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10 セカンドキス ※微
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俺たちは性欲に流されて、大変な間違いを犯してしまった。ということに気づいたのは、家に着いてからだった。
「腹減ったー!」
「ランチ食いそびれたな」
「ランチのことなんて、すっかり忘れてたぜ!」
ファミレスで席に座ったら、ほどなくして、ウエイトレスがオーダーをとりにきた。
澪の注文がなかなか決まらない。苛立つウエイトレスを前にして、なおも悩み続ける澪に呆れつつ「自分たちで、QRコード注文するからいいです」って言ったんだった。
その後、話が弾んで、QRコード注文してないことも、ランチを食ってないことも忘れていた。
「残り物のお節で良かったら食う?」
「食う食う! うまそうじゃん! へー、ここ有名な老舗じゃん?」
俺は頷いて取り皿と箸を渡した。
「最初は旨かったんだが、もう食い飽きた。思う存分、食ってくれ」
「エイはどうすんの?」
「冷凍ピザを焼いて食べる」
健斗がお節を食べている間に、俺は、ピザを4枚、オーブンレンジで焼いた。健斗も食べそうだったから少し多めだ。
お節を食べた後、案の定、健斗はピザに手を出した。ピザにかじりつきながら、健斗は真面目な顔をした。
「女は満腹になると、性欲が失せるそうだな」
「そうなんだ? 楽でいいな」
それは初耳だ。
「そうらしいぜ? だから、ヤろうと思って家に連れ込んだ女を、満腹にさせてはいけない。何もせずに、帰ってしまうかもしれないからだ」
「すごい豆知識だな」
俺は感心した。しかし、今の状況に置き換えると、俺にとって健斗は、“ヤろうと思って家に連れ込んだ男”になるのか? 少し恥ずかしくなってきた。
健斗は俺の恥じらいに気づかず、話を続けた。
「でも、男にとっては、食欲と性欲は別物だ。満腹になっても性欲はなくならない」
「そのとおりだ」
「だよな?」
「間違いない」
俺は力強く頷いた。
「さあ、エイ。歯を磨きに行くぞ」
その話はこういう風につながるのか。
◇
歯を磨いて、洗面所から出ようとした俺の腕を健斗が掴んだ。
「もう待てない。ここでキスしようぜ」
健斗がじっと俺の唇を見つめてきた。
俺は緊張して動くこともできなかった。
今回は上手に健斗は唇を重ねてきた。お互いの唇を味わうように、柔らかく吸い合う。
そして、ゆっくりと唇を離した。
「まだ2回目なのに、俺たち上達したな」と健斗が目を細めた。
同感だ。
再び唇を重ねると、今度は貪るように舌を絡め合った。
ファーストキスから10日も経っていないのに、もうこの舌が恋しかった。
健斗の長い前髪が落ちてきて俺の頬に触れた。
髪をかき上げようとした健斗の指が、俺の頬に触れた。
驚いたように、健斗は唇を離した。
「なんで泣いてんの?」
「俺は健斗のことが好きだ」
俺は嗚咽を嚙み殺した。人前で泣いたのなんて、小学生の時以来だ。
「ん?」
「でも、その気持ちを持て余している。というか…すげー怖い」
健斗は俺を好きになった理由を、あっけらかんと説明して見せた。
では、俺は? 俺はどうして男の健斗を好きになったんだろう。まるで、わからない。
「俺はどうしても、性別の障壁を乗り越えられないんだ」
俺は恐る恐る健斗を見ると、健斗はふっと笑って見せた。
「エイさあ、気づいていないんだな」
「何を?」
「今、俺を好きだって、言ったじゃん」
「言った。だから?」
「エイは性別の障壁をとっくに乗り越えてる」
え? どういうことだ?
「そういうことになるのか?」
「ハードルを飛び越した後で、後ろのハードルを見て、『俺はどうやってこれを飛び越したらたらいいんだ? 』と悩んでいるようなもんだろ」
健斗は俺の唇にちゅっとキスを落とした。
「それとも、言い訳が必要なのか? 自分用にか? 他人用にか?」
俺は言い訳を必要としていたのか? 同性を好きになるのは、おかしなことではないぞ、と?
