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第1話:アカツキの悪魔
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しおりを挟むアカツキは大剣に向かって手を伸ばした。
深々と刺さった大剣は、普通の鉄製の武器ならアカツキの力では持ち上げる事すら出来ないだろう。しかしアカツキはその大剣が、とうの昔に封印の力を使い尽くしている『魔法の剣』だと分かっていた。だから重くて抜けなくても思いきり引っ張れば折ることも可能だと考えたのだ。
「待て!! 質問なら知る限りのことは全て答えよう。だからこれだけは手を出さないでほしい!」
悪魔は慌てたように大声をあげた。
その時身体が大きく動き、ミシッという鈍い音が鳴った。悪魔は痛みに顔を歪ませ、『ウグッ……!』と呻き声を漏らす。その様子がアカツキは余計に気に入らなかった。
「こんなの君の主人じゃないよ。悪いけどこちらにもいろいろ事情があってね、信じられないと思うから抜いてから話すよ」
「やめろ!!」
悪魔は比較的自由な翼を動かして剣の柄を握らせまいと抵抗する。それでもアカツキは必死で手を伸ばし、指先が柄にわずかに触れた。
「おかしいよ。こんなものが背中から胸を貫通して刺さってるのに痛くないわけないじゃん。それにこの程度の封印、君なら壊す事だって出来たはず。とうの昔に死んだ主人を守ってるつもり? こんなもの……」
アカツキの右手はしっかりと大剣の柄を握りしめ、
「邪魔だ!!」
思いきり引っ張った。
大剣は意外と軽く、背中の差し口あたりの刃が大きな音を立てて折れた。思いきり引っ張った反動で身体が大きく傾き、アカツキは転ばないようバランスをとりながら数歩後ろに下がる。
その瞬間、握りしめていた柄も、悪魔の胸から突き出ている刃も一瞬で粉々に砕けて霧散していった。
悪魔の身体に巻きついている鎖は悪魔の血に含まれた魔力から作られていたようで、魔法を構成させている大剣が無くなったことで液化してビシャビシャっと音を立てて彼の周りの地面を濡らした。
大怪我で大量出血しているかのような光景だったが、概ねそれで合っているだろう。
一拍置いて、ピリっと静電気のようなエネルギーがその空間全体に伝わる。封印が解かれたことで悪魔の身体から魔力が溢れ出ているようだ。
ふらりとよろめきながら悪魔は立ち上がる。その頃には胸と背中を貫いていた大きな傷は塞がっていた。
(不老不死の悪魔とは聞いていたけど、本当かもしれない……)
長い間魔力を使っていなかったとはいえ想像以上の恐ろしい再生能力に、アカツキの顔に焦りが見える。
一方悪魔は、虚ろな目で握りしめた自分の手を見ていた。ゆっくり掌を開くと指の隙間から粉のようなものが音もなくこぼれ落ちた。先ほど壊れた大剣の一部だ。咄嗟に刀身を握っていたのだろう。指から全てが滑り落ちた時、彼の……悪魔の瞳がアカツキを睨みつける。
(あ、やばい)
アカツキは反射的に腕を顔の前で曲げた。
瞬きした一瞬の間に数歩分の距離は一気に詰められ、悪魔の右腕に顔の前に出した腕を掴まれた。腕を出していなかったら首を掴まれていただろう。冷や汗が首筋を伝った。
悪魔の力は強く、アカツキはこのままでは骨を折られると悟った。しかし仕方ないから腕一本くらい諦めようと思った時、急に悪魔の腕の力が緩んだ。
困惑気味のアカツキは悪魔を見上げると、彼は目を見開き、信じられないと言いたげな顔で震えた唇で何かを言おうとしている。
「すごいね、もう気付いたんだ」
アカツキは感心したかのように呟いた。
実は悪魔の瞳には人間には見えないもの……魂を見れる性質があるらしい。
