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はっ、と目を覚ましたときには隼人の家の広々としたベッドに寝かされていた。
体にべたつきは残っておらず、無残な姿になったストッキングなどは脱がされて、隼人のパジャマを着ていた。余った腕のところを折り返して、麻由の手を出してくれている。その折り目をそっとなぞった。
寝ているのは自分一人だった。
パジャマから香る柔軟剤の匂いは隼人の使っているもので、胸がぎゅっと切なくなる。
隼人になにも伝えられなかった。伝えたはずの本音は隼人には響かなかった。
隼人と決定的に心が離れてしまった気がして、そのことがとてもつらかった。
(なにを間違えたんだろう。話す順番? もっと別のこと? 私だって隼人さんと離れるなんていやだよ)
隼人ならそんなことくらいわかってくれると思った。提案の裏に隠された自分の本心を。
冷静で自分よりずっと頭のいい隼人が、そのことに激高するなんて思ってもみなかった。
隣の部屋にも人の気配はない。隼人はデパートに戻ったのだろうか。仕事は山積みだからそれも仕方ないことだが。
「私も行かなくちゃ……うわっ」
ベッドから起き上がり、そのまま床に座り込んでしまう。腰が砕けたようになって力が入らない。
荒々しく、欲望のままに抱かれるとこうなることを麻由は知らなかった。
それは隼人が今まで自分を慈しんで愛してくれていたからで――
今までの甘く過ごした時間のことが思い出されて、鼻の奥がつんとした。
涙がこぼれそうになるのを頭を振って止めると、ぷるぷると震える足でなんとか立ち上がる。
バッグに入れていた替えのストッキングを履き、着替えると玄関へ向かった。
催事の責任者を外されたとはいえ、部門長である麻由にだってやるべき仕事は多い。ここでおとなしくしているわけにはいかなかった。
玄関のドアに手をかけるが、開かない。ノブを回そうとしても回らないのだ。
鍵がかかっているのかとそれをひねるも、鍵も固定されたように動かなかった。
「壊れちゃったの?」
ふと視線を横に移せば、玄関に作り付けてある棚に受話器を見つけた。「Concierge」と書かれた金色のプレートが埋め込まれている。麻由はそれに手を伸ばした。
受話器を耳に当てるとどこも押さずとも呼び出し音が聞こえる。思った通り、ロビーにいるコンシェルジュへ直通の電話のようだ。
『こちらロビーです。いかがされましたか』
「あ、あの扉が開かなくて」
自分の部屋番号を告げると、コンシェルジュの男性の歯切れが急に悪くなった。
『大変申し訳ありませんが、その……空閑様より扉を開けないよう仰せつかっております』
気の毒そうな声で謝罪を言った後、電話は切れた。
麻由はしばし受話器を持ったまま呆然とする。
つまり、ドアは壊れたわけじゃない。鍵が開かないのはそうコントロールされているから。
(私、閉じ込められたの?)
監禁、という言葉が脳裏に浮かび、全身の力が抜けていくようだった。
取り落とした受話器が大理石の床に跳ねて空虚な音を響かせた。
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