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番外編
こたえ
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それは、ポツンと座っていた。
闇色の布を広げたような夜空の下、途方もない顔をしてたった一人膝を抱えて座っていた。
風でわずかに流れる砂漠の砂にも興味を示さず、ただただぼんやりと頼り気なく存在するその人物を、どうしても守ってやらなければと強く感じた。
***
「お、おにいざんんんんんんんんん!!こ、この、ゲームの、おわりがた、おじえでぐだざいいいいいいいいい!!!」
人の顔は非常によく出来た、鏡だ。
目の前の人間が自分のことをどう思っているのかよくわかる。信頼していなければ視線は合わないし、疑っていれば胡散臭い笑みの仮面。話もしたくなければ、顔さえ写さない。
そしてそれは、自分の行動そのままだ。
嫌な顔をされれば嫌な顔をしてしまう。信頼されなければ信頼しない。
だからどんな時でも笑おうと、長い間心に決めていたはずの誓いも、"異常事態"を前にすっかり頭の中から抜け落ちてしまっていた。
そんな時、その鏡に両目から大量の涙を流して純真さを写し出す者がいた。
***
「なのにまだ旅人のままか?転職しに行け、転職」
「ええと、今の職場は割りと気に入っているので出来ればこのまま続けたいのですが…ま、万が一止むを得ない場合は同じ事務系が…」
「誰がリアルの話をした。」
「あはははははは!!あはははははは!!もうだめ、もうやめて、それ以上しゃべらないで」
春風って目に見えるんだ、と驚きに目を見開いた。
彼は―――いや彼女は、突風の様に吹き荒んで私たちの目から鱗を落とした。
それには濃い靄(もや)がかかっていたのか、鱗が取れた瞬間にまるで別世界の様に目の前の光景が違って見えた。
苛立っているように見えた人物は、不安に心を軋ませていただけだった。
無関心そうに見えた人物は、冷静に現状を把握しようとしているだけだった。
私は自分の目が曇っていたことを、嫌でも実感させられた。
真っ直ぐに向けられた純粋さに、春の風に頬を撫でられたかのように、強張っていた体が解れていくのを感じた。
***
「申し訳ないのですが、多分やってないです。キャラクター作って、さっやるぞー!って、クリックしたら、あの砂漠に降り立ちてまして…そこでアリを刺す作業しかしてないので…」
「…そうだよねぇ、何しろこの“異常事態”を『あ、こういうゲームなんだー最近のゲームはすごいなー』なんて思いながら過ごしてた兵(つわもの)だもんねー」
「じゃあパソコンでのプレイは勿論、こういうゲーム自体もやったことがないのかな?」
「はい…ゲームっていえば、棒を回転させながらくっつけあうゲームぐらいしか…」
ゲームの世界に入り込んでしまったなんて、ラノベじゃあるまいし。決して直視したくない現実。その現実を疑うことなく、一つ一つ全て鵜呑みにしていく砂漠の砂のような存在。
ばかじゃないの、と素で口から零れていた。
人に悪口を言うのも言われるのも、大っぴらにしたことなんて今までなかった。
円滑さが求められる現代社会でわざわざ自分から敵を増やす馬鹿な人間なんて早々いやしない。
なのに、握りつぶせば崩せるんじゃないだろうかと思うほど、脆弱な目の前の存在が苛立ってしょうがなかった。
怒りのままに思ったままを口に出せば、砂漠の砂はするすると拳の中から姿を保ったまま零れ落ちていった。
砂漠の砂は、どんな感情も吸い込んでいく。
***
「お姉さん、惚れちゃったらちゃんと責任取って童貞奪ってくださいよ」
告白して振られたからと、なんとなく始めたオンラインゲームに閉じ込められてしまったという不運の初心者。
和ませてくれたお礼にと目をかけてやっていたら、いつの間にかするりと懐の深い場所にまで潜り込んできていた。
しょうがないなと頭を撫でてやっていたつもりが、その毛並みの温かさにこっちが癒されていていることに気づいたのは、いつだったか。
なぜか、逃げ出してもお痛をしても怒る気にすらなれなかった。
決して優しくはないこんな自分にも、どんどんとじゃれついてくるしょうのない野良犬。
だけど、いつの間にか。
言葉を交わすことさえ億劫だとばかりにいがみ合っていた全員が、自然に笑えるようになっていた。
***
「ずっと貴方が好きでした。付き合ってください。」
「無理。」
告白して振られた腹いせに現実逃避のつもりで始めたゲームで、まさかの現実世界逃避。
ゲームから脱出するために、なんとかっていう塔のなんとかを目指して皆で旅立った。
私には、優れた頭脳も、折れない勇気も、特別な魔法も、何もなかった。