悪魔の中には姿を変え、人間を欺きながら過ごしている者や、姿を見えなくさせて隠居している者も少なくない。その性質上、悪魔たちは基本的に身体の見た目ではなく魂の姿で他者を判別している。
先程までは大剣の力で悪魔の力を封印されていたので気付かなかったのだろう。
「主、どうしてこちらに……?」
悪魔は掴んでいたアカツキの腕を離す。
捕まれていた腕にはくっきりと握られた痕が残っていたが骨は折れていなさそうだ。
「君と約束したからね。それに死んでも死にきれない最後だったから、転生を繰り返しながらここを調べて気合いで会いにきたんだよ。忘れられているかもと思ったけど杞憂だった。君がイカれてる程かつての僕に御執心なのは悪い気はしない」
アカツキは掴まれていた腕の手のひらを広げた。
大剣の柄だった粉が指の隙間から流れ落ちる。それを思いきり地面に叩きつけるように振り払った。
「身体と魔力を利用するため殺される前に、特殊な魔法を使って魂に記憶を残したんだ。人間の魂は輪廻転生といって新しい命として何度も生まれ変わるからね。
幾度となく人生を繰り返したけど、まさか自分自身に嫉妬する日がくるとは思わなかった。ほら、もう剣は粉々になって消えちゃったんだし、今後は僕に目を向けてほしいな」
アカツキが悪魔ににこりと微笑むと、悪魔は申し訳なさそうに視線を逸らす。
「……了解致しました」
悪魔は小声でそう呟いた。
そして悪魔はアカツキの前に片膝を地面に着き、跪いて深々と頭を下げる。
「封印されて気付かなかったとはいえ、先程までの非礼の数々、本当に申し訳ございませんでした」
「いいよ、また一緒にいてくれるなら」
首を垂れる悪魔を見て、アカツキは慌てて首を横に振った。そして悪魔に優しく微笑みかけ、彼の目の前に右手を差し出した。
「繰り返す人生の中でずっと君の事が忘れられなかった。今も昔も、君を心から愛している。会いにくるのが遅くなってごめん。
『ディア』、どうか再び僕と共に歩んでくれないだろうか?」
アカツキは1000年ぶりに悪魔の名前を呼んだ。
悪魔……ディアは少し驚いたように口をあけ呆然としていた。予想外の出来事が重なり、混乱しているのだろう。しばらくしてアカツキの手を取ろうとゆっくりと腕を上げた。一瞬なにかに戸惑ったかのように少し腕を引いたが、意を決したようにアカツキの手を握り返して立ち上がった。
「夢でも良い……」
消えるような小さな声で呟きながらディアは瞳を閉じる。
涙が一粒こぼれ落ち、アカツキの腕の上で跳ねた。
「夢じゃないよ。でも、僕も君に会えるなんて本当に夢のようだ」
アカツキはここに辿り着くまで長かったと思いながら、物思いにふける。
1度目の転生の時点で、この国を知っている人は居なくなっていた。
それくらい時間が経ったのか、それだけこの国が知られていなかったのかは分からない。存在すら知らないと皆が口をそろえて言った。この国の記録は不思議なくらい殆ど残っておらず、場所を特定するのは非常に難しかった。
それでもアカツキは必死で調べられる物は全て調べた。様々な記録をとり、情報を整理して保管する場所を作った。候補となる場所の地図を何枚も作成した。出来ることは全てやった。
全てはディアと会う為。
ディアと何にも縛られない自由な生活を手に入れる為に。
(全て話せば君も僕の事を相当イカれてると言ってしまうかな……)
そして2人は外に向かって歩き出した。
これからの未来を……自由を謳歌する為に。アカツキは降りてきた穴から抜ける前、最後に1度だけ振り返って呟いた。
「さようなら」
とうの昔に居なくなった人たちに向けて最後の挨拶をし、それ以降振り返ることなく外へ歩き出した。
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