しがない転生魔族のスローライフ~人生に飽きたので暇つぶしに不幸な子供を救うことにした~

文月紲

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3.しがない魔族の発見①

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 台所を通り過ぎ、寝室の隣の和室に入る。
 畳の良い香りを感じながら俺は座椅子に座った。
 千里眼という魔術を使うにあたって、必要なことは目を瞑るだけだ。
 そして見たい場所の景色を想像する。

 例えば自分の城を想像すれば、視界が城を映す。
 今回は人間の街や国を見たいので、俺は昨日訪れた街の景色を想像した。
 魔力を目に込めて術式を発動する。
 真っ暗な視界に光が差し込んだ。

「成功っと」

 何万も繰り返した千里眼を失敗することは無い。
 俺の視界には昨日訪れた街の景色が映った。
 西洋風の街並みに人が行き交う大通り。
 音は聞こえないが、活気があるのが良く分かる。
 俺は一旦、視点を街の上空へ移動させた。
 
 上空から見下ろすと分かりやすいが、街は六角形になっている。
 石の壁で囲まれているので形が美しい。
 門からは馬車道が伸びている。
 隣の街に繋がっているのだ。
 街の周囲は草原で、少し離れたところには森と山が見える。
 まさにファンタジーの景色だった。

「やっぱ綺麗だなぁ……」

 前世で表すとスイスだろうか。
 広大な自然の中で生きている感覚がする。
 更に上空から見ているのでより一層美しい。
 今世は総じてクソだ。
 しかし、この景色は素晴らしかった。

 俺は視点を移動させながら景色を見る。
 商隊の馬車に護衛の冒険者。
 森の中を通っている涼しげな川。
 徐々に移動の速度を上げ、更に上空へ行く。

 人が米粒になり、街が遠のき、森が小さくなる。
 音は聞こえないが、風を切る音が聞こえそうだ。
 遠くに薄く山岳地帯が見える。
 俺はあと少しで雲の中に入る程の高度に達した。

 さて、どこへ行こうか。
 国々の王都に行くのも良い。
 別大陸に行くのもありだ。
 うん、そうだ。
 別大陸……魔大陸にでも行ってみよう。

 魔大陸は今の場所から四千キロも離れている。
 一度、千里眼を止めて再び発動した方が良い。
 俺は千里眼を切って目を開けた。
 そして魔大陸の景色を想像する。
 魔大陸は……何があったっけ?
 
 ……ああそうだ。
 確か二百年前ぐらいに俺が破壊した山がある。
 今は色々変わってるかもしれないが、まあ多分大丈夫だろう。
 曖昧な確信をもって、俺は千里眼を発動した。

「よしよし。見覚えあるな」

 記憶の中の景色とは少し違うが問題ない。
 二百年も経っているので多少は変わるだろう。
 証拠に俺の魔術によって抉られた山が見える。
 懐かしいな。
 それに魔大陸は魔力濃度が高い。
 だから空気が淀んでる気がした。

 因みに俺の生まれ故郷でもある。
 幼少期を魔大陸で過ごしたのだ。
 とはいえ、魔大陸はあまり好きではない。
 なぜなら魔族しかいないからだ。
 奴らは人間の倫理観や常識が欠如している。
 魔族だが前世が人間の俺にとって、魔大陸は精神的に負担がかかる場所だった。

 古い記憶を思い出しながら俺は視点を移動する。
 景色が後ろへ高速で流れていき――。

「ん?」

 なんかあるな。
 視界の端に何かが映った気がする。
 俺は千里眼の視点を移動させた。

「あれは……」

 遠すぎて良く分からないので近づく。
 あれは……人か?
 いや、魔族だ。
 角が生えているので絶対に魔族である。
 しかも俺の知らない魔族だ。

 一人、二人、三人……四人か。
 合計四人の魔族が何かをしている。
 おそらく四人ともまだ若い魔族だろう。
 なぜなら基本的に魔族は群れないからだ。
 ゆえに群れるのはまだ若い魔族と決まっていた。

 で、だ。
 四人の魔族は何かを追っている。
 狩りでもしてるのかと思ってよく見ると……。

「チッ」

 不愉快なものを見てしまった。
 久しぶりに不快な感情が心に湧き出る。

 奴らは一人の少女を追いかけていた。
 顔に愉悦の笑みを張りつけている。
 下種で不愉快で気持ち悪い。
 そんな奴らに捕まらないように、少女は必死で逃げている。
 
 ん……?
 よく見ると少女にしては小さすぎるな……。
 僅か三十センチほどしかない。
 背中に二枚の羽根が付いていて飛んでいる。
 人間でもなく、魔族でもない。
 なんだ?
 
 疑問が湧き出る。
 が、今はそれどころじゃない。
 少女はいずれ四人の魔族に追いつかれるだろう。
 現に両者の間が徐々に縮まっている。
 少女を捕まえて何するか分からないが……碌でもないことは確かだ。
 
 俺の体がある場所からおよそ三千キロと少し。
 空間魔術で空間転移することが出来る距離だ。
 正直、俺が助ける義理はない。
 関わりもない。
 だが、俺は魔族だが心は人間だ。
 助けることが出来るのに助けなかったら、俺が嫌いな奴らと同類である。
 
 俺はしがない魔族にすぎない。
 とはいえ、そんな俺にも矜持がある。
 迷うことなく俺は千里眼の視界を起点にして、空間魔術を発動した。

 基本的には魔法陣なしでの空間転移は難しい。
 俺も普段は魔法陣を使う。
 しかし、今は使っている暇はない。
 起動する術式を制御し、膨大な魔力を捻りだす。

 僅か一秒未満。
 俺は千里眼の視界の中に空間転移した。
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