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第69話 懐かしの植物園

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「……着いたな」
「……そうだね」

 俺達は校舎からそれ程遠くない植物園に着いた。
 あれから少し気まずいけど、オリヴィアが落ち着いたようで良かった。

「グルミニア、失礼するぞ」

 俺は植物園の扉を開き、中に入る。

「おぉ! アベルとオリヴィアか、よく来たの」

 すぐ近くから声が返ってくる。
 グルミニアは植物に水をやっていて、結構近くにいた。
 ……大きな声を出さなくても良かったな。

「もうお昼だよ、一緒に食べよう」
「既にそんな時間か。ちょっと待っておれ、手を洗ってくる」

 そう言ってグルミニアは植物園の奥の研究所へと向かった。
 オリヴィアの気持ちが落ち着くまで、それ程時間はかかっては無いが、まだカレンは来ていないようだった。

「……アベル」
「ん? どうかした?」
「いつからハイトウッド先生とあんなに仲良くなったの?」
「え!? ええっと……」

 これについては絶体に突っ込まれるとは思っていた。
 だから何かの言い訳を考えていたはずなんだけど……。
 オリヴィアと色々あったからか、完全に忘れていた。
 なんて言おうと思ってたんだっけ?

「失礼します、遅れました」

 そこへ助け舟かのようにカレンがやって来た。

「おぉ、我が妹、カレンよ!」

 ……ん!?
 俺は何を言っているんだ!?

「お、お兄様!? どうしたのですか!?」
「い、いや、違うんだ! これは、咄嗟に」

 兄妹揃ってあたふたしている。

「皆揃ったか、ご飯にしようぞ」

 笑顔でグルミニアが戻って来た。
 手には野菜の入った皿を持っている。

「グルミニア……っ! よかった、帰って来たのか」

 これでオリヴィアからの追求からも逃れ……あ。
 今の発言。
 自身でもミスったのが分かる。

「お兄様。どうしてハイトウッド先生では無く、グルミニアなのですか?」

 今度はカレンからの追求。

「いや! ほら、カレンとオリヴィアなのにハイトウッド先生っておかしいじゃん!」

 ……我ながら見苦しい言い訳だな。

「でも先生だし、目上じゃない?」
「私もそう思いますよ、お兄様」
「ま、まぁ、確かにね!」

 二人にとっては気になるのだろうが、そこまで問い詰めなくてもよくない!?

「まぁまぁ二人共。わしはグルミニアで呼んでもらえて嬉しいぞ。"グルミニア"の方がふれんどりー、じゃしな」
「ハイトウッド先生がそう言うなら……」
「仲が良い事は悪い事じゃありませんしね……」

 微妙に気にはかかっているようだが、二人はある程度理解を示してくれた。
 ……帰って来た事に自体に比べれば、呼び方程度、気にすることでもないだろう。
 でも一応、

「そういえばカレン。遅かったけど、何かあったの」

 話をすり替える事にした。
 普段なら多少遅れたことなんて、咎めたりしないけど今は特別だ。

「今週末の魔術戦のお誘いがしつこくて……」

 カレンは笑顔だったが、雰囲気から嫌そうな感じは伝わって来ていた。
 首席ともなると、やっぱり魔術戦の対戦相手として引く手あまたなんだろうな。

「そういうことか。ならしょうがないね」
「あまり魔術戦をなさらないハルデンベルク先輩が羨ましいですね」
「ん!?」

 ハルデンベルク!?
 間違いないと思うが、アマネ・ハルデンベルクの事だろう。

 ……なんだかんだ言って、まだ会えていない。
 一応今日の放課後に探す気ではいるが、何を言えばいいのか、まったく思い浮かばない。
 だから会いに行くのもおっくうだ。

「ハルデンベルクさんは強すぎるからしょうがないよ、カレンちゃん」

 オリヴィアがカレンにそう言う。
 ……魔術戦が誘われない程、強いのか。

「ふふーん、そうじゃろ」

 グルミニアは何故か得意げだ。

「何でハイトウッド先生がそんなに嬉しそうなんですか?」
「わしらは、べすとふれんず、じゃからな」

 ……まぁそこに俺とキザイアさんも入るのだろうが。

 それから俺達は楽しく会話をしながら昼食を食べた。
 こうして皆でご飯を囲めることがどれ程ありがたいことか。
 ……あとはアマネだな。
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