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第二十七話

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「二人とも、良き戦いであった」
「っ……畏れながら、不甲斐ない戦いを見せてしまい、真に申し訳ございませんでした!」

 ユーリアムの労いを一掃するかのように、テトアは全力で謝罪をした。

「テトアちゃん、陛下は良かったと仰ってるんですよぉ」

 そう窘めたのは、テトアの直属の上司であるファローナだ。

「し、しかしたかが二度しか《精霊人機》を起動させたことのない素人に、何もできずに敗北したんです! 陸戦部隊の副隊長として……恥ずかしい限りです」
「それがお前が負けた理由だとまだ気づかないのか?」
「……え?」

 鋭い声音で発言したのはクレオアだった。

「相手は男だから。素人だから。しょせん自分には及ばないだろうとタカをくくっていたのだろう?」
「うっ……はい」
「お前がまだ私の隊で新人として働いていた頃、口を酸っぱくして教えたはずだ。どのような相手でも決して驕るなと。それが何だ、今の戦いは」
「姉様、テトアも分かって」
「お前は黙っていろリューカ」

 キッと射貫くような眼力で、リューカの言葉を止めた。

「いいかテトア。戦場での驕り、油断は死を招く。特に人の上に立つ者は、多くの命を背負っているのだ。決して見誤ってはいけない」
「……返す言葉もございません」
「対してこの少年は、見事なまでに勝利へと忠実に動いた。相手が力を揮う前に仕留める。それが最も勝利の確率を上げる方法だろう。お前は最初の油断から少年に意表を突かれて後手に回り、致命的とも思えるダメージを負った。機体的にも精神的にも、な」

 盾ごと左腕を切断した時だろう。

「片腕を失いバランスを崩した機体を立て直すには、冷静な判断力が必要になる。しかしお前は、男にしてやられたということと、ダメージを負ったという事実から確実に混乱し結果、こうなったわけだ」

 そう言いながら両腕を大破させて横たわっている《ドヴ》を見るクレオア。
 テトアは自分自身への悔恨からか、歯を食いしばり拳を固く震わせている。

「そもそも情報ではこの少年が《トリスタン》を単独で討ち倒したことは聞いていたはずだ。仮にそれが曲解された真実だとしても、しかと警戒して事に当たっていれば、間違ってもこんな無様な姿は見せなかったのではないか?」
「っ……仰る通りです……!」
「私が何故この模擬戦を申し出たかこれで分かっただろう?」
「……?」

 疑問符を浮かべたテトアだけでなく、その場にいたほとんどの者たちもまた説明を求めるようにクレオアを見つめる。

「最近のお前は浮かれ過ぎていた。新型を貰えるのだから気持ちは分からないでもない。元々パイロットとしても優秀だったため、トントン拍子で副隊長になった。だがお前から新人の時にはあった覇気が感じられなくなっていたことも事実だ。気づいていたか?」

 テトアはその言葉を聞いて衝撃を受けたような表情を見せる。どうやらまったく感づいてすらいなかったようだ。
 明らかに玉座でのテトアの発言で、彼女が自惚れていることは世廻にも分かっていた。

「私は玉座の間でこの少年と会った時、わざと殺気をぶつけてみた。陛下には無礼に当たるだろうが、隙あらば背後を取るくらいは考えていた」

 なるほど。あの敵意はそういう意味合いが込められていたらしい。
 通りで自分の警戒心が強く働いたわけだ。

「しかしそんな気も失せるくらいに、この少年には隙がなかった。恐らくは特殊な訓練を受けてもいるのだろう。だからこそちょうどいいと思った」

 挫折を忘れたお前の眼を覚まさせる相手としてうってつけだと彼女は言う。

「テトア・オーリッシュ」
「は、はい!」
「今の自分を恥じる心があるのなら、この失敗を乗り越えてみせろ」
「! ――はいっ!」

 先程までとは違い、覚醒したかのような清々しい表情をするテトア。

(なるほど。オレはダシに使われたってわけか。食えない女だ)

 苛立つどころかさすがは隊長、と感心させられた。
 それに気づかなかった自分もまだまだだということである。

「ごめんなさいね、クレオアちゃん。本当なら私が注意すべきことですのに」
「別に構わん。ファローナはファローナで、しっかり隊員たちと向き合っている」

 クレオアの言葉にファローナは嬉しそうに笑みを浮かべる。

「うむ。どうやらテトアも己自身を見つめ直すことができそうだな。それだけでも今回の模擬戦を許可した益があるというものだ。してテトアよ」
「はっ、陛下」
「そなたが油断していたとはいえ、ウラシマの実力は本物だということも理解できたはず」
「……はい」

 するとテトアが立ち上がり、世廻のところへと近づいていく。
 だが反射的に世廻は一歩後ずさってしまう。

「ん? ああ……別に何もしやしないって」

 世廻が手を出されそうだと思い退いたと勘違いしているテトアが、足を止めて頭を下げる。

「悪かった! いろいろその……不愉快にさせることを言ったと思う」
「……別に気にしてない」

 そもそもあんなやり取りなど、一癖も二癖もある傭兵団の中にいれば日常茶飯事だったので慣れている。

「それと……さっきはその……ありがと、助けてくれて」
「助け? ……ああ」

 恐らくコックピット目掛けて落下してくる斧を止めたことだろう。

「しょ、しょうがないから認めてやるよ! だから……ほら」

 また一歩近づき右手を差し出してきたので、またも世廻は同じように一歩後ろへ引いた。

「いや、だから何もしないってば! 握手だよ握手! 恥ずかしいんだから言わせんな!」

 確かに顔を赤らめて若干眼が泳いでいるので、こういう所作は慣れていないのかもしれない。
 普通ならここで和解を示すため手を取り合うのだろうが……。

「…………おい、何で手をジッと見てるだけなんだよ?」

 いつまでも握手に応じない世廻を不満げに睨みつけてくる。

(そうは言われてもな……)

 世廻にとっては難しい行為なのだから……。

 仕方ない。ここは――――断ろう。


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