だけど、とっても素敵なものを手に入れた。
ろくにまっすぐ歩くことすらできない私でも。
この輝かんばかりの仲間達と一緒に、一生懸命歩いていけるはず。
終
闇色の布を広げたような夜空の下、途方もない顔をしてたった一人膝を抱えて座っていた。
風でわずかに流れる砂漠の砂にも興味を示さず、ただただぼんやりと頼り気なく存在するその人物を、どうしても守ってやらなければと強く感じた。
***
「お、おにいざんんんんんんんんん!!こ、この、ゲームの、おわりがた、おじえでぐだざいいいいいいいいい!!!」
人の顔は非常によく出来た、鏡だ。
目の前の人間が自分のことをどう思っているのかよくわかる。信頼していなければ視線は合わないし、疑っていれば胡散臭い笑みの仮面。話もしたくなければ、顔さえ写さない。
そしてそれは、自分の行動そのままだ。
嫌な顔をされれば嫌な顔をしてしまう。信頼されなければ信頼しない。
だからどんな時でも笑おうと、長い間心に決めていたはずの誓いも、"異常事態"を前にすっかり頭の中から抜け落ちてしまっていた。
そんな時、その鏡に両目から大量の涙を流して純真さを写し出す者がいた。
***
「なのにまだ旅人のままか?転職しに行け、転職」
「ええと、今の職場は割りと気に入っているので出来ればこのまま続けたいのですが…ま、万が一止むを得ない場合は同じ事務系が…」
「誰がリアルの話をした。」
「あはははははは!!あはははははは!!もうだめ、もうやめて、それ以上しゃべらないで」
春風って目に見えるんだ、と驚きに目を見開いた。
彼は―――いや彼女は、突風の様に吹き荒んで私たちの目から鱗を落とした。
それには濃い靄(もや)がかかっていたのか、鱗が取れた瞬間にまるで別世界の様に目の前の光景が違って見えた。
苛立っているように見えた人物は、不安に心を軋ませていただけだった。
無関心そうに見えた人物は、冷静に現状を把握しようとしているだけだった。
私は自分の目が曇っていたことを、嫌でも実感させられた。
真っ直ぐに向けられた純粋さに、春の風に頬を撫でられたかのように、強張っていた体が解れていくのを感じた。
***
「申し訳ないのですが、多分やってないです。キャラクター作って、さっやるぞー!って、クリックしたら、あの砂漠に降り立ちてまして…そこでアリを刺す作業しかしてないので…」
「…そうだよねぇ、何しろこの“異常事態”を『あ、こういうゲームなんだー最近のゲームはすごいなー』なんて思いながら過ごしてた兵(つわもの)だもんねー」
「じゃあパソコンでのプレイは勿論、こういうゲーム自体もやったことがないのかな?」
「はい…ゲームっていえば、棒を回転させながらくっつけあうゲームぐらいしか…」
ゲームの世界に入り込んでしまったなんて、ラノベじゃあるまいし。決して直視したくない現実。その現実を疑うことなく、一つ一つ全て鵜呑みにしていく砂漠の砂のような存在。
ばかじゃないの、と素で口から零れていた。
人に悪口を言うのも言われるのも、大っぴらにしたことなんて今までなかった。
円滑さが求められる現代社会でわざわざ自分から敵を増やす馬鹿な人間なんて早々いやしない。
なのに、握りつぶせば崩せるんじゃないだろうかと思うほど、脆弱な目の前の存在が苛立ってしょうがなかった。
怒りのままに思ったままを口に出せば、砂漠の砂はするすると拳の中から姿を保ったまま零れ落ちていった。
砂漠の砂は、どんな感情も吸い込んでいく。
***
「お姉さん、惚れちゃったらちゃんと責任取って童貞奪ってくださいよ」
告白して振られたからと、なんとなく始めたオンラインゲームに閉じ込められてしまったという不運の初心者。
和ませてくれたお礼にと目をかけてやっていたら、いつの間にかするりと懐の深い場所にまで潜り込んできていた。
しょうがないなと頭を撫でてやっていたつもりが、その毛並みの温かさにこっちが癒されていていることに気づいたのは、いつだったか。
なぜか、逃げ出してもお痛をしても怒る気にすらなれなかった。
決して優しくはないこんな自分にも、どんどんとじゃれついてくるしょうのない野良犬。
だけど、いつの間にか。
言葉を交わすことさえ億劫だとばかりにいがみ合っていた全員が、自然に笑えるようになっていた。
***
「ずっと貴方が好きでした。付き合ってください。」
「無理。」
告白して振られた腹いせに現実逃避のつもりで始めたゲームで、まさかの現実世界逃避。
ゲームから脱出するために、なんとかっていう塔のなんとかを目指して皆で旅立った。
私には、優れた頭脳も、折れない勇気も、特別な魔法も、何もなかった。
だけど、とっても素敵なものを手に入れた。
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