252 / 258
251
しおりを挟む
連休が終わりを告げ、また授業の日々が続く。
先日、名残惜しそうに涙目で沖長に抱き着きながら「帰りたくないです!」と嘆いていた雪風も、今は地元の学校でしっかり小学生をしていることだろう。もっとも毎日メッセージや電話のやり取りをしているので、彼女の現状は常に把握(強制的に)させられているが。
本日の放課後は久々に一人で帰宅することになっていた。
ナクルは友達と約束があるらしく、水月も家族と食事に出かけるということで早めに帰っていったのだ。
対して沖長は、このまま直帰するか、それともどこかに寄り道をするか迷っている。小学生児童としては真っ直ぐ家に向かうのが義務なのだろうが、精神的に大人である沖長にとっては、どうも守りにくい事項でもあった。
だからほとんどの場合、商店街などに顔を出しては食べ歩きに勤しんだりしている。今日も何か美味しいグルメでもと思い街中を散策しようと歩き出したところ――。
「――沖長?」
不意に名を呼ばれて振り返ると、そこには一人の少女がこちらを見ていた。目が合うと、その少女は朗らかな笑みを浮かべる。
「久しぶりね、沖長」
ボリューム満点の長い銀色の髪が風で大きく揺らいでいる。吸い込まれるような紺碧の瞳に可愛らしい小さい鼻。それらは初めて会った時からあまり変わっていないが、少し伸びた身長に大人びた声音と顔つきが、確かな年月に対する変化を知らせてくる。
「はい。お久しぶりです――夜風さん」
金剛寺夜風。あの転生者の一人である金剛寺銀河の姉にして、小学一年生から何かと世話になってきた人物。
今は中学二年生となり、頻繁に会うことはなくなったが、それでもたまに向こうから連絡をしてくることがあり関係は続いていた。
「ホントに久しぶりじゃない。この前……えっと、アタシの誕生日にプレゼントをくれた時だっけ?」
「そんな前でしたっけ?」
「アタシが中学に入ってから滅多に会わなくなったもんねー。もっと会いにきてくれても良かったのに」
「夜風さんには夜風さんの付き合いがあると思いまして」
中学になると、また新たな出会いが増える。授業だって難しくなるし、小学生の自分が彼女の時間を奪うのは申し訳ないと思ったのだ。
「そんなこと気にしてたのね。相変わらずアンタは変なとこで遠慮するんだから。このおバカ」
そう言いながら、人差し指で額をコツンと押してきた。その表情はどこかからかうよな雰囲気で、怒らせてはいないようでホッとした。
「それにしても夜風さん」
「なぁに?」
「……何だか大人びましたよね?」
「あのね、こう見えても十四歳なんだから成長するわよ。アンタだって大分背も伸びてきて、もうすぐ追いつかれそうなんだけど……」
夜風は同年代の女子と比べると若干小さい方。沖長は逆に大きい方ということもあり、もしかしたらあと一年くらいで追いつくかもしれない。
「あはは、別に身長なんて気にする必要なんてないですよ。小さくても夜風さんは可愛いんですから」
「~~~~~っ!?」
沖長の言葉を受け、瞬間的に顔を真っ赤にして口をパクパクさせる夜風。
「? どうかしましたか?」
「っ…………はぁぁぁぁぁ。そうだった。コイツはこういう奴だったのを忘れてたわ……」
「はい?」
「別に何でもないわよ! 沖長は結局沖長のままだったってこと!」
「……どういうことです?」
何だか不満気に口を尖らせているが、別に問題発言をした覚えなどないので首を傾げてしまう。
「……ったく、そんなことばっかしてるといつか後ろから刺さるんだからね!」
「えっと…………気を付けます?」
「これは……全然分かってないわね……はぁ。まあいいわ。ところで時間ある?」
「ああはい。大丈夫ですよ」
「そっか。んじゃ、ちょっと付き合いなさいよ」
夜風は楽し気に笑うと、沖長の手をギュッと掴んで歩き始める。一人で歩けると言うが、夜風は「気にしない気にしなーい」と取り合ってくれなかった。
それから駅の方へと進んでいき、ファストフード店へと入っていく。夕食前ということもあり、フライドポテトとジュースだけを頼んだ。その際に、夜風が奢ってくれることになった。何でも姉として弟分に払わせるわけにはいかないとのこと。
一度は断ったものの、あちらも折れることのない強い意思を感じたので、ここは素直に彼女の顔を立てることにしてご馳走になった。
頼んだメニューが載ったトレイを受け取ると、二階にあるイートインスペースに上がり、外を眺めることができる端のテーブル席へと着く。
目の前に置いたトレイに視線を落としつつ思わず頬が引き攣る。何故ならそこには、幾つも積み重なったハンバーガーの山があったからだ。
