27 / 41
第二十六話
しおりを挟む
「あっちゃあ~、セカイの奴、やっぱ手加減しやがらなかったかぁ」
模擬戦を観戦していたミッドは、頭を抱えて苦笑いを浮かべる。
「まあセカイですからね。油断も手加減もしませんよ」
エミリオもまたやれやれといった様子で肩を竦めている。
会話をしているのはその二人だけだ。
この戦いを見ていた者たちは、ほぼ全員が時を止めたかのように決着のついた模擬戦に目を奪われている。
そしてそれはここに連れてきてくれたエリーゼも同様で。
「う、嘘……! テトア様が……あんなにあっさりと……」
言葉にすれば呆然自失だろう。
目の前の光景が信じがたいらしく、エリーゼは僅かに唇を震わせていた。
「す、す、す、すっごいのだぁっ!」
静寂を突き破るかのように甲高い声がミッドの隣から響き渡る。
――ロクだ。
「ねえねえ、セカ兄って勝ったんだよね! あの斧を突き付けてるのがセカ兄なんだよね!」
「ああそうだぜ。ったく、あのバカ。副隊長なんかに勝ちやがって。これから面倒なことになるぞこりゃ」
「ははは、コレってまさに歴史が動いたって場面でしょうかね」
「それを言うなら昨日の時点だと思うけどな」
何といっても世界初、男性のパイロットが現れたのだから。
「すごいすごい! セカ兄はつっよいのだ!」
「う、うん! セカイさんて一体何者なんだろうね!」
「お兄ちゃん……カッコ良い」
ロク、リィズ、ストリがそれぞれの感想を述べていると、ここまで聞こえる声で、
「――それまで!」
と、リューカが模擬戦終了の合図を出した。
さすがに自国の英傑が一方的にやられたからか、観戦者たちからの歓声はない。
女性はエリーゼのようにうわ言を呟き、男性は少ないがほとんどの者は目を擦ったりして何度も現状を確認している。
すると世廻が乗った機体は、その場から少し後方に下がるとハッチを開けてコックピットからロープを垂らして降りてきた。
「セカ兄ぃぃぃ~っ!」
「あ、こら待てロク!」
ミッドが制止をかけるが、興奮している様子のロクは止まらず世廻のもとへ走っていく。
現在ミッドたちは演習場の端にいて見物させてもらっていたのだが、このまま走り出した彼女を放置することはできず、一緒に向かうことになった。
※
地上に降りた世廻は、待ち望んでいた声が聞こえて即座にそちらに顔を向けた。
そこには小さい歩幅を目一杯広げて駆け寄って来るロクの姿がある。
「セッカ兄ぃぃぃぃ~っ!」
飛びついてきたロクに押されないように踏ん張って受け止めてやる。
これは彼女から抱き着いてきたので信念を汚してはいない。ノーカウントだ。
「こらロク、いきなり飛びついてきたら危ないだろ?」
「にはは、ごめんなのだ! 見てたよセカ兄! と~っても強かったのだ!」
百点満点の笑顔を向けてくる彼女に対し、世廻もまた微笑を浮かべて「そうか」と答えた。
そこへ次々と懐かしい顔がその場に集まって来る。
「リィズにストリも、見に来てたんだな」
「はい! すごかったです、セカイさん!」
「あ、あのあの…………カッコ良かったでしゅ」
ああ、幼女のこの無邪気な好意が、男と女ばかりで鬱屈としていた精神を癒してくれる。
やはり無垢な存在は最高だ。
ミッドとエミリオにも一応声をかけておく。
「お前らも無事だったようで何よりだ」
「おう。リーリラも無事だぜ。診療所は昨日の件でクソ忙しいけどな」
「それよりも驚きましたよ。あなたが《精霊人機》を起動させて戦ったという話を聞いた時は」
「ま、成り行きでな……ん? そっちは……」
見慣れない少女がミッドたちと一緒にいるので思わず眉をひそめてしまう。
いや、どこかで見たことがあるが……。
「こんな私と変わらない男の人が……」
何やら少女は世廻を見て目を丸くしているようだが、すぐに「いや」と口にして頭を下げてきた。
「話は聞きました。昨夜はコックピットから投げ出された私を助けてくださり感謝しております」
「……! ああ、あの時の」
「はい。私はエリーゼ・ノートンと申します。その節はありがとうございました」
幼女の顔ならチラ見だけでも絵にかけるほど鮮明に記憶できるが、昨日助けた少女の顔は完全に忘れていた。
するとそこへリューカの機体がゆっくりと近づいてくる。
両手で水を掬うような仕草をしているが、その上にはユーリアム他、クレオアとファローナの二人も同行していた。
リューカが三人を地上に降ろすと、自身も《精霊人機》をカードに変換して地に降りた。
見ればいつの間にか対戦相手だったテトアもコックピットから出てきて、すぐにユーリアムの御前で片膝をつく。
模擬戦を観戦していたミッドは、頭を抱えて苦笑いを浮かべる。
