塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの

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11話 塔の魔術師と悩める仲間達

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 塔の改装工事はまだ続いている。しかしそろそろ終わりが見えかけてきた頃で、もうじき戻れる予定だ。それまで俺達は引き続きアリシュランドの城で世話になっている。


 そんなある日のこと、フェイロンが一人城へとやってきた。リーレイやサイラスの姿はない。

 いつになく目を吊り上げて肩を震わせ、全身で怒りを顕わにしている。こんな風に怒っているフェイロンは初めて見た。俺とフレンは揃って顔を見合わせた。

「もう怒った、僕は怒りました! すみませんが、少しの間ここでお世話にならせてください」

 フェイロンは着替えなどの最低限の荷物だけ抱えている。

「はぁ? 急にやってきて何を言って……いや、まずは話を聞こう。一体どうしたというのだ」

 何を馬鹿なことを言っているんだ、と言いかけて止めたのはついこの間自分も同じようなことをしてしまったからだ。
 いきなりサイラスの屋敷に行って泊めてくれと。

 フェイロンの状況とこの間の自分の状況はまったくといっていいほど同じだった。
 馬鹿なことをしているなと断じた瞬間、自分にも跳ね返って来て突き刺さる。……それは良くない。
 そのことを思い出したから、まずは話を聞こうと思い城の会議室を借りた。

 肝心のリーレイが今どうしているのか気になったものの、向こうは向こうでサイラスが付いているので大丈夫だろう。


 フェイロンとリーレイは同じ村の出身で幼なじみという間柄だ。

 同じ村の中で二人も勇者の仲間として選ばれるのは、これはかなり珍しいことである。
 魔王討伐には女神の託宣によって能力の秀でた者が選ばれるので、通常は初めての顔合わせまで知らない者同士ということが多い。
 それにも関わらず、幼なじみ同士の彼らが選ばれたのは、彼らの生まれた『戦士の村』という特殊な環境が関係している。

 戦士の村の者達は皆、幼い頃から体を鍛えており、戦う能力に秀でている。若者たちは傭兵や冒険者となるべく村を旅立ち、各地で名を残しているのだとか。
 そういう優秀な戦士たちを代々輩出してきた村に生まれて来たためか、今代の勇者一行にフェイロンとリーレイが選ばれた。

 ところがだ、フェイロンには最近悩みが出てきた。物憂げな顔で口を開く。

「僕って……勇者の仲間だったわりに役に立っていないような気がします」

 剣士として戦うフェイロンだったが、ここ最近サイラスやフレンの剣を振るう姿を見て自分はもしかしたらいらない存在なのではないかと不安になってきたという。

「フレン王子はすごいです。王子が騎士団にいた頃から才能があるなぁって見ていましたが、今はもう僕よりずっと強いですよね。エーティアさんを守るという信念があるからでしょうか……才能に溢れていてうらやましいです……」

「とんでもない、俺の腕など未熟です。フェイロン様の美しく流れるような剣技には及びません」

 フレンが驚き、否定するがそれはますますフェイロンを落ち込ませるだけだった。

「僕は剣士ですよ。相手の技量は見ていれば分かります。ああ、フレン王子は才能がある上に謙虚なんですね。聖剣にだって選ばれるはずです。僕にはとても眩しく映ります……」

 フレンが困ったように俺の方を見た。
 ふむ。つまり……フェイロンはフレンの才能に嫉妬しているのか。

 たぶんサイラスが相手だったらここまではならなかったのだろう。何せサイラスは勇者として選ばれた者だ。
 多少自分の剣の腕が劣っていたとしても、相手は勇者なのだからそれも当然だと納得できていた。ところがそこへ才覚を現したフレンが登場した。

 確かにここ最近のフレンの成長具合はすさまじいものがある。
 聖剣の力もさることながら、何よりフレン自身が急成長している。
 サイラスに鍛えられて剣の腕は上がり、俺に鍛えられて魔術耐性も上がった。苦手意識がまだあるせいか自分自身のためには魔術を使おうとしないが、使おうと思えば治癒の術やワープも使える。

 ん……、そう考えると俺とサイラスはフレンをとんでもない強さに鍛え上げてしまったのだろうか。
 いつかフレンに勝てなくなる日も近いかもな……。
 俺ですらそう思うのだから、同じ剣の使い手であるフェイロンはなおさら思うところがあったのだろう。

「もしかしてリーレイと喧嘩したのは……」

「はい。僕って役に立っていないよねってリーレイに相談したら『はぁ? 馬鹿じゃねーの』ってあっさりと返されて……それに腹が立ちました」

「ほう……」

 リーレイの言葉は、昔の俺の意見とまったく同じだ。
 うじうじ悩んで鬱陶しい。そんなことを考えている暇があったら修行でもしろ。
 たぶん、そんな感じの言葉を返していただろう自分が想像ついて、額を押さえた。

