188 / 258
187
しおりを挟む
その日は日曜日、朝食が終わり少しまったりした時間を過ごしているような頃だった。
もう何度か感じていたダンジョンの発生気配。しかし今回はそれがより濃密なものであることが伝わってきた。
同時に、スマホには数人から報告が入る。ナクルを筆頭として、蔦絵、長門、千疋、そして水月までもがダンジョンの気配を察知したようだ。
(この強烈な気配……確かに今までのダンジョンとは別物みたいだな)
言葉にするのは難しいが、この感覚は間違いなくハードダンジョンであることを示していた。
(さて、どうしたものかな)
長門との話で出たように、挑む挑まないはこちら次第だ。
するとナクルから着信があり応答する。
「よ、ナクルも気づいたみたいだな」
『はいッス。それで……どうするッスか?』
「ナクルはどうしたい?」
『う~ん……ダンジョンブレイクが起きたらたくさんの人が迷惑するッスよね?』
「まあな。妖魔がこっちに出てきたら、対抗できる手段は限られてるだろうし。けど俺たちが向かわなくても【異界対策局】が対処すると思うぞ」
『……そうッスよね』
「何だ? 何か言いたいことでもあるのか?」
『ううん、オキくんが行かないって言うならボクも行かないッス。けど……』
「けど、どうした?」
『何ッスかね……こう呼ばれてるような気がして』
呼ばれてる……?
それはもしかしたら原作の修正力というものだろうか。本来ならハードダンジョンに挑むのはナクルと水月だ。けれどナクルは沖長が行かないなら向かうつもりはないと言う。
つまりこのままでは原作とはまったくかけ離れた流れになるだろう。それを良しとしない何らかの力が働いているのだとしたら……。
(まあ、修正力うんぬんも俺の勝手な考察だけど)
ただそうとしか思えないような状況が続いているせいか、やはりそういった不可思議な力が働いているような気がするのだ。
「いいか、ナクル。挑むことになったとしても、絶対に一人で行っちゃダメだからな」
『とーぜんッス! 蔦絵ちゃんやお父さんにも同じこと言われてるッスから』
そうだ。原作とは違い、彼女の傍には頼りになる家族という存在がいる。特に圧倒的実力者である蔦絵はダンジョンにも入れるので、いざという時は彼女がナクルを支えてくれるはず。
(でも心配なのは確かだな。一応俺もナクルの傍にいた方が良いか)
そう判断し、リビングで寛いでいた両親にナクルのところに行ってくると言って外出した。
その間に、今度はこちらからある相手に電話をかける。
『――もしもし、ダンジョンの件かのう、主様よ』
出たのは千疋だ。彼女に頼みたいことがあった。
「急に悪いな。今、手は空いてるか? 空いてるなら――」
『水月の安否を確保してほしいと?』
「! ……よく分かったな」
『主様の過保護ぶりは理解しておるからのう。どうせそちらは日ノ部の小娘の方へ向かっておるんじゃろ?』
どうやらこちらの動きは彼女には筒抜けのようだ。ここらへんは経験の差ということだろうか。
「まあ九馬さんが一人で動くとは思えないけどな。でもこの機にユンダが動くってことも考えられる」
『ふむ。このえは家におれば安全じゃし構わんぞ』
「頼む。いつも悪いな」
『なぁに、ワシは主様の従者じゃ。好きに使えばよい』
こちらはそうは思っていないが、こういう時は本当にありがたい存在なのは違いない。
修正力が働いているなら、水月にもその手が伸びる恐れは十二分に有り得る。だから現最強の千疋を護衛につければ問題はないだろう。
「よし、これであとは俺がナクルのとこに――」
するとその時、突然目の前に人が現れ立ち塞がった。その人物を見て、沖長は思わず表情を強張らせてしまう。何故ならそこにいたのは――。
「………………ヨル」
以前、水月と一緒に公園に立ち寄った際に出会った少女だった。
偶然、と考えるのは甘いだろう。ダンジョンが発生し、沖長が一人で行動しているところに、人気もないこの場所で偶然に遭遇した。それを偶然だと断ずるほど、沖長は甘くはなかった。
「……確か前に会いましたよね? こんなとこで何をしてるんです?」
身構えつつ質問を投げかけた。
対してヨルは自然体で、こちらに顔を向けたままだ。目元は前と同じように赤い包帯で覆われているが。
「……お前に用がある。一緒に来てもらいたい」
「あいにく、こっちも忙しいんで。また今度にしてもらえるとありがたいん
ですけどね」
ハッキリ言って戦闘になったらまともに勝てるとは思えない。何せ相手はナクルよりも格上の勇者だ。それに戦うとなれば《アイテムボックス》の力を存分に振るわないといけないだろう。そうなれば益々相手に興味を抱かれてしまいかねない。
(けど逃げるにしても普通の方法じゃ無理っぽいしな)
ここは一度ボックス内へ逃げ込むという方法を取るか……。
テレポート能力の持ち主だとか勘違いされるだろうが、逃げるには致し方ないかもしれない。
(でも何でヨルが俺を……?)
