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8章

393.女性

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男はカツを口に入れた瞬間…味わったことの無い味と食感に襲われる…

柔らかく口の中でほぐれていく肉に衣に染みた出汁それらを包み込む卵…

そのおかずにマッチした白い粒…全てが口の中でまとまっていく…

「どう?」

女がニヤリと笑う…

「…毒は無いようだな…」

「それが感想~?」

女が不満そうに答えると

「いくら貰おうと喋る気はないぞ」

男が睨むと

「別にいいよ」

女は気にした様子もなくもう一口男にカツを差し出した…

「いい…のか?」

「うん、別にそれをするのは私のやる事じゃないからね!それよりも美味いって言わせたい」

「…やっぱり変な女だ…」

男は苦笑するともう一口カツを食べた…

味わって噛み締め喉を通ると

「美味い…」

本音が口から出る…

「よしっ!」

女はニカッと嬉しそうに笑った…その顔は見た目は大人なのに…幼さを感じさせるものだった…

「美味しいって言わせたし…帰ろっか」

女は二匹の犬に声をかけると…

「おじさんもしっかりと反省して罪を償わないと駄目だよ」

「ふん…今更遅いんだよ」

男が投げやりに言うと

「だからって反省しないのは違うんじゃない?」

「反省したって誰も俺を許さない」

「まぁそうかもね、私も許さない」

女が言うと

「なら…なんで飯なんて食わせた?治療までして…」

「それとこれとは別だから、おじさんがまた悪い事するなら私は全力で抵抗するし攻撃をする。でもそんな風に悲しいそうに寂しそうにしてたら…またご飯あげちゃうかもね」

あはは

女はそう言うと笑って去って行った…

「なんなんだ…」

男は女の笑顔が頭から離れなかった…。


ベイカーとレアルは男から離れてデボットの報告を待っていた…すると…

「あっ!いた!ベイカーさん!合図はいつなんですか!」

デボットはベイカー達の合図が無いのでずっと待っていたようだった…

「はっ?お前…まだ行ってないの?あいつに飯食わせて昔話をしながら同情する作戦はどうするんだよ!」

「今からやればいいんでしょうが!合図忘れたのはベイカーさんじゃないですか!」

デボットが慌てて男の元に向かうと、男は何やら考えこみながら真剣に一点を見つめていた…。

「悪い…待たせたな、よかったらこれ食わないか?」

デボットがあずかっていたカツ丼を出すと…

「大丈夫だ…さっき貰ったからな」

男は淡々と答えた。

「えっ…貰った?」

デボットが驚くと…

「な、なら…お前はなんで闇ギルドなんて入ったんだ?お前がやりたかったことはこんな事なのか?」

デボットが男に問いかけると…

「やりたかったこと?」

さっきの女の顔が浮かぶ…

「今…やりたい事が出来た…」

「へっ?今?」

どうも思ったように事が運ばないデボットが悩んでいると…

「俺は…闇ギルドを抜けたい…全て話す…だが条件がある」

男は急に喋り出すと

「条件ってのはなんだ?」

近くで話を聞いていたベイカー達が出てきて男に聞くと…

「この里にいると思うある女ともう一度話したい…その女に全て話す」

「女?女が来たのか!ど、どんな奴だ!」

ベイカーが焦って聞くと…

「どんな…?綺麗な黒っぽい色の腰まで伸びた髪に…髪と同じ色の瞳…背丈はおたくらより少し低く…二匹の犬を連れていた…」

「ん?…女ってのは子供じゃ無いのか?」

ベイカーがミヅキが来たのかと思っていた…

「子供?子供が来るわけないだろ…成人している女だった…」

(ミヅキじゃないのか?)

ベイカーは悩むと…

「その女を連れてくれば全て喋るのか?」

「ああ…なんかもうどうでもよくなった…しかし最後に話すならあの女がいい…もう一度…」

(会いたい…)

「デボット、レアルそいつを見ていろ…俺はその女を探して来る」

ベイカーはまっすぐミヅキの元へと向かった!

その頃ミヅキは最初の場所に戻って来ていた。

お腹もいっぱいになりシルバに寄りかかりながらのんびりとベイカー達を待っていると…

「ミヅキ!」

ベイカーが凄い顔をして戻ってきた!

