パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ

文字の大きさ
36 / 45

33話 オーガシャーマン2

しおりを挟む
「……さぁ、覚悟は出来てるよ、ダンジョンボス。果たして、二度も僕を殴り飛ばせるかな?」
「クックック……その覚悟、木っ端微塵に砕いてやろう! 惰弱な人間風情がァッ!」

 どしッどしッ、どしッどしッ!

 足音が大きく、間隔が短くなった。
 こちらへ走っている。

「《エクスプロール》ッ!」

 杖を振るい、魔術を詠唱。
 頭の中に、敵のおおまかな位置が流れ込んでくる。

 オーガシャーマンは……僕のすぐ後方!?
 くっ……!
 間に合ええぇッ!

 ──ブゥンッ!

 咄嗟にしゃがみ込んだ僕の頭上を、そら恐ろしい音が通り抜ける。

「やっぱり三度目も横薙いでくるなんて……僕以上に剣の才能無いよ。だから、見て学ぶと良い」

 刹那、僕の右手のブロードソードが煌めいた。
 弧を描いて放たれた鋼色の刃は斬り裂く──僕の左腕を。

「ギャッハッハ、取り返しのつかない失敗を犯したな、人間! 愚かなり!」

 幾つもの動脈が裂け、噴水のように噴き出す血潮。

 信じられないほどの痛みが、左腕に襲い掛かる。
 だけどッ!

 それでも僕は必死に、左手の短杖は落とさない!

「《コントロール:ウォーター》!」

 詠唱の直後。
 僕の左腕から血液が、噴水のように放たれる!

 ──もちろん、オーガシャーマンのほうへ。

「GUOOUッッ! オマエの血で、目がァ! これは目潰しか! ワタシの五感を鈍らせ……いや、違うッ!」

 どうやらオーガシャーマンも気が付いたようだ。
 透明なはずの全身が、"紅一色に染まっている"のを。

「『透明化』を看破するなんて、染料一つあればいい。だけど染料が血液(これ)しか無かった、というだけの事だよ」

 この場にも僕の《ストレージ》の中にも、染料は一切ない。
 普通なら、その時点で別の作戦に切り替える。
 嗅覚や聴覚を鋭敏にするとか、足音の位置を特定するとか。

 だけど僕は、考え抜いた。
 どこかに染料となるものはないか、と。

 その結果。
 一つだけ、たった一つだけ見つかった。
 尋常ならざる覚悟さえあれば手に入る染料(血液)が。

「自傷など、常人の発想ではない! 狂っているかオマエェッ!」
「最高の誉め言葉、ありがとう。……ベガっ!」

 言い終わるより早く。
 僕の真横をベガが駆け抜ける。
 風のような速度で、オーガシャーマンに肉薄した。

「このワタシが! 人間に負けるなど、あってはならぬのだアァッ!」

 血に塗れた骨の杖が、またもや横薙がれる。
 ベガは跳び上がって容易く回避。

「見えていれば、君の一撃なんて当たるわけないだろ」

 空中で一回転すると、彼女は華麗に着地。
 真っ赤な肉体に突き刺さったブロードソードの柄を、右手で掴んだ。

「《文月雨》」

 瞬時。
 オーガシャーマンの肉体に、七つの穴が環状に生じる。

「UGA……ッ? いま、何をされたのだ……ガハッ!」

 生物の動体視力では追い付けない七連撃の突きが、強靭な肉体を刺し貫いたのだ。
 ベガの魔力の証である紫の残像が、未だに傷口に残っている。

 しかし、それで終わらない。
 僕がベガの前へ躍り出て、

「《五月雨》ッ!」

 五連撃の突き!
 ザ、ザ、ザ、ザ、ザァ──ッ!

 環状の傷痕の内側に、五つの蒼い穴を生じさせる。

「UGUOAAA……ッ! GUAAOAOOAAッ!」

 外の紫の環状と、内の蒼い環状。
 傷の数は、合計十二。

 だが、その数も色もはっきりは見えないほど、

 ダバアアアァァァ──ッ!

 紫の血液が勢いよく、オーガシャーマンの身体から溢れ出す。

「クックック……どうやらワタシは死ぬようだ。残念ながら、オマエを伴侶とすることは叶わぬようだな……」
「お生憎さま。身も心も、私の全てはイオのものだから」

 どさりっ。
 仰向けに倒れるオーガシャーマン。

 心底愉しそうな笑顔で、瞳は開いたままだ。
 だが、呼吸は無い。

 死んでいる。
 奴との戦いは終わったんだ。

「《ヒール》」

 僕は自身に回復魔術を掛け、自分で裂いた傷口を塞いだ。
 と同時。
 ふらり、と視界が傾いた。

 多分、僕も血を流しすぎたんだろう。
 それで、足に力が入っていないんだ。
 ……なんて考えても、この脱力感は、どうにもなんないや。
 はは……。

 でも、気分は悪くないかな。
 ボスは倒したし、ベガは守れた。
 不思議と、心の中は晴れやかだ。

 悔いはない。
 ……このまま死んでもいいや。

 視界に、岩の天井が映る。
 後頭部から地面に倒れ込む……はずだった。

「……っと。なぁーに、やりきった感出してるの、イオ?」

 倒れる寸前、ベガに抱き留められた。
 天井だけだった視界には、いつもの余裕そうな笑みが映り込む。

「実際に、やりきったからね……」
「いいや、まだだよ」

 僕をお姫様抱っこしながら、彼女はかぶりを振った。
 紫の髪が、さらさらと揺れる。

「あのダンジョンボスは僕が倒した、って宣言しないと。私の手柄になってしまうよ?」
「それでいいよ。ベガのおかげで勝てたんだから」

 笑顔でそう答えると、ベガは溜め息をついた。

「はぁ……仕方ないか」

 がばっ、と彼女は僕を起こすや、肩を貸して立たせてくれる。
 そして振り返った。
 発動主が息絶え、崩れていく岩の壁のほうへ。

「UGAAAAAAAAAAAAAAA!」
「甘いッ! 《アイシクルランス》!」

 未だに、ホブオーガたちと冒険者たちの戦いは続いている。
 だが、彼等は全員手を止め、こちらを見やった。

 ホブオーガも、冒険者も、ダンジョンボスと僕らの戦闘の行方が気になったのだろう。
 だけど、崩れた岩壁からも察せられる通り。

 砂埃の中、立っているのは"僕とベガ"だ。

「UGA……、IIAA……」
「イオ、ベガ……ッ! まさかあいつら……!」

 魔物の顔には絶望が、人間の顔には歓喜が浮かび上がる。
 ベガがそこへ、駄目押しの宣言。

「ホブオーガ共、よく聞け! お前達の主は、ここにいる"イオ"が討伐した!」
「え、ちょっと、ベガ! 話が違……」

 彼女は僕の声に、一切耳を貸さない。

「大人しく投降するか、この場を立ち去れ! さもなくば、イオの武技と魔術が、お前達をあのような姿に変えることだろう!」

 ベガが短剣を向けた先には、紫と紅の血に塗れまくった無残な死体。
 お世辞にも、綺麗とは言えない……。

「UGAU! GUAAAUUAI!」
「IIAAAA! GYAAAIIA!」

 このダンジョンで最強の存在であった主が、たった二人の人間の手によって敗北したのだ。
 僕らを恐れたホブオーガたちは、武器をも捨てて逃げ去った。

 ……どうやら僕らは、勝利を勝ち取ったようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

処理中です...