ふとそんな疑問が浮かんだ。ナクル相手ならば分かる。何せヨルが探していたのは彼女なのだから。それも間違いなく防衛大臣である七宮恭介の命令で。
沖長からナクルについて知ってそうなので話を聞きたいということならばまだ分かるが、問答無用な雰囲気でついて来いなどと言われるような理由はないと沖長は思っていた。
確かに男の勇者候補生ということで恭介が手に入れたいと考えている可能性はあるが。
だとしたらやはるヨルに捕縛されるのは避けた方が良い。
(ここはやっぱ一旦ボックス内へ――)
逃げ込もうとした直後だ。
「……また邪魔が入ったか」
不意にヨルからそんな言葉が漏れ出た。
そこで初めて気づいた、新たな気配。それは沖長の背後から。咄嗟に振り向くと、そこには――。
「――師匠っ!?」
沖長の現在の師である籠屋大悟が、不敵な笑みを浮かべながら仁王立ちしていた。
もう何度か感じていたダンジョンの発生気配。しかし今回はそれがより濃密なものであることが伝わってきた。
同時に、スマホには数人から報告が入る。ナクルを筆頭として、蔦絵、長門、千疋、そして水月までもがダンジョンの気配を察知したようだ。
(この強烈な気配……確かに今までのダンジョンとは別物みたいだな)
言葉にするのは難しいが、この感覚は間違いなくハードダンジョンであることを示していた。
(さて、どうしたものかな)
長門との話で出たように、挑む挑まないはこちら次第だ。
するとナクルから着信があり応答する。
「よ、ナクルも気づいたみたいだな」
『はいッス。それで……どうするッスか?』
「ナクルはどうしたい?」
『う~ん……ダンジョンブレイクが起きたらたくさんの人が迷惑するッスよね?』
「まあな。妖魔がこっちに出てきたら、対抗できる手段は限られてるだろうし。けど俺たちが向かわなくても【異界対策局】が対処すると思うぞ」
『……そうッスよね』
「何だ? 何か言いたいことでもあるのか?」
『ううん、オキくんが行かないって言うならボクも行かないッス。けど……』
「けど、どうした?」
『何ッスかね……こう呼ばれてるような気がして』
呼ばれてる……?
