俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 先日、水月にも自衛のための修練をこなしてもらおうと考えた結果、沖長が出した案は……。

「これからお主を鍛えることになった十鞍千疋じゃ」

 勇者として、そして戦闘経験や人生経験も含めて高レベルに達している人物に頼ることだった。

「えっと……確かこの人ってあの時にもいた……よね?」

 初めての対面というわけではないが、こうしてしっかりと紹介するのは初めてだ。

「確か社長と秘書? みたいな関係とか言ってたっけ?」
「よく覚えてるな。まあそんな感じ?」
「じゃからそうじゃくて主従関係じゃというに。何せワシは身も心も主様に捧げておるしのう」
「……札月くん?」
「いや、だからそれは千疋がそう言ってるだけであって、俺は普通に友達だって思ってるから!」

 どういうわけかハイライトが消えた瞳を水月が向けてきたので、恐怖を感じて思わず慌てて弁明した。同時に千疋を睨むと、彼女はニヤニヤと明らかに楽しそうに笑っている。

「まあ関係などどうでもええわい。とにかくこれからお主に戦闘のいろはを学んでもらうという話じゃよ」
「それがあなた?」

 若干不安そうな水月だが、ここはちゃんと説明しておく。

「九馬さん、千疋は見た目こそ普通の子供だけど、勇者としての力は本物で、多分現行の勇者でもトップクラスなんだよ」
「トップクラスじゃなくて頂点と言ってほしいのう」
「ちょ、頂点なん!? めちゃ凄いじゃん! そんなにこの子強いん!」
「ほら覚えてる? 公園でバトル漫画を実行してた二人の勇者のこと」
「え? ああ……うん、あれはとっても非現実的だったなぁ」

 遠い目をする水月を見て苦笑が浮かぶ沖長。彼女がそんな反応をするのも無理はない。何せ誇張でも何でもなく、本気でバトル漫画で描かれるような戦闘を火鈴とヨルがしていたのだ。夢だと言われた方が信じるくらいには現実感がなかったことだろう。

「あの二人を同時に制圧できる強さを持ってんだよ、千疋は」

 あの時、戦闘の凄さに圧っされて目を回していたから覚えてないはずだ。

「うわっ、マジ!? この子、チョー凄いんだけど!?」
「フフン、そうであろうそうであろう」

 褒められて上機嫌なのか、胸を張って誇らし気な千疋。

「正直俺よりも確実に強いし、師事するにはもってこいな人物だと思うよ」

 沖長が絶賛するので、水月も「そうなんだぁ」と目を輝かせて千疋を見つめている。

「悪いな、いろいろ頼ってしまって」
「なぁに、主様の頼みならばたとえ火の中水の中。敵地のど真ん中でも裸一貫で向かおうぞ」
「いや、そんなことは頼まないって。けどマジで助かる。ありがと。お礼に何か俺にできることがあったら何でもするから」
「おお! それは真かや! ふむふむ……ならその褒美、謹んで受けさせて頂くわい。ククク、何でもかぁ……」
「あ、あくまで常識的な範囲で頼むぞ?」

 含み笑いに背筋が凍ったこともあって一応制限はかけたが、当人は「分かっとる分かっとる」と言いながら愉快気に笑っている。……不安だ。

「何かマジで仲良いね、二人」

 沖長と千疋の近しいやり取りを見た水月が、少しばかり不満そうに口を尖らせながら言った。
 正直仲良くなった経緯を説明するには、このえのことも説明する必要がありそうだし、とりあえずは「ま、まあね」とだけ答えただけになった。

「そ、それで千疋、九馬さんを鍛えるといってもあまり無茶なことはしないでくれな」
「もちろんじゃ。ただほんにこやつは勇者なのかえ? まだコモンオーラさえ自覚できておらんが?」
「それは…………多分?」

 原作知識でしか知らないので、実際に水月が勇者として覚醒するかどうか確信はない。

「多分かえ? まあ実際に修練をこなせばそれもハッキリするが……」
「頼むよ。九馬さんもそれでいい?」
「あ、うん。札月くんが信頼してるならあたしも信じて頑張ってみる!」
「ほほう、さすがは我が主じゃ、色を好むのう」
「ちょ、そんなわけないからな!」
「色を……好む? どういう意味? 何か好きな色の話?」

 どうやら水月は色を好むという言葉の意味をそのままに受け止めたようだ。まだ小学生なのだからそれが普通かもしれないが。

「別に気にしなくていいって。それよりも修練法は千疋に任せるけど、どこでするつもりだ? ダンジョンか?」
「いいや、これでもワシはこのえの護衛も兼ねておるしのう。あまりあやつの傍を長時間離れるのも問題があるんじゃよ。じゃから壬生島の宅内で行うつもりじゃ」
「まあ、あそこの敷地は広いからいいと思うけど、本格的な戦闘訓練になると周りへの被害とか大丈夫か?」

 下手をすれば建物が崩壊したり庭が見るも無残な状態になる可能性だってある。

「あくまでも基礎的な修練の時は、じゃ。勇者として覚醒したあとは、さすがにダンジョン内でやった方がええ」

 その時は、このえもダンジョンに引き込んで行うつもりのようだ。

「なるほど。それなら安心だな。九馬さん、これから結構大変だろうけど、俺も頑張るから一緒に強くなっていこう」
「うん! すぐに札月くんやナクルに追いついてみせるからね!」
「……ほほう。ずいぶんと意気込みが良いのう。その意気を見込んで、さっそく」

 千疋が水月の腕を掴み、水月が「へ?」と呆けた顔を見せた矢先、

「楽しい楽しい地獄へ案内してやろうぞ!」

 悪魔のような笑みを浮かべた千疋が、「じゃあのう、主様」と言った直後、その場から物凄い速度で走り去っていった。

「ちょ、ちょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 すでに涙目になった水月を引き連れて……。

(……達者でな、九馬さん)

 一応心の中でエールを送る沖長であった。



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