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第四章 仲間

74 レアな薬がでた

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 三十七階へと下り、相も変わらずなスケルトン軍団を相手にしつつ先を進む。

 しかし今回のコーティング魔法の上から切れ味アップ魔法がまさかここまで戦力を引き上げれるとは思いもしなかった。
 今後下層にいけばいくほど敵は強く厄介になっていくはずだ。
 なのでここで戦力強化をできたのは大きい。

 俺の闇魔法もバインドもAランクのモンスターまでなら通用するだろう。
 しかしSランクには通用しない。
 未だ納得いく魔法は作れていないのが問題だ。
 ダンジョンだって、何かの手違いで突然Sランクが出る可能性だってあるだろう。
 それに戦いに絶対はないのだから。

 俺は新しい魔法を考えながらも魔法を撃ちこみ続ける。
 ミハエルは実に楽しそうに鉄兜ごと切り裂いて核を破壊している。
 フィーネも魔法の矢を次々撃ち込んで、ミハエルと競争するように敵を屠っている。
 スケルトンの数が増えてはいるが、戦力が大幅に上がっているせいでむしろ殲滅速度は上がっているくらいだ。

 そうこうしているうちにあっという間に三十七階が終わり、三十八階へと足を踏み入れた。
 マップを見た最初の違和感は赤い光点はあるがそのどれもが動きがないことだ。
 その違和感はぬぐいがたい物だったので、ミハエルに伝え十分な警戒を促す。

 まずは近場の赤い光点を目指す。
 しかしもう目視できるはずなのに、その場にモンスターの姿が見えない。

「変だな。三十メートル先にいるはずなんだが……」

 剣士の勘だろうか、ミハエルが首を傾げて言った。

「なーんか地面が変だ。気持ちわりぃ」

 俺はそれをただの違和感と切り捨てることなく、そのミハエルの違和感に考えを巡らせる。

「なるほど、もしかして地面に潜ってるタイプの敵か?」
「ああ、なるほどね。ありえるわね」
「ちょっと魔法撃ちこんでみるか。ちなみに敵は三体いるはずだ」

 そうして俺はアースバレットをモンスターがいるであろう場所に撃ち込んだ。
 アースバレットが洞窟の地面に当たったところで振動を感知したのか危険を感じたのか、一斉に地面から蔓が飛び出した。
 俺はすかさず鑑定をし、その情報を共有する。

「あれはランケルート、蔓の根って意味らしいな。主な攻撃方法は蔓による巻き付きや鞭のような攻撃、蔓にはトゲが生えてるので当たったり締め付けられたら重症を負うだろうな。本体は地面に埋まってる部分で、あの蔓のちょうど根本になる。蔓は切ってもすぐに再生するそうだ。厄介だな」
「うぇ。面倒だな。他に魔法攻撃はねぇの?」
「魔法攻撃はないが、まぁ今言った通り、あいつら自身が再生魔法を使うみたいだな。だから蔓が延々再生するわけだ」
「ルカさん、相手が植物モンスターなら私達のファイアボールは効かないでしょうか?」
「蔓には効くと思うが、本体が地面に埋まってるから、そこが問題だな」
「ねぇ、私が射ってみてもいいかしら?」

 フィーネの言葉に俺はいい案だと思い頷く。

「そうだな。どうせあいつらは動かないようだから、フィーネの弓でいけるならいいかもしれないな」
「そーだな。でも一体だけ置いといてくれ。予想はつくが一応俺もやっときたい」
「ええ、了解したわ。どちらにしろ私の弓が貫通出来なければミハエルに頑張ってもらうしかないけれどね」

 そう言ってフィーネはクスリと笑う。
 俺もそれを聞いて笑って言った。

「はは。確かにそうだな」

 そうしてフィーネは矢を二本つがえるとキリキリと弓を引き絞った。
 フィーネの指が離れると、ヒュンと風を切る音と、地面にドスドスっと弓が連続して刺さる音、そしてバタバタと蔓が暴れる音が響いた。
 暫く暴れていた蔓だったが、段々と動きが小さくなりやがてポフンと音を立てて消えた。

 どうやらフィーネの弓は通用するようだ。
 すぐにもう一体も倒し、残りはミハエル用の一体だ。
 ミハエルは軽い足取りで向かい、うねうねと動きミハエルに巻き付こうとする蔓を切り飛ばしたあと一気に根本から蔓を全て切り飛ばして、その中心部分の地面を全力で突き刺し後方に下がった。

