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第二十四話

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 現在世廻は昨日一度訪れた格納庫へと来ていた。
 そこにはすでに二機の《精霊人機》が用意されている。

 名前は《ドヴ》といって陸戦型量産機の第四世代と呼ばれているらしい。ここに来る途中に、一緒に付き添ってきたバンスから教えを受けた。

「いいかお前、アタシはまだお前のことを信じたわけじゃない! 悔しかったら実際にコイツを起動させてアタシと戦ってみな!」

 いちいち声を張り上げないと気が済まないのか、これから行う模擬戦相手であるテトアが指を突きつけながら言ってきた。

(別に信じてもらうつもりも、悔しいわけでもないんだがな)

 なら何故この模擬戦を受けることになったのか。
 その理由は単純明快。

 もう一度《精霊人機》に乗ってみたかった。ただそれだけである。
 自分の手足となって動くロボットという存在に、世廻の興味は一気に持っていかれてしまったのだ。

 フンッと鼻息を吐くと、テトアが先に《ドヴ》の足元まで行き、コックピットから垂れ下がっているロープに片足をかけて、そのままエレベーターのように上へと上がっていった。
 世廻もその場に集まっている多くの視線を受けながら同じようにロープに足をかける。

 ロープには昇降ボタンがついた機械が備え付けられていて、赤いボタンを押すと上昇し、青いボタンを押すと下降するのだ。
 そうして世廻もコックピットへと乗り込み、一度周囲を確認する。

 昨日乗った機体も《ドヴ》だったらしく、内装が異なっているところはない。
 強いて言えば昨日と違って新品に近い状態だということだ。

「どうした! さっさと起動しろよ! できるもんならな!」

 すでにハッチを閉めて起動しているテトアから挑発が届く。
 ここでもし動かせなかったらどうなるだろうか……?

(ま、その時はその時か)

 昨日はまぐれ。それで終わるだろう。
 世廻は軽く深呼吸をしたあとに、両手で左右にある水晶玉に触れる。

「――応えてくれるか、《ドヴ》」

 すると自動的にハッチが閉まり、《ドヴ》の瞳に光が宿る。
 ハッチが閉まると周囲に張り巡らされている鏡が透き通るガラスのようになり、外の景色を映し出す。

「っ…………マジだったのかよ……!」

 恐らくまぐれだと思っていたであろうテトアから愕然とするような声音が聞こえた。
 彼女だけではない。
 その場に集まっていた者たちが、一様にして感情を揺らしていた。

 驚嘆する者、嫉妬を抱く者、尊敬の眼を向ける者など様々だ。

「ちっ、さっさと演習場に行くぞ! もたもたすんな!」

 別にもたもたなどしているつもりなどはないが、先に向かうテトアのあとをついていく。

「くそぉ、ちゃんと歩行もできるのかよっ……!」

 バンスに聞いたところ、たとえパイロットの素質があっても、一度で満足に歩行できる者は少ないのだという。
 世廻は歩くだけでなく、走る、跳ぶ、武器を振るうなど、凡そ並みのパイロットが一月以上かかる工程を、一時間も経たずに攻略したのだから皆が驚くのも無理はないだろう。

 演習場の一角は多くの観戦者たちで固められていた。兵士たちもこの戦いに興味があるのだろう。
 城のテラス席には、ユーリアム王が開戦を今か今かと待ち望んでおり、その周りには彼を守護するようにクレオア、ファローナ、ノーラが立っている。

 そしてテラス席から演習場への延長線上には、リューカの繰る機体が顕現しており、何かあってもユーリアムを守れるよう二段構えを敷いていた。
 演習場の中央で対面する世廻とテトア。

「起動できたことは褒めてやるよ」
「……歩くこともできたが?」
「ぐっ……調子に乗ってんなよ男のくせに!」
「……くだらないな」
「な、何だと!」
「お前も男だ女だと価値を決める輩か。つまらない奴だ」
「つまっ……! ああそうかよ! だったら男の実力を見せてアタシの価値観をひっくり返してみろよ! まあそんなことできねえと思うけどな!」

 余程の自信があるようだ。
 それだけ裏打ちされた努力あってのことだろうが、少し相手を侮り過ぎている。
 熱血漢なのはいいが、指揮官クラスなら戦場や相手を分析できる目を養わないといけない。

 そうしなければ仲間たちが犠牲になってしまうからだ。
 たとえ自分に利がある戦場でも、決して油断してはいけない。
 それが傭兵として育てられた世廻が常に守り続けてきた信念である。
 リューカから外に声を聞かせるオープンチャンネルを開き模擬戦の説明が入った。

「両者、ともに準備はいいな? コックピットへの直接的攻撃は禁止とする。勝敗はどちらかが敗北を認めるか、明らかに戦闘不能に陥ったと私が判断すればそこで終了だ」

 では――と、静寂の中、リューカの声だけが響く。

「――始めっ!」

 開始の合図が成された直後、すぐに終わらせにくるのかと身構えていたが……。

「ん? どうした、こないのか? 先手は譲ってやるよ」 

 どうやら完全に格下だと舐められているようだ。
 互いに右手には斧、左手には盾を装備している。まともにぶつかっても盾で防がれるだけ。

 なら――。

 世廻はペダルを踏み込み、一気に加速し相手に迫っていく。

「フンッ、真正面からかよ! これだから素人は!」

 テトアは盾を前に出し防御態勢を取る。世廻の攻撃を防いですぐにカウンターでも決めようというのだろう。
 だがこと戦闘センスにおいて、世廻は決して軍人に負けない。
 しかも油断しているような相手には目にものを見せてやるつもりだ。



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