「べ、べ、ベイカーさん?ど、ど、ど、どうしたの?」

ミヅキが嫌な予感にシルバの毛を掴むと…

「お前…ここから動いたか?」

じっとミヅキを見つめる…

「えっ…なんで…」

嫌な汗が背中を流れる。

(もうバレた?)

シルバ達は我関せずとのんびりと欠伸を決め込む。

「さっきなぁ、捕まえた男が女が来たと言った…そしてそいつにまた会いたいと…」

「へ?へ、へぇ…誰?ユキさんとか?」

「いや…黒髪に近い女で…成人女性だ」

「な、なら私じゃないよね?私はほら!この通りコハクくらいだもん」

ミヅキがホッとして答えると…

「ミヅキ、コハクと何かをしただろ?」

ベイカーがズバッと聞く。

ギクッ…

ミヅキの顔が強ばると…

「やっぱりな…どうせコハクに変化させて何かちょっかい出したんだろ」

ベイカーがため息をつくと

(あっ…そっち?)

ミヅキが拍子抜けする

「全く…お前は大人しく待ってる事も出来ないのか…まぁ待っていた事なんてないか…」

ベイカーは諦めると…

「ほら、コハク行くぞ。お前の変化したやつにならあいつが全て話すと言っている、あいつからギルドの場所を聞き出して報告して終わりだ」

コハクがキョトンとすると…

「ぼく?へんげ?」

コハクが首を傾げる

「ああ、そうだ!さっきミヅキ達とあの捕まえた男の所に行っただろ?」

うん

コハクが頷くと…

「げんかくとへんげでミヅキおとなにしてみにいった!」

「コハクー!」

ミヅキが叫びながら頭を抑えると…

【ミヅキ、コハクに口止め忘れたな…】

シルバが呆れる。

【コハクゥ…いや…でもそこがコハクの可愛い所…】

ミヅキはチラっとベイカーを見ると…

「ミーヅーキー!!」

ベイカーはミヅキのこめかみに拳骨を付けてグリグリと挟んだ!

「ぎゃぁぁー!ごーめーんー!だってーベイカーさん遅いからぁーー!!」

「シルバ!お前がいながら何させてんだ!」

矛先がシルバに行くと

【ミヅキに何かあればそいつを殺すだけだ、それをしなかったからあいつは生きてる】

俺は悪くないというような態度に

「どうせ、俺は関係ないみたく思ってるんだろ…どうすんだよ…コハクなら話させればいいと思ったが…」

ぐったりと頭を抑えて地面で悶えてるミヅキを見ると…

「さすがにミヅキを会わせるわけには…」

はぁ…

ベイカーはため息をつくと

「い、いいよ…また…変化と幻覚使えば…」

目に涙を溜めて、こめかみを抑えながらミヅキが起き上がると…

「ミヅキにそんな事させられない」

「させられないも何ももう会っちゃったし」

ミヅキが開き直ると

「ミヅキ…もう一発食らうか?」

ベイカーが拳を見せると

「ごめんなさい!で、でも私にしか喋らないってのはなんで?」

「いや…わからん」

「じゃあさぁ、ベイカーさんがずっと隣に入ればいいじゃんそれならなにかあったとしても大丈夫でしょ?シルバもいるしね…でも話すならもう何もする気ないんじゃないの?」

「うーん…どうするか…セバスさんならどうする…」

ベイカーが唸っていると…

「セバスさんなら隣にたつね!」

ミヅキが自信満々に言うと

「なんでだ?」

「私が一生懸命に頼むから!」

ムン!

ミヅキが胸をはると…

「セバスさんは優しいからね!ちゃんと頼めば大体は了承してくれるもん」

ミヅキの謎の自信満々な態度に…

【それはミヅキにだけ甘いからだ…】

【シルバ!うるさいよ】

シルバにシッ!っと指を立てて口に付ける。

「コハク…お前がその女に変化は出来ないのか?」

「ぼく?うーん…やってみる!」

コハクがくるん!と変化すると…先程幻覚で見せた女性に変化した!

「えっ?この姿になってたの?」

ミヅキがコハクの変化した姿に驚いてじっと見つめる…

【ああ、そっくりだ。それならバレないんじゃないか?】

そこにはミヅキの面影が残る女性の姿があった…
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