しがない転生魔族のスローライフ~人生に飽きたので暇つぶしに不幸な子供を救うことにした~

文月紲

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2.しがない魔族の一日

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 今日も朝日が昇って一日が始まる。
 時刻は九時、俺は目を覚ました。

 健康的な生活を続けているおかげで、今日の寝起きも爽快だ。
 一つ欠伸をして自作の敷布団から抜け出す。
 窓に目を向けると日が差し込んでいた。
 空は快晴。
 いい天気だ。
 敷布団や掛け布団、枕を整えて廻縁まわりえんに出る。
 
「ふぅ……」

 廻縁というのはベランダのようなものだ。
 俺の数少ない城の知識を基に作った。
 それはさておき、今日も街並みが美しい。
 苦労して作り上げた甲斐があったな……と俺はしみじみと思った。

 一通り街並みを堪能した俺は寝室から廊下に出て階段を下る。
 因みに寝室の床は畳だ。
 他の床は殆ど木で出来ている。
 フローリングだっけ?
 まあそんな感じだな。

 いま俺が向かっているのは台所だ。
 朝なので朝食を食べなければいけない。
 腹も丁度いい感じに減っている。
 何を食べようかと思いを巡らせながら、俺は冷蔵庫を開けた。

 卵、野菜、肉……色々とあるな。
 今日は目玉焼きにサラダ、みそ汁に少しの肉でいいだろう。
 前世でも料理はしていた。
 更にこの世界では何百年も料理している。
 この程度なら全く手間じゃない。
 冷蔵庫から食材を取り出して俺は調理し始めた。
 
 鳥の囀りが聞こえ良い匂いが台所に広がる。
 ものの十数分で完成した。
 盆にのせてテーブルに運ぶ。
 あ、そういえば肝心なものを忘れてしまっていたな。
 俺は茶碗をもって釜の蓋を外した。

 蒸気が立ち上り、特徴的な匂いが鼻腔を満たす。
 釜の中にあるのは日本のソウルフード。
 米だ。
 パンや麺も好きだが、朝は米に限る。
 木製のしゃもじでつやつやの米を茶碗に盛った。

 これで良し。
 後は席について食べるだけだ。
 水で口と喉を潤し、みそ汁に口を付ける。
 うん、美味しい。
 が、やっぱりみそ汁を飲むと前世が脳裏に映る。
 最近は更に回数が増えた気がするな。

 原因はこの世界に俺が飽きたからだろう。
 正確な数字は覚えていないが、四百年以上生きているのだ。
 世界中に足を運び、魔術を極め、学問を学び、この楽園を作り上げた。
 もうこの世界ですることがない。
 せいぜい、年単位で発展していく人間の国を眺めることくらいだ。

 俺が使える魔術に『千里眼』というものがある。
 これは名の通り、自分の視界を飛ばして遥か遠くを見る魔術だ。
 どんなに熟練の魔術師であっても、有効距離は十キロが限界だろう。
 対して俺は五千キロまでなら見れる。
 それに今も限界距離は更新中だった。

 この魔術で俺は人間の国を眺めている。
 時には戦争を、時には国家の滅亡を。
 映画のように、滅亡国家の王女が騎士に連れられて逃げる場面も見た。
 冒険者が未踏の地を発見するのも見た。

 だいたい百年は見続けていた気がする。
 もう今となっては飽きて見ることはなくなった。
 最近はもっぱら魔術の研究をしている。
 属性魔術、生命魔術、占星魔術、空間魔術……。

 色々あるが特に力を入れているのは霊魂魔術だ。
 霊や魂といった曖昧な概念を扱うので、最も分からない魔術の一つと言える。
 なぜ霊魂魔術に力を入れているかというと、俺が転生者だからだ。
 魂の概念、転生の仕組み、転生の理由。
 俺が抱えている一番の謎を解き明かしたかった。

 かれこれ三十年は続けている。
 その中で、新たなる発見をした。
 もちろん謎が深まった事実もある。
 おそらく、俺が全て理解できるようになるまで数百年は必要だろう。

 まあ問題ない。
 俺の寿命は千年以上で、魔族の中でも特に長い。
 仮に寿命を迎えても魔術で延命は出来る。
 老化を遅らせることも可能なのだ。
 幸せか不幸か分からない。
 が、寿命を気にしなくていいのは確かな事実だった。

「ふぅ……ごちそうさま」

 食べ終えてコップに残っている水を飲む。
 今日は何しようか。
 いつもなら魔術の研究にずっと没頭するのだが……。
 久々に人間の街に行って、気持ちが変わった気がするのだ。
 そんな大層なものではない。
 ただ、何か他の事をする気持ちになっただけだ。

 うーん……。
 あ、そうだ。
 千里眼を使って世界を眺めてみるか。
 なにせ何十年ぶりなのだ。
 色々と変わっていることもあるだろう。

 少し楽しみに思いながら俺は食器を洗う。
 一人分しかないので食洗器は作ってない。
 普通に洗った方が早いのだ。

 ああそうだ、因みにここに電化製品は存在しない。
 冷蔵庫などは確かにあるが、動力源は全て魔力だ。
 電気の代わりに魔力を、回路の代わりに術式を。
 それが『魔道具』である。

 地球で機械が人々の生活を支えていたように、この世界でも魔道具が人々の生活を支えているのだ。

 また、利便性は魔道具の方が良い。
 自分の魔力を流せば機能するからだ。
 コンセントに刺す必要はなければ、充電する必要もない。
 自分さえいればいいのだ。
 
 ただ複雑性は機械の方が良いと俺は思う。
 何故なら魔道具は基本的に一つの事しかできないからだ。
 先程の冷蔵庫なら冷やすだけ。
 調理に使ったコンロも火を出すだけ。
 
 このように機械も魔道具も、それぞれ長所と短所がある。
 俺としては困ってないのでどうでもいい。
 とりあえず洗い終わったので、俺はいつもの点検を始めることにした。

 更に階段を下り、一階に降りる。
 城の外に出て俺は辺りを見渡した。

「よし。問題ないな」

 城の外では俺が作った『魔術人形』が忙しなく働いている。
 まあいわゆるゴーレムというやつだ。

 掃除や見回り、農作業や上下水道の管理。
 全てを魔術人形が担っている。
 前世の人工知能より遥かに優秀で、複雑な作業も難なくこなす。
 この島で動いているのはおおよそ百体。
 今となっては無くてはならない存在だ。

 動力源は充電式になっている。
 島の各地に設置している馬鹿でかい魔道具から、魔力を供給しているのだ。
 
 この魔道具は画期的だと俺は思っている。
 空気中に漂っている魔素を魔力に変換するのだ。
 世界中を訪れた俺でも見たことがない。
 画期的であり便利過ぎる。
 自画自賛してしまうほどの魔道具だった。

 さて、問題ないことを確認したので、今日のやるべきことは終わりである。
 いつもならこの後は魔術の研究に没頭するだけだ。
 しかし、今日は違う。
 今日は千里眼で世界中を眺めるのだ。

 何か面白そうなことを見れないかな、と思いながら俺は城に戻るのだった。
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