ただ一人、男なのに動かせるロボット戦記 ~女嫌いな少年傭兵~

十本スイ

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第四話

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「次に会える時を楽しみにしておこう」

 ガッツポーズをしながら言う世廻のことをジト目で見つめる大人たちがそこにいた。

 そして話を戻し、リーリラが教えてくれた。
 世廻たちがいたのは、ここから東にある高原。ちょうどリーリラは隣町からリィズたち三人幼女とともに馬車で帰宅していた途中だったそうだ。
発見した当初、世廻たちは瀕死。全身が血に塗れていて、いつ死んでもおかしくない状態だったと。

 流星が落ちた場所に一早く駆けつけたリィズたちは、すぐにリーリラを呼びつけて、先程見せた力で応急処置を開始したのだという。
 それからすぐに世廻たちを馬車に運び入れ、この診療所へと連れ戻って来た。

 ただあまりにもの深手だったために、完治までには時間がかかったらしい。
 特に世廻が特に酷かったために一週間眠り続けたのだ。かくいうミッドとエミリオも、目が覚めたのは世廻が目覚める二日ほど前なのだという。

 本当にもう少し手当てが遅れていたら命はなかったとリーリラは言う。というよりも、リーリラが近くにいなければ手の施しようはなかったのだ。
 三人にとっての幸いは、たまたま流星を見つけ駆けつけてくれたリィズたちがいたこと、そしてどんな怪我も治してしまう魔法の力を持つリーリラがいたことだろう。

 二つの奇跡が一つでも欠けていたら、今頃世廻たちは黄泉の国で再会しているはずだ。
 その話を聞いて、世廻は改めて自分たちがとてつもない恩を受けたことを認識し、リーリラの前に立ち頭を下げた。

「先程は悪かった。オレらの命を救ってくれたこと、感謝する」

 すでに警戒は失われていた。普通ならば死んでいたのだ。恐らく地球だったら、最高の名医でも治せなかっただろう。
 故にリーリラや幼女たちには感謝してもし切れない。

「はは、医者が患者を治すのは当然さ。それよりも、さっきは逃げられたけど熱を見させてもらっていいかな?」

 つまり自分の額を触って確かめるのか……と、世廻はとある理由から苦々しい思いにかられるが、ここで拒否するのもさすがに恩人に対するマナーではないだろう。

「……ああ、許可する」

 優しげな笑みを浮かべたリーリラが、再び世廻へと手を伸ばしてくる。

 ――ゴクリ、と無意識に喉が鳴ってしまう。

 そのままリーリラの手が世廻の額にピタリと触れ、彼女の温もりがじんわりと伝わってくる。

「ん、熱は引いたようだね。昨日はまだ高熱だったから心配してたけど、どうやらもう大丈夫のようだ……って、顔色が急に悪くなってきたんだが……? それに何故そんなに震えているんだい?」

 小首を傾げながら世廻に問うリーリラだが、それも無理からぬ話だろう。
 何故なら彼女が言ったように、世廻の顔は血の気を失ったように真っ青になっていて、小刻みに震えているのだから。

(ああくそっ、もうダメだっ!)

 世廻はバッと後方へ退いてリーリラから距離を取ると、額から垂れてきた冷や汗を腕で拭った。マラソンでも走ったかのように息切れもしている。
 世廻の態度に、リーリラや幼女三人は驚愕して目を丸くしていた。

「あっちゃあ、や~っぱ五秒くらいが限界だったかぁ」
「そうですねぇ。まあ、よく我慢した方じゃないですかね」
「えっと……ミッドさんにエミリオさんも、一体何を……や、やっぱりセカイくんは体調がまだ完全じゃないのかな? 急に顔色が悪くなった気もするが……」
「あーいえいえリーリラ先生、彼のこれは単なる拒絶反応なので気にしないでよろしいかと」
「きょ、拒絶……? どういうことかな、エミリオさん?」
「やっぱ異世界に来ても、セカイの体質は治らねえってことか。ま、しゃーねえわな」

 ミッドもやれやれといった感じで大げさに両手を上げてリアクションを取るが、世廻のことを知らないリーリラたちは唖然としたままだ。

「すみませんね、リーリラ先生。簡単に言うと、セカイは――女性が苦手なんですよ」
「! ……しかし」

 チラリとリーリラが、幼女たちを見る。

「ああ、ただ幼女だけは大丈夫という筋金入りのロリコンなんです」
「そ、それは…………酷い病だな」

 失礼な。こうなった原因もちゃんとあるというのに。

 エミリオが彼女たちに世廻の体質……というよりトラウマを説明する。
 世廻がいた傭兵部隊に所属する女性たちは、基本的に女というものを捨てたような者たちばかりだったため、女性として見られなくなった。

 だって下着姿で普通に接触してくるし、中には熱いからと全裸で川で泳ぐ女もいたくらいだ。化粧もしないし着飾ることもしない。そんな彼女たちを、どうやれば女として接することができるだろうか。
 しかも中には女性を武器に扱うために乱れた性癖を持つ者たちもいて、その中で世廻は身形が整っていて、中性的な顔立ちだということもあり、そんな女たちに何度も襲われかけたこともあった結果、寄せ付けないくらいに苦手になってしまったのだ。

 発情期の女性ほど怖いものはないと自ら痛感した。
 今では触られるだけで拒絶反応が出てしまうほどに。五秒も耐えたのは頑張った方である。

「な、なるほど……壮絶な経験をしたんだね。しかし世の中には純真というかまともな女性だって……」
「それはセカイにも分かっていますよ。しかしこればかりはセカイの深層心理に根付いたトラウマですから、なかなかに難しい。それに一番の問題は、彼自身が治そうとしていないことです」
「え? 君はそれでいいのかい?」
「別に問題ない。オレにとって幼女以外はババアでしかなく恋愛対象にもならんしな」
「「「…………」」」

 大人たちがまたも冷たい目で見てくる。
 幸い幼女たちは何のことだか分かっていない様子だが。

「な、何か君にこの子たちを紹介したことを後悔しそうなんだが……」
「ああ、それは大丈夫ですよレディ。セカイは自分から進んで犯罪的行為はしません。つまりは幼女たちに手を出したことも一切ありませんから。彼曰く……何でしたっけ? イエスロリ……」
「イエスロリータ・ノータッチだ」
「ああそうそう。そういうことらしいので」
「……つまり必要以上に近づいたりはしないんだね?」

 世廻だけでなく、ミッドたちも証明するかのように頷きを見せると、リーリラはホッとしたように息を漏らす。

「ええ、それは僕たちが保証しますよ。彼は彼女たちのような可憐な蕾たちを傷つけたりは決してしません。そんなことをすれば自ら命を絶つくらいはするでしょうね」
「そ、それは逆に心配だが……まあいい。とりあえずは信じておこう」

 ――ぎゅるるるるるるぅぅぅぅぅぅ。

 その時、まるで地響きのような音が世廻の腹から鳴り響いた。

「……腹が減った。ミッド、何か食わせてくれ」
「へいへい。じゃあ、続きは飯を食べながらってことで」

 世廻たち一同は病室から出ると、リーリラの先導のもと食堂があるということなので、そこへ向かっていった。



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