腹黒御曹司との交際前交渉からはじまるエトセトラ

真波トウカ

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 部屋の明かりが煌々とつく中で、隼人の均整のとれた、薄く筋肉のついた体は美しかった。しなやかで滑らかな肌をしていて、自分の体とはまるで違う。
 まるで芸術品を見ているようで、目が離せない。
 隼人は体の中心でそり立つ自身に薄い被膜をかぶせる。その姿すらどこか華麗で、それでいてなまめかしい。
「麻由……」
 自分の名前はこんなに美しかっただろうか。名前を呼ばれるたびにそれが大変な価値のある宝石のようが気がしてくる。
 隼人の体が覆い被さり、背中に手を誘導された。
(背中、大きい……)
 細身に見えたのに、硬い背中は広くがっしりとしていた。そんなところにも女である自分との差を感じて心臓が鼓動を早める。
 しっとりと汗をかいた背に指の腹の力を入れると、被膜越しの切っ先が割れ目に押し入ってくる。
「ん……っ」
 さっきまでの指とは比べものにならない質量だ。思わず顔をしかめてしまう。
「麻由、力を抜いて」
「隼人さん……」
 なだめるように唇にキスが落とされる。すぐにそれは深いものになって、麻由の思考を支配していった。舌の動きに翻弄され、気を取られていると、隼人の自身が麻由の奥へと進んでいく。
 自分をこじ開けられる鈍い痛みに、思わず指先に力を入れると、頭を優しくなでられた。
 じわ、と涙がにじんだのは痛いからじゃなかった。隼人の舌が、手が優しくて、満たされていくようで幸せだからだ。
「痛むか?」
 隼人を最後まで受け入れると、申し訳なさそうに顔をのぞき込まれる。麻由は慌てて涙を拭った。
「平気、です」
 しばらくそのまま動かないでいてくれたので、麻由の中に隼人のものがなじんでくる。
「動くぞ」
 麻由の表情が穏やかになったのを見て、隼人はゆっくりと律動を開始する。
 軽く腰を引くと、ゆっくりと戻す。体の中が押し上げられるようなおかしな気分だった。何度かそうされているうちに、押し上げられると深くまで沈み込むような快楽が押し寄せてくる。
「あっ、は……ぁ」
「ヨくなってきたな?」
 律動が早くなり、切っ先が奥をかすめるたび、麻由の中も悦ぶように収縮する。
「あ、ああっ、だ、めぇっ」
 頭の中は真っ白でなにも考えることができない。
「隼人さんっ、隼人さ――」
 髪を振り乱しながら何度も隼人の名前を呼ぶ。
「麻由っ」
 なにかにすがりたくて無意識に伸ばした手に、隼人の指が絡められた。
 最奥を深く突かれ、麻由はその手を強く握る。
「あああぁ――っ!」
 深く、深くまで落ちていくような快楽の渦に飲み込まれて、麻由の中は搾り取るようにきつく締まった。
「ぐ、っ」
 隼人が眉を寄せると、秘所を貫く熱い杭がびくんっと大きく波打つ。被膜越しに熱いものが放たれたのを麻由はまどろむ頭で感じた。
「寒くないか?」
 行為後、倦怠感でぐったりしている麻由に隼人がシーツをかぶせてくれる。
 幸せだと思うと同時に、さみしさが押し寄せてきて、麻由はシーツを鼻まで引っ張り上げた。
(この人のこと、忘れられるの?)
 懇願して抱いてもらった関係だ。もちろん今日だけのものに決まっている。そんなことはわかりきっていたはずなのに、どうしようもなく胸が痛んだ。
「だから、そんなかわいい顔をするな」
 顔の半分を隠し視線だけで姿を追っていた麻由に隼人が笑いかける。
 額に張り付いた髪を払う手つきにさえ、胸がときめいてしまう。
「……どんな顔、してました?」
「教えない。覚えてよそで使われたら困る」
「え?」
「俺しか知らない顔にしておきたいんだ」
(そんなの、ずるい)
 まるで独占欲のような言葉にますます胸が痛い。そんなことを言われても、自分たちはもう会わないというのに。
 顔をしかめる麻由に隼人は不思議そうな顔をする。
「なんだ、不満げだな」
「だって……」
 自分から頼んだ関係なのはわかっている。でももう十分だ。これ以上優しくしないでほしい。
「期待しそうなので、やめてください……」
「なにをだ?」
 そんなこと言わせるつもりなのだろうか。
 好きだ、なんて。言われても困るだけだろうに。隼人は後腐れのない関係を前提でこうしてくれたはずなのだから。
「ごめん、いじわるしすぎたな」
 麻由が困惑していると、汗のにじむ額に一つキスを落とされた。
「君が好きだ。俺の恋人になってほしい」
「え……」
 一瞬、自分の耳が都合のいい言葉を作り出したかと思った。
 麻由は慌てて起き上がる。
「いま、なんて……」
「付き合ってくれと。わかりやすく告白したつもりなんだが」
 隼人がおかしそうに眉をハの字に下げる。
(うそ、こんな……こんなことがあっていいの?)
 もう会えないと思っていたはずの人から、恋人になってほしいだなんて。
 なんで私に? 私でいいの? 頭の中で様々な感情がわき上がって整理がつかない。
「私で、よければ……」
「良かった」
 かろうじてそれだけ言うと隼人はほっとしたように笑顔を見せた。
「君にとって、俺は有益な恋人になるはずだ。これからよろしく」

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