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弟の悦び

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 挑戦的な笑みを浮かべた弟が俺に近づき、上目遣いでじっと見つめる。正しい答えを言わないとどうにかしちゃうぞという気持ちが、注がれるまなざしに表れているせいで、無駄に焦ってしまった。

「意味……、いっ、それは」

「兄貴は加害者なんだよ。被害者の僕に謝罪する立場なんだ。つまり生涯かけて、尽くさなければならないってこと。僕は傷つけられたんだから当然だよね」

「俺が加害者――」

「若林先輩をどうやって焚きつけたのかは知らないけど、二人は結託して僕を傷つけた。肉体だけじゃなく精神的にもね」

 わざとらしく顔を歪ませ、泣きそうな顔をしてみせる弟の演技に、反吐が出そうだった。精神的に傷ついてるようには、まったく見えない。

「……悪かったよ。おまえに好かれることからどうしても逃げたくて、若林先輩を使ったことは認める。だけどもうそれくらい、俺は辰之を嫌ってることを理解してほしい!」

「それでも兄貴は僕の家族でしょ。嫌っていても兄として、そして加害者の責任として守ってもらわなきゃ。だってこの先、僕の躰が壊れてしまうかもしれないから」

 弟はジャージのポケットからスマホを取り出し、手早く操作して俺に画面を向けた。

「なんだよ、それは!?」

「若林先輩からの熱いラブメッセージだよ。兄貴も聴いたでしょ、僕が襲われてる声。誰にもバラされたくなければ、LINEのIDを教えろって脅されたんだ」

 画面に表示された文面は、かなり卑猥なものだった。

『辰之くんの締りのいいケツマ〇コを思い出しただけで、またシたくなってきた。明日の休み時間に顔を出すね』
『今日の録音した声をオカズにしちゃった』
『早く会いたい。電話していい?辰之くんの生の声、聞きたくなった』

 10分おきに送信されるメッセージを読んでるだけで、呼吸が乱れて目眩がした。

(人選ミスした……。俺のせいで辰之は、若林先輩に蹂躙される運命なんて――)

「僕はこれから若林先輩に呼び出された挙句に、組み敷かれて生活しなきゃならないみたいだよ。兄貴のせいでね」

「俺がとめる! そんなことはさせない」

「僕が好きなのは兄貴だけなんだからね。お願い…」

 震える声で懇願した弟は俺に抱きつき、踵をあげてキスをした。

「うつっ!」
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