Escape ――崩壊後の世界だと思ってたら、命が数値化されない本物のサバイバルだった件

AZ Creation

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第4話 「拾う」

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 建物を抜けた先は、小さな工業区画だった。
 低い倉庫が並び、シャッターの多くは途中で止まったまま、口を開けている。中が見える場所もあれば、影だけが溜まっている場所もある。

 音は、さっきより少ない。
 それが、安心材料になるとは限らない。

 短髪の男が、手を下げたまま歩く速度を落とす。
 ここからは、各自が拾える範囲を見ろ、という合図だ。
 散開しすぎない。だが、固まりすぎない。

 私は倉庫の一つに近づき、入口の影に立った。
 中は薄暗く、天井の一部が抜けている。光が一本、床に落ちている。

 鼻を突く匂いはない。
 血の匂いも、獣の匂いも。

 私は一歩、中へ入った。

 床に転がっているのは、壊れた工具箱と、散らばった金属片。
 視線を下げすぎない。
 拾う前に、まず周囲を見る。

 動くものはない。
 音もない。

 私は、工具箱を足先で軽く押した。
 金属が、鈍い音を立てる。

 それだけで、心臓が一拍、強く打つ。

 反応はない。
 私は、しゃがみ込んだ。

 工具箱の中身は、ほとんど空だった。
 だが、隅に、小さな袋がある。

 開ける。
 中には、ネジが数本。太さも長さもばらばらだ。
 それと、短い配線。被覆は剥げかけている。

 ――地味だ。

 正直な感想だった。
 武器でもない。
 防具でもない。
 売れるかどうかも分からない。

 だが、なぜか目を離せなかった。

 拠点のことが、頭をよぎる。
 床に直置きした装備。
 足の踏み場がなくなる感覚。

 ネジがあれば、棚が作れるかもしれない。
 配線があれば、何かを動かせるかもしれない。

 ――かもしれない。

 この世界では、その「かもしれない」が、生死を分ける。

 私は、袋をリュックに入れた。
 音を立てないように、ゆっくりと。

 その瞬間、外で小さな音がした。
 金属が、擦れる音。

 私は動きを止める。
 呼吸を止める。

 音は一度きりだった。
 誰かが、どこかで、何かに触れただけ。

 私は、立ち上がらず、しばらくそのまま待った。
 時間が、伸びる。

 大丈夫。
 今のところは。

 工具箱を閉じ、元の位置に戻す。
 拾った痕跡を、できるだけ残さない。

 立ち上がり、倉庫の奥を見る。
 棚の影に、黒い塊がある。

 近づく。
 それは、バッテリーだった。
 小型だが、ずっしりと重い。

 手に取る。
 冷たい。
 生きている感じはしないが、死んでもいない。

 ――使えるかもしれない。

 私は、迷った。

 重い。
 これを持てば、動きは鈍る。
 走れる距離が、確実に減る。

 だが、これがあれば、拠点の明かりが安定するかもしれない。
 夜に、作業ができるかもしれない。

 短髪の男の言葉が、頭をよぎる。
 「欲張るな」

 私は、リュックの重さを計るように肩を動かした。
 まだ、余裕はある。
 戻れる距離も、保てる。

 私は、バッテリーを入れた。

 その瞬間、外で無線が鳴る。
 短い、二回。
 合流の合図。

 私はすぐに倉庫を出た。

 合流地点には、全員が揃っていた。
 誰も怪我をしていない。
 誰も、派手な物を持っていない。

 短髪の男が、一人ずつ、顔を見る。
 視線が、私のリュックに一瞬だけ留まる。

 何も言わない。
 だが、分かっている。

 「いい判断だ」とも、「危ない」とも言える。
 どちらかは、戻ってから決まる。

 移動を再開する。
 脱出地点まで、あと半分ほど。

 私は歩きながら、リュックの中の重さを意識する。
 ネジ。
 配線。
 バッテリー。

 銃声も、戦闘もない。
 それでも、これは確かな成果だ。

 ――持ち帰れれば。

 私は、改めて足元を見た。
 一歩ずつ、確実に。

 この世界では、
 拾うことより、持ち帰ることの方が難しい。

 それを、もう理解し始めていた。
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