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第四章 仲間

77 ギルドからの依頼

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 翌朝、俺たちは朝食をとったあと、真っ直ぐダンジョンには向かわずにギルドへときていた。

 というのも、実は昨日俺がギーレンの宿屋へ戻ってきたところ、ちょうど伝言があったのだ。

「あ、お兄さん、ギルドから伝言があるよ!」

 受付にいた女将さんが俺にそう声をかけた。
 ギルドから伝言なんて今までなかったので首を傾げつつ女将さんのとことへ向かう。

「なんでしょう?」
「えーとね、『明日どこかへ行かれる前に一度ギルドにお越しください』ってさ!」
「そうですか、伝言ありがとうございました」
「いいよいいよ」

 そうして俺は女将さんと別れ食事をとったのち、ミハエルやフィーネたちに伝言について伝えにいったのだ。
 そして、今日、今に至っているわけである。

 ギルドの扉を開けて中に入り、受付嬢さんのもとへ向かう。
 受付嬢さんは俺に気づくと、ペコリと頭を下げたあと、後方に手を向けた。

「奥へどうぞ」
「はい」

 どうやらその場で話を聞けるわけではないようだ。
 そのまま受付の奥へと向かうと、階段近くで書類仕事していた男性職員が俺に気づいて立ち上がった。

「こちらへどうぞ」

 促されるままに俺たちは階段を登り、二階にある小会議室っぽいところへ招かれた。

「こちらでしばらくお待ちください。すぐにギルドマスターがいらっしゃいますので」
「ギルドマスターが?」
「はい」

 なんでギルドマスターが? と思ったがとりあえず来れば分かることなので、頷く。

「わかりました」

 俺の返事を聞いた男性職員さんは頭を下げると部屋を出ていった。

「なんだろな?ギルドマスターから話って」
「なんかめんどくせぇことじゃねぇの」
「何かしらね」
「なんでしょう?」

 そうして待つことしばし、そう時間を置かずにギルドマスターらしき足音が近づいてきた。
 扉が開き、声がかかる。

「おーすまんな」

 そう言いながらギルドマスターは奥の席へ向かう。

「おはようございます、ギルドマスター」

 大体メンバーでギルドマスターに限らず誰かと話す時は俺が代表して話すことになっているので、挨拶は俺だけだ。
 他の皆は頭を軽く下げているだけである。

「おう、おはよう。いやな、今日はお前らにギルドからの依頼があってな」

 そう言いながらギルドマスターは席についた。

「依頼、ですか?」
「おう。お前ら昨日、四十三階以降へ行っただろ?モーナットビーストの皮が入手できたって職員が言っててな」
「ええ、昨日は四十五階を目的地にしていたので、確かに狩りをしつつそこを通りましたよ」
「おうおう、はえーな。まぁそれはいいとして、依頼はこれだ」

 そこでギルドマスターの出した依頼書を見る。
 ---------------------

 素材の採集



 場所:鉱山ダンジョン四十三階から四十五階

 内容:モーナットビーストの皮 百枚の納品

 期限:依頼受諾から七日以内

 報酬:皮一枚につき銀貨三枚

 依頼主:シュルプの街の冒険者ギルド ギルドマスター アーロン・オルフ



 受諾可能ランク:特殊依頼につき記載しない

 ---------------------
 モーナットビーストの皮の納品らしい。しかも百枚。
 報酬もギルド買取価格と同じだな。
 ん?

「ギルドマスター、この受諾可能ランクが特殊依頼につき記載しないと書かれているのですが、これは?」
「あーそれな。本来お前らが狩りしたその階層はBランクの狩場なんだよ。でもお前らCだろ?」
「そうですね。ていうかあそこBランク狩場だったんですか」
「そうだ。で、だ。ギルドとしてはモーナットビーストの皮の在庫が少なくてな。在庫を増やしたい。でも、ギルドの買い取り価格以上はだせん。そうなると受けてくれる冒険者が少ない。そもそもBランクが少ない。その少ないBランクたちは四十階付近でミスリル集めに忙しいわけだ。そのうえ、モーナットビーストは動きが素早くBランクでも上位でないと狩りが難しいんだよ」

 要するに俺たちにボランティア依頼ってことだな。
 本来冒険者なら買取価格と同じな依頼なんて受けないだろうし。

「なるほど。狩りする人がほとんどいないんですね。確かに四十三階からは他に冒険者がいませんでした」
「で、お前らなら問題なく狩れるだろ?そこでお前らに頼みたい、が、お前らはCランクだ。だから特殊依頼として受諾ランクを記載しないことにしたわけだ」
「なるほど。その特殊依頼って何か俺らにとっての利点はあるんですか?」
「一応あるぞ。特殊依頼はポイントが倍になる。だから、今回の依頼受ければ嬢ちゃんたちのポイントが貯まってBランク試験が受けれるようになるぞ」

 なるほど、一応特典はついてるわけか。フィーネたちにだけの利点だけど。
 まぁ、単純に金稼ぎの狩りを特定の階層でするだけで、ポイントが倍になるならおいしいものだ。

「分かりました。依頼をお受けします」
「うむ。助かる! 下の職員に渡せばいいだけだから頼んだぞ」
「はい。でもギルドマスター、これ、この依頼の期限、俺たちは別にいけますが、普通は厳しくないですか?」
「ああ、普通は無理だな。でもお前ら用だから別にいいだろ」