「まあセカイですからね。油断も手加減もしませんよ」
エミリオもまたやれやれといった様子で肩を竦めている。
会話をしているのはその二人だけだ。
この戦いを見ていた者たちは、ほぼ全員が時を止めたかのように決着のついた模擬戦に目を奪われている。
そしてそれはここに連れてきてくれたエリーゼも同様で。
「う、嘘……! テトア様が……あんなにあっさりと……」
言葉にすれば呆然自失だろう。
目の前の光景が信じがたいらしく、エリーゼは僅かに唇を震わせていた。
「す、す、す、すっごいのだぁっ!」
静寂を突き破るかのように甲高い声がミッドの隣から響き渡る。
――ロクだ。
「ねえねえ、セカ兄って勝ったんだよね! あの斧を突き付けてるのがセカ兄なんだよね!」
「ああそうだぜ。ったく、あのバカ。副隊長なんかに勝ちやがって。これから面倒なことになるぞこりゃ」
「ははは、コレってまさに歴史が動いたって場面でしょうかね」
「それを言うなら昨日の時点だと思うけどな」
何といっても世界初、男性のパイロットが現れたのだから。
「すごいすごい! セカ兄はつっよいのだ!」
「う、うん! セカイさんて一体何者なんだろうね!」
「お兄ちゃん……カッコ良い」
ロク、リィズ、ストリがそれぞれの感想を述べていると、ここまで聞こえる声で、
「――それまで!」
と、リューカが模擬戦終了の合図を出した。
さすがに自国の英傑が一方的にやられたからか、観戦者たちからの歓声はない。
女性はエリーゼのようにうわ言を呟き、男性は少ないがほとんどの者は目を擦ったりして何度も現状を確認している。
すると世廻が乗った機体は、その場から少し後方に下がるとハッチを開けてコックピットからロープを垂らして降りてきた。
「セカ兄ぃぃぃ~っ!」
「あ、こら待てロク!」
ミッドが制止をかけるが、興奮している様子のロクは止まらず世廻のもとへ走っていく。
現在ミッドたちは演習場の端にいて見物させてもらっていたのだが、このまま走り出した彼女を放置することはできず、一緒に向かうことになった。
※
地上に降りた世廻は、待ち望んでいた声が聞こえて即座にそちらに顔を向けた。
そこには小さい歩幅を目一杯広げて駆け寄って来るロクの姿がある。
「セッカ兄ぃぃぃぃ~っ!」
飛びついてきたロクに押されないように踏ん張って受け止めてやる。
これは彼女から抱き着いてきたので信念を汚してはいない。ノーカウントだ。
「こらロク、いきなり飛びついてきたら危ないだろ?」
「にはは、ごめんなのだ! 見てたよセカ兄! と~っても強かったのだ!」
百点満点の笑顔を向けてくる彼女に対し、世廻もまた微笑を浮かべて「そうか」と答えた。
そこへ次々と懐かしい顔がその場に集まって来る。
「リィズにストリも、見に来てたんだな」
「はい! すごかったです、セカイさん!」
「あ、あのあの…………カッコ良かったでしゅ」
ああ、幼女のこの無邪気な好意が、男と女ばかりで鬱屈としていた精神を癒してくれる。
やはり無垢な存在は最高だ。
ミッドとエミリオにも一応声をかけておく。
「お前らも無事だったようで何よりだ」
「おう。リーリラも無事だぜ。診療所は昨日の件でクソ忙しいけどな」
「それよりも驚きましたよ。あなたが《精霊人機》を起動させて戦ったという話を聞いた時は」
「ま、成り行きでな……ん? そっちは……」
見慣れない少女がミッドたちと一緒にいるので思わず眉をひそめてしまう。
いや、どこかで見たことがあるが……。
「こんな私と変わらない男の人が……」
何やら少女は世廻を見て目を丸くしているようだが、すぐに「いや」と口にして頭を下げてきた。
「話は聞きました。昨夜はコックピットから投げ出された私を助けてくださり感謝しております」
「……! ああ、あの時の」
「はい。私はエリーゼ・ノートンと申します。その節はありがとうございました」
幼女の顔ならチラ見だけでも絵にかけるほど鮮明に記憶できるが、昨日助けた少女の顔は完全に忘れていた。
するとそこへリューカの機体がゆっくりと近づいてくる。
両手で水を掬うような仕草をしているが、その上にはユーリアム他、クレオアとファローナの二人も同行していた。
リューカが三人を地上に降ろすと、自身も《精霊人機》をカードに変換して地に降りた。
見ればいつの間にか対戦相手だったテトアもコックピットから出てきて、すぐにユーリアムの御前で片膝をつく。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
77
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる