魔女の喫茶店

たからだから

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―レッド・ブラットの兄妹編―

兄妹を想う

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 ミアはエミリアの目線の先を追いかける。先程ギルと話していた記事であり、もしかしてと察した。
「……この大火災が関係してるって事ね」
「そう。あたしが色々盗み聴きして分かったんだけど、その一族はある兄妹を残して全員殺されちゃってるの……」
 複雑な表情でエミリアは話すとミアは思い出す、自分の一族の事を。ミアもまた、自分だけ残して一族全員を殺害された。

 ミアはエミリアの複雑な顔を見て小さく笑う。
 薄い茶色の髪の毛は肩下まで伸ばし、目は真ん丸と大きな可愛らしい顔が悲しそうな顔に変わるのがミアは嫌だった。
 エミリアにはいつもの様に騒がしく、可愛く笑って居て欲しいと願う。そんな顔にさせているのはミア自身だと、申し訳なくなる。
「……エミリア、そんな顔しないの。で?その兄妹って?」
 エミリアはそんなミアに頷くと、鞄から書類を杖で取り出すとテーブルの上に広げる。
 書類にはダークブロンドの少年と少女の写真があった。
「うん……。えっと、ね、これこれ!この兄妹のどっちかが稀血レッド・ブラットの持ち主。魔法政府も探してるんだけど、3年前に両親が死んで森に隠れちゃったみたいなの。……保護してあげたくて探してるけど、どこの森かが分かんなくて」
「だから森を燃やしてる、ってわけね。……隠れ身の呪文使ってるのかしら。それなら、探しても見つからないものね」

 ミアの言う隠れ身の呪文は空間魔法で、例えその場所に建物があったとしても誰からも気付かれず、見られない魔法だ。透明の呪文スケートンは体や物自体を透明にするだけであって、隠れ身の呪文は空間事見えないようにしてしまう魔法である。
 隠れ身の呪文は物理的な方法で1度破壊する必要があり、その方法は魔法を掛ける人物が決めれる。例えば、魔法でしか壊せないと決めたなら魔術でも、飛行機が衝突しても壊れない。
「ねえ、もしかして他の国も同じような感じなのかしら?」
「うん、そうみたいだよ。でもパッタリと無くなって、イルビア内でしか火災起きてないからこの国に居るのかも」
「って、言っても広いもの。何処か特定するには……あ」
 考える素振りを見せていたミアだが何かを思い出したように声を発すると、静かに聞いていたギルと共にエミリアはミアを見つめる。
「アパタイトバードよ!いくら隠れ身の呪文で人間から隠れたとしても、動物は嗅覚が優れてる。アパタイトバードは特に、ね?その子達まだ子供でしょ?」
「ええ、と……うん、今はお兄ちゃんの方が15歳かな?妹ちゃんは9歳だよ」
「そう……なら、ピッタリじゃない」
 ミアは自信満々に微笑むと、エミリアを見つめた。

 エミリアがここに来て情報を与えるだけではない事をミアは分かっている。魔法政府もお手上げ状態なのだろう。猫の手も借りたい、と言ったところだろうか。
 親友のエミリアを使ってくるのだからズルい、と溜息を吐き出したくなる気持ちはあったがエミリア自身、兄妹を保護してあげたいと思っている様子だ。
 同じような境遇の2人をミアも助けたいと思っていた。
「じゃあ、探しに行くの?」
「ええ、だからギルはお留守番してて……って、何その顔」
「え~、俺弟子なんだから連れて行ってくれてもいいじゃん。……前回役に立ったしさ、ね?」
 両手を合わせ、緩い笑みを浮かべて頼んでくるギルにミアはこれからも付いて来る気なのだろうと、深い溜息を吐き出し諦めた。

「えー!ギルくんも協力してくれるの!?ほら~、ミアもギルくんが頼んでるわけだし、皆で行こうよ~」
「あのねえ…遠足に行くわけじゃないのよ?」
「分かってるってば!何も聞かずに動いてくれるミアって、ほんと優しい!好き!」
「あー、ハイハイ。好きの安売りしないで」
 素っ気ない言い方だがエミリアにはミアが照れ隠しで言っている事などお見通しである。嬉しそうにエミリアが笑えば、ギルはその様子を微笑ましそうに見つめていた。
 エミリアはギルに対してを抱いていたが、今は協力してくれるのだからと一旦忘れる事にはした。

「さ、そうなったらアパタイトバードに匂いを辿ってもらう事になるけど、いつ行くの?」
「本当は今すぐ、って言いたいんだけど、今日はこの後まだ仕事が残ってるから行かなきゃいけないの~!もー!やだー!」
 ミアは駄々をこねるエミリアの姿に困った様に見つめると、服装がスーツだった為大方そうだろうとは予測していた。
 薄いグレーのスーツを可愛らしく着こなしているのは、スカートだからかと考えるもののエミリアは何を着ても可愛いと小さく笑う。
「次、いつが休み?」
「んー、とね、ちょっと待ってね」
 エミリアは杖を軽く振ると、可愛らしい水色のメモ帳が現れ勝手にページが捲られていく。
「3日後が休みかなあ」
「そう、なら3日後の朝に行くわよ。……何か他に情報は?」
「それならこの資料貰っていいよ。コピーだしね。あ!でもちゃんとバレないようにね!終わったら捨ててね!絶対だよ!怒られちゃう……っ!」
「怒られるだけで済めばいいけどね」

 魔法政府は厳しい所でもある故に、エミリアの職権乱用は重大違反だ。バレたら怒られるだけではなく、クビは勿論、罪人扱いだ。
 自分の為に危ない真似はしてほしくないが、正直助かっているのも本音。言葉には表しにくい感情に、心にモヤが掛かる。
「あ、まーた私の為に、なんて考えてるでしょ~!あたしがしたいから、してるの!気にしないで。それに死の使いスノードロップあたし大っ嫌いなの!けちょんけちょんにしてやりたいくらい」
 赤い舌を出して文句を口にするエミリアにミアは思わず笑ってしまう。
 ミアはエミリアの明るさに救われてきた。とても感謝をしているのだ。そして、ミアもエミリアの事が大好きで、守りたい大切な人である。

「あ!もう時間だから行かなきゃ!じゃあ、色々決まったらまた連絡してー!じゃあね!ミア、ギルくん!」
「気を付けて行きなさいよー!」
「またね~、エミリアちゃん」
 慌ただしく出ていくエミリアに2人は笑みを浮かべて背中を見送った。
「凄い元気な子だったね」
「いつも元気よ、あの子は」
「好きなの?」
「ええ、とても」
 ギルは穏やかな笑みを浮かべるミアの横顔を見つめては、小さく笑う。本人の前で伝えればいいのにと、素直ではない魔女にもう1度笑う。
「……何よ」
「い~や、素直じゃないなあって」
「うるさい」

 恥ずかしい気持ちとむず痒くなる様な照れ臭さにミアは、誤魔化す為にカウンターの椅子に座り直しながらエミリアが置いてくれた書類を手に取る。
 内容は兄妹のプロフィールと家族構成、両親が殺害された詳細等が書き記されていた。
「……この子達学校からの招待状無視してるのね」
「まあ、狙われてるのに呑気に学校なんて行けないよねえ。1番安全な場所ではあるんだけど」
 ギルの言葉にミアは小さく頷いては、学生時代の青春を全て捧げた学校を思い出す。

 魔法学校はどこの国もそうだが、とても大きく広い。外観等は各学校で違い、名前も違って連携はするものの完全に別の学校だ。
 年に数回交流会をしたりと少しだけ関わりはある。
 そして、ミアは校長と副校長が大好きであり恩人だった。2人とも偉大で凄い先生で、学ばせてもらった事は沢山ある。
 校長と副校長の魔力は膨大だが、とても優秀で頼もしいくらいに強く学校の防御も怠らない。生徒の安全が第一だった。
「懐かしいなあ……」
「……ねえ、これ見て。招待状が1度届いた形跡があったけど、その次からは戻って来てるよ」
「と、言う事は、1度場所を変えてる?……いや、違う。もしかしたら定期的に場所を移動してるのかも。見付からないように」
 ミアはまだ子供の彼等だけで行動しているのか疑問だった。隠れるのならその場に留まるだろうが、それをせずに色んな場所に移動しているのなら頭を使っていると感心する。
 頼れる大人が居たら良いが、きっと居ないだろうとミアは伏せ目がちに書類の写真を見つめた。


 ――失うものがあると、怖いものね。


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