仕事猫ニャゴロー

どてかぼちゃ

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第213話 吾輩は出っ歯の亀太郎なんかじゃないのである

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 肉屋、八百屋と巡回警備を終えたニャゴロー。
 次は魚屋へ……。


 ムム?
 なにやら明かりがついておるな?
 ……もしや!

 半開きになった魚屋のシャッターから中を覗くニャゴロー。
 それはこれから盗みに入る泥棒の行動と瓜二つ。
 誰が見ても怪しい動きをしていた。

 「ニギャ!」

 ぐわっ!
 なんだなんだっ!?

 突如自分の身体が宙に浮く!
 背後から首根っこを掴まれ、そのまま宙へと持ち上げられた!

 「お前さんはこんな早朝からなにしてるんだね?」

 すし屋だ!
 すし屋の親父ではないか!

 それにしても猫の扱い方を弁えてるなこの親父は。
 妙に気持ちい良い抱き加減ではないかコノヤローめが!

 「どうしたんだいすし屋さん?」

 「いやね、この服を着た猫がアンタんところを頻りに覗いてんだぁーね」

 「お、ハチワレの猫じゃないか? この猫のおかげで昨年末は稼がせて貰ったねぇ。もしかして賃金要求だったりして!」

 「違いねぇ! うわーっはっはっはっ!」

 舐めるなバカモノめ等が!
 キサマ等如きにお恵み頂戴するほど落ちぶれておらぬわ!
 ここは一つ寿司屋の指を食いちぎって……

 「去年は三毛猫のせいで大損害を与えられてさ、その後この猫が店の前でよく昼寝してくれたんだよなー」

 「そうだったなー」

 「客寄せパンダじゃないけど、見る見る客が集まってきてそれ以上に稼がせて貰ったんだよ。三毛猫の尻拭いだったりしてな」

 「違いねぇ! コイツの働きっぷりはえげつない程だったな!」

 違うわバカモノ!
 キサマ等勝手に解釈するんじゃないわ!

 「ホレ、お前はコレが好きだっただろう? あの時の給料だ!」

 魚屋は手に持っていたなにかを我輩の口へとねじ込んだ。
 同時に寿司屋が顔をしかめる!

 「クサッ! コイツはたまらん! ほら、何処かへ行きな!」

 クサヤだ!
 この芳醇な香りと熟成された味わいは最高級に違いない!
 魚屋が我輩にくれたものは人間嗅覚破壊兵器の超絶クサヤ!
 イヤッホーイ!

 「じゃあ寿司屋さん、そろそろ市場へ行くとするか」

 「おうよ!」

 どうやら魚屋と寿司屋は今から仕入れに行く様だな。
 だからこんな時間にシャッターが開いていたのか。
 
 世間一般ではまだグースカタイム。
 人それぞれ様々な仕事が世の中には存在していると見える。
 まぁ、我輩の夜勤もその一つだと思うが……

 とりあえずだ!
 せっかく貰った高級クサヤ!
 臭いが強烈なうちに頂くとするか!

 
 好物を前に怒りも何処かへ飛んで行ったニャゴロー。
 それは仕事も同じで、今日は早々と切り上げる事に。
 何よりクサヤを早く食べたくって仕方がなかった。
 とにかく落ち着ける場所でガッつきたかったのだ!

 そんなワケでこの場から一番近いパン屋の娘が眠る部屋へと侵入。
 コッソリベッドに潜り込むと、彼女が目覚めるまでクサヤを食べ続けたそうな。

 この後数日間、パン屋の娘は学校で〝極度発酵の女〟と呼ばれるハメになった。
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