ただ一人、男なのに動かせるロボット戦記 ~女嫌いな少年傭兵~

十本スイ

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第六話

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 目を覚ましてからさらに一週間が過ぎた。
 もう体調は万全だが、世廻たちはいまだリーリラの診療所の世話になっていたのである。

 もちろんその間、自分たちにできることは手伝った。
 ミッドは主に炊事関係で、エミリオは診療所の手伝いである。何せ彼もまた医療の知識があるので、リーリラにとって一番の助力になっていることだろう。
 では世廻は何をしているのかというと……。

「卵に小麦粉、それに鶏肉と……あと芋と何だったか?」
「リンゴとお酒ですよ、セカイさん!」

 リィズたち三人幼女と買い物に出掛けているのである。
 これぞ至高の時間。
 この時が永遠に続けばいいのにと思ってしまう者もいるのではなかろうか。

「あっ、セカ兄! 露店でおいしそうな肉焼きが売ってるのだ! 買って!」
「よし、買い占めよう」
「ダ、ダメですよセカイさん!」
「ひゃわわ! しょ、しょうでしゅよ! そんなことしたらお金が足りなくにゃってしまいましゅ!」

 今日もストリの噛み癖は絶好調だ。とても愛らしい。にゃ、とかマジで萌える。
 いや、全員究極に可愛いということは周知の事実なのだが。

「えぇ~ちょっとくらい食べても大丈夫なのだ! ねえセカ兄!」
「む……」

 さっきはつい即答してしまったが、全員分の肉焼きを買うとなればリーリラに渡された金が足りなくなる。
 買い物を任された以上はそれを全うするのが世廻の義務だ。

「いや、オレの分を削ればいけるか? よし、ちょっと待ってろ」

 そうだ。全員分ではなく三人分ならギリギリ金も足りるはずである。
 そうして串に刺さって炭焼きになっている肉焼き――いわゆる焼き鳥を一本ずつ購入し、リィズたちに手渡した。

「え、あ、あのセカイさん、あたしたちの分まで? それにセカイさんの分は……?」
「やっほぉ! ありがとうなのだ! さっそく食べるぅ!」
「ひゃわ! えとえと……どうしよぅ」

 ロクはともかくとして、リィズとストリは申し訳なさそうに肉焼きを受け取らない。

「いいから食べろ、オレはいいから」

 確かに美味そうだが、リィズたちが幸せそうな顔で食べている姿を見ればそれだけで腹が一杯だから。
 突き出すようにして渡した肉焼きをリィズとストリは受け取る。

「じゃ、じゃあそのいただきます」
「い、いただきましゅ!」

 すでにロクは満面の笑みを浮かべながらむしゃぶりついている。
 残った二人も一口食べると頬があからさまに緩んだ。

「はふ……おいしい!」
「う、うん、やわらかくて好きな味」

 ああ、やっぱり幼女の笑顔は素晴らしい。 
 ナイス仕事をしたと、思わず自分自身を褒めてやる。
 するとそこへ、スッと世廻の目の前に肉焼きが差し出された。

「ん?」
「あ、あのセカイさんもどうぞ。おいしいですよ?」
「そ、そうでしゅ! い、一緒に食べましょ!」

 …………これは夢か?

 何故か目頭が熱くなり、鼻の奥から熱いものが流れてきそうになる。

「ぶぅ、二人だけずるいのだ! セカ兄、ロクもあげるのだ! はい、あーん!」

 三人娘が伝説のあーんをしてくれる。

(こんなに幸せなことってあるのか? ああ、オレは明日死ぬのかもしれん)

 そう思いつつ、彼女たちの心遣いを素直に受け止め一口ずつもらった。
 香ばしく焼いた肉はジューシーでとてもやわらかく、それが甘辛いタレにマッチして滅茶苦茶美味い。
 ただ味よりもあーんの感動の方が勝っているが。

 それから四人で和気藹々と買い物を続け、要求された品をすべて買ったあと、診療所に帰る道を歩いていた。
 現在世廻たちがいる街は【アディーン王国】の城下町である。
 どことなく街並みはイタリアのヴェネツィアに似通っていた。すべての建物も趣があり、赤いレンガ造りの屋根で統一された風景は圧巻ともいえる。

 人々にも笑顔が溢れ、住みやすく美しい街だと思う。
 ただ外から来る人の往来も激しいので、たまに街人たちと衝突し喧嘩に発展するなんてこともたまにある。
 特に近くに港があることからも、酒と海産物が名産で、昼間から酒に酔った大人たちが騒ぎを起こすこともあるのだ。

「おいロク、ちゃんと前を見て歩かないと危ないぞ」

 まだ食べ残している肉焼きを手に持ちながら、キョロキョロと美味そうなニオイを漂わせる露店に興味を奪われている。
 だから注意をしたのだが……。

「……あぅっ」

 言わんこっちゃない。ロクは目の前から歩いてくる大柄な男にぶつかってしまった。
 その際に手に持っていた肉焼きが男の服に触れ、タレがべっとりとついたのである。

「ちっ、何しやがるこのガキ!」
「ご、ごめんなのだ!」

 いかつい睨みでロクを見下ろしながら威喝する男。
 ロクも自分が悪いことに気づいているので素直に謝罪する。
 だが男は怒りが収まらないのか、もう一度舌打ちをしてロクの小さな頭を掴む。

「ごめんで済むなら衛兵はいらねえんだよ」
「う、うぅ……ごめん、なのだぁ」
「しかもてめえ、『精霊幼女』じゃねえか。ちっ、こんなとこでウロウロしてんなよクソが!」

 突然始まった騒ぎに周りの者たちも野次馬状態で足を止めていた。

「そこまでにしてやれ」
「あぁ? 何だてめえは?」

 男の前に出て、世廻は眉をひそめながら口を開く。


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