パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ

文字の大きさ
6 / 45

6話 魔物討伐完了

しおりを挟む
「《ストレージ:イン》」

 剥ぎ取ったビッグアントの顎と甲殻を纏めて、虚無空間に収納。
 だけど、これでもまだ一部だ。

 顎と腹の甲殻以外は、剥ぎ取ってすらいない。
 無残な死骸が、そこら中に転がっている。

「ごめんベガ、そろそろいっぱいかな。限界まで入れる?」
「もう少しだけ探索を続けるつもりなんだ、空きを残しておいてくれ」

 彼女は《ウォーター》で、手にした三本の剣を濡らすと、雑巾で拭う。
 ビッグアントの血を落とし、そのうち一本を僕に投げた。

「おわっと……ありがと」
「礼には及ばないさ」

 戦闘後の処理は全て終わった。
 他の魔物が死骸に寄ってくる前に、僕らはその場を後にし、休息を取ることにした。

 ダンジョンでの活動に小休止は不可欠だ。
 人間である以上、体力や魔力にも限界はある。
 どちらかが底を尽きれば、その場でぶっ倒れる。
 帝都の街中ならいざ知らず、ダンジョンという過酷な場において、それは死に直結する。

「《ストレージ:アウト》」

 薪と火口を取り出し、形を組む。
 それを《ファイア》で着火し、焚き火を灯した。

 暖かい。

 燃え盛る火を前に、僕は腰を下ろして体育座り。
 一緒に取り出した魔力ポーションを、ぐいっと一気飲みした。

「ぷはぁ……体に染みるぅ……。やっぱ、魔術を使った後のポーションは最高だね」
「今のイオ、最高に可愛いな」
「へぇっ!? きゅ、急に何を!?」
「冗談だよ、冗談。それより、きちんと温まっておくんだよ。雨に濡れて、汗を掻いて、身体も冷えてるだろうからね」
「う、うん」

 真顔で言われて、ちょっとドキっとしちゃったよ。
 ベガって、顔も綺麗だし雰囲気もカッコいいから。
 男の僕でさえ心動かされたんだ。女の子なら一発だろうな。

 ……あっ。
 そういえば、何人もの女の子に囲まれて登校してたっけな。
 そんな彼女が、なんで僕なんかを選んでくれたんだろう?

「どうした、そんなじろじろ見て? もしかして、真に受けた?」
「いや、騎士学校の頃を思い出して」
「そう、残念。でも奇遇だね、私も思い出してた。イオが、筆記試験を主席で卒業したことを」
「肝心の実技は、下から数えたほうが早いんだけどね。あはは……」

 僕が自虐気味に笑うと、彼女は一切笑わずに腰を下ろす。
 胡坐を組んで、片膝を立て……って!?

 ぶんっ! 
 僕は咄嗟に顔を逸らす。

「やっぱり真に受けた? 私を直視できないくらい」
「す、スカートの中、見えるから! あ、足、閉じてよっ!」
「"見える"んじゃなくて、"見せてる"んだよ」
「衛兵さーんっ! 痴女にセクハラされています! 助けてくださいっ!」
「フッ、冗談だよ、冗談。本当に可愛いな、イオは」

 そんなこんな会話しつつ、焚き火で温まること数分。
 ベガは腰嚢から懐中時計を取り出し、時刻を確認した。

「……そろそろだな。行くぞ、イオ」

 彼女は立ち上がると、装備を最終点検し、焚き火を《ウォーター》で消す。

「んえ? どうかしたの?」

 別に、休憩時間が足りないっていうわけじゃない。
 前のパーティーでは、休憩時間中の雑用は全て僕の仕事だったから、休憩が短いのには慣れている。

 だけど、わざわざ時間を気にして出発するなんて珍しいな。
 暗いダンジョン内では、朝も夜も関係ないのに……。

「ついてきてくれれば分かるさ。ここからが、本来の目的だ」

 先へ進むベガの背中を、僕は慌てて追いかけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...