乙女ゲームの元ヒロインは恋の相手をさがしてる

月宮明理

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6.激突!バスケ部親衛隊

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更紗と美羽は校舎の影に隠れるようにして、校舎裏を覗き込む。

「あの人たち、バスケ部の親衛隊じゃないかな?」
「バスケ部の……親衛隊?なにその現代離れした単語」
「過激派のファンクラブみたいなものだよ。許可なく近づく女は滅多刺し、みたいな」
「物騒だね」

どんな理由があるのかは知らないが、瑠奈と他の女子生徒たちは対立しているようだ。美羽の情報通りであれば、この後の展開はごく自然に読めてしまう。

「天空さんを助けないと」
「出て行く気!?親衛隊に目をつけられたらどうするの!?」
「けど黙って見てるなんてできないよ」

いつになく険しい顔をした美羽が更紗の腕をつかむ。

「やっぱりついて来て正解だった。そんな無茶なこと絶対にさせないから!」
「美羽、離して」

美羽は首を横に振った。

「美羽には更紗以上に大事な友達なんていない。他の誰が傷ついたって、更紗が無事ならそれでいいもん!」
「美羽……」

美羽の決意は固い。

魅了する笑顔チャーミングスマイルを使えば簡単だけど、美羽相手にやりたくないし……)

魅了する笑顔チャーミングスマイルは人の心を強制的に動かす力。一番の友達である美羽に対して使うのはためらわれた。

「お願いだよ、美羽。私を行かせて」
「絶対に嫌!」
「だって私が行けば、天空さんを助けられるんだよ。分かってて見捨てるなんて――できないよ」

悲しみのこもった更紗の瞳が、美羽の透明なそれに映る。数秒間たっぷりと見つめ合った。

「…………」
「…………」
「………………美羽」
「うぅ……」
「美羽!」
「……………………分かった」

更紗をつかんでいた美羽の手がするりとほどけた。
大きな瞳を不満げにゆがめた美羽は、懸念事項を更紗に伝える。

「美羽ね、女の子相手に更紗が喧嘩で負けるなんて思ってないの。親衛隊が怖いのは暴力じゃない方法で更紗に絡んでくるかもしれないってところ。――気をつけてよ」
「分かった」

更紗が校舎を離れ、瑠奈たちの方に歩きだす。
足手まといになりたくなくて、美羽は更紗の背中を見送った。
声が届かないと分かっていて、ポツリとつぶやく。

「もっと自分を大切にしてよ、更紗」




(どうやって声をかけようかな)

瑠奈たちに近づいて行く間、更紗は考える。
傍目には瑠奈が複数の女子生徒に絡まれているように見えるが、実際はどうか分からない。

(事情も分からないのに、いきなり強いこと言うのも……)

もう少しで声が届くという距離で、瑠奈が更紗に気づき顔を向ける。
その濃紺の瞳から、一雫こぼれた。

――助けて。

「……!」

更紗は瞠目する。
声は拾えなかったものの、口の動きで分かる。瑠奈は確かに「助けて」と言った。

(助けないと!)

途端、迷いは吹っ切れた。身体が頭よりも早く動く。

「何してるのっ?」

割って入り、瑠奈を背中にかばった更紗。
驚く女子生徒を目の前にして、更紗は目を瞬かせる。

(あれ?なんでこんなに喧嘩腰に言っちゃったんだ?)

仲裁ではなく、明らかに瑠奈の味方という態度だ。
何か打つ手を間違えた気がして、向こうに控えている美羽を横目で見る。遠目でもはっきりと怒りのオーラを視認できた。

(……般若だ)

「何!?なんなのあんた!」

瑠奈を囲んでいた女子生徒のひとりが声をあげる。

(いち、に、さん……四人か)

喧嘩になるかと身構える更紗だったが、それは杞憂に終わった。

「淑女たるもの静粛に!」

凛とした声が、ぴしゃりと場を制する。
少し離れた位置にいたので気付かなかったが、もう女子生徒はもう一人いたのだ。堂々とした足取りで更紗に向かってくる。

(この人……黒川先輩だ)

目の前で圧倒的なオーラを放つ生徒を、更紗は知っていた。生徒会長の黒川佳世。生徒の間では女帝と呼ばれている存在だ。
前髪ごとかきあげたロングのストレートは茶髪、さらにつけまつげ装備のバッチリメイク。完全にギャルであり、生徒会長というよりは生徒指導室常連の問題児といった格好だが、成績優秀で運動も得意、さらに部活動を全面的にバックアップしていて教師からの評価は高い。

「黒川先輩がなんでこんなことを……」
「あら、わたくしのことを知っているのね。わたくしも貴女のことは知っていてよ、如月更紗さん」

そう言うと佳世は手で他の生徒を下がらせて、自身は軽く足を開いて構えを取った。

「生徒の家庭のことはそれなりに知っているの。もちろん、如月さんのこともね。……手合わせしましょう」
「……っ!」

言い終わるとほぼ同時。佳世が地を蹴った。

(速い!)

伸びてきた拳を寸前のところで躱し、更紗も身構える。

「どうしてこうなったの……」
「無駄口を叩く余裕はすぐになくしてあげますわ」

佳世の上段蹴りに更紗も同じ上段蹴りで応戦する。
次々と技を繰り出す佳世だけれど、一つとしてまともに入ることがない。そして気づく。

「如月さん、なぜ攻撃してこないの!」

更紗は自分が本気を出せばすぐに決着がつくことを知っていた。しかしそんなことは望んでいない。

「私は話し合いのためにここに来たんです」
「残念ですけど、それは無理というものですわ。秩序と統率は集団には絶対的に必要なものですもの」

佳世の言葉の意味が更紗には分からない。

(そういえば私、この件に関して全然知らないんだよね)

今更紗がやらなければならないことは佳世と対立することではなく、事情を知ることだ。

(それなら!)

つま先に力を込めて、素早く佳世との距離を詰める。

「なっ……!」

驚く佳世の手を引き、顔を見つめる。

魅了する笑顔チャーミングスマイル

更紗の美しい微笑を直視してしまい、佳世の頬が赤く染まる。

「〈今は引いて〉」
「……はい」

熱に浮かされたように佳世は臨戦態勢を解き、他の生徒にも下がるように告げる。態度を一変させた佳世を不思議そうに眺めるが、異を唱えることなくこの場から離れる佳世を追った。

「事情を聞かせてもらってもいいかな、天空さん」
「助けてくれてありがとう。けど如月さんには関係ないよ」
「もう関わっちゃってる以上、更紗にも知る権利があると思うけど?」

佳世たちが去ったことで、美羽が姿を見せる。
瑠奈と美羽が互いに見合い、よくない雰囲気が漂った。諦めたのは瑠奈の方だった。

「はぁ……仕方ないね。巻き込んだのは私だし。事情を説明するから、明日の朝体育館に来てくれる?」


翌朝。
更紗と美羽は瑠奈の指示した通りに体育館にやって来た。しかし、体育館には入れないでいる。

「親衛隊以外立ち入り禁止?」

瑠奈が理由を説明すると、更紗は首を傾げた。

「今日はバスケ部が朝練で体育館を使っているんだけどね、見学するためにはバスケ部親衛隊に入らないといけないわけ。けど、親衛隊に入るにはいろいろと制約があるの。決まった日に応援に行くこととか、親衛隊以外の人から部員を守ることとか……部員を恋愛対象としてみない、とか」
「うっわぁ……」

更紗と美羽は揃って顔をしかめた。

「けど私はその制約を守れないし……あ、ちょうど練習が終わったみたい。ドアが開くよ」

体育館の中の騒がしさが、よりはっきりとしたものになる。
先頭立って出て来たのは女子生徒。おそらく親衛隊員だろう。その後ろからぞろぞろと親衛隊と思われる生徒が続き囲いができて、それからようやく男子生徒が現れた。

(え――)

目に眩しいオレンジ色の髪が特徴的だった。短く整えられた髪は、野生的で生真面目という矛盾した印象を与える。彫りの深い顔立ちと、がっしりとした体躯が男性的な魅力を増幅させている。
人を惹きつける魅力が十分なその容姿。しかし更紗が驚いた理由はそれではない。

(似てる――彼に)

更紗が思い出した前世の彼と面影がそっくりそのまま重なった。
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