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第1話:アカツキの悪魔
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しおりを挟む目の前に悪魔が居る。普通の人間なら相手がどれだけ美しかろうと恐怖を抱くであろう。
だがアカツキは違った。
(男の僕でも惚れ惚れするような顔の良さだ……!)
そんな事を思いながら、自然とにやけてしまう口元を抑えていた。
しかし背中に突き刺さっている大剣が目に入り、眉間に皺が寄る。距離が離れているのですぐに気付かなかったようだ。
その大剣は悪魔の胸を貫通し、そのまま地面に杭のように突き刺さっていた。その上、胸の傷口から魔法の赤い鎖が伸びて彼の身体に巻き付くように縛っている。見ているだけで目を背けたくなるほどの痛々しい光景だと感じた。
そんな悪魔の姿を見て何を思ったのか、アカツキは地下室の中央に向かって歩を進める。
その間も悪魔は何も言葉を発しなかったが、こっち来るなと言わんばかりの殺気立った視線をアカツキに向けていた。
「こんにちは」
アカツキは悪魔の殺気立った視線も無視し、悪魔から数歩離れたところで笑顔を向けながら話しかけた。相手はただ睨むだけで返事をしないが、アカツキは気にせず一方的に会話を続ける。
「どうしてこんな所にずっと居るの?」
悪魔からの返事はない。
「見たところその剣で誰かに封印されてるようだけど……悪魔だと分かっているのに心配しちゃうよ」
悪魔からの返事はない。
「その剣抜いてあげようか?」
「やめろ」
ようやく返ってきた返事は、不愉快だと言わんばかりの殺気立った声だ。表情は怒りを隠す気がなく、アカツキを睨んでいる。
「まあまあ落ち着いて。自分で言うのもなんだけど僕しつこいよ。超がつくほどにね!
早めに返事くれた方が君にとっても楽だと思うし、僕もここを離れる事が出来るかもしれない。外の廃墟より君の方に興味があるからね。あ、全部無視するならその剣抜くね」
アカツキは早口でまくしたてると、悪魔は心底面倒くさそうに大きなため息を吐いた。
「で、なんの用だ?」
どうやら質問に応じてくれるらしい。
突き刺さっている大剣を抜かれるのが相当嫌なようだ。
「それ痛くないの?」
「痛くない」
アカツキはすぐ嘘だと察した。
その剣を抜くと言った瞬間、悪魔の身体が僅かに動いた。その時少し痛そうに眉がぴくりと動いていたのに気づいていたのだ。
「君にとってそれはただの封印の剣じゃないね? 教えて、君にとってそれは何? なんでそれを大事に守っているの?」
悪魔がこの大剣を取られたくないのは明白だった。
抜くと言った時の反応もそうだが、今も大きな翼を大剣を守るように折りたたんでいる。露骨なのは相手も分かってるだろうが、自由に動けない以上こうする事しか出来ないのだ。封印される程強い悪魔なのに、こうすることしか出来ない己の無力さを感じているのだろう。
悪魔は無言で睨んでいる。手首くらいは辛うじて動くだろうが、魔法の鎖が身体中に巻きついているため腕を動かす事も出来ない。それしか抵抗する術がないのだ。
アカツキは無言を貫いている悪魔の前で小さく、
「そんなに貴重なら、売ったらしばらく生活費には困らないかな……」
と呟いたら、悪魔は忌々しく舌打ちをしてから観念して口を開いた。
「この剣は私の主だ。正確には主だった、だが……」
「はあ……」
どこか遠くを見るような目で呟く悪魔に対して、アカツキは意味が分からないと言いたげな間抜けな声で返事をした。
「当時の人間たちは主の肉体と魔力と魂……その存在全てを材料にこの魔法の剣を作った。自分たちでは敵わない私をここに封印するためだけに。その時、私の主は人間としては死んだが身体だけはこうして形を変えて残っている。封印の魔法剣は使われず放置されたり、抜いて役目を終えれば砕けて消えてしまう。
……もうこれだけしか残っていないのだ」
悪魔の声は微かに震えていた。
とうの昔にこの国は滅んでいる。何がこれだけしか残っていないのかは、聞かなくてもアカツキには伝わったようだ。
悪魔は自身を貫いている刀身を指で撫で、愛おしそうに見つめていた。アカツキはその姿にうまく言葉に表せない複雑な気持ちを抱いた。
「ちょっと理解に苦しむかな……」
アカツキはどこか不機嫌そうに呟く。
悪魔も聞こえているだろうが、自覚はあるのか冷静なのか何も反論をしなかった。ただアカツキの様子の変化に顔に少し焦りが見える。しばらく『うーん』と悩んだ後、アカツキは決断したようだ。
「うん、決めた。君にそれは必要ないよ。その剣、抜くね」
笑顔で言うアカツキとは裏腹に、悪魔は焦ったように目を見開いた。
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