 あっさりとそう言い放つギルドマスターに思わず苦笑してしまう。

「ええ、問題はありませんが、本来ならどのくらいで設定するんですか?」
「そうだな、三ヶ月は最低みるだろうな」
「最低三ヶ月の仕事を俺たちには七日間ですか。ブラックですね」
「なんだよ、そのブラックって」
「悪い組織って意味です」

 そう言いながら俺は笑う。
 ギルドマスターは痛いとこを突かれてむすっとしている。

「はは。まぁギルドマスターにはお世話になってますので、ちゃんと七日間以内に百枚集めてきますよ」
「はぁ。それじゃあ頼んだぞ」
「はい」

 少し突きすぎたかもしれないが、ブラック企業並みの依頼期間なのでこのくらいはいいだろう。
 いくらお世話になってるといっても、この調子で依頼をされるのも困るのだ。
 そうして俺たちは受付で依頼の控えをもらい、ダンジョンへと向かった。

「昨日は俺一緒に夕ご飯食べれなかったから話できなかったけど、今日どうする予定だった?」

 俺がそう聞くと、フィーネが返事をした。

「特に何も決めてないわ。というか、何もなければ五十階目指す、くらいね」
「そっか。いや何か決めてたなら今回の依頼は七日間以内だったから、そっちの決め事を優先しようと思って」
「ふふ、ルカがいないとそんなに色々決めないわ。あなたがパーティリーダーなんだから」

 と、まさかのここで衝撃発言だった。

「え、俺がリーダー?」
「あら、違ったの? 私ずっとそうだと思ってたのだけど」

 エルナもコクコクと頷いている。

「いやいや、俺もミハエルも決めてないよ」
「俺はルカをリーダーだと思ってたぞ?」
「えええ!」

 まさかの驚きに包まれていると、なし崩し的に俺がパーティリーダーということに決まってしまった。

「大丈夫よ、今までと何も変わらないわ」
「そーそー。今まで通りでいいだけだぜ。俺らはずっとルカがリーダーだと思ってたんだし」
「ですです!」

 今更抵抗したところで意味もないので、俺は受け入れることにした。

「わかったよ。じゃあ今日はギルドの依頼をこなすってことでいいか?」
「おう」
「ええ」
「はいです!」

 とりあえず今日の目的は出来たので、俺たちはダンジョンの四十五階へと向かった。
 四十五階が一番モーナットビーストが多く、三匹出るのである。
 とはいえ、モーナットビーストの皮が出る階層は、皮以外にも、花弁にミスリル鉱石、そして魔石も出るのでそう簡単に皮が百枚も集まるとは思えないが。


 俺たちは四十五階でひたすら狩りを続けた。
 昼休憩の時に皮を数えたけど、やはりそうたくさんは出ておらず十枚程度だった。
 さすがに一日で百枚は無理だろう。
 ブラック企業並みと言ったが、嫌なことに多分このペースだと五日から七日くらいで百枚を集めきれる。
 さすがギルドマスターと言いたいところだが、だからといってギリギリの設定はやめていただきたいものだ。

 こうしてこの日は二十枚程度の皮が集まり、まとめて提出することにして、他のアイテムだけを清算した。
 皮分のお金はないが、それでもミスリル鉱石と、それに魔石が出始めているので清算のお金は相変わらずおいしいままだ。
 平均すれば大体毎回約大銀貨一枚から二枚程度はみんなで分けることができている。

 今のところは装備品などはこれまで使っていたもので問題はないし、武器などは俺が作ったりするので買う必要も補修もしていない。
 おかげでお金はたまる一方だ。
 まぁいずれアダマンタイトだのミスリルの塊などが出始めたらウードに加工をお願いしたいところだ。

 作ろうと思えば具現化魔法で作れなくはないのだ。
 でもなんというか、俺が作ったミスリルやアダマンタイトの剣はなぜか脆い。

 というのも、多分だけど、実際に見ていないせいだと思うのだ。
 フィーネに作った弓刃や、俺とミハエルの剣やエルナの盾なんかの素材は実際俺はよく見ていたし触っていたものだ。
 だからこそ、しっかりとしたものが作れたのだと思う。

 だけど、ミスリルは見たことはあるけど、冷蔵庫モドキにはってあった薄いミスリルしか見たことはなく、アダマンタイトに至っては見たこともない。
 だから、正直想像がついておらず、ミスリルやアダマンタイトで作っても脆いものしかできないのだ。

 なので、一度しっかりと職人に手掛けてもらって、実際に見て触れて確かめないときっと俺はちゃんと作れない。
 どこかでミスリルの剣やアダマンタイトの剣なんかを触らせてもらって試し切りでもさせてもらえるならそれでもいいんだけどな。
 そんな貴重なものを赤の他人に触らせてくれる奇特な人はいないだろう。
 ギルドマスターはもってないのかな? そのうち聞いてみるか。

 そんなことを考えつつ、俺はギーレンの宿屋でのおいしい料理に舌鼓をうちながらその日を終えた。
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