ただ一人、男なのに動かせるロボット戦記 ~女嫌いな少年傭兵~

十本スイ

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第二十五話

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 起動させ機体を動かした事実は正直驚いた。
 実際に男が《精霊人機》を扱っているのを目にしたのだから認めないわけにはいかない。

 しかしこと模擬戦においては一片たりとも遅れを取るわけがないのだ。
 幼い頃からパイロットを目指し鍛錬を重ねてきたのである。

 そうして念願の新型のパイロットに選ばれるまでになった。
 テトアには今まで積み重ねてきた経験と実績という誇りがある。相手は起動二回目で、どう考えても負ける要素はない。
だからこの戦いも、数分と立たずに終了すると、思っていたのだ。

 するとバカ正直に突っ込んでくるのだから思わず嘲笑ってしまう。
 恐らくは斧で攻撃を仕掛けてくるはず。そのモーションもきっと大振りだろう。
 そこを防いでカウンターを入れる。衝撃によって硬直するだろうから、その隙を突き組み敷いて終わりだ。

(やっぱり男なんて大したことない)

 考察した手順通りに動こうとしたその時、対戦相手である世廻が驚くべき行動に出た。
 突如持っていた盾を走りながら投げつけてきたのである。

 盾は全身を守るほど大きい。
 回避の予定はなかったから虚を突かれた行動に、放たれた盾を防御するしかない。
 吹き飛ばされないように盾を持つ力に集中する。

「――くぅっ!」

 やはり鋼鉄製の盾は質量もあってかなりの衝撃だった。
 ただテトアは気づかなかった。

 先程自分が相手を仕留めるために考えた道筋に自分がいることを。 
 衝撃によって全身に力が入り僅かの間、硬直状態に陥ってしまう。
 だが動きを止めてしまったということより、相手がバカなことをしたということの方が勝る。

(盾を捨てるなんて守りを捨てたも同じじゃないか! バカな奴め!)

 こうなればあとは詰め寄って攻撃していくだけで、相手は疲弊しいずれ崩れる。
 すぐに持っていた盾をずらし、前方から向かって来るはずであろう世廻に意識を向けた。

 しかし――。

「――っ!?い、いないっ……!?」

 先程まで目の前にいた《ドヴ》が消失していた。

 一体どこに……?

 そう思った直後、ピピピと背後から敵が来ていることを示す警告音が鳴った。
 すぐに振り向いたがすでに対応は間に合わず、いつの間にか接近していた世廻によって左腕が盾ごと斬り飛ばされてしまった。

 人間でいうところの肘の部分――《筋枝関節》を狙われた。ここは他の装甲と違い、アーム部分を自在に動かすために細く、また柔軟な素材を使用しており、そのため強度が低いのだ。
 ピンポイントに攻撃されれば、斧でも一撃で破壊できる程度の耐久度しかない。

「ぐぅぅっ!? こ、このぉぉぉっ!」

 まだ何が起きたのか明確に処理できていないが、すぐに体勢を整え斧を振るう。

 ――ギィィィィンッ!

 斧同士が衝突し火花が散る。

「く、くそっ! お前一体何をしたっ!?」
「戦闘中に対戦相手に謎解きを求めるか? 愚かな行為だな」
「な、何をっ! うぐわぁぁっ!」

 まるで生身で戦っているかのように、素早くハイキックを放ってきた。
 頭部が軋みバチバチッと放電が走る。
 倒れそうになるがペダルを目一杯踏み込み耐えた。

 しかし踏ん張ったことで、一時的に機体が止まってしまう。
 それを放置しておくほど相手は生易しくなかった。

 すぐに世廻は追い打ちとばかりに肉薄し、今度は水面蹴りを放ってくる。
 それが量産機の動きか、と思わず怒鳴ってしまうが、見事に蹴りを受けて転んでしまった。

(このままじゃマズイッ!)

 背中にあるスラスターを目一杯起動させ、その推進力で浮上し起き上がる。
 今度こそカウンターを。
 そう決意し、向かってきた世廻に対しまずはその攻撃に合わせてこちらも攻撃を出そうと試みる――が、

「……は?」

 世廻の繰る《ドヴ》が、振り上げた斧をピタリと止めたのだ。
 まるでテトアの狙いを呼んでいるかのように。

 すると今度は何を思ったのか、手を開いて斧を地面に向けて落下させたのだ。
 武器まで手放すのか、と思った矢先、あろうことか世廻は落ちてきた斧を蹴り上げテトアに向かって飛ばしてきたのである。

「んなっ!? うぐわぁぁぁぁっ!?」

 斧は回転しながら頭部に刺さり爆発を引き起こした。首なし機体の出来上がりだ。

(くぅ……もう何が何だか分からない……っ!)

 怒涛とも呼べる息も吐かせぬ連撃にまったく対処できない。
 いや、これが今まで見た《ドヴ》の攻撃手段ならば冷静に対処もできただろう。

 しかし世廻が放つのは、どれも見たことが無いものばかりなのだ。
 世廻は、頭部があった部分に突き刺さっている斧を近づいて抜くと、今度は右腕を斬り飛ばし、胸部を蹴って押し倒したのである。
 頭、左右の腕ともに失ったテトア。

 すでに勝負は誰の眼にも明らかだった。
 気づけばテトアは空を見上げていたのである。
 まだ起き上がれるのは確かだ。

 しかし両足どころか、全身が脱力したかのように力が入らない。
 圧倒的な敗北を喫したことと、まだ何が起こったのか完璧に理解できていないことから唖然としてしまっているのだ。

 そこへ上空から何かが回転しながら落ちてくる。
 目を凝らせば、それが斧だということが分かった。
 きっと腕を斬り飛ばされた時に、上空に斧が飛び上がってしまったのだろう。

 いや、そんなことよりも斧は真っ直ぐ仰向けに倒れている《ドヴ》のコックピット目掛けて落下してきている。
 このままではコックピットが貫かれて、下手をすればテトアの命さえ危うい。

「に、逃げなきゃ……っ!」

 すぐに起き上がろうとするが、身体が震えて力が出ない。
 その間にも斧はどんどん迫ってくる。

「ま、待って! 嫌だ! 嫌だぁぁぁっ!」

 死にたくないと強く叫び、衝撃に備えたのだが……。
 一向に何の衝撃も音もない状況に訝しみ、閉じていた瞼をゆっくりと開く。

 するとコックピットの真上で、斧を掴んでいる《ドヴ》の姿があった。

 ――助けてくれた?

 そこへ世廻が、持っている斧をコックピットに突き付けて通告した。

「降参を要求する」



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