「マジで全部食べる気ですか、これ?」
「ん? とーぜんじゃない! こんくらいはペロリよペロリ!」
明らかにその小さな身体と食べる量が合っていない。
(そういや夜風さんって見た目の割に大食漢だったなぁ)
こうして二人きりで食事などに出かけることも少なくなかったが、彼女はその度に結構な量を口にしていたことを思い出す。前にもデカ盛りグルメの挑戦を店がやっていて、難なく成功して賞金まで獲得していた。
あれだけ食べてもなお太らず小さいままという不可思議な事実。もっとも本人は幸せそうなので、食べることが好きな沖長も、親近感が湧くので止めることはしないが。
僅か二十秒足らずで二個目のハンバーガーに手を伸ばしている夜風を見ながら、沖長もまた十本目くらいのポテトを取る。ここのポテトは外がカリッとしていて、中がしっとりと芋感も充足に感じられて好きなタイプ。加えてガーリックパウダーがかけられているので、食欲を刺激して永遠に食べられそうな危険なグルメである。
「あ~ん! んぅ~おいふぃぃぃ~!」
本当に美味しそうに食べるなと、夜風を見ているだけでこちらも幸せな気持ちが込み上げてくる。
「あ、ほら沖長も食べなさい! これ上げるから!」
そう言ってハンバーガーを差し出してくる。
「あ、えっと……じゃあ一つだけ」
晩飯のことを考えていたが、目の前でこれだけ食べられればやはり我慢できなかった。
それから沖長たちは、食べながら互いの現況を話し合う。
先日、名残惜しそうに涙目で沖長に抱き着きながら「帰りたくないです!」と嘆いていた雪風も、今は地元の学校でしっかり小学生をしていることだろう。もっとも毎日メッセージや電話のやり取りをしているので、彼女の現状は常に把握(強制的に)させられているが。
本日の放課後は久々に一人で帰宅することになっていた。
ナクルは友達と約束があるらしく、水月も家族と食事に出かけるということで早めに帰っていったのだ。
対して沖長は、このまま直帰するか、それともどこかに寄り道をするか迷っている。小学生児童としては真っ直ぐ家に向かうのが義務なのだろうが、精神的に大人である沖長にとっては、どうも守りにくい事項でもあった。
だからほとんどの場合、商店街などに顔を出しては食べ歩きに勤しんだりしている。今日も何か美味しいグルメでもと思い街中を散策しようと歩き出したところ――。
「――沖長?」
不意に名を呼ばれて振り返ると、そこには一人の少女がこちらを見ていた。目が合うと、その少女は朗らかな笑みを浮かべる。
「久しぶりね、沖長」
ボリューム満点の長い銀色の髪が風で大きく揺らいでいる。吸い込まれるような紺碧の瞳に可愛らしい小さい鼻。それらは初めて会った時からあまり変わっていないが、少し伸びた身長に大人びた声音と顔つきが、確かな年月に対する変化を知らせてくる。
「はい。お久しぶりです――夜風さん」
金剛寺夜風。あの転生者の一人である金剛寺銀河の姉にして、小学一年生から何かと世話になってきた人物。
今は中学二年生となり、頻繁に会うことはなくなったが、それでもたまに向こうから連絡をしてくることがあり関係は続いていた。
「ホントに久しぶりじゃない。この前……えっと、アタシの誕生日にプレゼントをくれた時だっけ?」
「そんな前でしたっけ?」
「アタシが中学に入ってから滅多に会わなくなったもんねー。もっと会いにきてくれても良かったのに」
「夜風さんには夜風さんの付き合いがあると思いまして」
中学になると、また新たな出会いが増える。授業だって難しくなるし、小学生の自分が彼女の時間を奪うのは申し訳ないと思ったのだ。
「そんなこと気にしてたのね。相変わらずアンタは変なとこで遠慮するんだから。このおバカ」
そう言いながら、人差し指で額をコツンと押してきた。その表情はどこかからかうよな雰囲気で、怒らせてはいないようでホッとした。
「それにしても夜風さん」
「なぁに?」
「……何だか大人びましたよね?」
「あのね、こう見えても十四歳なんだから成長するわよ。アンタだって大分背も伸びてきて、もうすぐ追いつかれそうなんだけど……」
夜風は同年代の女子と比べると若干小さい方。沖長は逆に大きい方ということもあり、もしかしたらあと一年くらいで追いつくかもしれない。
「あはは、別に身長なんて気にする必要なんてないですよ。小さくても夜風さんは可愛いんですから」
「~~~~~っ!?」
沖長の言葉を受け、瞬間的に顔を真っ赤にして口をパクパクさせる夜風。
「? どうかしましたか?」
「っ…………はぁぁぁぁぁ。そうだった。コイツはこういう奴だったのを忘れてたわ……」
「はい?」
「別に何でもないわよ! 沖長は結局沖長のままだったってこと!」
