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10.生活改善

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その日から坊っちゃまは毎日規則正しい生活を心がけた。

まずは鬱陶しい髪をバッサリと切った。

坊っちゃまは顔が見えるのを最初嫌がったが私が今より素敵でかっこいいと言うとどうにか機嫌を直してくれた。

一日の生活は朝起きるとまずは体を綺麗に拭く事から始まる。

そして綺麗な服に着替えてボムさんの美味しい朝食を食べる。

私の掃除と洗濯が終わったら今度は散歩の時間だ。

最初は短く人目のない所をサッと済ませていたが日に日に体力も戻り散歩の距離も伸びて行った。

散歩が終わるとまた体を軽く拭いて着替えると昼食、その後は部屋でグランドさんと坊っちゃまは勉強の時間。
これに私もなぜか混ぜさせてもらい一緒に勉強した…お世話係なのに何故かわからないがマリエルさんが必要になるからと譲らなかった。

勉強が終わると軽くおやつの時間、砂糖など摂りすぎは良くないので大豆の粉で素朴なクッキーを作ってもらった。

これが結構美味しく、ボムさんの料理人の腕がかなりいいことがわかる。

その後は少し自由な時間で昼寝をしたり本を読んだり坊っちゃまのおしゃべり相手になったりする。

そして洗濯物を取り込み畳むと今度はお風呂の時間だ。

これはグランドさんがやることになり皮膚を傷つけないように優しく洗って貰う。

何より大切なのはしっかりと洗い流すこと。

そして出たらしっかりと拭いて保湿と軽いおしろいをつける。

これはラジェット先生に相談してあまり強くない赤ちゃんにも使えるような薬を調合してもらった。

こういう生活を何ヶ月も続けて行くと坊っちゃまの皮膚は何度か剥がれては再生して私が屋敷に来てから二度目の春…坊っちゃまの体はアトピーの痕がすっかりとなくなっていた。

「坊っちゃま…本当に良かった」

グランドさんは坊っちゃまの姿をみて目に涙を浮かべていた。

「グランド、坊っちゃまはもうやめてくれ。俺は来年10歳になるんだぞ」

坊っちゃま…改めてアーロン様は最初の姿の面影は薄く、肌の綺麗な見目のいい男の子に育っていた。

規則正しい生活は体づくりにも役立ち、背は伸びて健康的なスラッとした体型になっていた。

「アーロン様本当に素敵です」

私は本心から褒めると嬉しそうに近づいてその手を掴んできた。

「ありがとうマリル。ここまで来たのは本当に君のおかげだ…どうやってお礼をすればいいかな」

アーロン様は手を掴んだまま、私の手を自分の唇へと近づける。

「私はアーロン様のお世話係ですよ。でもこんなに立派になられたら…私もうお役御免ですかね?」

クスッと笑うとアーロン様の顔色が変わる。

「絶対に誰がなんと言おうとマリルがそばを離れるのは許さない」

そう言ってギュッと手を握りしめた。

やはりまたアトピーが再発するのを恐れているようでアーロン様は私が遠くに行くのを嫌っていた。

私がたまに用事で外に出る時も護衛をつけたりかなり過保護だ。

庶民なのだから襲われることなどないのに……

「ふふ、わかりました。いつまでもお世話係頑張りますよ」

私がそういうとアーロンさんは困った様に眉を下げた。

「うん、今はそれでいいや」

「え?」

「なんでもない、それよりも来月は本当に行かなきゃ駄目かな?」

アーロン様は不安そうにグランドさんを見つめる。

アーロン様の憂鬱は来月お茶会が催されるのに参加しなければならないことだった。

「父と母から言われたら断る訳にもいかないしな」

はぁ……とため息をつく。

アーロン様はその後お父様とお母様と話す機会があり、お互いの誤解が解けていた。

アーロン様のお父様とお母様はアーロン様をあの様に産んでしまい自分達のせいだと悔いていた。

アーロン様が人に会いたがらないので好きなようにさせてこの塔を建てて両親なりに他の目から守っていたのだ。

アーロン様の為に良くないと思っていたが自分達が会うと更にアーロン様を悲しませてしまうと思い会うのをやめていたのだ。

しかしアーロン様の生活改善のおかげで少し体調が良くなって来た頃……会いたいと言ってきたのだ。

アーロン様は最初会うのを嫌がっていた。

直接会って拒絶されたら?

そう思うと中々踏ん切りがつかなかったところ、私が会って方がいいと助言した。

「アーロン様のご両親はこんな素晴らしい住まいを用意して、望む物を届けてくださります。そんな方がアーロン様を嫌っているとは思えません」

アーロン様は私の言葉にご両親とお会いして和解していた。

お母様は涙を流してアーロン様を抱きしめていた。
まだ少しアトピーの痕が残るアーロン様だったが気にした様子も無く愛おしそうに抱きしめていた。

そして何度か公共の場に一緒に行こうと持ちかけたがアーロン様にはまだその勇気がなかった。

ご両親はそんなアーロン様の気持ちを汲んでくれてじっと辛抱強く待っていた。

そしてアーロン様が10歳になる年、どしても外せないお茶会が迫っていた。

10歳が近くなる年頃の貴族の子供が必ず参加しなければならないお茶会でこれに出席しないと貴族の称号を剥奪されてしまうのだ。

本来なら9歳の時に出席予定だったがまだ痕の残るアーロン様は出席を拒否した。

今年を逃すと後がない。

ご両親はそれでもいいと言ったがさすがに周りがそれを止めた。

アーロン様もアトピーがすっかりと治っていたのでどうにか参加する事を決意したのだ。
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