それはもしかしたら原作の修正力というものだろうか。本来ならハードダンジョンに挑むのはナクルと水月だ。けれどナクルは沖長が行かないなら向かうつもりはないと言う。
つまりこのままでは原作とはまったくかけ離れた流れになるだろう。それを良しとしない何らかの力が働いているのだとしたら……。
(まあ、修正力うんぬんも俺の勝手な考察だけど)
ただそうとしか思えないような状況が続いているせいか、やはりそういった不可思議な力が働いているような気がするのだ。
「いいか、ナクル。挑むことになったとしても、絶対に一人で行っちゃダメだからな」
『とーぜんッス! 蔦絵ちゃんやお父さんにも同じこと言われてるッスから』
そうだ。原作とは違い、彼女の傍には頼りになる家族という存在がいる。特に圧倒的実力者である蔦絵はダンジョンにも入れるので、いざという時は彼女がナクルを支えてくれるはず。
(でも心配なのは確かだな。一応俺もナクルの傍にいた方が良いか)
そう判断し、リビングで寛いでいた両親にナクルのところに行ってくると言って外出した。
その間に、今度はこちらからある相手に電話をかける。
『――もしもし、ダンジョンの件かのう、主様よ』
出たのは千疋だ。彼女に頼みたいことがあった。
「急に悪いな。今、手は空いてるか? 空いてるなら――」
『水月の安否を確保してほしいと?』
「! ……よく分かったな」
『主様の過保護ぶりは理解しておるからのう。どうせそちらは日ノ部の小娘の方へ向かっておるんじゃろ?』
どうやらこちらの動きは彼女には筒抜けのようだ。ここらへんは経験の差ということだろうか。
「まあ九馬さんが一人で動くとは思えないけどな。でもこの機にユンダが動くってことも考えられる」
『ふむ。このえは家におれば安全じゃし構わんぞ』
「頼む。いつも悪いな」
『なぁに、ワシは主様の従者じゃ。好きに使えばよい』
こちらはそうは思っていないが、こういう時は本当にありがたい存在なのは違いない。
修正力が働いているなら、水月にもその手が伸びる恐れは十二分に有り得る。だから現最強の千疋を護衛につければ問題はないだろう。
「よし、これであとは俺がナクルのとこに――」
するとその時、突然目の前に人が現れ立ち塞がった。その人物を見て、沖長は思わず表情を強張らせてしまう。何故ならそこにいたのは――。
「………………ヨル」
以前、水月と一緒に公園に立ち寄った際に出会った少女だった。
偶然、と考えるのは甘いだろう。ダンジョンが発生し、沖長が一人で行動しているところに、人気もないこの場所で偶然に遭遇した。それを偶然だと断ずるほど、沖長は甘くはなかった。
「……確か前に会いましたよね? こんなとこで何をしてるんです?」
身構えつつ質問を投げかけた。
対してヨルは自然体で、こちらに顔を向けたままだ。目元は前と同じように赤い包帯で覆われているが。
「……お前に用がある。一緒に来てもらいたい」
「あいにく、こっちも忙しいんで。また今度にしてもらえるとありがたいん
ですけどね」
ハッキリ言って戦闘になったらまともに勝てるとは思えない。何せ相手はナクルよりも格上の勇者だ。それに戦うとなれば《アイテムボックス》の力を存分に振るわないといけないだろう。そうなれば益々相手に興味を抱かれてしまいかねない。
(けど逃げるにしても普通の方法じゃ無理っぽいしな)
ここは一度ボックス内へ逃げ込むという方法を取るか……。
テレポート能力の持ち主だとか勘違いされるだろうが、逃げるには致し方ないかもしれない。
(でも何でヨルが俺を……?)
ふとそんな疑問が浮かんだ。ナクル相手ならば分かる。何せヨルが探していたのは彼女なのだから。それも間違いなく防衛大臣である七宮恭介の命令で。
沖長からナクルについて知ってそうなので話を聞きたいということならばまだ分かるが、問答無用な雰囲気でついて来いなどと言われるような理由はないと沖長は思っていた。
確かに男の勇者候補生ということで恭介が手に入れたいと考えている可能性はあるが。
だとしたらやはるヨルに捕縛されるのは避けた方が良い。
(ここはやっぱ一旦ボックス内へ――)
逃げ込もうとした直後だ。
「……また邪魔が入ったか」
不意にヨルからそんな言葉が漏れ出た。
そこで初めて気づいた、新たな気配。それは沖長の背後から。咄嗟に振り向くと、そこには――。
「――師匠っ!?」
沖長の現在の師である籠屋大悟が、不敵な笑みを浮かべながら仁王立ちしていた。
244
あなたにおすすめの小説
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2025年12月に第4巻が発売されました
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる