純愛カタルシス💞純愛クライシス

相沢蒼依

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番外編

自立するために5

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 言い知れない不安を抱えて立ち竦む私に気づいた学くんが、ベンチからゆっくり腰をあげた。

「美羽……」

 私の名前を呟き、急いで駆け寄ってきて、利き手を手に取る。

「来てくれてありがとう」

 心に染み入る声で告げると、掴んだ私の手を優しく引っ張り、ベンチに向けて歩いた。抵抗することなく、学くんのあとに続く。

「話が長くなるから、座って聞いてほしいんだ」

「学くん、私……」

 これから直面するであろう先の話を聞くのがどうにも不安で、学くんを震える声で呼んでしまった。振り返った彼は私の顔を見、やるせなさそうな表情でいきなり抱きしめる。

「美羽、ごめん」

 いきなり謝る学くんに、私は返事ができない。自分の考えの答え合わせがしたいのに、それをしてしまうとおとずれるであろう悲しい未来がわかってしまうゆえに、口を開くことが躊躇われた。

「美羽、落ち着いて聞いてほしいんだ」

 強くぎゅっと抱きしめてから、やんわりと腕の力を抜いて私を見下ろす学くんの面持ちは、あのコと対峙したときによく似ていた。

 絶対に揺るがない強い決心を含んだまなざしが、私の心ごと射竦める。

「カメラマンを辞めて、父さんの仕事を手伝うことにした」

「うん……」

「美羽は知ってるだろうけど、父さんの会社は輸入品を扱ってる。海外のお店とやり取りするのに当然英会話が必須で、これまた知ってのとおり俺はまったく英語が喋ることができない」

「ウチのお父さんの鉄工所なら、そんなの関係ないのにね」

 私がおどけて言ったら、学くんの口角があがった。見惚れてしまうそれを、食い入るように眺める。

「ほんとそれ。どうして俺の父さんは、わざわざ大変なことをやってるのかな」

 言いながら私の肩に腕を回し、ベンチに移動して座らせる。学くんはその隣に寄り添うように座った。握りしめられた手をそのままにしてくれるおかげで、不安だった気持ちが幾分和らぐ。

「俺に必要なのは英会話だけじゃない。会社経営とか、ほかにもたくさん勉強しなきゃならないんだ」

「……学くんが勉強しなきゃいけないことになった経緯を説明して」

 遠回しに話を進められることに業を煮やして、気になっていることをぶつけてしまった。

「まずさ、美羽は自分の父さんの会社のこと、考えたことはある?」

「あるよ。高校生のときに、ぼんやり考えたことがある。私は女だから、跡を継ぐことができないよねって。その場合、会社に勤めてる誰かと政略結婚させられるのかなって」

「俺は父さんから、自分の好きなことを仕事にしなさいって言われていたけど、頭の片隅でこのままでいいのかなって、気になるしこりになっていたのは確かなんだ。だけど、美羽が政略結婚させられなくてよかった」

「学くん!」

 はにかみながら、大きな上半身に体当たりした。私の体当たりなんてビクともしない学くんの体は、やり返したりせずにその衝撃をそのまま受け流す。昔の彼なら間違いなく、おどけて軽く体当たりしたハズなのに。

「学くん……」

 こうして近くで名前を呼ぶことができるのは、あと何回あるだろう。

「美羽、父さんの会社についてなんだけど、内部分裂があってさ。ちょっと前まで大変だったみたいなんだ。俺も母さんもそのこと、全然知らなくて」

「そうだったんだ」

 そして学くんはこれまであったことを、事細かに説明してくれた。今日お父さんと直接逢って話をしたことを含めて、嫌ってくらいに丁寧に説明されたことで、学くんの行動について私が反対しても、自分の意志を貫く覚悟を感じた。

「目下の敵は、父さんの弟の叔父さんじゃなく、その息子みたいなんだよ。今回のことを影で企てたのも、どうやら彼みたいでさ」

「自分が次の社長になるために、暗躍したってことなのかな?」

「たぶん。父さんの会社について、息子の俺はノータッチだし、チャンスだと思ったんだろう」

 私の利き手を掴んでる学くんの手に、少しだけ力が入ったのがわかった。
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