15 / 83
act:意外な優しさ
鎌田目線5
しおりを挟む
***
ライブハウスに着く直前、君の足が急に重くなる。自分達のスーツ姿に、どうやら違和感を覚えたらしい。
俺がいつもこの格好で行くと言うと、かなり驚いた様子だった。それでもまごまごしているので、その場に置いてきぼりにしてみる。少ししたら観念した顔の君が中に入ってきた。
店員が何故だか業界の人間と錯覚したお陰で、タダでライブを鑑賞することができてしまう。しかもオススメのバンドが三組いるという、前情報が手に入ったのもラッキーだった。
相変わらずしょぼくれた君を何とかしたくて、思いきって肩に手を回してみる。華奢な躰がビクッとして一瞬強張ったが、すぐに緊張をといてくれた。
その様子を横目で見て、内心ほっとしながらライブ会場に入る。思ったより狭いところだったので、動きが取りにくい状況に眉根を寄せた。
(他のヤツに、彼女を触れさせてたまるか)
回した腕に力を入れながら強引に君を壁側に寄せながら客の合間を縫っていると、空いている席が隅の方にあったので、そこに座らせる。
途中何度か視線を感じたが、スルーさせてもらった。目を合わせたらきっと、大変なコトになるのは明白だ。
席に着いて君の顔を盗み見すると、何だかふくれていた。理由が、さっぱり分からない――何かあったのだろうかと、顔を近づけてみる。
「何を怒っているんですか?」
なのに君は変な切り返しをして、理由をなかなか言わない。その上……
「鎌田先輩は私といて、ドキドキしますか?」
なぁんて質問までしてきた。何かを悟られそうで、思わず顎を引くしかない。怒っている理由同様に、一体何を考えているのかさっぱり分からない。
会社では君の失敗にドキドキさせられたり、行動を見てるだけでいろいろ危なっかしいし、常にあどけない表情を周りに見せるから、ハラハラさせられっぱなしなんだが――
ちょっと憎たらしくなって、君の鼻を摘まんでしまった。可愛いを通り越して何とやら。この俺が、こんなに翻弄させられるとは……。
これまでいろんな女性と付き合ってきたが、長続きしても半年。好きになってもなかなか告白できずにいたら、男ができたことが二回。やっとの思いで告白して付き合ってもイメージと違うと言われ、振られたことが何度あっただろう。
『私がいなくても、アナタはひとりでやっていけるわ。だから平気よね』
と振られたのがちょうど三年前か。
年上の女性と自分の意に反した行動を強要させる女性が苦手だったので、付き合わないようにしていたのだが、さっき社内で連れまわされたのは、明らかに意に反した行動だった。それなのに引きずられるように歩かされても、全然嫌じゃなかった。
――俺、丸くなったのかな。
ぼんやりと君を見る。
あまりの可愛らしさに、思わずデコピンをお見舞いした。この行動の半分は、八つ当たりだったのかもしれない。
本当は残業をしなければならないくらい仕事がたまっていたのに、それよりも君と一緒にこうしてライブに行けるという、魅力的な仕事を優先してしまった。明日は間違いなく残業が決定だけど今のデコピンで、ちょっとだけ気分が晴れてしまうなんてな。
心を躍らせるような音楽を聴きながら、傍に君がいることの喜びをしっかりと噛み締める――
結局、君贔屓のバンドに会えないまま、ライブハウスをあとにした。
傍に君がいるだけで勝手に体温が上昇したので、上着を脱いで涼しい夜風に身を任せる。
思いきって予定表を渡した理由を教えてみたのに、君はずっと俯いたままだった。何か気に入らないことでも、いつの間にかやってしまったのだろうか――?
そう考えていたら、ため息をつくと同時にゆっくりと顔を上げる君。
頼りないとか儚いとか何だかよく分からない雰囲気を醸している君を、このままひとりで帰すわけにはいかなかったので、迷う事なく家まで送ると提案してみた。
自宅を知っている理由を聞かれたが、曖昧に返答するしかない。たまぁに遠回りして、君の自宅前を通って帰宅していたのだ。そんなことは口が裂けても言えない。一見、ストーカーだから尚更。
元気のない君を何とかしたくて、
「バンドの俺と仕事の俺、どっちがイイですか?」
なぁんて質問してみた。君の突飛な質問に対抗したら目を大きく見開き、ぽかんとした顔をする。
俺がじっと見つめた途端にあたふたして落ち着きのない、いつもの君に戻った。
(――見事、作戦成功!)
