俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
16 / 258

15

しおりを挟む
(まあとにかく、師範代ってことは師範のナクルのパパさんの次に強いってことだよな)

 すると奥の扉が開き、そこから道着を着用した蔦絵が現れる。帯はナクルの白と違い、恐らくは有段者を示すであろう黒を装着していた。

 長い黒髪は後ろで縛っていて表情もどこかキリッとしているからか、その凛とした佇まいは武士の雰囲気を漂わせている。

「ではまずストレッチから始めましょうか。沖長くんも、良かったらやってみて」

 ナクルも蔦絵も軽く身体を動かし始めたので、沖長も言われた通りにストレッチをする。
 そうして二人が念入りにストレッチしたあと、道場の真ん中で向き合う。沖長は邪魔にならないように壁際に立っている。

「それでは始めましょうか。いつでも来なさい、ナクル」
「はいッス! やあぁぁぁぁっ!」

 自然体のまま立つ蔦絵に対し、ナクルは一瞬腰を落とすと弾かれたように突っ込む。その動きは確かに子供にしては速いものだ。
 そのままナクルがダラリと垂れている蔦絵の手を両手で掴もうとする……が、それは空振りに終わってしまう。ナクルは驚くが、沖長もまた目を見開いてしまう。

 何せナクルが蔦絵をすり抜けたのだから。いや、すり抜けたように見えたのである。
 ナクルは「わわわ!」とこけそうになっているが、踏ん張って体勢を立て直した。

(おいおい、ブレて見えたぞ今の)

 微かだが蔦絵が、一瞬にしてその場から動き、ナクルが通過した直後に元の位置に戻ったのが分かった。しかし遠目から見ていても尋常ではない速さ。目の前にいたナクルは、それこそ消えたように感じたはずだ。

 それから何度もナクルは掴もうとチャレンジするが、その度にまるで雲を相手にしているかのように実体を捉えられずにいる。

(人間離れし過ぎだろ、あの動き)

 これまで様々なスポーツ観戦をしてきた。中には格闘技もあるが、あんな動きをする人物を沖長は初めて目にした。

 ナクルは決して遅い攻撃をしているわけではない。それどころか一般的な六歳児と比べても間違いなく逸脱した動きをしていると思う。ハッキリいってナクルと鬼ごっこをしても一分も持たずに捕まる自信があるほどだ。

 子供の頃からあれだけの動きができるのだ。きっと将来はどんなスポーツでもオリンピックで十分に通用する選手に育つことだろう。
 そんな彼女の動きすら、まるで意に返さないといった様子で回避している。しかも当の本人は余裕綽々といった表情を浮かべたまま。

 そうして五分ほどそんなやり取りが続いたが、いつの間にかナクルは汗だくになって四つん這いになっていた。

「ん~相変わらず常に全力ね、ナクルは。そんなんじゃすぐに体力がなくなるって前にも言ったでしょう?」

 いやいや、五分も全力で動けるだけで普通は驚異だから。

「ぜえ……ぜえ……ぜえ……や……やっぱり…………ツタエちゃ……ん……スゴイ……ッス……で、でも!」

 突然その場からナクルが床を両足で蹴り出し、物凄い速度で蔦絵に迫った。
 蔦絵も少々油断していたのか、「あら?」と目を見開く。

 恐らくナクルは最後最後に余力を少しだけ残していたのだろう。それを相手が油断しているのを見て、一気に残力を爆発させた。

(おっ、これなら今度こそ捕まえられるかも!)

 この五分間、まるでナクルの勝機がなかったように思えていたが、これならあるいは……。

 そう思った矢先のことだ。捕まえようと伸ばしていたナクルの右手を目にも止まらないほどの速度で蔦絵は掴むと、そのまま軽く捻って投げ飛ばしてしまった。
 ナクルはクルリと身体を半回転させられてしまい、そのまま畳の上に背中から落ちる。

「ナクルッ!?」

 思わず声を上げ、彼女に駆け寄っていた。

「だ、大丈夫かナクル!? ちょ、七宮さん、さすがにこれはやり過ぎでは!?」

 まさか彼女が盛大に投げ飛ばすとは思っていなかったので、これには黙っていられなかった。

「う~ん、そう言われてね。これがナクルの日常だし」

 その言葉にギョッとしてしまう。

(い、今みたいなのが日常……?)

 まだ六歳児相手に対し行うような組手ではないように思える。何せ投げ飛ばしたんだから。

「う、うぅ……」
「!? ナクル? 大丈夫か?」
「……あ、あはは……だいじょうぶッス……。せなか……ちょっといたいッスけど……」

 あれだけの衝撃がちょっとだけとは、本当にこういうことに慣れているみたいだ。

(俺が思った以上に古武術ってスパルタなのか……?)

 もしくは道場の娘として相応しいようにシゴキを受けてきたからかもしれないが。

(これじゃ……確かに友達と遊んでる暇なんかないだろうな)

 これだけの厳しい練習を行っているからこそのあの動きであり、痛みへの慣れ。それは娯楽などに勤しんでいる時間を費やす暇などなかっただろう。

「どう、ナクル? もう一本するかしら?」

 またもや愕然とする提案が蔦絵から飛び出てくる。しかも……。

「……ふぅ~。ちょっとたいりょくもどってきたッスから、いけるッスよ」

 そう言いながら普通に立ち上がる幼児。

(え、まだ一分も休憩してないけど!? しかも体力回復してるってマジか!?)

 五分以上全力で動きっぱなしで、さらに大きく投げ飛ばされた上、数十秒しか休憩していないのにもかかわらず、すぐに立ち向かえるほどの回復力を見せる。こんな幼児がこの世にいるだろうか。目の前にいるのだけれども……。

「おいおい、まだやる気か?」
「だいじょうぶッス! つぎはぜーったいにさわってみせるッス!」

 どうやらやる気はあるみたいだ。意外にもこの子は負けず嫌いなのかもしれない。

「もしかしてちょっとナクルが七宮さんに触ることができればOKって感じ?」
「ええそうよ。正式な組手……とは違うけれど、これでも十分ナクルにとっては良い修練になるからね」

 確かに組手といえば互いに攻防を繰り返すものだが、ほとんどナクルが攻めているだけだった。

「よーし! やるッスよー!」
「あー待て待てナクル。ハッキリ言うけど、今のままじゃいつまで経っても七宮さんに触ることできないと思うぞ」
「ふぇ? ど、どうしてッスか?」
「いや、あのな……最後のはともかく、ただ真っ直ぐ突っ込んでるだけじゃないか。しかも全力で。それじゃあいくら速くても動きは読みやすいだろ。あとすぐバテるし」
「うっ……け、けどボク……それしかできないッスから」
「まあ……それもそうか」

 何せ動きは大人顔負けでも思考は子供なのだから仕方ない。

「ただ最後の動きは相手の隙をついた感じで良かったぞ」
「ホ、ホントッスか!?」
「ん、けどこれも真っ直ぐ行き過ぎだな。相手が格上なら、腕が掴まれることを見越してフェイントを入れるべきだった」

 あれだけの動きができるならフェイントだってやろうと思えばできたはずだ。相手が油断しているなら猶更、あの時にフェイントを入れてさえいれば目的を達成できた可能性は高いと踏んだ。 

 そんな感じで、素人考えではあるが、自分の感じた通りのことを口にしていた。ただ蔦絵が、こちらに射抜くような視線を向けていたことに沖長は気づけなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。 ※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2025年12月に第4巻が発売されました  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...