「リーレイって無神経なんですよ。僕がどれだけ悩んでいるかなんて全然分からないんだ! ああいうところ、本当に良くないと思います!」

 ぐさぐさと言葉が突き刺さって来るが、それはあくまでも過去の自分に向かってだ。
 自身の魔力を無くした今は、フェイロンの気持ちが分かる気がする。

 フェイロンが抱いているのは力を持っている者への羨望だ。
 しかし自分の能力ではその域に行くことが出来ない現実と直面して、心が辛くなっている。

 だが、こればかりは他人がどうこう言っても仕方がない。
 「そんなことはない」と言ったところで、納得しない。
 結局のところ自分自身で気持ちの折り合いを付けなければ解決しないのだ。

 それでも、フェイロンの慰めになるかは分からないが、自分が思っていることを口にする。

「……これは魔王を倒す旅に出ていた頃の考えになるが……。俺はお前達のことを足手まといだと感じたことはない」

「え、それは……」

「お前達はいつも困っている奴らを助けて回っていて、それが面倒だと感じたことはあるがな。だが、それだけだ。サイラスもリーレイも、もちろんお前に対しても共に戦っていて能力が劣っているとか、弱いと思ったことは一度もない」

「エ、エーティアさん……それは本当ですか?」

「ああ、事実だ。俺は世辞など言わない」

 魔力を失う前の、全盛期の魔術師だった頃の話だ。
 俺は俺なりに仲間達のことを認めていた。女神に選ばれたのだからそれも当然だと思って、あの頃は面と向かって奴らを褒めたことなど一度も無かったけれど。

 それを聞いたフェイロンが肩を震わせた。

「嬉しいです。エーティアさんがそんな風に思っていたなんて知りませんでした。あなたはいつもハッキリと言ってくれるから、覚悟して来たんです。エーティアさんに『役に立っていない』って言われたら……僕はこのまま剣士として引退しようかと」

 そこまでフェイロンは考えていたのか。かなり思い詰めていたようだ。

「はぁ、まったく。俺にそんな大事な判断をゆだねられても困る。それにな、役立たずというのなら俺の方がそうだろう。フレンがいなければ魔術も使えないんだ」

「エーティア様、そのようなことはありません!」

「そ、そうです!! エーティアさんは今だって充分素晴らしい魔術師じゃないですか!」

 フレンとフェイロンが揃って身を乗り出して来た。
 圧がすごい。分かっているという意味を込めて手をひらひらと振って彼らを落ち着かせる。

「でも、俺はいつまでもうじうじしているのは性に合わないんだ。『何もできない魔術師』なんて他人に言わせるつもりもない。今残っている力で、出来ることを探していく。そしてそれはサイラスも同じだと思うぞ。あいつも先の戦いで聖剣を失っている。剣の加護を失った今、弱体化しているはずだ。それでも弱音を吐いたのを聞いたことがない」

 奴のすごいところはそれをおくびにも出さないことだ。いつだって前向きだ。
 旅の間も、旅が終わった後もそれは変わらない。サイラスの明るさには何度も助けられた。

「そうか、そうですね。エーティアさんもサイラスも……言わないだけで……」

「悩むのは悪いことではない。だが、自分の力に悩んでいるのはお前だけではないということだ。自分に何が出来るのか、これから考えて行けばいい」

「はい! 僕、自分に出来ることを考えたいと思います!」

 フェイロンの顔には暗さが無くなって、決意のようなものが瞳に灯った。




 そこへ窓をコツコツと叩く音が聞こえてきた。会議室のある場所は二階だというのに。
 音の方に目を向けると、外にいたのは青い鳥だった。
 エギルが驚いてピョンッと飛び跳ねる。

「ラークくん!?」

 窓を叩いていたのはアゼリアの使い魔であるラークだ。

「一体どうしたのでしょう」

 フレンが窓を開けるとラークがそこから飛び込んで来た。いや、飛び込んで来たというよりはふらふらしながら入って来たという表現の方が正しい。

 ラークのつやつやの羽は乱れ、鮮やかな青色は薄暗い色に変わり、随分と元気がない。弱々しく哀れな姿になっていた。

「ラークくん、ラークくん!? 大丈夫ですか」

 エギルが駆け寄って床にへたり込んでいたラークの体を抱き締める。

「あぁ、エギルさん……。良かった……ここまで来られました」

 ラークだけでここまでやって来たのだろうか。友達のエギルに会ったためか、ラークがほうっと安堵の息を吐いた。

「一体どうしたんだ、アゼリアはどこにいる?」

 アゼリアの行方を尋ねるとみるみるうちにラークの瞳に涙が盛り上がった。

「お願いです。アゼリア様を助けてください……」

 ついにはポロポロ涙が零れ落ちた。




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