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第7話 お風呂

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 その日、俺はカインとの戦いのことばかり考えていた。

 当然、あのままの申込書にサインするつもりなんて、はなから無い。
 でも俺は首席を目指しているんじゃないのか?
 その先の高みを目指しているんじゃないのか?

 なら戦うということは悪い選択肢じゃないはずだ。
 ……これはチャンスなのかもしれないな。

 だから俺は退学についての誓約をオリヴィアに消してもらい、先生へと提出した。

「そういえばカレン。明日の対戦相手はどんな人なの?」

 俺はそう言いつつ、カレンの作ってくれたスープをすする。
 時刻は夕方。
 既に帰宅している。

「魔術自体は大したこと無いと思うんですが、スキルがかなり強い方だと思いますね」

 カレンはスプーンを口に運びながら答える。
 ただスープを飲むだけなのに、その仕草でさえかなり上品だ。

「そうか……見に行きたかったよ」
「お兄様、明日は何かあるのでしょうか?」
「……友達の魔術戦を見るんだ」

 実際明日はオリヴィアの試合を見てから、カインに会うつもりだ。
 まぁ"だけ"って訳じゃないけど……。

「来ては、くださらないのですか?」

 ……っぐ、可愛い。
 この上目遣いは反則だろ……!

「いっ、行きたいのは山々なんだけど……丁度時間が被っちゃってるんだ」

 被ってるのはカレンとオリヴィアの時間じゃなくて、俺とカレンの時間なんだけどね……。

「その方はそれ程大切な方なんですか?」
「ま、まぁね。今度は必ず行くから今回は許して!」

 俺は手を合わせて頭を下げた。

「もう。お兄様はずるいですね……」

 カレンは頬を膨らませて不満そうだけど、どうやら許してくれたようだ。

「はは……本当ごめんね。代わりといっては何だけど、今日はバイトもないし何かしてほしい事とかある?」

 今日、バイトは休みだ。
 ゆっくり出来るし、明日はカレンの初魔術戦だから――
 家族サービスといきますか!

「……なら、一緒にお風呂……入りませんか……?」

 んんんんん!!??
 カカカカレン!!??

 だ、ダメだ!
 それは流石に――

「イイイ、イイヨ!」

 頭より口は素直だった。

 待って!
 流石に断らないと――

「……では、先に入っておきますね……」

 ――バタン。
 行ってしまった。
 カレンが風呂場に。
 いや、それより言ってしまった……のかもしれない。
 俺の口が。

 ◇◇◇

 俺は脱衣所で服を脱いでいた。
 頭の中はこれからのことで一杯だ。
 もうスキルも魔術戦もアホらしい……。
 そうまで思えてくる。

 確かに子供の頃はよく一緒に入っていた。
 しかし、もうそんな年ではない。
 俺も異性に関して意識するようになったし、カレンも大きくなった。
 ……そう大きく。

 嬉しいことにカレンは同世代と比べてかなり成育が良い。
 背も高い方だし……その他もかなり大きい……。
 その事自体は兄として嬉しいのだが……今はそのせいで、心が不安に満たされている。

 服はすぐに脱ぎ終わった。
 一応腰にタオルは巻いた。
 あとは脱衣所から風呂場への扉を開くだけ――

 ふぅ……。
 緊張するな。
 ……よしっ!

「入ります!」

 気合を入れて扉を開く。

 その瞬間――熱い湯気が身体に纏わりつき、優しげな香りが鼻孔をくすぐる。
 そして目に入ったのは、風呂椅子に腰かける背中だ。

 きめ細かい白くて柔らかな肌。
 湿気を帯び、肌にくっ付くバスタオルが、滑らかな身体のラインを浮かび上がらせている。
 シャンプーをする為に上がった、肉付きの良い二の腕が更にたまらない。
 その姿は、頭に触れる細い指先でさえ何故か妙に艶めかしい。
 それよりも腰から――

 おおっと、いかんいかん。
 ……流石にこれ以上はまずい。
 非常にまずい。

 しかし俺はなんとか耐えた。
 この勝負、俺の勝ち――

「んっ……お兄様っ」

 カレンが薄紅色の顔を少しだけこちらに振り向かせる。
 頭を洗っていたせいか、身体も頭の動きにつられていた。

 上げられた二の腕の下――
 柔らかく、されど弾力のある何かが俺の目に映り込んだ――

「――――ッ!! ごめん!!」

 俺はとっさに扉を閉め、逃げ出した。

 ……そう、俺は負けたのだ。
 男は立派に実ったそれには勝てなかったのだ。
 妹への罪悪感と自分への情けなさに泣きそうだ。

「……俺は、負けたんだ……」

 リビングの隅で体育座りをする俺は、今までで一番惨めだったと思う。
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