「……どういうことです?」
何だか不満気に口を尖らせているが、別に問題発言をした覚えなどないので首を傾げてしまう。
「……ったく、そんなことばっかしてるといつか後ろから刺さるんだからね!」
「えっと…………気を付けます?」
「これは……全然分かってないわね……はぁ。まあいいわ。ところで時間ある?」
「ああはい。大丈夫ですよ」
「そっか。んじゃ、ちょっと付き合いなさいよ」
夜風は楽し気に笑うと、沖長の手をギュッと掴んで歩き始める。一人で歩けると言うが、夜風は「気にしない気にしなーい」と取り合ってくれなかった。
それから駅の方へと進んでいき、ファストフード店へと入っていく。夕食前ということもあり、フライドポテトとジュースだけを頼んだ。その際に、夜風が奢ってくれることになった。何でも姉として弟分に払わせるわけにはいかないとのこと。
一度は断ったものの、あちらも折れることのない強い意思を感じたので、ここは素直に彼女の顔を立てることにしてご馳走になった。
頼んだメニューが載ったトレイを受け取ると、二階にあるイートインスペースに上がり、外を眺めることができる端のテーブル席へと着く。
目の前に置いたトレイに視線を落としつつ思わず頬が引き攣る。何故ならそこには、幾つも積み重なったハンバーガーの山があったからだ。
「マジで全部食べる気ですか、これ?」
「ん? とーぜんじゃない! こんくらいはペロリよペロリ!」
明らかにその小さな身体と食べる量が合っていない。
(そういや夜風さんって見た目の割に大食漢だったなぁ)
こうして二人きりで食事などに出かけることも少なくなかったが、彼女はその度に結構な量を口にしていたことを思い出す。前にもデカ盛りグルメの挑戦を店がやっていて、難なく成功して賞金まで獲得していた。
あれだけ食べてもなお太らず小さいままという不可思議な事実。もっとも本人は幸せそうなので、食べることが好きな沖長も、親近感が湧くので止めることはしないが。
僅か二十秒足らずで二個目のハンバーガーに手を伸ばしている夜風を見ながら、沖長もまた十本目くらいのポテトを取る。ここのポテトは外がカリッとしていて、中がしっとりと芋感も充足に感じられて好きなタイプ。加えてガーリックパウダーがかけられているので、食欲を刺激して永遠に食べられそうな危険なグルメである。
「あ~ん! んぅ~おいふぃぃぃ~!」
本当に美味しそうに食べるなと、夜風を見ているだけでこちらも幸せな気持ちが込み上げてくる。
「あ、ほら沖長も食べなさい! これ上げるから!」
そう言ってハンバーガーを差し出してくる。
「あ、えっと……じゃあ一つだけ」
晩飯のことを考えていたが、目の前でこれだけ食べられればやはり我慢できなかった。
それから沖長たちは、食べながら互いの現況を話し合う。
145
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
社畜の異世界再出発
U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!?
ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。
前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。
けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る
がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。
その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。
爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。
爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。
『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』
人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。
『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』
諸事情により不定期更新になります。
完結まで頑張る!
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる