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第6話
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グレン兄はシル姉が出て行ってさほど経たない内にリビングを出て行った。私も少しだけ急いで食事を終えて、まずはレイン兄を手伝う形で洗い物を、と思ったけどそれはレイン兄にやんわり断られてしまった。
それよりも掃除と、洗濯物のほうを優先して欲しいとのことらしい。
いつもより洗う食器の数が多いからこそだったんだけど……家事、好きよね、レイン兄。大丈夫だっていうならいいんだけど。
グレン兄の部屋へと向かうと、室内を軽く掃除するシル姉の姿があった。
グレン兄の部屋は、最低限の物しか置かれていないようなわりと殺風景な部屋だ。私の部屋もそこまで物があるわけじゃないけど、グレン兄の部屋は基本的には寝るために使われているような感じだから、掃除は常に行き届いていて綺麗だ。
実際、テオが運び込まれた部屋もこの部屋だ。うちには客室なんてないからね。泊まりのお客さんが来ることもほとんどないし。
シル姉に何かすることはあるか、と尋ねると、此処は大丈夫だという言葉と共に、洗濯物をたたんでおいて欲しいとの返された。布団の方はグレン兄がもう取りに行っているから、と。うん、確かにそれなら私の手は必要ないわ。
そんなこんなで外にやってきたわけだけど……。
「お手伝いしたいのか邪魔したいのかどっちなんだろ……」
「クルルルル?」
庭先の物干し竿にかけてある乾いた洗濯物を回収する私の隣で、リフが自分の体よりも大きなものの端をくわえて引っ張っては地面に引きずってしまっている。もう少し高く飛んでくれても良いのよ、リフ。
不思議そうに首をかしげているから、お手伝いしてくれているんだろうけれど。
「もう少し小さなものをお願い出来るかな? それならリフも重くなくてたくさん運べるし、私が回収するよりも早く終わるだろうし。そうなるととっても助かるわ」
「キューイ!」
高らかに鳴いて返事をしたリフが、私の言葉の通り細々したものを咥えて回収しては籠の中に入れて行く。自分の手を動かしながらリフの動きを追っていると、みるみるうちに回収を終えた。
仕事を終えたリフは、自慢げな目で私を見ている。褒めろ褒めろ、という顔だ。小さな子供のような表情に、私は吹き出すように笑って、リフの頭を撫でた。
「うん、ありがとうリフ。助かったよ」
「クルルルルル」
喉を鳴らすリフは、嬉しそうに眼を細めている。うむ、かわいい。
頬を緩ませながらなでなでを堪能して、それから干してかわいた洗濯物でいっぱいになった洗濯籠を抱え上げて歩き出すと、リフが私の後ろをふよふよと着いてきた。どうやら着いてくるつもりらしい。
「着いてくるの? アルノーさんいるよ?」
「キュ」
良い返事ね、リフ。どういう意味のお返事かは、竜語のわからない私にはわからないけれど。
でもまあ、リフ自身が決めたことならいいのかなあ。
リビングに向かうと、もうテオとアルノーさんはいなかった。
洗い物をこなしていたレイン兄が私に気付いて、二人はもう部屋に案内したと教えてくれた。そんなレイン兄めがけて素早くリフが向かい、その後頭部に衝突した。その衝撃にレイン兄が少しよろけ、危ないだろう、と叱ったけどリフは聞いてる様子はない。それどころかレイン兄にひっつけてご機嫌みたいで、尻尾をゆらゆらと揺らしている。
リフはレイン兄のこと大好きだからなあ。
レイン兄とリフの様子を横目で見ながら私は回収してきた洗濯物をたたんでいく。前世の私も、今の私も洋服をたたむなんて慣れっこだ。お茶の子さいさいというやつです。
「まったく、活発なんだからなあ……あ、リリィ」
不意にレイン兄が私を呼んだ。
振り向くとリフにひっつかれたままのレイン兄が私を見て、口を開いて言葉を続けた。
「テオの服は畳んだら持っていってもらえる? それと、それが済んだら俺の部屋に来てくれるかな。いろいろと聞きたいこともあるだろうからね」
それはありがたい。
素直に頷いて了承の意を示すと、レイン兄が小さく笑った。
洗濯物をたたみ終えて、洗ってすっかり綺麗になったテオの服を抱えてグレン兄の部屋にいるテオとアルノーさんのところへ向かおうとすると、レイン兄にひっついていたリフが気付いて向かってきた。
そして私の周囲をくるりと回り、一声鳴く。
「レイン兄はもういいの?」
「キューイ」
「俺はリフの栄養源か何かだった……?」
なるほど、リフなりにレイン兄成分的なものを補充していたのか。
深刻そうな顔で呟くレイン兄もまた洗い物を済ませたようで、濡れた手をタオルで拭くと、捲っていた袖を戻していた。
そんなレイン兄を見て、リフがまた一声鳴いた。……やっぱり何を言ってるかわからないや。リフの声は聞こえていただろうレイン兄も肩を竦めるだけだし、とくにおかしなことを言っているわけじゃないと思うけれど。
しばらくレイン兄とリフを交互に見ていると、レイン兄が気付いて微笑んだ。
「気にせず行っておいで。リフ、リリィたちに面倒かけてはダメだよ?」
「キュ……」
「ダ・メ・だ・よ?」
「……ンキュ」
今のはなんとなくわかったわ。不服ではあるけれど、レイン兄には逆らわないことにしたのね。いい子ね、リフ。懸命な判断だと思う。
グレン兄の部屋の前に立って、ノックを数回。
室内からくぐもった返事はすぐに返って来た。どうぞ、というその返事に失礼するね、と声を掛けて閉じているドアを開ける。
部屋の中は特に変わらない。変わったのは室内にいる人間と、床に敷かれた敷布団があることくらい。
「リリィか。何か用……――!!」
先に口を開いたのはテオだ。
少しだけ居心地悪そうにも思える風で一つだけあるベッドに腰掛けて首を傾げていたけど、その目がみるみるうちに見開かれていく。それはアルノーさんも同じではあるけれど、違うのはテオの目には次第に喜色が見え始めているという点だ。
そう、テオがいま見ているのは私ではない。
「竜の子供……初めて見た……」
私の後頭部にしがみつき頭頂部から顔を覗かせるリフだ。リフもまた尻尾をゆらりゆらりとしながらテオのことを見て、一声鳴いた。
「この子がリフ。貴方を見付けた時に、レイン兄を呼んできてくれたのもこの子よ」
「そうだったのか。なら、君も俺にとって恩人……いや、恩竜? になるのか」
「……キューイ!」
じっと見つめること数秒。穏やかな声音で話しかけたテオに、リフは高らかに鳴いて私の頭から離れて飛んでいく。
そのままテオの周りをくるりくるり。
「な、なんだ……? どうしたんだ?」
「気になるんじゃないかな。あなたのことは好きみたいだし」
「そう、なのか? 好かれるようなことをした覚えはないんだが……」
「そういうものよ。だから素直に喜んでいいと思うし、仲良くしてあげてね。まだ産まれてからそれほど経ってもいないから、いろんな良い経験をさせてあげたいの」
様々な方向からテオを見るリフと、その度に視界に入れようとするテオ――を心配そうに見守るアルノーさんを控えめに呼べば、すぐに振り向いた。
「これ、テオの着ていた洋服です。とても汚れていたから洗わせていただいたんですけど……大丈夫でしたでしょうか?」
「あ、ああ。感謝する。此処まで随分と強行で来たものでな……」
「でしょうね。怪我ではなく疲労の蓄積がテオが倒れていた理由だろうとはレイン兄も言ってました。この家の周辺と、正しい道は安全ですけど、他は魔物が蔓延《はびこ》ってますから……このような狭い家ですし、王宮ほどの寝具もありませんが、体を休めてくださいね」
一応綺麗にはたたんだつもりだけど。洗いたての衣服を差し出しながら言うと、アルノーさんは目を少しだけ見開き、それから受け取りながら小さく感謝する、と呟いた。
「野宿をすることと比べるのも失礼だろうが、魔物の脅威がないだけありがたい。俺はともかくとしても、騎士ではない殿下にとっては慣れないこと。ほとんど眠れなどしてなかっただろうからな」
「王族ですものね……せめて信頼する護衛の一人くらいは同行させれば良かったでしょうに」
「まったくだ。テオドール王子はご自身の御身に頓着が薄すぎる」
わあ、心の底からの溜息。
でも私が従者だとしても、家族だとしても、胃痛がするくらいには行動力に溢れすぎてると思うわ。良いことではあると思うけどね、行動力と実行力が高いということは。ただ身分を思うと、心配。
そもそも、此処に来た理由には自分の体質まで含まれているんだもの……よろしくはないと思うの、とても。
ちらりと見れば、テオはこっちの会話なんて聞こえてないみたいだった。
そっと手を差し出し、小首を傾げて考えた末にリフが小さな手をテオの手に乗せると。
「……かわいいなあ」
ちょっとだらしない顔になってるわよ、テオ。
気持ちはわかるけどね。だってリフはかわいくてとってもいい子だから。自慢の子よ、もちろん。
「……本当に随分と人馴れしているようだな、あの子竜は」
ぽつり、アルノーさんが呟いた言葉に、私は小さく笑う。
「とはいえまだ率先して近付くのは私たちが懇意にしている相手にくらいで、あとは動物とかへの興味の方が強いですけどね」
「だが、現に殿下には……」
「うーん、確かにそうなんですけど。見付けた時からですし……でも、だとしてもあの子にとって最重要にして最大の関心の理由は、レイン兄が受け入れた人間だからだと私は思います」
リフが此処で暮らしているのは、他でもないレイン兄が此処で暮らしているからこそで。
それがなければ、本当なら子竜となんて暮らせるはずも、孵化の時に立ち会うなんてことさえないはずなのだ。
故にリフにとって――違う、竜達《かれら》にとってレイン兄の存在やその意志は何よりも重要なのである。
「受け入れた? それはどういう……」
「この辺りは人避けされてますから。いろいろと、普通じゃない子達も暮らしてますし……わかりやすい例が、リフですけどね」
竜狩りをするとしたら、手っ取り早いでしょう?
いたずらっぽく尋ねれば、アルノーさんは何も閉口したのみだった。その沈黙は肯定よね。
くすくすと笑みを零しながらちらりと視線をやると、テオにじゃれついていたリフは彼の頭の上に乗ることを決めたようだった。当のテオは困惑しきりだけど、リフが気にした様子はない。
まったくこの子は。
「レイン兄に面倒かけちゃダメだって言われなかったっけ?」
「クルルルルル」
「さすがに今回は何を言ってるのか私にもわかるわよ。誤魔化してもだーめ、後でレイン兄に伝えておくわね」
「キューイ!」
「……レインは温厚そうに見えるのに、伝えられることには動揺しているようだな? 怖いのか?」
不思議そうに首をかしげるテオの頭上で、リフがキャウキャウと鳴き始めるけれど、いかんせん私達の耳に届くのはただの鳴き声だ。伝わるべくもない。
事実テオはわからないことにちょっとだけすまなそうにしてるだけだし、アルノーさんはやっぱり心配そうに見ている。大丈夫よ、アルノーさん。リフのことならやる気になれば引っ付かんで剥がすことなんて容易だから。グレン兄なんかはよくやってるもの。
「普段は怒ってもたしなめる程度だから怖くはないわね。ただリフは怒られることが多いの……結構悪戯っ子だから」
「なるほど、それでか。だが安心してくれ、困惑はしたが面倒などとは感じていないぞ?」
「キュー……?」
不安そうな、本当か、とでも言いたげな声に、テオが朗らかに笑う。
「嘘はつかないって」
「本心なんだろうけれど、あまり甘やかさないようにね」
「この程度なら良いだろう? 悪さをしているわけでも、俺自身が不快と感じているわけでもないのだから」
なあ? と、テオはリフを見上げながら問い掛ける。それを受けてリフが元気良くひと声鳴いたのは言うまでもない。
確かに、テオが嫌がってないなら問題はないし、無駄に甘やかしてるわけでもないから良いんだけどね。それでもなんというか、困った子達だなあって気持ちになるのはどうしようもないというかなんというか。
やれやれと肩を竦めて息を吐いた私に、リフはふわりとテオの頭から離れ、私のもとにやって来る。
「キューイ」
「うん? なあに、リフ」
「……キュ」
「んんっ?」
くるり、周囲を飛び回り、リフは私の首元にするりと滑り込む。鱗に覆われているとはいえすべすべとした肌と、その動きに巻き込まれた髪が首筋に触れてくすぐったい。
でもそんなことなどお構いなしにリフは肩にとどまり、ぴとりと頬に顔を寄せてくる。
「なになに、どうしたの?」
「クルルル……」
「わかんないなー」
人語を操れないって不便だ。自分の都合の良いように解釈するのは簡単だけれどね。
喉を鳴らして擦り寄るリフを撫でてやりながら苦笑をひとつ。と、そんな私に、テオが目を細めながら声を掛けてきた。
「リリィのことが大好きだって伝えたいんじゃないか?」
「……そうなの?」
「キュ」
「俺もわかるわけではないが、そんな気がしてな。たとえ違っても、良いだろう? その子がリリィのことを好きだというのは、間違いないように見えるのだから」
そうなのかなあ? そう、勝手に解釈していいものなのかな。
リフは肯定するように一声鳴いているし、殊更擦り寄ってくるけれど……うーん。
「私もレイン兄みたいに分かれば良かったんだけど」
「クルルルル」
「うん、でもありがとうリフ。私も大好きだからね」
心からそう思っているのだから、的外れだったとしても問題はないよね。
手を添えるようにして撫でてやると、殊更嬉しそうに喉を鳴らした気がした。気がしただけだけど、ご機嫌には違いない。
一連を見守っていたテオが、良かったな、なんて呟くように言う。アルノーさんは相変わらずじっと見ているだけだけれど、険しさは幾分か薄れているように思えた。
「……っと、長居しすぎちゃいましたね。ひとまず、今日はゆっくり過ごしてください。レイン兄の提案を受けるにしろ受けないにしろ、あの人なら何らかの形での助力はすると思いますし」
「ああ、その事なんだが……リリィ、君としては良いのか? 申し出を受ければ、否応無しになるだろう?」
「…………」
少しだけすまなそうな顔のテオを、私は目をしばたかせながら見詰める。
気にしいさん……気づかいしいさん? こうして気遣ってくれるのはありがたくはあるけれど、なんというか……。
「私のことは気にしなくて大丈夫よ。事が事だし……聞いてしまった以上は知らんぷりもできないし。レイン兄も考えがあってのことだろうから、そのへんはこっちも直接聞いて解消しておくつもりだしね」
「……そうか」
「……この件に関しては、テオの考えとか思いを一番に優先していいと思うわ。むしろ、私達を連れて行くに当たっての負担が大きいのはテオの方なんだもの。きっとそれは、アルノーさんの懸念にも含まれていると思うし……今はそのことを時間が許す限り、話し合って決めて」
私のことは二の次でいいのだ。少なくともテオが気にすることではないし、そのせいで諦められても困る。家族のためにって王命でもなく来たのだから、なおのこと。むしろ諦め悪く押し通そうとしたって、当然だと思うし、良いとも思うんだけどねえ。
伏せ気味のテオの表情が思案するようなものに変わったのを視界の端に、私はアルノーさんを見て口を開く。
「それじゃあ、私はこれで。何かあったら一番奥の部屋にレイン兄とグレン兄がいますので、そちらへどうぞ」
「ああ。気遣い、痛み入る」
アルノーさんのその言葉を聞きながら、私は部屋をあとにした。
さて、と。このあとはもちろん、ね?
「――それで? レイン兄は何を思って私のことをアナスタシアのいる王城へと送り込もうとしているの?」
「あー……、その疑問はもっともだよねえ」
レイン兄の部屋に赴き、腰に手をあてがい開口一番そう問った私に、レイン兄が困ったように眉を下げる。
「むしろ、リリィからしたらそれ以上に不安なことなんてねーだろ」
「これまでずっと距離を置いた生活だったものねえ。それが、突然避けていた相手の近くに向かわされるとなれば、真意を正したくはなるよね」
「ごもっとも」
部屋には既にグレン兄とシル姉もいて、二人も揃ってレイン兄をちくちくと刺すような言葉を放っている。それらまで受けたレイン兄は肩まで落としたわけだけど、この場にレイン兄に味方する者はいない。
唯一可能性のあったリフは、おねむになったみたいでテオたちのいるグレン兄の部屋から出たあとに寄った私の部屋にある専用ベッドで夢の中だ。
「別に、意地悪したいわけではないからな?」
「それはわかってる。レイン兄がそんなことするわけないもの。けどだからこそ、なんでなのかわからないの。リフを連れて行くためとはいえ、私を向かわせようとしている理由が。……私以外、向かえないっていうのはわかっているけれど」
「いいや、リリィを向かわせることにも意味があるんだよ」
緩く顔を横に振るレイン兄に、眉を寄せる。
「どういうこと?」
「テオにはああ言ったけれど、フェルメニアの第一王女が〈竜巫女〉であることは絶対にない。あの姫君には恩寵など与えられるべくもないのだから……その一点について確認する必要は、はじめから無いんだ」
「それはなんとなく察してた。でもテオたちにとってはそうではないから……語り継がれる事との相違を、誰が見ても分かるように明確に示した方が良い」
「少なくともテオには……いや、彼ら兄妹にはそれが必要、の方が良いか。それをしてなお、真偽を見定めることができなかったならば、それはそれではあるけれど」
「なら、リリィを向かわせるのはリフを連れていくためじゃなくて、他の目的のためか」
と、割って入るようにして言葉を紡いだグレン兄に、レイン兄は深く頷いた。
「ひとつは、スィエルの第一王子と第一王女が患う奇病の原因がどこにあるかを探るため。リフを連れていく何よりの理由とも言えるが、竜と、国にとっての完全なる部外者ならば、見えることも気付けることも国の人間とは違うはずだからね……術者、ないしは関係者を炙り出すとまではいかずとも、手掛かりか、少しでもいい、関連する何かを見つけ出して欲しい」
「そのための手助けとして、既にイスイルには連絡を入れているわ。コウくんは厳しいだろうけれど、リュミィなら動きやすいだろうし……常に側にいられるわけではないけれど、その方が気も休まるでしょう?」
確かに、神経も使うだろうし、何より落ち着かない環境下に置かれることは間違いないのに、近くに子竜と異性しかいないというのは少し息が詰まるかもしれない。リフたちに問題があるとかじゃなくてね。
柔らかな声音で付け足すシル姉に、張り詰めていたものが少しだけ緩んだ気がした。
けどそれをすぐに引き締める。まだレイン兄から聞くべきことはある。むしろこれからが本題だ。
「それで、ふたつ目は?」
問い掛けると、レイン兄はその表情を引き締めた。これまでの柔和な笑みが消えた、真摯なものだ。
「――アナスタシア・レム・フェルメニアが本当に予知能力者なのか、それを確認して欲しい」
「……、」
思わず息を飲む。目を見開き、瞬きも忘れてじっとレイン兄を見詰める。
だって、それは。でも、ああ、確かにそれは――私にしか出来ないことだ。
それよりも掃除と、洗濯物のほうを優先して欲しいとのことらしい。
いつもより洗う食器の数が多いからこそだったんだけど……家事、好きよね、レイン兄。大丈夫だっていうならいいんだけど。
グレン兄の部屋へと向かうと、室内を軽く掃除するシル姉の姿があった。
グレン兄の部屋は、最低限の物しか置かれていないようなわりと殺風景な部屋だ。私の部屋もそこまで物があるわけじゃないけど、グレン兄の部屋は基本的には寝るために使われているような感じだから、掃除は常に行き届いていて綺麗だ。
実際、テオが運び込まれた部屋もこの部屋だ。うちには客室なんてないからね。泊まりのお客さんが来ることもほとんどないし。
シル姉に何かすることはあるか、と尋ねると、此処は大丈夫だという言葉と共に、洗濯物をたたんでおいて欲しいとの返された。布団の方はグレン兄がもう取りに行っているから、と。うん、確かにそれなら私の手は必要ないわ。
そんなこんなで外にやってきたわけだけど……。
「お手伝いしたいのか邪魔したいのかどっちなんだろ……」
「クルルルル?」
庭先の物干し竿にかけてある乾いた洗濯物を回収する私の隣で、リフが自分の体よりも大きなものの端をくわえて引っ張っては地面に引きずってしまっている。もう少し高く飛んでくれても良いのよ、リフ。
不思議そうに首をかしげているから、お手伝いしてくれているんだろうけれど。
「もう少し小さなものをお願い出来るかな? それならリフも重くなくてたくさん運べるし、私が回収するよりも早く終わるだろうし。そうなるととっても助かるわ」
「キューイ!」
高らかに鳴いて返事をしたリフが、私の言葉の通り細々したものを咥えて回収しては籠の中に入れて行く。自分の手を動かしながらリフの動きを追っていると、みるみるうちに回収を終えた。
仕事を終えたリフは、自慢げな目で私を見ている。褒めろ褒めろ、という顔だ。小さな子供のような表情に、私は吹き出すように笑って、リフの頭を撫でた。
「うん、ありがとうリフ。助かったよ」
「クルルルルル」
喉を鳴らすリフは、嬉しそうに眼を細めている。うむ、かわいい。
頬を緩ませながらなでなでを堪能して、それから干してかわいた洗濯物でいっぱいになった洗濯籠を抱え上げて歩き出すと、リフが私の後ろをふよふよと着いてきた。どうやら着いてくるつもりらしい。
「着いてくるの? アルノーさんいるよ?」
「キュ」
良い返事ね、リフ。どういう意味のお返事かは、竜語のわからない私にはわからないけれど。
でもまあ、リフ自身が決めたことならいいのかなあ。
リビングに向かうと、もうテオとアルノーさんはいなかった。
洗い物をこなしていたレイン兄が私に気付いて、二人はもう部屋に案内したと教えてくれた。そんなレイン兄めがけて素早くリフが向かい、その後頭部に衝突した。その衝撃にレイン兄が少しよろけ、危ないだろう、と叱ったけどリフは聞いてる様子はない。それどころかレイン兄にひっつけてご機嫌みたいで、尻尾をゆらゆらと揺らしている。
リフはレイン兄のこと大好きだからなあ。
レイン兄とリフの様子を横目で見ながら私は回収してきた洗濯物をたたんでいく。前世の私も、今の私も洋服をたたむなんて慣れっこだ。お茶の子さいさいというやつです。
「まったく、活発なんだからなあ……あ、リリィ」
不意にレイン兄が私を呼んだ。
振り向くとリフにひっつかれたままのレイン兄が私を見て、口を開いて言葉を続けた。
「テオの服は畳んだら持っていってもらえる? それと、それが済んだら俺の部屋に来てくれるかな。いろいろと聞きたいこともあるだろうからね」
それはありがたい。
素直に頷いて了承の意を示すと、レイン兄が小さく笑った。
洗濯物をたたみ終えて、洗ってすっかり綺麗になったテオの服を抱えてグレン兄の部屋にいるテオとアルノーさんのところへ向かおうとすると、レイン兄にひっついていたリフが気付いて向かってきた。
そして私の周囲をくるりと回り、一声鳴く。
「レイン兄はもういいの?」
「キューイ」
「俺はリフの栄養源か何かだった……?」
なるほど、リフなりにレイン兄成分的なものを補充していたのか。
深刻そうな顔で呟くレイン兄もまた洗い物を済ませたようで、濡れた手をタオルで拭くと、捲っていた袖を戻していた。
そんなレイン兄を見て、リフがまた一声鳴いた。……やっぱり何を言ってるかわからないや。リフの声は聞こえていただろうレイン兄も肩を竦めるだけだし、とくにおかしなことを言っているわけじゃないと思うけれど。
しばらくレイン兄とリフを交互に見ていると、レイン兄が気付いて微笑んだ。
「気にせず行っておいで。リフ、リリィたちに面倒かけてはダメだよ?」
「キュ……」
「ダ・メ・だ・よ?」
「……ンキュ」
今のはなんとなくわかったわ。不服ではあるけれど、レイン兄には逆らわないことにしたのね。いい子ね、リフ。懸命な判断だと思う。
グレン兄の部屋の前に立って、ノックを数回。
室内からくぐもった返事はすぐに返って来た。どうぞ、というその返事に失礼するね、と声を掛けて閉じているドアを開ける。
部屋の中は特に変わらない。変わったのは室内にいる人間と、床に敷かれた敷布団があることくらい。
「リリィか。何か用……――!!」
先に口を開いたのはテオだ。
少しだけ居心地悪そうにも思える風で一つだけあるベッドに腰掛けて首を傾げていたけど、その目がみるみるうちに見開かれていく。それはアルノーさんも同じではあるけれど、違うのはテオの目には次第に喜色が見え始めているという点だ。
そう、テオがいま見ているのは私ではない。
「竜の子供……初めて見た……」
私の後頭部にしがみつき頭頂部から顔を覗かせるリフだ。リフもまた尻尾をゆらりゆらりとしながらテオのことを見て、一声鳴いた。
「この子がリフ。貴方を見付けた時に、レイン兄を呼んできてくれたのもこの子よ」
「そうだったのか。なら、君も俺にとって恩人……いや、恩竜? になるのか」
「……キューイ!」
じっと見つめること数秒。穏やかな声音で話しかけたテオに、リフは高らかに鳴いて私の頭から離れて飛んでいく。
そのままテオの周りをくるりくるり。
「な、なんだ……? どうしたんだ?」
「気になるんじゃないかな。あなたのことは好きみたいだし」
「そう、なのか? 好かれるようなことをした覚えはないんだが……」
「そういうものよ。だから素直に喜んでいいと思うし、仲良くしてあげてね。まだ産まれてからそれほど経ってもいないから、いろんな良い経験をさせてあげたいの」
様々な方向からテオを見るリフと、その度に視界に入れようとするテオ――を心配そうに見守るアルノーさんを控えめに呼べば、すぐに振り向いた。
「これ、テオの着ていた洋服です。とても汚れていたから洗わせていただいたんですけど……大丈夫でしたでしょうか?」
「あ、ああ。感謝する。此処まで随分と強行で来たものでな……」
「でしょうね。怪我ではなく疲労の蓄積がテオが倒れていた理由だろうとはレイン兄も言ってました。この家の周辺と、正しい道は安全ですけど、他は魔物が蔓延《はびこ》ってますから……このような狭い家ですし、王宮ほどの寝具もありませんが、体を休めてくださいね」
一応綺麗にはたたんだつもりだけど。洗いたての衣服を差し出しながら言うと、アルノーさんは目を少しだけ見開き、それから受け取りながら小さく感謝する、と呟いた。
「野宿をすることと比べるのも失礼だろうが、魔物の脅威がないだけありがたい。俺はともかくとしても、騎士ではない殿下にとっては慣れないこと。ほとんど眠れなどしてなかっただろうからな」
「王族ですものね……せめて信頼する護衛の一人くらいは同行させれば良かったでしょうに」
「まったくだ。テオドール王子はご自身の御身に頓着が薄すぎる」
わあ、心の底からの溜息。
でも私が従者だとしても、家族だとしても、胃痛がするくらいには行動力に溢れすぎてると思うわ。良いことではあると思うけどね、行動力と実行力が高いということは。ただ身分を思うと、心配。
そもそも、此処に来た理由には自分の体質まで含まれているんだもの……よろしくはないと思うの、とても。
ちらりと見れば、テオはこっちの会話なんて聞こえてないみたいだった。
そっと手を差し出し、小首を傾げて考えた末にリフが小さな手をテオの手に乗せると。
「……かわいいなあ」
ちょっとだらしない顔になってるわよ、テオ。
気持ちはわかるけどね。だってリフはかわいくてとってもいい子だから。自慢の子よ、もちろん。
「……本当に随分と人馴れしているようだな、あの子竜は」
ぽつり、アルノーさんが呟いた言葉に、私は小さく笑う。
「とはいえまだ率先して近付くのは私たちが懇意にしている相手にくらいで、あとは動物とかへの興味の方が強いですけどね」
「だが、現に殿下には……」
「うーん、確かにそうなんですけど。見付けた時からですし……でも、だとしてもあの子にとって最重要にして最大の関心の理由は、レイン兄が受け入れた人間だからだと私は思います」
リフが此処で暮らしているのは、他でもないレイン兄が此処で暮らしているからこそで。
それがなければ、本当なら子竜となんて暮らせるはずも、孵化の時に立ち会うなんてことさえないはずなのだ。
故にリフにとって――違う、竜達《かれら》にとってレイン兄の存在やその意志は何よりも重要なのである。
「受け入れた? それはどういう……」
「この辺りは人避けされてますから。いろいろと、普通じゃない子達も暮らしてますし……わかりやすい例が、リフですけどね」
竜狩りをするとしたら、手っ取り早いでしょう?
いたずらっぽく尋ねれば、アルノーさんは何も閉口したのみだった。その沈黙は肯定よね。
くすくすと笑みを零しながらちらりと視線をやると、テオにじゃれついていたリフは彼の頭の上に乗ることを決めたようだった。当のテオは困惑しきりだけど、リフが気にした様子はない。
まったくこの子は。
「レイン兄に面倒かけちゃダメだって言われなかったっけ?」
「クルルルルル」
「さすがに今回は何を言ってるのか私にもわかるわよ。誤魔化してもだーめ、後でレイン兄に伝えておくわね」
「キューイ!」
「……レインは温厚そうに見えるのに、伝えられることには動揺しているようだな? 怖いのか?」
不思議そうに首をかしげるテオの頭上で、リフがキャウキャウと鳴き始めるけれど、いかんせん私達の耳に届くのはただの鳴き声だ。伝わるべくもない。
事実テオはわからないことにちょっとだけすまなそうにしてるだけだし、アルノーさんはやっぱり心配そうに見ている。大丈夫よ、アルノーさん。リフのことならやる気になれば引っ付かんで剥がすことなんて容易だから。グレン兄なんかはよくやってるもの。
「普段は怒ってもたしなめる程度だから怖くはないわね。ただリフは怒られることが多いの……結構悪戯っ子だから」
「なるほど、それでか。だが安心してくれ、困惑はしたが面倒などとは感じていないぞ?」
「キュー……?」
不安そうな、本当か、とでも言いたげな声に、テオが朗らかに笑う。
「嘘はつかないって」
「本心なんだろうけれど、あまり甘やかさないようにね」
「この程度なら良いだろう? 悪さをしているわけでも、俺自身が不快と感じているわけでもないのだから」
なあ? と、テオはリフを見上げながら問い掛ける。それを受けてリフが元気良くひと声鳴いたのは言うまでもない。
確かに、テオが嫌がってないなら問題はないし、無駄に甘やかしてるわけでもないから良いんだけどね。それでもなんというか、困った子達だなあって気持ちになるのはどうしようもないというかなんというか。
やれやれと肩を竦めて息を吐いた私に、リフはふわりとテオの頭から離れ、私のもとにやって来る。
「キューイ」
「うん? なあに、リフ」
「……キュ」
「んんっ?」
くるり、周囲を飛び回り、リフは私の首元にするりと滑り込む。鱗に覆われているとはいえすべすべとした肌と、その動きに巻き込まれた髪が首筋に触れてくすぐったい。
でもそんなことなどお構いなしにリフは肩にとどまり、ぴとりと頬に顔を寄せてくる。
「なになに、どうしたの?」
「クルルル……」
「わかんないなー」
人語を操れないって不便だ。自分の都合の良いように解釈するのは簡単だけれどね。
喉を鳴らして擦り寄るリフを撫でてやりながら苦笑をひとつ。と、そんな私に、テオが目を細めながら声を掛けてきた。
「リリィのことが大好きだって伝えたいんじゃないか?」
「……そうなの?」
「キュ」
「俺もわかるわけではないが、そんな気がしてな。たとえ違っても、良いだろう? その子がリリィのことを好きだというのは、間違いないように見えるのだから」
そうなのかなあ? そう、勝手に解釈していいものなのかな。
リフは肯定するように一声鳴いているし、殊更擦り寄ってくるけれど……うーん。
「私もレイン兄みたいに分かれば良かったんだけど」
「クルルルル」
「うん、でもありがとうリフ。私も大好きだからね」
心からそう思っているのだから、的外れだったとしても問題はないよね。
手を添えるようにして撫でてやると、殊更嬉しそうに喉を鳴らした気がした。気がしただけだけど、ご機嫌には違いない。
一連を見守っていたテオが、良かったな、なんて呟くように言う。アルノーさんは相変わらずじっと見ているだけだけれど、険しさは幾分か薄れているように思えた。
「……っと、長居しすぎちゃいましたね。ひとまず、今日はゆっくり過ごしてください。レイン兄の提案を受けるにしろ受けないにしろ、あの人なら何らかの形での助力はすると思いますし」
「ああ、その事なんだが……リリィ、君としては良いのか? 申し出を受ければ、否応無しになるだろう?」
「…………」
少しだけすまなそうな顔のテオを、私は目をしばたかせながら見詰める。
気にしいさん……気づかいしいさん? こうして気遣ってくれるのはありがたくはあるけれど、なんというか……。
「私のことは気にしなくて大丈夫よ。事が事だし……聞いてしまった以上は知らんぷりもできないし。レイン兄も考えがあってのことだろうから、そのへんはこっちも直接聞いて解消しておくつもりだしね」
「……そうか」
「……この件に関しては、テオの考えとか思いを一番に優先していいと思うわ。むしろ、私達を連れて行くに当たっての負担が大きいのはテオの方なんだもの。きっとそれは、アルノーさんの懸念にも含まれていると思うし……今はそのことを時間が許す限り、話し合って決めて」
私のことは二の次でいいのだ。少なくともテオが気にすることではないし、そのせいで諦められても困る。家族のためにって王命でもなく来たのだから、なおのこと。むしろ諦め悪く押し通そうとしたって、当然だと思うし、良いとも思うんだけどねえ。
伏せ気味のテオの表情が思案するようなものに変わったのを視界の端に、私はアルノーさんを見て口を開く。
「それじゃあ、私はこれで。何かあったら一番奥の部屋にレイン兄とグレン兄がいますので、そちらへどうぞ」
「ああ。気遣い、痛み入る」
アルノーさんのその言葉を聞きながら、私は部屋をあとにした。
さて、と。このあとはもちろん、ね?
「――それで? レイン兄は何を思って私のことをアナスタシアのいる王城へと送り込もうとしているの?」
「あー……、その疑問はもっともだよねえ」
レイン兄の部屋に赴き、腰に手をあてがい開口一番そう問った私に、レイン兄が困ったように眉を下げる。
「むしろ、リリィからしたらそれ以上に不安なことなんてねーだろ」
「これまでずっと距離を置いた生活だったものねえ。それが、突然避けていた相手の近くに向かわされるとなれば、真意を正したくはなるよね」
「ごもっとも」
部屋には既にグレン兄とシル姉もいて、二人も揃ってレイン兄をちくちくと刺すような言葉を放っている。それらまで受けたレイン兄は肩まで落としたわけだけど、この場にレイン兄に味方する者はいない。
唯一可能性のあったリフは、おねむになったみたいでテオたちのいるグレン兄の部屋から出たあとに寄った私の部屋にある専用ベッドで夢の中だ。
「別に、意地悪したいわけではないからな?」
「それはわかってる。レイン兄がそんなことするわけないもの。けどだからこそ、なんでなのかわからないの。リフを連れて行くためとはいえ、私を向かわせようとしている理由が。……私以外、向かえないっていうのはわかっているけれど」
「いいや、リリィを向かわせることにも意味があるんだよ」
緩く顔を横に振るレイン兄に、眉を寄せる。
「どういうこと?」
「テオにはああ言ったけれど、フェルメニアの第一王女が〈竜巫女〉であることは絶対にない。あの姫君には恩寵など与えられるべくもないのだから……その一点について確認する必要は、はじめから無いんだ」
「それはなんとなく察してた。でもテオたちにとってはそうではないから……語り継がれる事との相違を、誰が見ても分かるように明確に示した方が良い」
「少なくともテオには……いや、彼ら兄妹にはそれが必要、の方が良いか。それをしてなお、真偽を見定めることができなかったならば、それはそれではあるけれど」
「なら、リリィを向かわせるのはリフを連れていくためじゃなくて、他の目的のためか」
と、割って入るようにして言葉を紡いだグレン兄に、レイン兄は深く頷いた。
「ひとつは、スィエルの第一王子と第一王女が患う奇病の原因がどこにあるかを探るため。リフを連れていく何よりの理由とも言えるが、竜と、国にとっての完全なる部外者ならば、見えることも気付けることも国の人間とは違うはずだからね……術者、ないしは関係者を炙り出すとまではいかずとも、手掛かりか、少しでもいい、関連する何かを見つけ出して欲しい」
「そのための手助けとして、既にイスイルには連絡を入れているわ。コウくんは厳しいだろうけれど、リュミィなら動きやすいだろうし……常に側にいられるわけではないけれど、その方が気も休まるでしょう?」
確かに、神経も使うだろうし、何より落ち着かない環境下に置かれることは間違いないのに、近くに子竜と異性しかいないというのは少し息が詰まるかもしれない。リフたちに問題があるとかじゃなくてね。
柔らかな声音で付け足すシル姉に、張り詰めていたものが少しだけ緩んだ気がした。
けどそれをすぐに引き締める。まだレイン兄から聞くべきことはある。むしろこれからが本題だ。
「それで、ふたつ目は?」
問い掛けると、レイン兄はその表情を引き締めた。これまでの柔和な笑みが消えた、真摯なものだ。
「――アナスタシア・レム・フェルメニアが本当に予知能力者なのか、それを確認して欲しい」
「……、」
思わず息を飲む。目を見開き、瞬きも忘れてじっとレイン兄を見詰める。
だって、それは。でも、ああ、確かにそれは――私にしか出来ないことだ。
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