俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 何とかナクルたちとともに原作二期の始まりであるイベントを乗り越えることができた。
 ただ、そこにはやはり幾つかイレギュラーが生まれた。

 細かいことを上げればキリがないが、大きいものでいうならば、一つは柳守雪風という新たな勇者の誕生だろう。彼女は確かに原作でも勇者として覚醒するが、そのタイミングはもっと後になってからだ。

 第二期の初期イベントで覚醒するなどという描写はない。長門にも確認を取ったが、そのような流れは知らなかったという。ただし作者が元々意図していた可能性はあるということ。

 以前にも、連載ではなく読み切りやゲームの内容などが組み込まれている可能性があることが示唆されていたので、雪風の覚醒も元々予定されていたことも考えられると。しかしそんなことを考慮すると、それこそキリがないので気にしないことにした。

 そしてもう一つは、ナクルの第二次覚醒が起きていないこと。これは後々に響く問題かもしれないと長門も口にしていた。同時にもう一人の転生者で味方でもある壬生島このえにも確かめたが、彼女も今後に何かしら影響する可能性が高いと考えだった。

 最後に沖長がピンチの時に駆けつけてくれたのが戸隠火鈴だったこと。原作ではここで十鞍千疋が登場し、これがきっかけでナクルと仲を深めていくのだが、すでに千疋はこちらというか沖長の味方であり、彼女はあの場にはいなかった。何せ、もう一人の勇者仲間である九馬水月の修練に付き合っていたのだから。それも沖長から頼んだことだった。

 こんな感じでいろいろなことが原作とは違っているが、概ねの流れとしては大きく外れてはいないはず。故に今後も原作通りのイベントは起きてくるだろう。

(いや、もう一つ忘れちゃいけないのがあったな)

 沖長はベッドの上で仰向けになりながら重要な改変された部分を思い出す。
 それはダンジョン内で遭遇した妖魔人のこと。
 本来ならあの場でナクルが出会うのはユンダという、以前に沖長が殺されかけた相手。しかし何故かそこにいたのは新たな妖魔人――エーデルワイツという貴婦人のような存在。

 その実力はユンダにも劣らず、こちらは雪風と二人だったにもかかわらず終始圧倒されていた。途中彼女が私用で離脱したのは幸いだった。ダンジョン主であるデュランドとともに戦われていたら勝ち目はなかっただろう。

(もっとも原作でもナクルと小競り合い程度で、同じようにデュランドを放ってユンダは去ったらしいけど)

 だから妖魔人の違いはあれど、流れにそれほど違いはなかった。

「まあとにかく問題なく第二期は始まったわけだけど……問題はこの次なんだよなぁ」

 次に起こるであろうイベントに沖長は頭を悩ましていた。
 長門やこのえから聞いた次なるイベント。それは第二期において、第一期に続いてのナクルの悲劇に相当するもの。

 第一期では、蔦絵の死から始まり、友人となった水月の廃人化(植物状態)。立て続けに起こる悲劇にもナクルは心を折ることなく、ただ一つの希望に縋って前へと進んでいく。

 そして第二期で新たな力に目覚める……が、そこでまた彼女に大きな悲劇が襲い掛かる。

「でもそうか……だからあの場で火鈴が助けにくる流れになったのかもな」

 ここで火鈴が出てくるということは、つまり今後彼女がフューチャーされるということが分かって頂けるだろうか。
 そう、次なるイベントには火鈴が大きく関わってくる。原作ではナクルもまた【異界対策局】に身を置き、そこの先輩勇者である火鈴が師匠のような役割になっていた。

 頼りになる火鈴にナクルは憧れを抱き、いずれ彼女に背中を任せてもらえるくらいに強くなると意気込んでいた。そんな矢先、ユンダに目を付けられたナクルは、あるダンジョンに誘い込まれてしまう。

 そこで待ち受けていたのは、これまでとはまた違った異質を持った妖魔だった。その妖魔はナクルが抱えている闇を曝け出し、そのせいでナクルの心が壊れる寸前だったのだが、そこで火鈴が登場し窮地を救ってくれる。

 しかし精神的なダメージのせいで戦闘不能のナクルを庇いながら、ユンダと妖魔相手はさすがの火鈴でも荷が重かったのか、重傷を負ってしまうのだ。
 主人公であるナクルは、そこで奮い立ち火鈴とともに戦うが、今度は火鈴が精神汚染を受けてしまう。そのせいで火鈴が暴走しナクルと死闘を繰り広げることになる。

 しかし火鈴はナクルにトドメを刺す瞬間、僅かに残った理性を保ち、驚くことに自害をすることになってしまうのである。
 目の前で自分が憧れた者が息を引き取っていく姿が、蔦絵と重なってナクルもまた暴走することに。その暴走力は凄まじくユンダも致命傷に近い負傷を受け撤退し、ダンジョン主も一掃する。しかしそれでもナクルの暴走は止まらず、現実世界に戻ってもなお暴れ回っていた。

 そこで現れたのが十鞍千疋であり、ナクルの暴走を止めることに成功する……が、ナクルの負った心の傷は深く、しばらく彼女は引きこもってしまうという流れとなる。

 一体作者はナクルにどれだけの悲劇を背負わせるつもりだろうかと、読者からは批判めいた声も多くあったらしい。当然だ。沖長だってそう思う。普通の感性をしていたら、さすがに酷過ぎると声を上げるだろう。

(それでも結局ナクルは立ち上がるんだけど…………許せねえよな)

 そんな流れなんてクソくらえだ。こちとらナクルは可愛い妹分で、できる限り彼女には不幸を味わってほしくない。だから原作通りの流れなど、絶対に許容できるわけがない。
 しかし前回、火鈴が助けに来てくれたのは、この世界ではあまり接点のない彼女との関係に深みを持たせるための、何らかの世界の修正ではないかと疑ってしまう。

 そうすることでナクルが彼女に強い思い入れをするように仕向け、原作の悲劇を描こうとしている……とか。

 考え過ぎかもしれないが、あの場で火鈴が現れる都合の良さに違和感を覚えたのも事実だった。もしそういう修正力が働いているとしたら、このまま何もせずに流されると、原作を再現することに繋がるような気がする。

「……ったく、神様もしんどい世界に転生してくれたもんだよ」

 もっと平和な世界が良かったと心の底から思う。それでもナクルたちに出会えたことには感謝しているが、よもや悲劇が蔓延する創作物語の中なんて思いも寄らなかった。

(とりあえず一つずつできることをしていくしかねえよな。どこでイレギュラーが発生するか分かったもんじゃねえし)

 ベッドから起き上がり大きく伸びをする。伊豆にある籠屋本家への旅行から帰って来て数日、次なるイベントはすぐそこまで迫ってきていた。
 改めて決意を胸に秘めていると、スマホがブルブルと震えたので確認する。

「ん? 雪風から?」

 雪風とは連絡先を交換していて、ほぼ毎日のようにメッセージが送られてくる。そのほとんどはとりとめもない可愛らしいやり取りではあるが、今回そこに書かれたメッセージを見て思わずギョッとした。

 そこにはこう書かれてあったのだ。



 ――――――次の休日に、そちらにお泊まりに行きます。



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