パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ

文字の大きさ
40 / 45

37話 決戦1

しおりを挟む
 玉座の下に隠された階段。
 それを降りると──巨大な鍾乳洞。

 そして中央には……

「で、でっけ……。これが、ドラゴン……ッ」
「なにが大きめのリザードだよ、小さめの丘じゃねぇか……」

 赤い鱗の、巨大なドラゴン。
 とぐろを巻いて丸くなり、眠りこけている。

「ファイター、サポーター、計画通り、側面と背面に! タンク、前面へ出ろ! ウィザード、アーチャーは攻撃の準備を!」

 兄上の指示に従い、冒険者と騎士団の面々は、各々の配置につく。

 鍾乳洞の広さもあって、本隊の人数は五十一名。

 兄上が命令した五つのジョブが、各八名ずつ。
 ヒーラーが六名。
 薬師が一人。
 撥弦楽器(バード)を手にした吟遊詩人・バードが一名。
 隊長である兄上と、その隣の副隊長で二人。
 王宮の書記官が一名。

 戦力は少ないと言わざるを得ない。
 だからこそ、

「こやつには、目覚めと同時に死んでもらう! さぁ、ファイター、サポーター、構えよ!」

 僕はブロードソードを抜き、《ストレージ》から"小瓶"を取り出す。
 真横には、同じように剣を抜いて、腰嚢から小瓶を取り出すベガの姿が。

「帝国騎士団も、意外と狡賢いことを考えるものだね。やぁやぁ我こそは……なんて言いながら一騎打ちでもするかと思ったよ」
「それ、一騎打ちじゃなくて、ただの自殺だよ」

 小瓶の蓋を親指で弾いて開け、その中の液体を剣先に垂らした。

 そして、ドラゴンの眼前まで歩み寄る。

 ファイター・サポーター合わせて十六名。
 全員、ドラゴンの真横と真後ろについた。
 準備は完了だ。

「それでは──始めよッ!」

 同時。
 "毒を塗った"十六振りの剣が、鱗と鱗の隙間に刺し込まれる!

 赤い血が十六の傷口から噴出。
 代わりに剣先の劇毒が体内へと侵入した。

 トリカブトとポイズンフロッグの毒袋を混ぜ合わせた強力な毒だ。
 それが十六振り分。
 人間なら五分と持たない。
 いかにドラゴンと言えど──

 しかしそこで。
 ドラゴンの瞼が、カッと開いた。

「《UWWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA────ッッッ!!!》」

 鼓膜が破れそうなほどの《咆哮》。
 咄嗟に耳を覆いたくなるような音量だ。

 それを正面で受けたタンク達は、身体が硬直。
『恐怖』の状態に陥り、足が震えだす。

「う、うぐッ……。あ、足がよぉ……」
「足が動かなくとも、盾だけは手放すなよ! 絶対だ!」
「腹を括りなさい! ウィザードを守れるのは私達だけなのよ!」

 だけど、《咆哮》の範囲は正面のみ。
 側面や背面を陣取った僕らは、頭と耳が痛いだけで済む。

 ……ここまで文献通りだ。
 だけど……滅茶苦茶、頭が痛い!
 割れそうだ……ッ!

 ポロロン♪

 心地よいリュートの音色が、《咆哮》のうるささを掻き消すように聞こえてくる。

 ポロロ、パラ、ポロ……ポロロン♪

 魔力で音量を増し、恐怖と痛みを和らげる《演奏》をしてくれているのだ。
 曲は悲しげ。
 暗く、深い。

 ゆっくりとリュートを弾き出したバードは更に、

「《星をも眩ます、かの御魂。枯れた花を手に、夜空召されし。ただ独りきり、閨待つ姫君。死に床と化す、新床は、寂しく半ば、空いたまま》」

 《歌》によって、『勇敢』の状態を付与。

 頭への痛みと、恐怖感が和らいだ!
 これで……戦えるッ!

 全ファイターとサポーターは、剣を握りなおす。

「今だ! 武技を放て! そやつの鱗を砕くのだ!」

 歌と演奏に混じる兄上の指示に、

「《横時雨》!」「《炎陽》……」「《夕立》」「《紅焔》ッ!」

 魔力が流れされ、色とりどりに輝きだす剣。
 十六の武技が、人間の筋力を越えた威力・速度で放たれる!

 ──ガァンッ、ギィンッ!

 鋼鉄を殴っているような鈍い音が、そこかしこから鳴り響いた。
 その直後。

「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA──ッ!!」

 ファイターとサポーターは、ほぼ全員──

 翼と尻尾で吹き飛ばされるッ!

 数瞬後。
 バァンッ!
 僕は壁に背中を打ち付け、手から剣を落とした。
 それを嘲笑うかのごとく、肺から空気が競り上がってくる。

「がはぁ……ッ!」

 そのまま地面に落下するが、なんとか足から着地。
 咳込みながらも、呼吸を整えた。

「ごほっ……ごほっ……。はぁー……はぁー……」
「ファイター、サポーター、一旦離れるのだ!」

 と、兄上の指示が違う意味で飛ぶが、既に僕らは飛ばされている。
 無事だったのは、人間離れした反射神経を持つ……ベガくらいだ。

「……ふっ、危ないじゃないか! カウンターを……といきたいところだけど、おあずけだね」

 彼女は身を翻して剣を納めると、飛ばされた僕のほうへ駆ける。
 これで、誤射の心配は無い。

「ウィザード、アーチャー! 今だ! 全火力を叩き込めエェ──ッ!」
「《ペイルフレイム》」「《爆裂魔弓》ッ!」「《ロックキャノン》!」「《放射連弓》!」

 蒼い炎が、高速の矢が、巨大な岩が、大量の矢が──
 その様々な攻撃が、全てドラゴンに襲い掛かる!

「UGOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA──ッッ!」

 炎が翼が包み。
 風が足元を切り裂き。
 矢が顔面で爆発し。
 数えきれないほどの岩と矢が全身に命中する。

 そして極めつけは──鍾乳洞の天井すれすれに発生した、岩の塊。
 直系五メートルはあるそれが、

「《メテオ》」

 燃え盛りながら、ドラゴンへと垂直落下!

 バアアアアアァァァァァ──ンッッ!!

「UGAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOO────ッッ!!」

 衝突の轟音とドラゴンの大音声が、鍾乳洞を支配する。

 同時、発生した波のような衝撃波。
 後衛職の何人かは後方へと吹き飛ばされ、前衛職も何人は尻もちをつく。
 僕も尻もちつきそうになったけど……ベガが背中を支えてくれた。

 ………………。

 そして、沈黙が訪れた。

 バードが楽器ごと吹き飛ばされ、《歌》と《演奏》は止んだ。
 《メテオ》の威力の凄まじさに、誰も声が出せない。

 そうして。
 この場にいる五十一名全員が、"岩の欠片で出来た山"を注視している。

「や、やったのか……?」

 誰が、ぽつりとそう言った。

 ぱら……。
 山頂の岩が、斜面を転がる。

「……勝ったんだ! 俺達、本当にドラゴンを倒したんだよ!」

 誰かが、そう叫んだ。

 ぱら、ぱら……。
 岩は、なおも転がり続ける。

「やっらぞ、俺らの勝利だ! 今日は美味いもんをたらふく──」

 しかしその言葉は、最後まで紡がれなかった。

「《UAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA────ッッッ!!!》」

 "生きたドラゴン"が、山の中から飛び上がる!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...