【完結】ひとつのアイスを二人でかじりながら、駅前を歩きたい

ノエル

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10 セカンドキス ※微

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俺たちは性欲に流されて、大変な間違いを犯してしまった。ということに気づいたのは、家に着いてからだった。


「腹減ったー!」

「ランチ食いそびれたな」

「ランチのことなんて、すっかり忘れてたぜ!」


ファミレスで席に座ったら、ほどなくして、ウエイトレスがオーダーをとりにきた。

澪の注文がなかなか決まらない。苛立つウエイトレスを前にして、なおも悩み続ける澪に呆れつつ「自分たちで、QRコード注文するからいいです」って言ったんだった。

その後、話が弾んで、QRコード注文してないことも、ランチを食ってないことも忘れていた。


「残り物のお節で良かったら食う?」

「食う食う! うまそうじゃん! へー、ここ有名な老舗じゃん?」

俺は頷いて取り皿と箸を渡した。

「最初は旨かったんだが、もう食い飽きた。思う存分、食ってくれ」

「エイはどうすんの?」

「冷凍ピザを焼いて食べる」


健斗がお節を食べている間に、俺は、ピザを4枚、オーブンレンジで焼いた。健斗も食べそうだったから少し多めだ。

お節を食べた後、案の定、健斗はピザに手を出した。ピザにかじりつきながら、健斗は真面目な顔をした。

「女は満腹になると、性欲が失せるそうだな」

「そうなんだ? 楽でいいな」

それは初耳だ。

「そうらしいぜ? だから、ヤろうと思って家に連れ込んだ女を、満腹にさせてはいけない。何もせずに、帰ってしまうかもしれないからだ」

「すごい豆知識だな」

俺は感心した。しかし、今の状況に置き換えると、俺にとって健斗は、“ヤろうと思って家に連れ込んだ男”になるのか? 少し恥ずかしくなってきた。
健斗は俺の恥じらいに気づかず、話を続けた。

「でも、男にとっては、食欲と性欲は別物だ。満腹になっても性欲はなくならない」

「そのとおりだ」

「だよな?」

「間違いない」

俺は力強く頷いた。

「さあ、エイ。歯を磨きに行くぞ」

その話はこういう風につながるのか。







歯を磨いて、洗面所から出ようとした俺の腕を健斗が掴んだ。

「もう待てない。ここでキスしようぜ」

健斗がじっと俺の唇を見つめてきた。
俺は緊張して動くこともできなかった。

今回は上手に健斗は唇を重ねてきた。お互いの唇を味わうように、柔らかく吸い合う。
そして、ゆっくりと唇を離した。

「まだ2回目なのに、俺たち上達したな」と健斗が目を細めた。

同感だ。

再び唇を重ねると、今度は貪るように舌を絡め合った。

ファーストキスから10日も経っていないのに、もうこの舌が恋しかった。

健斗の長い前髪が落ちてきて俺の頬に触れた。
髪をかき上げようとした健斗の指が、俺の頬に触れた。
驚いたように、健斗は唇を離した。

「なんで泣いてんの?」

「俺は健斗のことが好きだ」

俺は嗚咽を嚙み殺した。人前で泣いたのなんて、小学生の時以来だ。


「ん?」

「でも、その気持ちを持て余している。というか…すげー怖い」


健斗は俺を好きになった理由を、あっけらかんと説明して見せた。
では、俺は? 俺はどうして男の健斗を好きになったんだろう。まるで、わからない。

「俺はどうしても、性別の障壁を乗り越えられないんだ」

俺は恐る恐る健斗を見ると、健斗はふっと笑って見せた。


「エイさあ、気づいていないんだな」

「何を?」

「今、俺を好きだって、言ったじゃん」

「言った。だから?」

「エイは性別の障壁をとっくに乗り越えてる」

え? どういうことだ? 

「そういうことになるのか?」

「ハードルを飛び越した後で、後ろのハードルを見て、『俺はどうやってこれを飛び越したらたらいいんだ? 』と悩んでいるようなもんだろ」

健斗は俺の唇にちゅっとキスを落とした。

「それとも、言い訳が必要なのか? 自分用にか? 他人用にか?」

俺は言い訳を必要としていたのか? 同性を好きになるのは、おかしなことではないぞ、と?

「言い訳なんて必要ない」

「だろ? ひとつ、いいことを教えてやる」

俺は俯いていた顔を上げた。

「エイは、同性を恋人にすることが怖いんだろ? でも、同性を恋人にするのは俺も同じなんだぜ? エイは1人じゃない。俺も一緒だ。どうだ、安心したか?」

「どういう理屈だよ、それ」

めちゃくちゃな理屈に少し笑った。
健斗が俺を抱きしめた。

「好きだ。エイに後悔なんてさせないから」


俺の涙腺が再び決壊した。同時に、心の中も決壊した。熱い感情があふれ出てきたのがわかった。


これか。この状態か。これで、父さんは母さんを攫ったんだな。

この日、俺は自分の中にいる、情熱的な自分を見つけた。



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