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しおりを挟む「そういうことですよね。セクハラパワハラ三昧の空閑フロア長」
「ああ、そのことか」
怪訝な顔をしていた隼人はどうやら本当に忘れていたらしい。
人の気も知らないで、と麻由は地団駄を踏みたくなる。
「私本当に怖かったんですから。どう話せばいいかずっと考えてて……。結局小金井さんはすごくいい人だったし、あの人にも悪いと思わないんですか」
悪い噂がそのまま広まっていたらと思うとぞっとする。麻由は自分の口の堅さが初めて役に立った気がしていた。
「悪かったよ。すぐにばれると思って適当言ったんだ。謝る」
「なんでそんな意味のないことを……」
「麻由に頼られたかったんだな、多分」
そんな理由で、と麻由は脱力する。
「それに俺は寝具部門長がやっかいな人物だとは一言も言っていない。『催事責任者』が、と言ったはずだ」
そう言われるとなにも言い返せなくなってしまう。確かに勘違いしていたのは麻由の責任だ。
「もういいです……。っていうか、だったらその噂は嘘じゃないですよね。セクハラパワハラ三昧の隼人さん」
「言ったな」
苦し紛れの嫌みを言うと隼人がにやりと意地悪な笑みを浮かべる。次の瞬間には、ぐいと腕を引かれて近くの使っていない会議室に引き入れられた。
そのまま長机に押し倒されて、金属のきしむ音が殺風景な室内に響く。隼人はかまわずシャツのボタンを二つ目まで開けた。
「ちょっ」
「本当にしてみようか、セクハラ」
「んっ」
あらわになった胸の谷間に隼人が唇を寄せる。話すたびに熱い息がそこへとかかった。
「待って……」
制止も聞かずに隼人はそこをきつく吸い上げる。白い膨らみの麓には真っ赤な痕が残った。
二つの膨らみは大きな手で覆われる。清潔な白のシャツと、福丸屋の制服である紺色のベスト。その上から隼人は胸を刺激してくる。
仕事の象徴でもある制服の上を隼人の手がいやらしい動きで這っている。それを目にすると、いけない事をしているという事実にどうしてか余計に体の熱が上がっていくようだった。
「は、あ……っ」
熱い吐息を漏らすと、扉一枚隔てた廊下を誰かが通る足音が聞こえた。麻由は慌てて口を手で抑える。
「どうする? 今人が入ってきたら。こんなところ見られたら言い訳できないな」
耳元で隼人がわざと挑発するように囁く。
胸に触れる手つきはさらに大胆になる。厚い布越しにそれを感じてもどかしく体を捩った。
(これ以上されたら、声、我慢出来ない……っ)
下着が胸の飾りに擦れてじんじんと鈍い快感を感じはじめている。
顔を真っ赤に染めた麻由を見て隼人は満足げにうなずくとボタンを閉め、麻由を起き上がらせた。
「ちょっといたずらが過ぎたかな。悪い」
肌が隠れたあとも心臓がうるさくて、隼人の顔をまともに見ることができない。
鼓動の早さを納めるように、シャツの前をくしゃりと握る。
(も、もっとされるかと思った……)
「わ、悪いと思うなら早く印をください」
印の欄が空欄のままの稟議書を突き出す。
隼人はそれに目を通すと突っ返してきた。
「うん、断る」
「は!?」
催事の計画を進めたいのは隼人だって同じはずなのに、なぜ。
不可解な拒否に麻由は素っ頓狂な声を上げた。
「印がほしいならちょっと付き合ってもらいたいところがある」
企み顔で交換条件を出してくる隼人にごくりと息をのみこんだ。
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