【完結】私を殺したあなたと、あなたを殺した私

ノエル

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7 リヴィア視点

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7月14日 
孤児院が大勢の兵士たちに取り囲まれていた。

空は曇天、兵士たちの怒号が飛び交う。
私たちの出会ったこの場所は、恐ろしい空気に呑まれていた。

「……リヴィア」

背後から聞こえたその声に、私は全身が凍るような思いだった。

振り返れば、そこにいたのはセイラン。

血にまみれた服、剣を手に、しかしその表情にはただ、静かな諦めがあった。

「まさか、……君が」

私は、何も言えなかった。

言葉にした瞬間、すべてが崩れてしまいそうだった。

「どうして……リヴィア……」

「……ごめんなさい」

それしか言えなかった。

「君が、敵に……いや、君が奴らに知らせたのか? 私が今日、ここに来るって?」

私は頷いた。

「君は、私を……殺すために……」

「違う!!」
叫んでいた。
自分でも驚くほどの声が出ていた。

「違う、そうじゃない……! でも、どうしようもなかったの」

私は話し始めた。

院長が捕らえられ、子どもたちが人質にされたこと。
その交換条件として、セイランを呼び出すように脅されたこと。
誰にも相談できず、ただ時間が迫る中で、私は選んでしまったということ。
呼び出さなくても、7月14日、身分を隠してこの孤児院までお墓参りに来ると伝えたのだ。

「……守りたかったの。たとえ、あなたを裏切ることになっても……」

セイランはしばらく何も言わなかった。

やがて、小さく笑った。

「なるほど。君は、あのときと俺と同じだな」

「……え?」

「何かを守るために、誰かを犠牲にした。……そういうことだ」

私は唇を噛んだ。

「死なないで……お願い、逃げて」

「もう遅い。ここに連れてきているのは最小限の護衛だけだ。完全武装した大勢の兵士たちが、ここを取り囲んでいる。私に勝ち目はない」

そう言った瞬間、沢山の兵士たちに取り囲まれた。

時間切れだった。

セイランは剣を抜いた。
けれど、それは敵に向けるものではなく──私を守る構えだった。

「私は、君の選んだ道を、最期まで信じるよ」

「やめて!そんなの、望んでない!!」

私は彼に縋りついた。

「私のせいで、あなたが……!」

「違う。君のせいじゃない。これは、運命だ」

その言葉が、胸をえぐった。

「駄目……駄目よ、セイラン! あのとき、私はあなたに殺された。
今度は、私があなたを殺すの? そんなの──そんなの、いや!!」

彼は私の手を優しく振りほどいた。

「この女性は助けてくれ。君たちに情報を与えてくれた女性だろう?」

そう大声で言って、彼は私を孤児院の玄関の方に押しやる。そして、一人で敵の方に歩いて行った。

私は叫んだ。

「行かないで!

けれど、彼は振り返らなかった。

敵の包囲網が狭まって、その背中が見えなくなった瞬間、私は膝から崩れ落ちた。

足音が、遠ざかる。

──しばらく後。
歓声が上がった。
セイランは、包囲された状態で戦い、そして討たれたのだ。

彼の剣は最後まで折れず、
彼の視線は、敵を貫いたままだったという。


敵とは、かつてセイランが王太子だった時に、玉座を狙って彼を殺そうとした弟王子の息子だった。
その争いの時に、深手を負ったセイランを前世の私が街角で助けたのだ。
弟王子は殺されたが、その息子らは生き延びて復讐の機会を狙っていた。

私はそのことを、兵士の口から聞いた。

胸が裂けるような思いだった。

心臓が止まるほど泣いた。

叫び続けた。
血のような声で。

あのとき、セイランもこんな気持ちだったのだろうか。

──たった一人の、愛しい人の命に、判を押すということが。

私は初めて、彼の痛みを知った。

そして、遅すぎるその理解が、
私を二度、殺した。





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