 ボコボコと地面が動いたがすぐにポフンと音がして死んだようだ。
 ミハエルは軽く肩をすくめたあと、地面に落ちている小瓶を拾うと俺に持ってきた。

「あんま面白くねー相手だな。あとこれドロップ品だけど、なんだ?」

 手渡された小瓶には薄いピンク色の液体が入っている。
 鑑定してみて俺は驚いた。
 ---------------------
 再生薬
 状態:良
 詳細:摂取すれば、一定時間継続した回復効果がある薬。大銀貨五枚の価値がある
 ---------------------
 なるほど、俺のやってたゲームにあった、リジェネと同じ効果のある薬か。
 そういえば俺はリジェネを作っていなかったな。
 敵のドロップからヒントを貰うことになるとは思わなかったな。

「これはかなりいい物だぞ。飲めば一定時間継続した回復効果があるそうだ。しかも大銀貨五枚の価値があるみたいだな」
「ほお。レアドロップくせぇな?」
「そうだな。一応これも置いとくか?」
「そうね、何個かは置いとくべきだと思うわ」

 というわけでドロップする数にもよるが、俺たちは再生の薬を置いておくことにした。
 まぁレアっぽいのできっとそんなに数はでないだろう。

 そしてこの階層についてだが、どうせ敵が動かないということで今度は俺とエルナがやれるかの試し撃ちをすることになった。
 俺は正直氷結槍を使えば問題はないのではあるが、今回はエルナも俺もファイアバレットを試してみようと思っている。
 直接地面に撃ち込むことで本体を焼く作戦だ。

 次の敵を見つけ、俺とエルナはファイアバレットを撃ち込んだ。
 結果として、予想通り地面に潜っていた本体を焼くことに成功したのだ。

「――というわけで、ランケルートのいる階層は交代で倒していくか?」
「あーそうだな。いいんじゃねぇ?」
「私はかまわないわよ」
「私も訓練になるのでありがたいです!」

 正直ミハエル以外は遠くからただ狙い撃ちで殺せるので色々試すにはちょうどいいモンスターなのだ。
 何よりエルナの訓練になる。
 訓練にはなるが、そればかりというのも行軍速度が落ちてしまうので、こういう提案としたのだ。

「よし、じゃあミハエル、フィーネ、俺、エルナの順番でいこうか」
「おう」
「分かったわ」
「はい!」

 こうして俺たちは順番に戦闘しつつ足を進めた。

 ミハエルは最終的には蔓の切り払いもせずに中心部を刺してすぐに離脱するという戦闘方法で最速で倒せるようになり、フィーネは同時に三本の矢を放って同時に倒すなんていう荒業を行ったり、俺は俺で、アースバレットの二段撃ちで一つ目で地面に穴をあけ、二つ目で本体を破壊するということができるようになった。
 エルナはひたすらにファイアバレットを正確に中心点を撃てるように頑張っていた。
 最後には一発で倒せるようになるまでにクオリティは上がっていた。

 そのまま三十九階も進み、ランケルートが三匹から五匹に増えただけで何も変わらずに進む。
 ただ、三十八階にはいなかったが、三十九階には二パーティほどの冒険者がいた。
 マップの位置関係を見るに、基本的に遠距離主体で戦闘をしているようだ。
 しかしどうやって地面に埋まってるモンスターを調べているのだろうか。
 石を投げたり矢を射ったりしているのだろうか。

 少々気になりはするが、出来るだけ冒険者と合わないルートを選択する。
 結局三十八階と何も変わることなく俺たちは四十階へと辿り着いた。
 再生薬は結局二個出ただけだった。
 ――とはいえ、真っ直ぐ階段に向かってるだけで二個出たので狩りをすればもっと集まりそうではあるが。

 四十階についた俺たちは転移柱に触れたあと、その場で昼ご飯にすることにした。
 ちなみに四十階はそこそこ人がいた。

 昼休憩をしつつこの後どうするか聞いてみた。

「このあとどうする?もう少し再生薬を集めるか、先へ進むか」
「再生薬何個でたんだ?」
「二個だけだな」
「んじゃもうちっとだけ集めてもいいかもな」
「じゃあ、夕方まではランケルート狩りでいいか?」
「おう」
「ええ、かまわないわ」
「はいです」

