【完結】私を殺したあなたと、あなたを殺した私

ノエル

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──名前を、呼ばれた気がした。

誰もいないはずの王宮の廊下で、ふと、そんな錯覚に囚われた。

振り返っても、誰もいない。

それでも私は、確かに聞いたのだ。
あの声を。
私の名を呼ぶ彼女の声を──

「……セイラン様」



王家には複数の子がいて、
私は「嫡男」だが、人気や政治力では劣っていた。

国王が崩御してすぐに、王太子暗殺未遂事件が起きる。

これは、
「彼の死によって後継を別の王子に替える」ための内部謀略。
私はこの襲撃で深手を負い、
護衛も殺され、王宮外に逃げ落ちた。

そして──
そこで出会ったのが、私を助けたリヴィアだ。
リヴィアはその日たまたま街角を歩いていた。

血まみれで倒れていた男を見て、
最初は盗賊に襲われたのだと思ったらしい。

でも――

「……このまま、放っておいてくれていい……」

そう言って倒れ込んだその男が、
のちの王、セイラン──私だった。

彼女は迷う。
けれど目の前で死にかけている命を見殺しにできなかった。

そして、彼女のおかげで命を繋ぐ。
家に連れ帰り、血を止め、寒さを和らげ、
1日、2日と看病を続ける。

私は名を伏せたまま、「身分は聞かないでくれ」と言った。
リヴィアも聞かなかった。
ただ、人として向き合ってくれた。

傷が癒えた後、
私は王宮に戻り、内部の粛清が行われ、
「暗殺未遂の被害者」として王位を継ぐ。

だが──
王となった私は、
リヴィアの存在を明かせなかった。

彼女は平民で、恩人で、そして「魔力持ち」。
魔力持ちは見つかれば処刑されてしまう。

守るために距離を取る。
でもそう上手くはいかなかった。
私を迎えに来た騎士たちが、リヴィアに魔力の残滓を見つけたのだ。
リヴァアは牢に繋がれた。



「ご決断を」

重々しい声が室内に響いた。
議会の長老のひとりだ。私に“決断”を迫ってきた者のうちの、最も穏健だった男。

──だが、言っていることは、変わらない。

「たとえ、あの娘が陛下の命を助けたとしても、魔術師は見つければ処刑することに決まっています」

「……わかっている」

机の上に置かれた、ひとつの書類。

その最下段に、私の署名欄がある。

この国の“秩序”のために。
そして、なにより──

「私がここで生きていくために」

私は、リヴィアを差し出さなければならなかった。

彼女は、黙っていた。

牢に連れて行かれたときも、処刑の危機が迫る今も。
一言も抗議せず、泣きもせず、ただ静かに、空を見ていたという。

その姿を、私は直接見ることができなかった。

逃げたかった。
これが夢であってほしかった。
だが違う。これは私が招いた現実だ。

私が王であり、彼女は“民”でしかない。
私が王であり、彼女は罪人だ。

そして、王である私が、
その命に判を押す義務がある。

執務机にペンを取る。

手が震えることはなかった。
これが初めてではなかったからだ。
私は、これまでにも多くの命にサインしてきた。
顔も知らない誰かの、生死の判断を。

それが、“王になる”ということだ。

……ただ違ったのは、
今回、その誰かが彼女だったということだけだ。

「……セイラン陛下、王として──ご決断を」

再びそう言われて、私はようやくペン先を紙へ落とした。

カサリ

その音は、雪のように静かだった。

だがその一音で、
私の人生のすべてが終わったのだと、わかっていた。



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