だけどここから会話をどう展開していったらいいのか分からなくなり、無言のまま君の自宅に着いてしまう。
「今日サボってしまった分だけたくさん仕事がありますので、覚悟しておいて下さい。おやすみなさい」
そう言って別れた。君はその場に佇んだまま、こっちをじっと見ている。
少々、イジメすぎただろうか――今日一日でいろんな顔の君を見ることができて、俺としては嬉しいんだけどね。
ライブハウスに着く直前、君の足が急に重くなる。自分達のスーツ姿に、どうやら違和感を覚えたらしい。
俺がいつもこの格好で行くと言うと、かなり驚いた様子だった。それでもまごまごしているので、その場に置いてきぼりにしてみる。少ししたら観念した顔の君が中に入ってきた。
店員が何故だか業界の人間と錯覚したお陰で、タダでライブを鑑賞することができてしまう。しかもオススメのバンドが三組いるという、前情報が手に入ったのもラッキーだった。
相変わらずしょぼくれた君を何とかしたくて、思いきって肩に手を回してみる。華奢な躰がビクッとして一瞬強張ったが、すぐに緊張をといてくれた。
その様子を横目で見て、内心ほっとしながらライブ会場に入る。思ったより狭いところだったので、動きが取りにくい状況に眉根を寄せた。
(他のヤツに、彼女を触れさせてたまるか)
回した腕に力を入れながら強引に君を壁側に寄せながら客の合間を縫っていると、空いている席が隅の方にあったので、そこに座らせる。
途中何度か視線を感じたが、スルーさせてもらった。目を合わせたらきっと、大変なコトになるのは明白だ。
席に着いて君の顔を盗み見すると、何だかふくれていた。理由が、さっぱり分からない――何かあったのだろうかと、顔を近づけてみる。
「何を怒っているんですか?」
なのに君は変な切り返しをして、理由をなかなか言わない。その上……
「鎌田先輩は私といて、ドキドキしますか?」
なぁんて質問までしてきた。何かを悟られそうで、思わず顎を引くしかない。怒っている理由同様に、一体何を考えているのかさっぱり分からない。
会社では君の失敗にドキドキさせられたり、行動を見てるだけでいろいろ危なっかしいし、常にあどけない表情を周りに見せるから、ハラハラさせられっぱなしなんだが――
ちょっと憎たらしくなって、君の鼻を摘まんでしまった。可愛いを通り越して何とやら。この俺が、こんなに翻弄させられるとは……。
これまでいろんな女性と付き合ってきたが、長続きしても半年。好きになってもなかなか告白できずにいたら、男ができたことが二回。やっとの思いで告白して付き合ってもイメージと違うと言われ、振られたことが何度あっただろう。
『私がいなくても、アナタはひとりでやっていけるわ。だから平気よね』
と振られたのがちょうど三年前か。
年上の女性と自分の意に反した行動を強要させる女性が苦手だったので、付き合わないようにしていたのだが、さっき社内で連れまわされたのは、明らかに意に反した行動だった。それなのに引きずられるように歩かされても、全然嫌じゃなかった。
――俺、丸くなったのかな。
ぼんやりと君を見る。
あまりの可愛らしさに、思わずデコピンをお見舞いした。この行動の半分は、八つ当たりだったのかもしれない。
本当は残業をしなければならないくらい仕事がたまっていたのに、それよりも君と一緒にこうしてライブに行けるという、魅力的な仕事を優先してしまった。明日は間違いなく残業が決定だけど今のデコピンで、ちょっとだけ気分が晴れてしまうなんてな。
心を躍らせるような音楽を聴きながら、傍に君がいることの喜びをしっかりと噛み締める――
結局、君贔屓のバンドに会えないまま、ライブハウスをあとにした。
傍に君がいるだけで勝手に体温が上昇したので、上着を脱いで涼しい夜風に身を任せる。
思いきって予定表を渡した理由を教えてみたのに、君はずっと俯いたままだった。何か気に入らないことでも、いつの間にかやってしまったのだろうか――?
そう考えていたら、ため息をつくと同時にゆっくりと顔を上げる君。
頼りないとか儚いとか何だかよく分からない雰囲気を醸している君を、このままひとりで帰すわけにはいかなかったので、迷う事なく家まで送ると提案してみた。
自宅を知っている理由を聞かれたが、曖昧に返答するしかない。たまぁに遠回りして、君の自宅前を通って帰宅していたのだ。そんなことは口が裂けても言えない。一見、ストーカーだから尚更。
元気のない君を何とかしたくて、
「バンドの俺と仕事の俺、どっちがイイですか?」
なぁんて質問してみた。君の突飛な質問に対抗したら目を大きく見開き、ぽかんとした顔をする。
俺がじっと見つめた途端にあたふたして落ち着きのない、いつもの君に戻った。
(――見事、作戦成功!)
だけどここから会話をどう展開していったらいいのか分からなくなり、無言のまま君の自宅に着いてしまう。
「今日サボってしまった分だけたくさん仕事がありますので、覚悟しておいて下さい。おやすみなさい」
そう言って別れた。君はその場に佇んだまま、こっちをじっと見ている。
少々、イジメすぎただろうか――今日一日でいろんな顔の君を見ることができて、俺としては嬉しいんだけどね。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
数合わせから始まる俺様の独占欲
日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。
見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。
そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。
正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。
しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。
彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。
仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―
鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。
そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。
飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!?
晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!?
笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ!
○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
美しき造船王は愛の海に彼女を誘う
花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長
『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。
ノースサイド出身のセレブリティ
×
☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員
名取フラワーズの社員だが、理由があって
伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。
恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が
花屋の女性の夢を応援し始めた。
最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる