純愛カタルシス💞純愛クライシス

相沢蒼依

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番外編

夏祭り2

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☆☆☆

 今回、美羽姉に浴衣を買ってあげるに際し、自分なりに調べたことがあった。

 浴衣の白地は昼用で、暑い真夏でも涼しく過ごせるような見た目だけど、紺地は『藍』の香りを虫が嫌うことから、虫の多く出る夕方から夜用が良いそうだ。

 お互い仕事が終わってから逢うことにしているので、浴衣の色は紺地に決定していたのに、美羽姉を引き立てるであろう柄がなかなか決まらなくて、目移りばかりしてしまった。

 大きな花柄模様は美羽姉の持つ雰囲気的に華やかさを与えて、年齢よりも若く見えたし、小花柄は落ち着いた大人の女性って感じで、艶っぽさがぐんと増して、とても色っぽく見えてしまい――しかも花柄ひとつでどれも違って見えるゆえに、んもぅめちゃくちゃ悩みまくった。

(あっちをたてたらコッチが勃つって、なんなんだかなぁ……)

 どれも捨てがたかったが、適度な大きさの花柄模様にして、やっと買い物を終えた俺の気持ちを悟ってほしい。そして来年は白地の浴衣を買ってあげようと、密かに計画する。昼間に浴衣を着た、艶やかな美羽姉を見てみたい!

 数日後の夏祭り当日、時間に遅れてやって来た美羽姉の姿を見て、鼻血が出そうになったのはナイショ。それくらい破壊力抜群だった。

「遅れてごめんね。待ったでしょ?」

「ううん、全然。美羽姉の浴衣姿を考えてたら、あっという間に時間が経ってた」

 言いながら美羽姉の利き手を握りしめて、ゆっくり歩き出す。綺麗な浴衣姿を目にして、気がついてしまった。

(俺ってば浴衣を買うことに一生懸命になってて、脱がし方を知らない!)

 屋台の灯りを頼りに、浴衣の合わせ目やらなんやらを、まじまじと観察。だけど見つめることを美羽姉に変に思われても嫌なので、眺めながら口を開く。

「美羽姉、きれい」

「ありがとう。学くんが時間をかけて、見繕ってくれたおかげだよ」

「本当にきれいに着付けてくれて、どこから見てもきれいって言うか……」

 顔を美羽姉の背中に向けて、帯の結び目をチェック。キッチリかわいく結ばれている様子に、どこから手を出していいのか、本当にわからなかった。

(脱がせられないのなら、そのままいたしてもエッチな感じがして、それはそれでいいかもしれない……)

 でも最終的にはなんとかして、浴衣を脱がさなきゃダメなんだよなぁと考えていたら。

「学くん、さっきから私のことを見すぎだよ。恥ずかしい」

「美羽姉きれい……」

 俺は自分の考えを見透かされないようにすべく、バカの一つ覚えみたいに、同じセリフを繰り返した。

「学くん、何度も同じことを言わないで。恥ずかしいよ」

「俺は事実を言ってるだけだし。すごく似合ってる」

 脱がすことを考えて焦ってしまうせいか、手に汗をしっとりかいてしまった。美羽姉に気持ち悪がられていないのが、本当にさいわい……。

「んもう、学くんってば、そんなふうに前屈みになってばかりいたら、そのうち転んでしまうよ!」

 呆れた顔した美羽姉に何度注意されても、浴衣の構造を見たかった俺は、どうしても観察せずにはいられない。後ろから襲ったほうが帯が外しやすいだろうし、手が出しやすいかもなんて考えていたら、美羽姉が上目遣いで俺に訊ねる。

「もう少ししたら花火大会がはじまるけど、このまま屋台を突っ切って、花火が見えるところに行く?」

 俺の行動をとめられないと判断したのか、違うことを口にしたので、俺もそれに合わせないといけないなと思い、姿勢を正して辺りを見渡した。

「子どもの頃は、屋台のすべてに顔を出してワクワクしていたのに、今は見たいものがないもんなぁ。買い食いはあとにして、美羽姉の意見に同意する」

「ふふっ、落ち着きのない学くんの手を離さないようにするのに、苦労したのを覚えてるよ」

 美羽姉が繋いでる手をあげた拍子に、手汗のせいで外れそうになった気がして、慌ててぎゅっと握りしめた。

「俺もしっかり覚えてる。いつまで経っても俺をちびっこ扱いする美羽姉を、わざと困らせたんだ」

 持ちあげた手を見ながら、昔のことをなんとなく思い出してしまった。俺の手のほうが大きくて、美羽姉の手が覆われてることが、今の関係を表しているみたいに感じる。

「どうして困らせたの?」

「大好きな美羽姉に、かまってほしかったから」

「なにそれ?」

 当時の気持ちを伝えたら、美羽姉は不思議そうに何度も目を瞬かせる。

「好きな女子にイジワルする、男子の複雑な気持ちみたいなもんかな」

 握りしめる手を引っ張って美羽姉の体を自分に近づけた瞬間に、ドンッという大きな花火の音が聞こえた。

「学くんごめんね。私が着付けに時間がかかっちゃったから」

「俺のために綺麗に身支度を整えてくれたのに、文句なんて言わないよ。それに花火が見える場所はすぐそこなんだから、焦らなくてもいい」

 済まなそうに謝られても、俺のワガママで浴衣を着てもらっている以上、文句なんて絶対に言わないし、むしろお礼を言わなきゃいけない。どんな感じで言ったら美羽姉が喜ぶかなと考えながら、遠くに視線を飛ばすと、意外な人を見つけてしまった。

「あ、ここでちょっとだけ待ってて」

 言いながらポケットに入れてるスマホを取り出し、美羽姉の手を放す。

「わかった」

「絶対に動かないで待ってて。すぐに戻るから!」

 大きな外灯の灯りで美羽姉がライトアップされるので、俺が離れてもすぐに目のつく場所だったから、安心して離れることができた。

 急いで目的の人がいるところに向かうべく、人混みをかき分けながら近づく。

 ほかの社員さんの話で、いつも違う女性を連れているとの噂の一ノ瀬さんがひとりきりでいるのが珍しくて、これはスクープだと判断。木の影に隠れてスマホのカメラを起動させ、シャッターチャンスを狙う。

(というか美羽姉と一緒にいるというのに、こんなタイミングで職業病が出てしまうあたり、体がパパラッチ化してるなんて悲しい)

 打ち上げられる花火の光を受けた一ノ瀬さんの面持ちが、いつもより格好良く見える。俺にはない年齢の渋さが醸し出されているのが、すごく羨ましくなった。あんなふうに年を取りたいと思いつつ、シャッターを切る。

 撮影した画像をスマホでしっかり確認してから、『スクープ! 一ノ瀬さんがたそがれている姿!』なんていうダサいタイトルと一緒に、画像を送信してやった。同じカメラマンとして、写真の出来具合のツッコミがなされるだろうけど、それも勉強になるので、実は楽しみだった。

 美羽姉の元に戻るべく木の影から離れた俺の視界に、人混みから外れた男がふたり、外灯に近づこうとしているのがわかった。ライトアップされた美羽姉の美しさに見惚れるのは、俺だけじゃないらしい。

 虫除けに紺地の浴衣を買ったのは正解だったが、違う虫を惹きつけてしまうなんて、本当に美羽姉のかわいさにはまいってしまう!

「しかも野郎がふたりなんて、力づくでなんとかしようとしてるのが、嫌でもわかりすぎるだろ。あぶねぇな……」

 急いで現場に戻ると、額に手を当てている美羽姉に話しかける声が聞こえた。

「ねぇねぇお姉さん、大丈夫? 具合が悪いの?」

 美羽姉よりちょっとだけ背の高い若い男が、ニヤニヤしながら訊ねた。心配しているようにまったく見えないそれに、俺の怒りのボルテージが自然とあがっていく。

「もうすぐ連れが来るので大丈夫です」

 額に当てていた手に拳を作り、凛とした声で言い放つ。男たちがなにかしようとしたら、その拳でぶん殴ることをしそうな雰囲気が漂っていた。

「ツレって友達? 2対2でちょうどいいじゃん!」

 そんな雰囲気も読めないのか、最初に誘った男じゃないほうが、カラカラ笑いながらピースサインで美羽姉にアプローチする。

「友達じゃなく彼氏ですけど」

「またまたぁ。こんな寂しいところに彼女を放置して、マジで酷い彼氏じゃね?」

 呼ばれた気がしたので、男たちに近づきながら話しかける。

「すみません、その酷い彼氏ですけど、俺の彼女になにか?」

 2対1なので、腕っぷしの弱い俺がやられる可能性があった。だけど恋人を守るために、自分なりに精一杯の虚勢を張る。目力を込めて、ゲスな野郎どもを睨んでやった。

「ゲッ、マジで彼氏だったのかよ……」

 俺の存在を認識した途端に、仲良く逃げていく男たち。美羽姉は呆れた顔してあっかんべーをする。内心バクバクしていた俺は、自分よりも小さな体に抱きついた。

「美羽姉ごめん。怖かっただろ?」

(正直、俺のほうが怖かったんだけど――)

「全然、平気だったよ」

 あっけらかんとした感じで答えられたせいで、思わず眉根を寄せてしまった。

「もしかして、誘われ慣れてるとか?」

「まさか! うまいことあしらってる間に、学くんが戻ってくると思っていたから、ああやって冷静に受け答えしていたんだよ」

 美羽姉の返答に胸が熱くなり、抱きしめていた腕に力を込めて縋りついてしまった。体に感じる美羽姉の柔らかさやいい匂いが、俺の癒やしになる。

「なんだよ、その絶大な信頼。俺がもっと遅れたりしたら、危ない目に遭ったかもしれないのに」

「それでも絶対に、学くんは私を助けてくれるのがわかってる。そうでしょ?」

 腕の中で身動ぎした美羽姉が、俺の首に両腕をかける。

「美羽こんな目立つところでキス……したいとか、どうして」

 花火を見ようと移動している人がたくさんいるというのに、大胆なことをする美羽姉の行動に焦り、かけられている腕の力に抗った。

「待ってる間、寂しかったから。それにみんな花火に夢中になってるし、私たちなんて目に入らないよ」

「ヤバ、そんな顔して言われたら、キス以上のコトをしちゃうかも?」

 美羽姉の大胆な行動をとめるべく、言葉で仕掛けてみる。

「え?」

「だって俺の選んだ浴衣を色っぽく着こなしてる時点で、手を出したくてたまらなかったんだぞ。理性を必死になって折りたたんでいるのに、美羽姉のイジワル!」

 ずっと浴衣の脱がし方を考えていたせいで、頭の中がいい感じに卑猥になっていることを知らない美羽姉に、ちゅっと触れるだけのキスをした。これ以上の接触をすると、そこら辺の物陰に引っ張り込んで、いたしてしまう恐れがある。

 それを封じるべく美羽姉の利き手を掴み、目的地に向かって引っ張って歩いた。

「学くん……」

 我慢している俺に、艶っぽい声で名前を呼ぶ美羽姉。明日はお互い仕事なので、これが終わったら即解散だと思っているだろうな。

「美羽姉、覚悟しておくんだぞ。花火大会が終わったら、俺たちの夏祭りの本番だから」

「夏祭りの本番?」

 大きな瞳を見開いて俺を見る視線を感じるだけで、手を出したくて堪らないっていうのに。

「無自覚で俺を煽ってること、全然わかってないだろ。そういうところが好きなんだけどさ」

 幼なじみの俺を見る目じゃなく、恋人としての視線をじんわりと感じることができて、すごくしあわせだった。小学5年の俺が今の現状を見たら、きっと泣いて喜ぶだろうな。

「学くんが言ってる意味、全然わからない」

「だったら美羽がわかるように、手取り足取り懇切丁寧に教えてあげる。楽しみにしてて」

 繋いだ手を持ちあげて甲にキスをしてから、花火が見える場所に急いだ。頭の中は既に俺のマンションに帰ってからの計画を、入念にこっそり立てる。どうやって俺の想いを教えようかと、ドキドキがとまらなかったのだった。

愛でたし♡愛でたし

☆今回学くんが撮影したものを『純愛クライシス』の表紙絵にしようと思います。実際、背景が変わっただけなんですけどねぇwww お楽しみに!
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