 四十階からまた敵が変わるようではあるようだが、これはまた明日の楽しみとしておこう。
 そうして俺たちは再び四十階から戻り三十九階にいる冒険者パーティを避けつつ狩りを続けた。

 夕方近くまで狩りをしたところ、再生薬が十個ほど集まった。
 一人二個持っていることにして、それぞれに手渡し、全員がアイテムボックスにしまいこんだ。
 ランケルートのドロップは再生薬がレアで、あとは金鉱石だけだった。
 他にドロップはなく、再生薬がレアなので、ドロップのほとんどは金鉱石だ。

 再生薬を売らない場合はあまり稼ぎ場としてはおいしくはないと言えるだろう。
 今回はスケルトンのところで星の涙が運よく三個も出たので、一人大体、大銀貨二枚の稼ぎにはなるはずだ。

 こうして俺たちは狩りを終えて地上へと戻った。
 ギルドで清算をしたところで、いつものおっちゃんから告げられる。

「おまえさんと、そっちの少年、君らBランク試験を受けれるようになったよ。明日にでも試験内容を説明するから来るといい」
「あ、それなんですが、彼女たちと一緒に試験を受けたいので、えっと、ギルドマスターはおられますか?」
「そうかい。多分いると思うよ。俺はまだ次のやつの清算があるから、あっちの受付にいる職員に聞いてもらえるかい?」
「はい、ありがとうございます」

 そうして俺は受付にいる受付嬢さんにギルドマスターがいるか聞いてみた。
 少し待っているように言われ待っていると、奥の部屋に行っていた受付嬢さんが戻ってきてそのまま奥に行くように促された。
 お礼を言って俺たちは受付の奥に向かった。

 奥に行くと階段の手前で別の職員さんがいて手招きしていた。
 そちらへ行くと、職員さんに案内されていつもの会議室ではなく、一番奥の立派な扉の方へ連れていかれた。
 職員さんが立派な扉をノックして声をかけると中から野太い声が聞こえた。
 そうして職員さんが扉を開け、中へ入るように促される。

 俺たちが中へ入ると職員さんはそのまま扉を閉めて行ってしまった。
 中を見ると、ソファーと机が置かれていて、応接室っぽいが、その奥には大きな机があり、その上にはたくさんの書類らしき紙がある。
 書類の山の向こう側から、再び野太い声がした。

「ちょっとこの書類だけやるから、お前らはそこ座っとけ」
「はい」

 俺たちはソファーに腰かけて暫く待つ。
 とはいえ、三人座るのが精一杯のソファーなので、ミハエルは座らずにソファーの背にもたれかかっている。
 俺も立っていようかと思ったのだが、ミハエルに座るように促されたのだ。
 フィーネたちも同じように座るように促されている。
 ミハエルがイケメン過ぎて困るな!

 暫くして肩と首を回しながらギルドマスターが椅子から立ち上がってこちらへと来た。

「あー、ほんと書類仕事は面倒くさいな。で、今日はなんだ? なんかまずいことでもあったか?」

 ギルドマスターの言葉に俺は苦笑してしまう。

「はは。まさか、違いますよ。今日のダンジョンの清算を終わったところで俺とミハエルがBランク昇格試験を受けれることになったんです」

 そこまで言ったところで、ギルドマスターがしたりという顔になった。

「そういうことです。フィーネたちと同時に試験を受けようと思いまして。その報告というか、お知らせと言いますか」
「あー分かった分かった。ちゃんとそう処理しといてやるよ。しっかしはえーなお前らは。俺が知ってる中で最速だぞ」
「まぁ、メンバーが最高ですので」
「はっ! お前の魔法もあるだろに」
「否定はしませんが、やはりみんながいるからこそですよ」
「そうだろうな。いい仲間をもったな、お前ら」

 ギルドマスターのそんな言葉に、フィーネもエルナも笑顔で頷いている。
 何も言わないが、後ろにいるミハエルもきっと同じだろう。

 そうして俺たちはギルドマスターの部屋を出てギーレンの宿屋へと向かい、みんなで夕食をとった。
 明日は四十階からスタートだ。

 さてさて、どんな敵が待ち受けているのか。
 俺はその夜、魔法の見直しをしつつ眠りにつくことになった。
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