードへと戻ってしまった。



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