「言い訳なんて必要ない」
「だろ? ひとつ、いいことを教えてやる」
俺は俯いていた顔を上げた。
「エイは、同性を恋人にすることが怖いんだろ? でも、同性を恋人にするのは俺も同じなんだぜ? エイは1人じゃない。俺も一緒だ。どうだ、安心したか?」
「どういう理屈だよ、それ」
めちゃくちゃな理屈に少し笑った。
健斗が俺を抱きしめた。
「好きだ。エイに後悔なんてさせないから」
俺の涙腺が再び決壊した。同時に、心の中も決壊した。熱い感情があふれ出てきたのがわかった。
これか。この状態か。これで、父さんは母さんを攫ったんだな。
この日、俺は自分の中にいる、情熱的な自分を見つけた。
「腹減ったー!」
「ランチ食いそびれたな」
「ランチのことなんて、すっかり忘れてたぜ!」
ファミレスで席に座ったら、ほどなくして、ウエイトレスがオーダーをとりにきた。
澪の注文がなかなか決まらない。苛立つウエイトレスを前にして、なおも悩み続ける澪に呆れつつ「自分たちで、QRコード注文するからいいです」って言ったんだった。
その後、話が弾んで、QRコード注文してないことも、ランチを食ってないことも忘れていた。
「残り物のお節で良かったら食う?」
「食う食う! うまそうじゃん! へー、ここ有名な老舗じゃん?」
俺は頷いて取り皿と箸を渡した。
「最初は旨かったんだが、もう食い飽きた。思う存分、食ってくれ」
「エイはどうすんの?」
「冷凍ピザを焼いて食べる」
健斗がお節を食べている間に、俺は、ピザを4枚、オーブンレンジで焼いた。健斗も食べそうだったから少し多めだ。
お節を食べた後、案の定、健斗はピザに手を出した。ピザにかじりつきながら、健斗は真面目な顔をした。
「女は満腹になると、性欲が失せるそうだな」
「そうなんだ? 楽でいいな」
それは初耳だ。
「そうらしいぜ? だから、ヤろうと思って家に連れ込んだ女を、満腹にさせてはいけない。何もせずに、帰ってしまうかもしれないからだ」
「すごい豆知識だな」
俺は感心した。しかし、今の状況に置き換えると、俺にとって健斗は、“ヤろうと思って家に連れ込んだ男”になるのか? 少し恥ずかしくなってきた。
健斗は俺の恥じらいに気づかず、話を続けた。
「でも、男にとっては、食欲と性欲は別物だ。満腹になっても性欲はなくならない」
「そのとおりだ」
「だよな?」
「間違いない」
俺は力強く頷いた。
「さあ、エイ。歯を磨きに行くぞ」
その話はこういう風につながるのか。
◇
歯を磨いて、洗面所から出ようとした俺の腕を健斗が掴んだ。
「もう待てない。ここでキスしようぜ」
健斗がじっと俺の唇を見つめてきた。
俺は緊張して動くこともできなかった。
今回は上手に健斗は唇を重ねてきた。お互いの唇を味わうように、柔らかく吸い合う。
そして、ゆっくりと唇を離した。
「まだ2回目なのに、俺たち上達したな」と健斗が目を細めた。
同感だ。
再び唇を重ねると、今度は貪るように舌を絡め合った。
ファーストキスから10日も経っていないのに、もうこの舌が恋しかった。
健斗の長い前髪が落ちてきて俺の頬に触れた。
髪をかき上げようとした健斗の指が、俺の頬に触れた。
驚いたように、健斗は唇を離した。
「なんで泣いてんの?」
「俺は健斗のことが好きだ」
俺は嗚咽を嚙み殺した。人前で泣いたのなんて、小学生の時以来だ。
「ん?」
「でも、その気持ちを持て余している。というか…すげー怖い」
健斗は俺を好きになった理由を、あっけらかんと説明して見せた。
では、俺は? 俺はどうして男の健斗を好きになったんだろう。まるで、わからない。
「俺はどうしても、性別の障壁を乗り越えられないんだ」
俺は恐る恐る健斗を見ると、健斗はふっと笑って見せた。
「エイさあ、気づいていないんだな」
「何を?」
「今、俺を好きだって、言ったじゃん」
「言った。だから?」
「エイは性別の障壁をとっくに乗り越えてる」
え? どういうことだ?
「そういうことになるのか?」
「ハードルを飛び越した後で、後ろのハードルを見て、『俺はどうやってこれを飛び越したらたらいいんだ? 』と悩んでいるようなもんだろ」
健斗は俺の唇にちゅっとキスを落とした。
「それとも、言い訳が必要なのか? 自分用にか? 他人用にか?」
俺は言い訳を必要としていたのか? 同性を好きになるのは、おかしなことではないぞ、と?
「言い訳なんて必要ない」
「だろ? ひとつ、いいことを教えてやる」
俺は俯いていた顔を上げた。
「エイは、同性を恋人にすることが怖いんだろ? でも、同性を恋人にするのは俺も同じなんだぜ? エイは1人じゃない。俺も一緒だ。どうだ、安心したか?」
「どういう理屈だよ、それ」
めちゃくちゃな理屈に少し笑った。
健斗が俺を抱きしめた。
「好きだ。エイに後悔なんてさせないから」
俺の涙腺が再び決壊した。同時に、心の中も決壊した。熱い感情があふれ出てきたのがわかった。
これか。この状態か。これで、父さんは母さんを攫ったんだな。
この日、俺は自分の中にいる、情熱的な自分を見つけた。
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