俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
232 / 258

231

しおりを挟む
 何とかナクルたちとともに原作二期の始まりであるイベントを乗り越えることができた。
 ただ、そこにはやはり幾つかイレギュラーが生まれた。

 細かいことを上げればキリがないが、大きいものでいうならば、一つは柳守雪風という新たな勇者の誕生だろう。彼女は確かに原作でも勇者として覚醒するが、そのタイミングはもっと後になってからだ。

 第二期の初期イベントで覚醒するなどという描写はない。長門にも確認を取ったが、そのような流れは知らなかったという。ただし作者が元々意図していた可能性はあるということ。

 以前にも、連載ではなく読み切りやゲームの内容などが組み込まれている可能性があることが示唆されていたので、雪風の覚醒も元々予定されていたことも考えられると。しかしそんなことを考慮すると、それこそキリがないので気にしないことにした。

 そしてもう一つは、ナクルの第二次覚醒が起きていないこと。これは後々に響く問題かもしれないと長門も口にしていた。同時にもう一人の転生者で味方でもある壬生島このえにも確かめたが、彼女も今後に何かしら影響する可能性が高いと考えだった。

 最後に沖長がピンチの時に駆けつけてくれたのが戸隠火鈴だったこと。原作ではここで十鞍千疋が登場し、これがきっかけでナクルと仲を深めていくのだが、すでに千疋はこちらというか沖長の味方であり、彼女はあの場にはいなかった。何せ、もう一人の勇者仲間である九馬水月の修練に付き合っていたのだから。それも沖長から頼んだことだった。

 こんな感じでいろいろなことが原作とは違っているが、概ねの流れとしては大きく外れてはいないはず。故に今後も原作通りのイベントは起きてくるだろう。

(いや、もう一つ忘れちゃいけないのがあったな)

 沖長はベッドの上で仰向けになりながら重要な改変された部分を思い出す。
 それはダンジョン内で遭遇した妖魔人のこと。
 本来ならあの場でナクルが出会うのはユンダという、以前に沖長が殺されかけた相手。しかし何故かそこにいたのは新たな妖魔人――エーデルワイツという貴婦人のような存在。

 その実力はユンダにも劣らず、こちらは雪風と二人だったにもかかわらず終始圧倒されていた。途中彼女が私用で離脱したのは幸いだった。ダンジョン主であるデュランドとともに戦われていたら勝ち目はなかっただろう。

(もっとも原作でもナクルと小競り合い程度で、同じようにデュランドを放ってユンダは去ったらしいけど)

 だから妖魔人の違いはあれど、流れにそれほど違いはなかった。

「まあとにかく問題なく第二期は始まったわけだけど……問題はこの次なんだよなぁ」

 次に起こるであろうイベントに沖長は頭を悩ましていた。
 長門やこのえから聞いた次なるイベント。それは第二期において、第一期に続いてのナクルの悲劇に相当するもの。

 第一期では、蔦絵の死から始まり、友人となった水月の廃人化(植物状態)。立て続けに起こる悲劇にもナクルは心を折ることなく、ただ一つの希望に縋って前へと進んでいく。

 そして第二期で新たな力に目覚める……が、そこでまた彼女に大きな悲劇が襲い掛かる。

「でもそうか……だからあの場で火鈴が助けにくる流れになったのかもな」

 ここで火鈴が出てくるということは、つまり今後彼女がフューチャーされるということが分かって頂けるだろうか。
 そう、次なるイベントには火鈴が大きく関わってくる。原作ではナクルもまた【異界対策局】に身を置き、そこの先輩勇者である火鈴が師匠のような役割になっていた。

 頼りになる火鈴にナクルは憧れを抱き、いずれ彼女に背中を任せてもらえるくらいに強くなると意気込んでいた。そんな矢先、ユンダに目を付けられたナクルは、あるダンジョンに誘い込まれてしまう。

 そこで待ち受けていたのは、これまでとはまた違った異質を持った妖魔だった。その妖魔はナクルが抱えている闇を曝け出し、そのせいでナクルの心が壊れる寸前だったのだが、そこで火鈴が登場し窮地を救ってくれる。

 しかし精神的なダメージのせいで戦闘不能のナクルを庇いながら、ユンダと妖魔相手はさすがの火鈴でも荷が重かったのか、重傷を負ってしまうのだ。
 主人公であるナクルは、そこで奮い立ち火鈴とともに戦うが、今度は火鈴が精神汚染を受けてしまう。そのせいで火鈴が暴走しナクルと死闘を繰り広げることになる。

 しかし火鈴はナクルにトドメを刺す瞬間、僅かに残った理性を保ち、驚くことに自害をすることになってしまうのである。
 目の前で自分が憧れた者が息を引き取っていく姿が、蔦絵と重なってナクルもまた暴走することに。その暴走力は凄まじくユンダも致命傷に近い負傷を受け撤退し、ダンジョン主も一掃する。しかしそれでもナクルの暴走は止まらず、現実世界に戻ってもなお暴れ回っていた。

 そこで現れたのが十鞍千疋であり、ナクルの暴走を止めることに成功する……が、ナクルの負った心の傷は深く、しばらく彼女は引きこもってしまうという流れとなる。

 一体作者はナクルにどれだけの悲劇を背負わせるつもりだろうかと、読者からは批判めいた声も多くあったらしい。当然だ。沖長だってそう思う。普通の感性をしていたら、さすがに酷過ぎると声を上げるだろう。

(それでも結局ナクルは立ち上がるんだけど…………許せねえよな)

 そんな流れなんてクソくらえだ。こちとらナクルは可愛い妹分で、できる限り彼女には不幸を味わってほしくない。だから原作通りの流れなど、絶対に許容できるわけがない。
 しかし前回、火鈴が助けに来てくれたのは、この世界ではあまり接点のない彼女との関係に深みを持たせるための、何らかの世界の修正ではないかと疑ってしまう。

 そうすることでナクルが彼女に強い思い入れをするように仕向け、原作の悲劇を描こうとしている……とか。

 考え過ぎかもしれないが、あの場で火鈴が現れる都合の良さに違和感を覚えたのも事実だった。もしそういう修正力が働いているとしたら、このまま何もせずに流されると、原作を再現することに繋がるような気がする。

「……ったく、神様もしんどい世界に転生してくれたもんだよ」

 もっと平和な世界が良かったと心の底から思う。それでもナクルたちに出会えたことには感謝しているが、よもや悲劇が蔓延する創作物語の中なんて思いも寄らなかった。

(とりあえず一つずつできることをしていくしかねえよな。どこでイレギュラーが発生するか分かったもんじゃねえし)

 ベッドから起き上がり大きく伸びをする。伊豆にある籠屋本家への旅行から帰って来て数日、次なるイベントはすぐそこまで迫ってきていた。
 改めて決意を胸に秘めていると、スマホがブルブルと震えたので確認する。

「ん? 雪風から?」

 雪風とは連絡先を交換していて、ほぼ毎日のようにメッセージが送られてくる。そのほとんどはとりとめもない可愛らしいやり取りではあるが、今回そこに書かれたメッセージを見て思わずギョッとした。

 そこにはこう書かれてあったのだ。



 ――――――次の休日に、そちらにお泊まりに行きます。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。 だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。 一度目では騙されて振られた。 さらに自分の力不足で全てを失った。 だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。 ※他サイト様にも公開しております。 ※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※ ※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...